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国のコロナ対策 次に備えて真摯に検証を(2020年5月31日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 「感染者数や死亡者数を主要先進国の中で圧倒的に少なく抑え込むことができた」。「まさに『日本モデル』の力」―。

 緊急事態宣言を全面解除した25日。安倍晋三首相は記者会見でこう強調して胸を張った。

 コロナ禍の収束に向けて、日本の対策が順調に進んでいる「成果」を誇示する姿勢がみえる。

 日本の対策は奏功したのか。

 確かに先進7カ国(G7)の中では死者数は少ない。

 一方で東アジア諸国は、感染者や死者の数が欧米より大幅に少ない実態がある。日本は東アジアでは人口当たりの死者数がトップレベルの多さだ。要因の分析は多面的であらねばならない。

 29日には、外出自粛や休業などの影響で4月の雇用統計が急速に悪化していることも明らかになった。政府の経済対策は十分に効果を発揮しているとはいえない。

 予想される第2波に向け、これまでと同様の対応では影響が拡大しかねない。安倍首相は25日の会見で検証作業は「事態が収束した段階」と述べ、時期尚早との認識を示している。実態に真摯(しんし)に向き合う姿勢がうかがえない。

<現場感覚を欠く>

 首相のいう「日本モデル」の姿は見えにくい。

 政府の政策は後手に回り、転換も目立つ。検査体制の整備は遅れ、「37・5度以上の発熱が4日以上」などの当初の目安が壁になり、診察や検査を受けられないケースも相次いだ。

 感染者が減少したのは、支援の乏しい中で自粛や休業を続けた国民の行動と、医療の献身的な努力による面が大きいのではないか。

 まず考えるべきは政府の「現場感覚」の欠如だ。PCR検査が代表的だ。安倍首相が一日の実施可能数を2万件にすると表明したのは4月6日だ。だが、これまでの実施件数は多くても約1万件だ。

 なぜ増えなかったのか。現場では人員が不足し、感染防護の資材も確保できない状態が続いた。政府はこれらの対策を十分に取っていたのか疑念が残る。

 「目詰まりがあった」(安倍首相)のなら、具体的な問題点を検証し、解消策を徹底して進める必要があったはずである。

 「現場感覚」の欠如は、「アベノマスク」と批判された布マスクの配布や、給付金の支給額を巡る混乱でも明らかだ。給付金や助成金の申請手続きは複雑で、支給まで時間もかかっている。

 自宅待機を呼び掛けるために、著名人と首相のコラボを狙って投稿した動画が、世論の反発を浴びたことも理由は同じだろう。

<ブラックボックス>

 政策の決定過程も不透明だ。感染症対策で欠かせないのは科学的な根拠である。その上で政府が経済や社会への影響などを分析し、政策を決定するのが筋だ。

 それなのに、安倍政権は2月末、全国の公立学校に専門家の意見を聞かず休校を要請した。緊急事態の全面解除も政府が方針を決め、専門家でつくる委員会に意見を聞いた。順番が逆ではないか。

 全面解除の段階では、目安を満たしていない地域があることで、専門家から慎重な意見も出た。対策を巡る後手批判の払拭(ふっしょく)を急ぐ首相の焦燥感が「解除の結論ありき」となった面は否めない。

 さらに大きな問題は、専門家会議の議事録が策定されていないことだ。政府は首相や閣僚、省庁幹部が参加する「連絡会議」でも議事録を残していない。

 政策決定の過程がブラックボックスでは検証が難しくなる。

 政府は経済対策の規模を「世界一」とアピールし、布マスク配布で市場価格が下がったとも主張する。いずれも根拠はあやふやだ。効果を過剰に見積もれば、今後の政策を誤りかねない。

<生かされない提言>

 一つの報告書がある。

 「現場の実情や専門家の意見を把握し、議論の過程をオープンに」「地方のPCR検査体制の強化を」―。9項目の内容は、現状の問題点を的確に指摘している。

 作成されたのは10年前だ。新型インフルエンザの流行が収束した後に、厚生労働省が設置した総括会議が感染症対策の改善点を2010年6月に提言した。

 会議の議事録によると、専門家からは「診療所などが求めたPCR検査の依頼に保健所が応じなかった」との声も出た。重症者を中核病院で診察し、軽症者と分ける必要性も議論されている。いずれもコロナ禍と共通する課題だ。

 12年末に誕生した第2次安倍政権は、提言された感染症対策と向き合ってきたとはいえまい。

 10年4月の総括会議の会合では、出席者からこんな指摘が出ていた。「日本は何か起きるたびに誰が悪かったという話で終わり、システム自体が変わらないから同じことが起こる」と。

 予想は的中した。繰り返さないために何が必要なのか。長期的な視点で考えなければならない。問われるのは批判を真正面から受け止め、改善する姿勢である。




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Author:gogotamu2019
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