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種苗法改正案 農家守る視点が必要だ(2020年5月25日配信『中国新聞』-「社説」)

 国内で開発された農作物の種苗が、無断で栽培・譲渡されるのを規制する種苗法改正案が今国会に提出されている。

 種苗の不正な海外流出を防ぐのが狙いという。実際に、日本で開発された優良品種のブドウやイチゴが中国や韓国に持ち出され、栽培・販売された事例などがある。サクランボが無断でオーストラリアの農家に譲渡され産地化した例もあるという。

 ただ、法改正により生産への影響が出ることを懸念する声も根強い。農家が収穫した作物から種取りなどをして次の栽培につなげる「自家増殖」を制限する内容を含んでいるからである。政府は、小規模農家を含めた多様な声を十分に聞く必要があるのではないか。

 現在の種苗法には、国や都道府県の研究機関といった開発者が農作物の新品種を登録し、販売権を保護する制度がある。しかし海外への持ち出しを制限する規定には不備があった。

 そのため改正案では、開発者が品種登録の際、輸出可能な国や国内の地域を指定できるようにする。開発者の権利を侵害した場合には、10年以下の懲役または1千万円(法人は3億円)以下の罰金が科せられる。

 登録品種の種苗は、長い年月や多額の費用をかけて開発された知的財産と言える。その海外流出を防ぎ、農作物の輸出を守る意義は理解できる。

 問題は、それと引き換えに農家に長年認められてきた自家増殖を制限する点だ。改正案では登録品種の自家増殖には開発者の許諾が必要となる。事務手続きが増え、高齢の担い手が多い農家にとっては負担が大きくなろう。種や苗を毎回買わなければならなくなり、経済的負担が増す心配もある。扱う品種が限られることで農業の多様性が狭められ、生産現場の意欲をそぐことにもつながりかねない。

 農林水産省は、自家増殖は一律禁止ではなく、登録品種以外は今後も自由にできると説明している。登録品種も許諾を受ければ可能であり、農家への影響は大きくないとの見方もある。

 だが優れた品種も、農作物が地域に定着するのは、農家の現場での営みがあってこそだ。自家増殖の制限は、市場原理の中で開発者の保護を優先し、農家を種苗の「消費者」としてしか見ていないようにも映る。

 2018年に国連で採択された「小農と農村で働く人々の権利に関する宣言」(通称「小農宣言」)は、地域の伝統的な品種の保存・利用、自家増殖を農民の権利として認めている。

 しかし政府の動きは逆行している。都道府県が有する「種苗の生産に関する知見」を民間事業者に提供することを求める、農業競争力強化支援法を17年に成立させた。18年には都道府県に米などの優良品種選定を義務づけていた種子法を廃止した。

 企業利益を重視した「成長戦略」のため種苗ビジネスへ民間参入を進めたいのだろう。「多国籍企業が種苗を独占しかねない」との批判も、うなずける。

 農業の発展は、その土地に根を張る小さな農家の存在あってこそである。そんな農家を守る視点が、知的財産を守る視点と共に必要ではないか。私たちの食を支える重大な問題である。政府は結論を急ぐことなく、農家の疑義や不安に答え、議論を深めなくてはならない。




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