FC2ブログ

記事一覧

相互監視、言論私刑 社会全体が「隣組化」の恐ろしさ(2020年4月30日『日刊ゲンダイ』)

キャプチャ
庶民の気持ちがわからない(左から、安倍首相、麻生財務相、茂木外相)

 緊急事態宣言の期限である5月6日まで1週間だが、連休明けに解除できるとは、もはや誰も思っていない。新型コロナ感染拡大の抑え込みは、まったく先の展望が見えないからだ。安倍首相肝いりの「アベノマスク2枚」でさえ、まだ届かない国民が大多数なのである。政府が無能だと、自粛生活が長期化することを覚悟しておかなければならない。そこで気になるのは、浮足立つ国民の間で、相互監視の風潮が目立ってきていることだ。

 全国知事会は29日、国への緊急提言を議論するテレビ会議を開催。緊急事態宣言の一律延長を求めると同時に、休業指示に応じない事業者を対象に、罰則規定を設ける法改正などで対策を強化することも要望した。新型コロナ特措法に基づき、知事は休業要請に応じない事業者の店名公表、指示ができるが、罰則はない。休業要請に応じない一部の店、とりわけパチンコ店には批判が集中している。営業を続けているパチンコ店を公表する自治体も出てきた。

問題は、自粛要請に応じない場合に厳しい罰則を求める声が、市民の間からも上がっていることだ。営業中のパチンコ店や飲食店、さらには他県ナンバーの車に自粛を迫る張り紙をする人々も出てきた。営業を続ける店に対し、脅迫めいた言動もあるという。

 そういう人々を指して、「自粛警察」なんて言葉も生まれているが、そうやって彼らが“取り締まり”に出歩くことは問題ないのか。正義だから許されるとでもいうのだろうか。

■抜け駆けを許さない処罰感情

「休業補償がない自粛要請では、従業員に支払う給料や事業継続のために営業を続けざるを得ない店が出てくるのは当然です。憲法29条に定められた財産権でも、『私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる』とあります。感染症対策であっても、それなりの補償がなければ、営業自粛を強制することは難しい。基本的人権を尊重するのが成熟した民主主義社会だからです。自分は自粛要請に従って苦しい生活を送っているのに、楽しそうにしている人の抜け駆けが許せないという処罰感情から、私権制限を市民の側が求める風潮は危険極まりない。関東大震災で一般市民による自警団が朝鮮人虐殺に走ったのと同じようなことが起こりかねません」(立正大名誉教授の金子勝氏=憲法)

休業補償どころか、パチンコ業種は政府系金融機関、信用保証協会の融資や保証の対象からも除外されていた。24日に経産省がようやく、セーフティーネット保証の適用対象にしたが、適用は5月上旬からだ。店を今閉じたら、すぐに潰れるホールも出てくる。

 これはキャバクラや性風俗店も同じで、当初は子どもの休校に伴う休業に対する保護者への支援金の支給対象からも外されていた。

 自身も政府系金融の無担保・無利子融資を断られたという精神科医の和田秀樹氏はこう言った。

「自粛要請に従わないパチンコ店を公表するなんて、権力者のパフォーマンスでしかない。やむにやまれず営業を続けている店を攻撃する前に、潰れそうな店を救おうとしない政府に文句を言うべきです。仕事をしなければ明日からの生活に行き詰まる人がいるということが、政治家や官僚、学者など、経済的な痛みを感じたことがないような人たちには想像もできないのでしょう。自分たちが普段行かないような店は、潰れてくれて構わないと言っているようにしか思えません」

 ミュージシャンの星野源の動画に便乗した安倍は、<友達と会えない。飲み会もできない>というメッセージで、自粛生活を余儀なくされた国民に寄り添うフリをしたが、そういう次元の話ではない。庶民は生活がかかっている。お仲間との宴会ができないことを嘆いているだけの首相とは違うのだ。

不安が相互監視を強化しすべては自己責任にされる

 補償を棚上げしたままの自粛要請では、経済活動を完全に止められない。そうなると、自粛による感染拡大の防止効果も怪しくなる。それで国民の不安はいや増し、自粛警察が跋扈して、リンチのような社会制裁が横行する。

 国民の不安にツケ込み、同調圧力を頼みに、特措法に罰則規定を盛り込む法改正をドサクサでやろうとする倒錯。それを支持する社会は思考停止に陥っているというほかない。

 29日の衆院予算委で安倍は「今の法制で十分に収束が見込まれないのであれば、新たな対応も考えなければならない」と表明。西村コロナ担当相も27日の記者会見で、パチンコ店などが休業指示に従わない事例が多発するようであれば、「罰則を伴うより強い強制力のある仕組みの導入など法整備について検討を行わざるを得なくなる」と言っていた。

「現行の特措法では、休業指示と店名公表までしかできない。仮に罰則を科すのであれば、営業の自粛要請や指示にとどまらず、『禁止』の規定を設けることになるでしょう。そうなると、補償なしで営業の自由を奪う禁止に踏み込んでいいのかという議論になる。政府は補償はせず、あくまで経済対策という立場ですが、自粛要請に従わない不届き者を取り締まってほしいという声が市民から上がっている現状では、罰則規定が世論の支持を得られる可能性も高いと思います。ただ、全国的にパチンコ店がクラスター化した例はないのに、罰則を設けてパチンコを規制する必要性が本当にあるのかどうか。法改正にはエビデンスが必要です」(弁護士・小口幸人氏)

■密告社会は統治者にとって安上がり

 ロックダウンに踏み切った欧米諸国は、たとえ休業補償はなくても生活保障がある。それも短期間で振り込まれる。だから黙って自粛生活を続けられるし、罰則も受け入れられる。


 その点、日本は曖昧だ。そもそも「3密」を避け、他者との接触を8割削減するのは、これ以上の感染拡大を防ぐためだったはずだ。それが、8割削減が目的化してきているのではないか。だから、自粛しない人を責める。非難を恐れて、散歩に出るのすらためらってしまう。

 自粛という曖昧な要請が、市民間の相互監視を喚起し肥大化させ、「あの店は営業している」と通報する密告社会が急速に形成された。戦時下の「隣組」の復活である。

 隣組は、大政翼賛会の末端組織として、官主導で町内会の内部に形成された。<とんとん とんからりと隣組>の歌もあるが、市民による相互監視社会は統治者にとって安上がりなのだ。自ら手を下す必要がないからである。ナチスの秘密警察ゲシュタポによる逮捕者も、ほとんどが密告によるものだった。

あくまで要請に過ぎない休業に盲目的に従う法的義務はないのに、営業を続ける店が攻撃対象になり、国民の分断を生む。そういう同調圧力を利用しようと虎視眈々の権力。こういう社会情勢の方が非常事態だ。敵はコロナだけではなく、狂った社会が2次被害、3次被害を引き起こしかねない。

「営業自粛への監視を厳しくする一方では、中小企業は立ち行かなくなり、解雇者も爆発的に増える。経済的な理由によって、コロナ感染による死者を自殺者が上回る可能性があります。しかし、政府は新型コロナの流行さえ収束すれば、体力のない中小企業がどれだけ潰れようと、長引く外出自粛で多くの国民が健康を損ねようと構わないのでしょう。その結果としての自殺もうつ病も、アルコール依存症も自己責任にされてしまうのです」(和田秀樹氏=前出)

 国民生活は疲弊し、それでも政府は何の補償もせず、勝手に自粛しただけだと突き放す。日本全体の「隣組化」は、政府の無責任体制を担保する装置でしかない。絶対に責任を取ろうとしない安倍だけが高笑いだ。




スポンサーサイト



プロフィール

gogotamu2019

Author:gogotamu2019
障害福祉・政治・平和問題の最新ニュース・論説紹介

最新記事

カテゴリ