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9月入学制 拙速な議論は禍根を残す(2020年5月16日配信『新潟日報』-「社説」)

 学習の遅れに対する子どもや保護者の不安を解消し、よりよい教育制度につながるものなのか。いまは学校再開に全力を挙げるべきだ。拙速に議論を進めては大きな禍根を残す。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響による学校の長期休校を受け、9月入学制の導入論が浮上している。

 小学校から大学まで現行の4月入学を来年から9月に後ろ倒しにすることで、学習時間を確保する狙いだ。

 一部の高校生らが声を上げたのを契機に、東京、大阪の知事らが導入を政府に求めた。

 安倍晋三首相も記者会見などで「有力な選択肢の一つだろう。前広に検討したい」との考えを示した。

 自民党もワーキングチームで制度の是非を議論し、6月初旬までに方向性を取りまとめ、政府に申し入れるという。

 だが、教育界からは慎重論が相次いでいる。

 日本教育学会は、財政負担や制度上の課題が多いとして拙速な決定を避け、社会的論議を求める声明を出した。

 全国では、長期休校をしている学校と、既に再開していたり、オンライン授業を進めたりしている学校がある。学習機会にばらつきが生じ、学力格差の懸念が出ている。

 教育学会は、9月入学に踏み切っても、学習機会のばらつき解消は期待できず、混乱を生むだけだと主張する。

 全国連合小学校長会も「学校再開時の課題解決や第2波への体制づくりと並行して議論すべき内容ではない」との意見書を文部科学省に出した。

 現場の声をしっかり聞き、混乱を招かないよう慎重に議論すべきだ。

 9月入学が浮上した背景には、高校や大学の入試を控えた受験生や保護者の懸念がある。

 文科省は、受験生らが不安を募らせている入試の方針を早急に示してほしい。受験科目や出題範囲を限定することも検討していい。

 9月入学については、日本の教育の国際化が図れるとのメリットが指摘されてきた。

 欧米や中国などの大学は9月入学が多く、時期的に留学しやすくなる。経済界は、グローバル社会に対応した人材が得られるとしている。

 しかし、さまざまな課題があり、実現のハードルは高い。9月入学は、教育制度の根幹を変えるだけでなく、社会全体に与える影響も大きい。

 文科省は、小中高校生がいる家庭の学費や給食費などの追加負担が計約2兆5千億円になるとの試算を明らかにした。

 保育園や幼稚園にも影響が及ぶ。預ける期間が長くなり、保育士の確保や施設運営などの費用がかさむ。

 本気で実現を図りたいなら、国民全体を巻き込んで議論し、理解を得ることが不可欠だ。

 感染対策に国を挙げて取り組まなければならない時に、議論を積み上げる十分な時間があるとは思えない。



コロナ禍と9月入学(2020年5月16日配信『福井新聞』-「論説」)

拙速避け、議論は多面的に

 新型コロナウイルスの感染拡大による学校休校を受け、入学や始業の時期を9月にする案が浮上している。学習の遅れや教育格差の解消に加え、世界の主流に合わせる効果もある。しかし、教育界だけでなく社会全体に与える影響は大きい。幅広く慎重に議論を深め、よりよい結論を導きたい。

 安倍晋三首相と萩生田光一文部科学相は「選択肢」として検討する考えを表明。大学受験を控えた高校生らからは賛同の声が広がり、インターネットで署名活動も行われている。

 そもそも学校制度が始まった明治時代の日本では当初、9月入学だった。4月入学になったのは、1886(明治19)年の徴兵令の改正がきっかけとされる。対象者の届け出期日が9月から4月になったため、徴兵猶予の資格を取りやすいよう、高等師範学校も4月入学にそろえた。また国の会計年度が4月に始まるのにも合わせた。大正時代になって諸学校の4月入学が定着した。

 欧米では9月を中心に秋入学が主流で、4月入学はインド、ネパールなど少数派だ。

 9月入学のメリットとしては、休校措置の長期化によって生じる教育格差の是正のほか、海外への留学や、海外からの留学生らの受け入れがしやすくなることなどが挙げられる。

 一方、デメリットとしては、国や自治体の会計年度とずれが生じる。初年度の小学1年生は通常よりかなり人数が膨らむ。就職や国家試験の日程調整も必要になる。

 9月入学制を巡って、宮城県など有志17知事が政府に導入を要請する共同メッセージを発表したが、全国知事会では「コロナ対策の一環として議論する話ではない」と慎重論も相次いだ。

 共同通信社が行った世論調査では、「賛成」が33・3%と「反対」の19・5%を上回った。ただ「どちらとも言えない」が46・3%と最多で、多くの国民が賛否を決めかねているのが現状だ。

 日本教育学会は「拙速な決定を避け、慎重な社会的論議を求める」との声明を発表した。導入した場合、財政的に大きな負担が生じるなど多くの課題があると指摘する。制度変更で新たな混乱を招く事態は避けたい。

 政府関係者の間には短期間に結論を出し、早期に移行するのは困難との見方もある。いずれにせよ、休校中の児童・生徒への対応が急務だ。オンライン学習の環境整備を推進し、変更しない場合は入試の出題範囲を絞るなど受験生への救済策も検討する必要がある。

 政府は6月上旬にも具体的な方向性をまとめる方針だが、子どもたちの未来を見据え、社会全体で多面的に議論を深めたい。



9月入学制/拙速な議論は混乱を招く(2020年5月16日配信『神戸新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策で休校が長引く中、新学期を5カ月後に移行する「9月入学制」の議論が熱を帯びてきた。

 安倍晋三首相は国会答弁で、慎重意見があることに触れた上で「前広(まえびろ)にさまざまな選択肢を考えたい」と述べた。政府は既に、来年秋からのスタートを想定して具体的な検討作業を始めている。

 将来的には、9月入学は検討に値する課題といえる。

 例えば、インフルエンザなどの感染症が流行しやすい冬に入試をしなくても済む。先進国を中心に秋入学の国は多く、高校生や大学生にとっては海外への留学、進学がしやすくなるだろう。

 しかし、コロナ禍で義務教育すら事実上の機能停止に陥っている地域が少なくない。今、急いでやるべきことなのか、冷静に考えたい。

 9月入学は、社会全体に変化を迫る大改革となる。

 卒業が夏季になるため、就職や公務員試験の時期をどうするか、など課題は多い。過去に政財界や一部の大学が進めようとしたが、実現しなかった経緯がある。全国知事会でも賛否が分かれている。

 見切り発車は大混乱を招く。慎重で幅広い議論が不可欠だ。

 大学入試改革で、記述式問題や英語の民間試験を断念した文部科学省の失態は記憶に新しい。

 学校教育法をはじめ、関係法令の改正も求められよう。

 政府は「導入ありき」ではなく、メリットとデメリットの双方を国民に分かりやすく示さねばならない。現時点では誕生日による学年の分け方すらはっきりしない。判断材料があまりにも乏しい。

 9月入学案が急浮上したのは、学習格差の広がりや学校生活が奪われていることに、子どもたちが不安を募らせているためだ。休校の影響をリセットする策として導入を求める高校生らもいる。

 そうした気持ちは理解できる。行政は、子どもや保護者の懸念にもっと向き合わねばならない。

 一方、9月入学の「リセット効果」を疑問視する声もある。教育学者らが課題の洗いだしを行っており、今後の議論に生かしたい。

 突然の休校から2カ月以上が過ぎた。国や自治体が教育について最優先で取り組むべきは学習機会の保障である。遠隔授業の環境整備は待ったなしだ。感染防止対策に万全を期した上で学校を早く再開できるよう、現場への手厚い支援が必要だ。

 受験生への配慮は欠かせない。出題範囲の変更や受験機会の複数化なども検討課題となる。本当に急ぐべき課題解決に注力するときだ。





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