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9月入学見送り 学びの保障を最優先に(2020年6月13日配信『中国新聞』-「社説」)

 入学・始業の時期を秋にずらす「9月入学」について、政府は来年度からの導入を見送った。新型コロナウイルスとの闘いが続く中、社会全体に関わる教育制度の転換が拙速であってはならない。現実を踏まえた当然の判断と言えよう。

 秋入学・始業を求める声はかねて経済界などに根強くあった。東京大や広島大でも導入が検討されたことがある。今回、議論が再燃したのは休校で奪われた学校生活を取り戻す案として、高校生たちがネット署名を始めたことだった。体育祭や文化祭などの学校行事も含めた学びの時間を取り戻したい、と願う気持ちはよく分かる。

 そこに地方の首長らが次々歓迎の声を上げ、議論が加速した。安倍晋三首相も導入に意欲を示してきた。

 この際、9月を新学期にすれば、地域によって生じた学習格差がなくせるとの考え方もあろう。欧米などで主流の秋入学とそろえることで「国際化を進める好機」とも捉えられる。

 しかし導入に課題が多いことは、これまでの議論からも明らかである。国の会計年度や企業の採用時期にも影響する。義務教育年齢を定めた法律にも関わる。熟議が必要である。

 実際、文部科学省が先月示した移行案でも、多くの問題が浮かび上がった。来年9月からの一斉導入と、5年かけて移行する二つの案である。

 9月入学制を一斉に実施する案では、開始時の1年生は、生まれ月が17カ月にわたり、通常の1・4倍になる。そのため教員の増員や教室の整備も必要になる。段階的に移行する案では移行期の学年によって児童生徒の生まれ月の範囲が異なるなど制度が複雑になる。移行経費は少なくとも5兆円と膨大になることも分かった。与党内からも異論が出るのは当然だろう。

 全国市長会や教育界からも慎重な対応を求める意見が相次いだ。日本教育学会の広田照幸会長が会見で、「目の前の学校や子どもが大変な状況にあるのに、9月入学制を議論している場合ではない」と訴えたのもうなずける。

 確かに今は、長期間に及んだ休校で失われた学びを取り戻すことに集中すべき時ではないか。子どもたちの心身のケアにも力を注がなければならない。休校中の過ごし方や家庭環境による格差も生まれている。今はそうした格差や不安の解消を最優先にしてほしい。

 今後、授業数確保のため、夏休みの短縮などで教員の負担も増えるだろう。児童生徒一人一人の学びに、細やかに対応するためには、マンパワーが欠かせない。退職教員に協力を仰ぐなど、人員確保も必要となる。

 とりわけ学習や進路について心配しているのが受験生たちだろう。初めてとなる大学入学共通テストは延期しない方向で議論が進んでいる。しかし入試日程全体の繰り下げや出題範囲の縮小など柔軟な対応が求められる。受験生はすでに、共通テストへの英語民間試験や記述式問題の導入を巡り、さんざん振り回されてきた。これ以上混乱させることがあってはならない。

 政府は、将来的な秋入学については検討を続けるという。専門家や教育現場の声などを幅広く聞き、長期的な視点で議論を深めていくべきだ。 




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