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演劇界の危機「取り戻すには時間」ニュースの教科書(2020年5月31日配信『日刊スポーツ』)

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劇団四季の専用劇場「北海道四季劇場」(2010年12月1日撮影)

新型コロナウイルスは、演劇や落語にも大打撃をもたらしています。緊急事態宣言で、劇場や寄席が閉鎖され、多くの舞台公演や落語会が中止や延期となりました。宣言は解除されましたが、これまで経験したことのない苦境の中、演劇や落語にかかわる人たちはどうしているのでしょうか。さまざまなアンケートから、厳しい現実が見えてきます。【林尚之】

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東宝、松竹、劇団四季、ホリプロ、アミューズなど主な演劇関係の会社、劇場、団体など40社で結成された「緊急事態舞台芸術ネットワーク」のアンケート結果が、衝撃を呼びました。

回答は16社で、5月末までの公演中止による損失額は30億円以上が2社、10~30億円が3社、5~10億円が2社でした。中止は6月以降も続いており、損失額は増えるでしょう。将来的に事業継続が困難と答えた社が6社もありました。ネットワークに参加したのは演劇の大手・中堅ですが、「夏まで到底持ちそうにありません」「来年4月ごろ事業継続が困難になる」と切実な状況を訴えました。

俳優や声優が加入する「日本俳優連合」(西田敏行理事長)のアンケートでも、4月の収入が「無収入」28%、「半分以下」34%、5月以降の収入も「無収入」23%、「半分以下」43%という結果でした。60%以上が影響を受けています。

落語界も同様です。桂文枝、笑福亭鶴瓶が所属する「上方落語協会」が会員を調査したところ、4月中旬までの公演キャンセルは2924件、4月の収入は「無収入」が71%でした。5月に入っても状況は変わりませんから、多くの落語家の無収入状態が2カ月以上も続くことになります。

厳しい現実の一方、新しい試みも始まりました。YouTubeや新アプリのZoomを使った「オンライン配信」です。春風亭一之輔がオンライン落語会を10日連続で配信したところ、動画再生は20万回を超えました。演劇でも、三谷幸喜氏作「12人の優しい日本人」を、女優吉田羊らがリモートで読み合わせ、YouTubeでライブ配信し、1万5000人が生で視聴したそうです。新型コロナをきっかけに新しい形の演劇が生まれるかもしれません。

政府も、中止・延期した演劇などの公演について費用の2分の1を上限5000万円で支援するほか、活動の継続や稽古、感染防止対策などに対し、個人や小規模団体に最大150万円を支援する方針です。さらに、劇団などを中心にした「演劇緊急支援プロジェクト」は、コロナ収束後の活動支援の土台となる「文化芸術復興基金」の創設を求めています。日本の文化芸術を守るためには、長い目で見る必要があるようです。

劇団四季は、都内の3つの劇場、横浜、名古屋、京都、大阪、福岡の劇場が閉鎖され、「ライオンキング」「キャッツ」「アラジン」「リトルマーメイド」などのミュージカルが見られなくなっています。

四季の吉田智誉樹社長(55)は「再開予定の6月下旬までで、約1000回の公演が中止となりました」と話します。4月7日の緊急事態宣言から飲食店などが休業に入りましたが、四季をはじめ演劇は自粛要請で2月下旬から公演を中止しました。「公演中止で売り上げもなくなった。しばらくは大丈夫ですが、長引けば、劇団の継続も脅かされるかもしれません」。四季には1400人の劇団員がいますが、大半が自宅待機中です。「俳優たちは稽古もできない状況で、彼らのコンディションが心配です。人材育成に長い時間がかかるけれど、1度失ったものを取り戻すには再び長い時間がかかる。簡単に育たないんです」

創立から67年の歴史がありますが、こういう経験は初めて。「四季は『芝居だけで食べていく』ことを理想としてきた。その原点が危うくなった。想像もしなかった状況ですが、演劇の長い歴史を振り返ると、戦争だったり、ペストなどの病気で演劇の危機は何度もあった。その度に乗り越えてきました。演劇はしぶといし、しぶとさを信じたいです」。

6月28日に「マンマ・ミーア」「ライオンキング」(名古屋)、7月1日に「キャッツ」、同7日に「アラジン」が再開予定です。「稽古場に人が密集しないように分散して稽古するので、再開日も違うんです」。大ヒットしたアニメ映画をミュージカルにした「アナと雪の女王」も当初9月開幕予定でしたが、来年6月に延期となりました。海外スタッフの来日のめどがつかないためですが、これも新型コロナの影響です。

劇団にはファンから多くの励ましの声が寄せられています。「『再開したら必ず見に行きます』『どうやったら寄付できますか』との声に勇気づけられています。観客の皆さんと感動を分かち合える日が待ち遠しいです」。日本の演劇人の共通した思いでもあるのです。

◆劇場再開時の上演は? 劇場が再開したとしても、以前のような形での上演はできません。国立劇場、新国立劇場など国公立の劇場など約1300施設でつくる「公立文化施設協議会」が発表した再開に向けたガイドラインによると、3密(密閉、密集、密接)防止策を徹底し、座席も前後左右を空け、出演者も原則としてマスク着用、出演者間も十分な間隔をとることを求めています。ただ、出演者がマスク着用で演技はできないので、「緊急事態舞台芸術ネットワーク」では現実的なガイドラインを作成し、発表の予定です。

多くの劇場が集まるニューヨーク・ブロードウェーは9月6日まで閉鎖されるなど、海外でも劇場閉鎖が続きます。中国・上海では先日、4カ月ぶりに劇場が再開しましたが、観客数は座席数の30%内に制限されました。

◆林尚之(はやし・なおゆき) 1978年入社。歌舞伎、ミュージカル、現代演劇、宝塚、落語を取材し、年300本の舞台を観劇。文化庁芸術祭や鶴屋南北戯曲賞の選考委員、日本芸術文化振興会専門委員、国立劇場養成事業委員などを務める。共著に「落語入門」。演劇誌「悲劇喜劇」演劇時評を担当。




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