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出生前診断 「命の選別」に議論尽くせ(2020年6月26日配信『産経新聞』-「主張」)

 ダウン症などの染色体異常の有無を、胎児の段階で妊婦の血液から調べる「新出生前診断」について、日本産科婦人科学会(日産婦)は、小規模な医療機関、診療所でも受診できるよう指針を改定したと発表した。

 実際に運用するかどうかは、厚生労働省の判断を待つとしている。

 日産婦は昨年、実施施設の要件を大幅に緩和する方針を打ち出したが、複数の学会が安易な拡大に反対していた。今回の指針改定では小児科医との連携を強める要件を盛り込むことで、日本小児科学会と日本人類遺伝学会の合意を得たという。

 一方で厚労省は新出生前診断に関する検討会を設置し、議論を始めている。その議論が熟するのを待たずに、日産婦は指針改定を発表した。検討会やそこで期待される幅広い議論を軽んじる姿勢であると言わざるをえない。

 出生前診断は「命の選別」にかかわる重い問題をはらむ。これまでより簡便でリスクが小さい新たな検査技術が登場したことで、倫理的な問題点を積み残したまま急激に普及が進もうとしている。

 国内で新出生前診断は平成25年に臨床研究として始まった。昨年3月までに約7万2500人が認可施設で検査を受けた。このうち染色体異常が分かったのは約1150例で、約900例が妊娠中断(中絶)を選択した。子宮内胎児死亡が約200例、妊娠を継続したのは50例ほどである。

 当事者の決断は尊重すべきであるが、出生前診断が現行の母体保護法では認められていない「胎児の異常を理由とする中絶」を強く誘導していることは、否定できない。特定の障害の有無を胎児の段階で判定する出生前診断は、その技術自体が命を選別する意図を持っている。

 日産婦が実施施設の拡大を目指す背景には、無認可施設の横行がある。もちろん、妊婦への十分な説明、サポートが行われない無認可診断の拡大は止めなければならない。だが、そのために認可施設を増やすことは、なし崩し的に出生前診断と、それに伴う「命の選別」を容認することになる。

 障害のある子を産み、育てることには、さまざまな困難と大きな不安が伴う。その困難や不安を含めて「共に生きる」社会を築くためにも、出生前診断について議論を尽くすことが大事だ。



【新出生前診断】妊婦支える体制づくりを(2020年6月26日配信『高知新聞』-「社説」)

 医療技術の進歩は、生命倫理のさまざまな問題をはらんでいる。

 「新出生前診断」もその一つだろう。妊婦の血液から、おなかにいる赤ちゃんの3種類の染色体異常(ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミー)を調べることができる。

 今のところ、カウンセリング体制などが整った大学病院などの大規模な認定施設でしか行えない。日本産科婦人科学会(日産婦)は実施の指針を改定し、凍結していた認定施設の「拡大」に再び動きだした。

 この検査では、「陽性」の診断が確定した妊婦の約8割が人工妊娠中絶を選んでおり、「命の選別につながりかねない」と指摘されてきた。

 短絡的に「陽性=中絶」が行われないように、認定施設の「拡大」も慎重に検討されなければならない。

 妊婦に十分な情報提供を行い、検査の前後を継続的にサポートするような体制をつくる必要がある。

 何よりも重要なのは、おなかの赤ちゃんに病気や障害があると分かっても、安心して産んで育てられる社会をつくることだ。子どもと家族を支える施策を充実させ、多様な人々が共生する社会を目指したい。

 新出生前診断は2013年に始まった。日産婦の指針に基づき、原則35歳以上の妊婦が検査を受けられる。高齢出産になるほど、胎児の染色体異常のリスクが高まるためだ。

 認定施設は全国で109カ所で、高知県では高知大学医学部付属病院に限られる。高齢出産の増加で検査のニーズは高いが、認定施設は少なく時間もかかっている。

 そこに営利目的で、認定外のクリニックが参入している。ルールを守らず、検査の「陽性」判定を伝えるだけで相談に応じないなど、妊婦が苦しむトラブルが多発している。

 日産婦は事態を打開するため、認定施設の要件緩和に動いたことがある。しかし、日本小児科学会や日本人類遺伝学会が「不十分な体制の下に安易に行われるべきではない」と慎重な対応を求めた。19年6月にいったん「拡大」は凍結された。

 今回、日産婦が妊婦の支援体制を整え、小児科医との連携も強める内容を盛り込んだことで、両学会の合意が得られた。実際に「拡大」するかどうかは、厚生労働省の検討部会の判断を待つとしている。

 この検査で「陽性」となれば、妊婦は命を巡る重い選択に直面する。激しい葛藤に襲われるだろう。

 検査を決める前に、染色体異常で起こる疾患や、それがある子どもの育児について、よく知っておく必要がある。さまざまな条件を十分に考えた上での「産む」「産まない」の決断は尊重されるべきだ。

 新出生前診断の制度には、当事者の意見も反映させたい。この検査の診断を受けて妊娠を継続した人としなかった人、障害のある子どもを育てた人、高齢出産の不安をよく知る人ら幅広いだろう。

 「拡大」を最終判断する厚労省の検討部会は、その意見を取り入れながら議論を尽くさねばならない。





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