FC2ブログ

記事一覧

9月入学制 拙速を避け学びの保障に注力を(2020年6月6日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの影響による休校長期化を受けて可否を検討している9月入学制について、政府は来年の導入を見送る方向となった。長所と短所を比較しつつ検証は継続する。

 9月入学制は学習遅れの打開策として急浮上したが、巨額の費用をかけて社会制度を変える必要があり、さまざまな観点からの丁寧な議論が欠かせない。コロナ対策に追われ、学校現場でも導入の機運は盛り上がっていない。拙速は許されず、見送りは当然と言える。政府は現場の不安解消に向け、学びの保障に全力を挙げるべきだ。

 9月入学制は欧米では主流となっており、日本でも国際化への対応として以前から取り上げられてきたテーマだ。高校生たちがインターネット上で署名活動を始めて反響が拡大。一部の知事の積極論に押される形で、安倍晋三首相が有力な選択肢と提起した。

 ただ、導入には課題も多い。文部科学省は来年9月の一斉実施と、5年かける段階実施の2案を示した。一斉実施だと、新小学1年生は通常の1・4倍もの人数になる。いずれの案でも待機児童が発生するなど影響は大きく、教員や教室も確保しなければならない。増員した学年は受験や就職の競争が激しくなるのは確実だ。

 文科省の試算では移行経費は少なくとも5兆円に上る。小学生から高校生までの子どもを持つ家庭の負担は総額2兆5千億円、大学など高等教育では1兆4千億円増える。4月始まりの会計年度とずれるため、自治体は大規模なシステム改修が必須となる。就職や国家試験への影響なども懸念されるという。

 こうした論点を整理し提示した上で国民的議論が必要だ。しかし、コロナ禍で議論を進める環境にはない。緊急事態宣言の解除に伴い学校が再開され、現場は夏休みを短縮するなど子どもの学びを取り戻すのに試行錯誤している。市区町村には早期導入に慎重な声が多い。自民、公明両党も来年の導入を見送るよう提言し、首相は受け入れざるを得なかった。

 日本教育学会は、制度の移行は社会の混乱を招き国際化の進展にも効果は小さいと指摘。学習遅れを取り戻し、教育の質を向上するのが重要で、教育予算を積み増して教員の大幅増を行うべきだとしている。日本の教育への公的支出は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも最低レベルだ。9月入学制のメリットとされる相互留学の促進にも、語学を含め教育の質の向上が大事ではないか。

 国際化や教育改革の一環として9月入学制の議論は有意義だろう。ただ、今は現場に過剰な負担をかけることを避け、学びを保障する具体策を実行することが国には求められる。感染再拡大に備えたオンライン授業の充実など、講じるべき対策は山積みだ。入試日程なども早期に定め、安心して学習に励める環境を整えなければならない。




スポンサーサイト



プロフィール

gogotamu2019

Author:gogotamu2019
障害福祉・政治・平和問題の最新ニュース・論説紹介

最新記事

カテゴリ