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父だけは私を愛してくれていたのかもしれない(2020年6月20日配信『熊本日日新聞』-「新生面」)

 作家村上春樹さんが今春刊行した『猫を棄[す]てる』(文藝春秋)は、猫好きには穏やかではないタイトルだが、絶縁に近かった亡父のことを初めて語った手記である

▼幼い頃に一緒に猫を棄てにいった話から始まり、父が3度徴兵されて中国戦線にいたこと、戦死者に向けて毎朝お経を唱えていたこと、捕虜の中国兵処刑について一度だけ語ったことが淡々とつづられている

▼父親の足跡をたどることは、自身の人生や立ち位置を見つめ直すことにもつながったのだろうか。村上さんは「僕にとってはちょっと特別な意味を持つ小さな書物」と語っている

▼裁判を通して疎遠だった父の生涯に触れ、屈辱的な人生を歩み直した女性もいる。亡くなったと聞いていた父が国立ハンセン病療養所菊池恵楓園で生きていると知ったのは20代のとき。親の愛を知らず、幼い頃から周囲に冷遇されてきた理由が分かって以降、父が憎しみの対象になり、死ぬまでつらく当たり続けたという

▼女性はハンセン病家族訴訟に加わり、戦地を経て療養所で生涯を終えた父の孤独で苦渋に満ちた人生を見つめた。昨年6月に家族の被害を認めた判決が出た瞬間、感情を押し殺して生きてきた女性は目を真っ赤に潤ませた。父の遺品に紛れていた幼い自分の写真を見て、「父だけは私を愛してくれていたのかもしれない」と思えるようになったという

▼あすは「父の日」。当方にも、老いと病で身体が不自由になり、記憶や言葉も乏しくなった父がいる。2人で昔話をしたくなった。




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