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出口戦略(2020年5月11日配信『産経新聞』ー「産経抄」)

 大正中期に日本でも猛威を振るったスペイン風邪は、多くの著名人を巻き込んだ。歌人の与謝野晶子もその一人である。11人いた子供のうちの1人が小学校で感染して、家族全員に広がった。

 ▼「大呉服店、学校、興行物、大工場、大展覧会等、多くの人間の密集する場所の一時休業を(なぜ)命じなかつたのでせうか」。晶子は政府の対応を批判する一文を新聞に寄せている。100年後、新型コロナウイルスとの戦いでも同じ過ちが繰り返された。やはり緊急事態宣言の発令は遅きに失した。

 ▼それでもなんとか、感染爆発だけは回避できそうだ。新たな感染者がほとんど出ていない県では、日常生活が戻り始めている。東京都など13の「特定警戒都道府県」でも、宣言の解除に向けた「出口戦略」が語られるようになった。

 ▼ただし、感染拡大によって職を失ったり収入が激減したりして、暮らしが立ちゆかなくなる人は増えるばかりだ。貧困問題に取り組んでいる支援団体によると、事態の深刻さは、リーマン・ショックや東日本大震災を大きく上回っている。

 ▼生活の苦しみを訴える声を、晶子なら人ごととして聞き流すことはないだろう。「街行けば涙ぐまるるおもひでの必ずわきぬまづしきがため」。晶子は、ほぼ一人で一家の生計を担っていた。恋の情熱を歌い上げるイメージが強いが、実は貧乏を嘆く歌も数多く残している。

 ▼晶子はまた五月をこよなく愛する詩人でもあった。「五月は好(よ)い月、花の月、/芽の月、香の月、色の月、/ポプラ、マロニエ、プラタアヌ、…」。「五月礼讃」と題する詩でその魅力を並べ立てた。緊急事態宣言の期限となる月末まで、あと20日。それまでに礼讃できる気分は戻っているだろうか。




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Author:gogotamu2019
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