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「9月入学」見えた課題 一斉移行で「新入生1・4倍」 段階移行で「待機児童5年46万人」(2020年5月25日配信『産経新聞』)

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 新型コロナウイルスによる休校長期化を受けて導入が検討されている「9月入学制」の議論が進むなかで、解消が必要な具体的な課題が見えてきた。数十万人の待機児童や総額2兆円超の家計負担が生じる恐れがあるほか、卒業を後ろにずらすことで、医療従事者の欠員や企業の労働力不足なども懸念される。政府は6月上旬にも方向性を示すが、学校教育の枠を超えて社会全体に影響を及ぼすだけに、実現には国民の合意形成が不可欠の条件となる。

 「見切り発車で、とりあえずやってみようという制度であってはならない」

 萩生田光一文部科学相は5月21日の参院文教科学委員会で、9月入学の導入に向けては丁寧な議論が必要であることを改めて強調した。

 秋入学をめぐっては昭和62年の臨時教育審議会答申で「必要性が国民一般に受け入れられているとはいえない」と先送りが提言された経緯がある。それほど社会への影響が大きく、導入には慎重さが求められる。

 そこで今回は来年9月導入を想定して、主に「一斉移行」と「段階的移行」の2案が検討対象に上がった。


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 一斉移行案は、入学時期を4月から5カ月遅らせて、従来の対象(平成26年4月2日~27年4月1日生まれ)に、現在の年中児の一部(27年4月2日~9月1日生まれ)を加え、17カ月間に生まれた子供を新小学1年生とする案だ。

 段階的移行案は、1学年の人数を13カ月間に生まれた子供とする。来年の新入生を26年4月2日~27年5月1日生まれ、再来年を27年5月2日~28年6月1日生まれのように入学の月齢を毎年1カ月ずらし、5年間かけ完全移行を目指す。

家計直撃


 ただ、いずれの案も課題が指摘されている。一斉移行では新入生が1・4倍の143万人に膨れ上がるため、教員や教室の不足が予想され、進学や就職で競争が激化する恐れがある。

英オックスフォード大の苅谷剛彦(かりや・たけひこ)教授らの研究チームによる試算によると、不足する教員は2万8千人に上る。さらに保育所では卒園の後ろ倒しを受け、一時的に26万5千人の待機児童が発生。段階的移行を選択すれば教員の不足は1500人に抑えられるが、待機児童は5年間で計46万8千人まで拡大してしまう。

 9月入学の導入は現役の小中高校生がいる世帯の家計も直撃する。文科省の推計では、移行期の4~8月分の学費や給食費などの追加負担は2兆5千億円に上る。

 また、就学期間が変わることで、児童手当などの子育て支援関連の給付といった数多くの手当の支給要件も変更するため、自治体は大規模なシステム改修を迫られる。段階的移行では毎年の改修が必要となり、混乱の原因になりかねない。

医療にも

 教育分野以外にも、卒業時期が後ろ倒しされることで、例えば移行期に医師や看護師に欠員が生じ、医療現場に影響が出る恐れもある。多くの企業でも退職と就職のタイミングのずれが人手不足に直結する。

 社会の広範に影響が及ぶことは、少なくとも7省庁に関連する33本が法改正の対象となることからも推測される。来年9月の導入を目指すには今秋の臨時国会に関連法案の提出が必要になるとされ、与えられた準備期間はわずかしかない。

 今年度の導入が予定されていた大学入学共通テストの英語民間検定試験や、国語・数学での記述式問題をめぐる議論は「課題があるまま進んでしまった」(萩生田氏)ため、昨年に与野党の反発を受けて見送りに追い込まれた前例もある。

 9月入学でも国民の合意が得られないまま導入にかじを切れば、教育にとどまらず社会全体に混乱を及ぼす事態にもなりかねず、文科省関係者からは「同じ轍(てつ)を踏むことになりかねない」と危惧する声も上がっている。



9月入学の検討 拙速を避け対策着実に(2020年5月25日配信『北海道新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策の休校措置に伴う学習遅れの打開策として、政府が9月入学・始業の検討を加速させている。

 文部科学省は、来年9月の導入を想定した一斉実施案と段階的実施案の2案を示した。

 いずれも学校や家庭には相当の負荷がかかる見通しだ。幼児教育や企業の採用など、社会システム変更の必要性も軽視できない。

 教育関係者からは慎重な議論を求める声が上がっている。

 長期休校という前例のない事態に児童生徒らが不安を抱える今、大きなコストを伴う変革を性急に進める必要はあるのか。

 まずは、授業をはじめ学校生活の空白を補うための着実な具体策に注力すべきではないか。

 浮上しているのは、来年の入学を9月に先送りし、在校生の学年も来年8月まで延長する構想だ。

 案の一つは、初年度は入学が現行より5カ月遅れる児童を含めて1学年とし、一気に切り替える。

 新入生の数は通常の1・4倍となる。教員や教室の確保が難しく、この学年だけ入試や就職で競争が激化するなどの問題も生じよう。保育所に通う期間が延びれば待機児童問題の悪化も懸念される。

 在校生も学費や給食費など5カ月分の負担増を強いられる。文科省の試算では、小学生から高校生までの子どもを持つ家庭の追加負担は総額2・5兆円、大学など高等教育では1・4兆円という。

 もう一つの案は、5年かけて移行することで新入生の増加幅を抑えるが、制度の複雑さが難点だ。

 日本教育学会は、9月入学は、授業の遅れや格差拡大の解決に十分な効果が見込めないどころか、深刻化させかねないと指摘した。

 むしろ、オンライン学習の整備や低所得世帯の支援、教員や学習支援員の増強など、既に打ち出した対策を大幅に強化し、持続的なサポート体制とするよう求めた。

 休校は地域により期間が違い、私立と公立で遠隔授業への対応が異なるなど、新たな格差を生んだ。家庭環境の差も無視できない。

 感染の状況によっては、今後も長期の休校があり得る。なるべく授業を継続し、再開後に十分フォローできる仕組みこそが必要だ。

 文科省は、学習遅れを取り戻すため、授業は対面指導の必要なものに絞るなどの工夫を求め、消化できない分は、最終学年を除き、22年度までの繰り越しを認めた。

 学年を越え補習を続けるのも一つの考え方だ。9月入学だけを解決策とせず、選択肢を広げたい。



9月入学の是非/論点山積 拙速は禍根残す(2020年5月25日配信『河北新報』-「社説」)

 学校の休校の長期化を受け、入学と始業時期を9月に遅らせる案が検討されている。新型コロナウイルスの広がりによる授業の遅れを取り戻せることと、これを機に世界標準の「秋入学」に合わせられる利点を持つ。

 停滞感の漂う日本の教育に新風を吹かせたいという期待感ものぞく。

 それにしても史上例を見ない大改革となろう。移行によって就職の遅れや家庭の負担増、教員の手当てなど負の側面も生じる。

 もたらされる反動と代償を十分吟味し、議論しているようには思えない。非常時の今だから手を付けるというのでは将来、大きな禍根を残す。 変革を起こす時は、隅々まで目配りし、生活基盤の弱い層への配慮を欠いてはならない。国の礎である教育であれば、なおさらである。

 国民一般に受け入れられるかどうか、政府は利点と難点を含め、あらゆる論点を洗いざらい示すべきだ。教育現場の実情を踏まえ、クリアすべき課題を多面的に議論するよう求めたい。

 「9月入学」は知事会の一部で浮上した。教育界にも賛同の声が聞かれる。英語力など、諸外国に比べて弱いとされる国際化の進展につなげたいという。

 欧米、アジア各国と入学時期を一緒にすることで、相互に留学しやすくなる。

 他方で、幅広い変更を迫られよう。一時的に1学年の人数は1.4倍に膨らむ。現場は教員と教室の確保に大わらわとなり、行政は財政支出を求められる。

 春の企業一括採用に合わせていた学生生徒が卒業を延ばされ、就職を遅らせるケースも予想される。

 保育園を卒園するはずの子どもの受け皿に苦慮し、「待機児童問題」の再燃となる。親は仕事へと向かいにくくなり、経済力の弱い家庭がしわ寄せを受けるのではないか。 就職期のずれ、待機児童などは社会経済全体の損失となる。これだけでも簡単に答えを出せそうにない。

 軽んじられないのが、長く根付く季節感との関わりという。桜の下で入学し、夏に部活動の大会を迎える。

 秋の文化祭を終えて先輩から引き継ぎを受ける。一つのサイクルになっていて、子どもの成長にはそれなりに意味を持つ。

 これまでも政府や国立大が秋入学を探ったにもかかわらず、まとまらなかったのは、心身への影響など論点が多岐にわたるからと言える。

 学校教育の専門家は「議論するのはいいことだが、コロナ禍のさなかに決められる問題ではない。今はできるだけ早く日常に戻すことに全力を傾けるべきだ」と話す。

 目の前の事態に手だてを講じた上で、恒久的な制度として根付くかどうか、議論を喚起していく。そんな丁寧な道筋をたどってほしい。



9月入学、市区長の8割が「反対」「慎重」 懸念根強く(2020年5月25日配信『毎日新聞』)

 全国の市長と東京23区長でつくる全国市長会が、政府が検討している9月入学制に対する賛否を市区長に尋ねたところ、「反対」または「慎重」が8割を超えた。9月入学制を導入した場合、大きな影響を受ける小学校や保育所を抱える基礎自治体の間で懸念が根強いことが明らかになった。

 25日開かれた9月入学制に関する自民党ワーキングチームの会合で、立谷秀清会長(福島県相馬市長)が調査結果を示した。

 全国市長会によると、全国の815自治体を対象に調査を実施し、70.7%に当たる576自治体が答えた。最も多かったのは「慎重」で360自治体(62.5%)。「反対」の103自治体(17.9%)と合わせると8割を超えた。「賛成」は104自治体(18.1%)にとどまり、9自治体(1.6%)は「保留」(無回答なども含む)とした。

 立谷市長は慎重・反対派の代表的な意見として、「新型コロナウイルス対策として子どもたちの安全を守るために血眼になっており、そんな議論をやっている状況ではない」「入学時期が半年ずれることで看護師らが子どもを預ける先に困る」などの声を紹介した。

 9月入学の狙いの一つである教育のグローバル化に対して「海外留学するのは極めて少数であり、全体を考えた時に9月入学が最良の選択肢ではない」といった疑問の声があったことも明らかにした。賛成派は「今年度の学習格差の解消」などを理由に挙げたという。

 自民党の会合では、全国926町村でつくる全国町村会も、47都道府県の各会長の9月入学に対する賛否を公表した。「反対」が38人(81%)と最多で、「どちらとも言えない」が6人(13%)。「賛成」は3人(6%)にとどまった。

 全国町村会の荒木泰臣会長(熊本県嘉島町長)は「新型コロナとの闘いのさなかに、大きな労力を伴う制度改革について、短期間で結論を得て実行に移すことが可能でしょうか」と疑問を投げかけ、「最優先とすべきはどの地域の児童・生徒も等しく学べる環境を取り戻すことだ」と訴えた。






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