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コロナ接触追跡「アベノアプリ」が始まる前から失敗間違いなしの理由(2020年6月18日配信『ダイヤモンドオンライン』)

ダイヤモンド編集部 高口康太

新型コロナウイルスの感染者と濃厚接触した可能性を知らせる「接触確認アプリ」が、いよいよ運用開始だ。安倍政権はこのアプリを感染第2波阻止の切り札と意気込むが、「失敗はほぼ確実」という声も聞こえてくる。その声の主の1人、経済学者の依田高典・京都大学教授に聞いた。(聞き手/週刊ダイヤモンド特任アナリスト 高口康太)

補足率は10%未満

人海戦術以下の効果しかない


 接触確認アプリはスマートフォンのブルートゥース通信機能を使って、新型コロナの陽性者と接触した可能性を検出・通知する仕組み。陽性者と接触し、さらに何らかの症状を示している人には早期の検査や受診を促し、さらなる感染拡大を防ぐ狙いだ。安倍晋三首相は緊急事態宣言解除の記者会見で、接触確認アプリの導入で第2波を抑止できるとの考えを示している。

 アプリには米グーグル、米アップルが共同で提供するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)を活用しており、プライバシー保護の厳格な対応が講じられているという。このアプリについて「失敗する」と断言しているのが、京都大学の依田高典教授(行動経済学)。政府のデジタル市場競争会議(議長=菅義偉内閣官房長官)の議員を務め、デジタル産業政策に通じている。始まる前からなぜ失敗確実と言えるのか?


――接触確認アプリは安倍首相肝いりの感染拡大防止ツールですが、なぜ「失敗する」と断言できるのですか。

 効果を出すには人口の6割弱がアプリをインストールすることが前提とされています。しかしこれは実現困難な目標です。内閣官房・情報通信技術総合戦略室の仕様書にも引用されている通り、「令和元年版情報通信白書」によると、日本のスマートフォン保有率は64.7%。つまり、保有者のほぼ全員がインストールしてくれなければ、目標は達成できません。

キャプチャ
厚生労働省発表のリポート「新型コロナウイルス接触確認アプリについて」より

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 アプリのインストールは「お願い」であり、強制ではありません。さて、どのぐらいの人がインストールしてくれると思いますか?

――半分ぐらいでしょうか。

 ありえません。国政選挙の投票率ですら50%を切るんですよ。行動経済学の常識でいうと、オプトイン(明示的な同意の取得が必要なケースを意味する)での同意率は2割程度です。ナッジ(望ましい方向に人々を誘導する行動経済学の手法)で伸ばせても3割から4割が限界です。接触を8割削減しなければならないような感染症対策では、お願いベースのやり方は限界があるのです。

 いち早く接触確認アプリを導入したシンガポールは政府の力が強い権威主義体制の国として知られていますが、それでもインストール率は2割にとどまります。強制に近いレベルでの「お願い」をしたとして、3割から5割のインストールが限界でしょう。64.7%の5割ですから、どれだけ甘く見積もっても全人口におけるインストール率は30%台です。

 またアプリが機能するには接触する双方がアプリをインストールしている必要があります。片方だけがインストールしていても、何も記録されないわけです。そうすると、30%×30%で9%。実際の接触回数の9%しか補足できないわけです。

 他にも課題はあります。このアプリでは感染が判明した場合、保健所から通知された感染者が自分でスマートフォンに入力する必要があります。コロナにかかってショックを受けているでしょうから、入力どころではないケースも出てきます。また、持っている端末が古くてアプリをインストールすらできない人もいるでしょう。

 現在では保健所が聞き取りによる接触確認を行っていますが、この補足率は50%前後で推移しています。人海戦術のクラスター追跡に対して、接触確認アプリがたいした助けにならないことはわかると思います。

 なお、プライバシー保護への配慮は徹底されています。端末が記録する情報も匿名化され、個人が特定できない形式です。個人情報とは個人を特定できる情報を意味します。ですから、この接触確認アプリでは個人情報は使われていないわけです。

 だとすれば、日本の個人情報保護法に従えば、個人の同意を取る必要はなかったはずで、スマホOS(基本ソフト)のアップデートに伴って、APIとアプリも込み込みで全ユーザーにプレインストールさせるという仕組みも考えられたはずです。そうなれば、もっと実効的なアプリになったでしょう。

問題の根っこは

アップルとグーグルにある


――なぜ、こんな残念なアプリになってしまったのでしょう?

 問題はアップルとグーグルにあります。彼らは長らく、ヨーロッパで個人情報保護の問題でたたかれ続けてきました。ですから、新型コロナという未曽有の危機においても、まず個人情報を守ることを最優先の仕組みを作り上げました。

 そう言うと良いことのように聞こえますが、本当にコロナを防げるものなのか、サービス開発の企画段階でユーザーに使ってもらえるのかというデザイン的発想が必要でした。故スティーブ・ジョブズが聞いたら嘆くでしょう。

 両社が開発した仕組みは技術的に言えば極めて画期的です。中央サーバーに大切な個人情報は預けず、すべてはエッジ(端末)に記録されます。クラウド全盛の時代に、あえてクラウドを使わないという逆転の発想です。

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厚生労働省発表のリポート「新型コロナウイルス接触確認アプリについて」より 

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――完成前に無用の長物であることが判明した、と。

 そうです。ただ、それでもこのアプリへの取り組みは続けるべきだと考えています。

 現在、日本はGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)のくびきにとらわれています。クラウドと携帯OSというITの要を米国の巨大IT企業が握っているのです。

 このアップルとグーグルが、接触確認アプリではクラウドを使わない革新的な仕組みを提示しました。携帯OSを握られていることは変わりませんが、クラウドの支配からは脱するヒントとなるかもしれない。そのノウハウを得るために、きちんと先端的アプリの開発に取り組む必要があるでしょう。

 今回のコロナ対策としては期待できませんが、日本のデジタル産業という、より長期的な経済問題を考えたときには重要な課題です。

ICTとプライバシーの均衡が
21世紀の勝者を決める


――接触確認アプリには期待できないことはわかりました。では、コロナ対策へのデジタル技術活用は断念するしかないのでしょうか?

 日本国民の自粛によって、国内の感染はほぼほぼ抑えられました。今後の最重要課題は海外からの流入ウイルス対策です。日本人の帰国者もいますし、経済再開に伴い外国人ビジネス客の入国も増えるでしょう。検疫のPCR検査で大半の感染者は発見できるでしょうが、それでも渡航直前に感染していた場合などはチェックをすり抜けてしまいます。

 現在のような、日本入国から2週間は自主隔離を“お願い”するようなやり方では感染拡大は防げないでしょう。この問題を解決できるような方法は考えられます。

 例えば、入国時に位置情報追跡をオンに設定してもらうのはどうでしょうか。入国者は施設での2週間の隔離か、位置情報の取得を選べます。位置情報をオンにしさえすれば、隔離なく自由に行動できるとなれば、ほとんどの人が位置情報の提供を選ぶでしょう。

 海外からの入国者、帰国者の移動履歴がわかっていれば、感染が見つかったとき、どの人物がウイルスを持ち運んだのかを推定できます。感染経路の追跡ができれば、二次感染、三次感染と広がる前に止めることができます。クラスター追跡の助けになるでしょう。

――移動履歴を取得すれば、プライバシー侵害との批判を避けられないのでは?

 今問われているのは、いわば未来の社会体制のあり方です。中国のようにプライバシーや人権に配慮しないで最新の情報通信技術がフルスペックで使い放題の管理社会と、プライバシーへの配慮からそうした技術が十分に使えない自由民主社会、こうした対比が続けば前者が技術の効率性で勝利する可能性もあります。

 20世紀のイデオロギーの争いでは、資本主義の市場経済が社会主義の計画経済に勝利しました。ハイエク(オーストリアの経済学者、1992年死去)は計画経済について、情報が不完全で市場の均衡価格が計算しきれないため、根本的な問題があったと指摘しました。しかし21世紀の争いでは異なる結果が出かねません。人権やプライバシーに配慮せずに、情報通信技術を融通無碍に使える社会のほうが経済的効率性で勝利する、という答えも考えられるわけです。

 もちろん、日本国民の多くが中国のようになりたいとは思っていないはずです。私もそうです。だとすれば、自由民主社会においても、公益のために情報通信技術をどこまで活用するべきか、プライバシー保護に踏み込む分野であっても、粘り強く思考停止せずに考え抜くことが求められます。



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