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強制不妊判決に関する論説(2020年7月2日)

強制不妊判決 実態直視し救済の道を(2020年7月2日配信『北海道新聞』-「社説」)

 旧優生保護法下で不妊手術を強制されたとして、東京都の男性が国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は請求を棄却した。

 「不良な子孫の出生防止」という誤った思想にとらわれた、国による重大な人権侵害である。被害者に対し、冷淡な判決と言わざるを得ない。

 さらに問題なのは、旧法が違憲かどうかの判断を避けたことだ。

 同種訴訟の仙台地裁判決は昨年5月、障害者らに不妊手術を強制した旧法は、幸福追求権を保障する憲法13条に違反すると明確に指摘した。

 東京地裁判決はここから大きく後退し、手術の違法性を指摘するにとどまった。

 子どもを産み育てる権利を奪われた人々は言葉に尽くせない苦労を強いられてきた。その実態に目を向け、被害者救済の道を開かなくてはならない。

 判決が請求棄却としたのは、賠償請求権は不法行為から20年で消滅するとした民法の「除斥期間」の規定を厳格に適用したためだ。

 男性が遅くとも旧法が母体保護法へと改められた1996年以降は提訴できる状況にあったのにそうせず、請求権は消滅したと結論付けた。

 しかし、手術の内容を知らない被害者は多く、差別を恐れて近年まで提訴に踏み切れなかった実態がある。

 裁判で原告側は、子を産めない状態は続いており被害は終わっていないとして、除斥期間は適用するべきではないと主張した。被害の深刻さを思えば、考慮に値するのではないか。

 仙台地裁判決は、子を持つか持たないかを自ら決定する「リプロダクティブ権」を個人の基本的権利だと認め、これを侵害する旧法を違憲だと断じた。

 東京地裁判決がその権利に踏み込むのを避けたのは疑問だ。人権擁護に消極的すぎないか。

 昨春、被害者に一時金を支給する救済法が施行された。しかし内容には課題が多い。

 一時金の金額は320万円と、札幌を含む各地の裁判所で争われている訴訟の賠償請求額を大きく下回る。

 これまでに支給が認められたのは600人余で、亡くなった人を含め全国で約2万5千人とされる被害者のごくわずかだ。本人からの請求を基本としているためだ。

 国は、国策に抑圧された被害者を放置せず、責任を持って救済の手だてを尽くさねばならない。



名乗り出る痛み(2020年7月2日配信『北海道新聞』-「卓上四季」)

 米ボストン・グローブ紙が2002年に報じた記事は、米カトリック教会が長年隠蔽(いんぺい)してきた少年らに対する性的虐待を暴くスクープとなった。その後4千人以上の聖職者の関与も判明。ローマ教皇も対応に追われるなど影響は世界に広がった

▼この実話を元に15年に製作された映画の最後の場面が印象深い。記事の掲載後、1本の電話が新聞社に入る。その数は瞬く間に増え、編集局中の電話が鳴り始める。被害を告発する声だった。それは報道があるまで泣き寝入りせざるを得なかった人々の悲鳴でもあった

▼名乗り出ることが、どれほどの痛みを伴い、勇気を必要とするか。理解していただろうか。旧優生保護法下の強制不妊手術を巡る国家賠償請求訴訟の東京地裁判決のことだ

▼不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」について、判決は、遅くとも旧法が改定された1996年には被害と違法性を認識し提訴が可能だったとして、手術を強制された男性の主張を退けた

▼昨年には一時金を支払う救済法も成立したが、支給は進んでいない。周囲に知られたくないという被害者の事情こそ、根強い偏見の表れだろう

▼一昨年札幌地裁に提訴した小島喜久夫さんは「私も闘っていくので、少しでも多くの人が勇気を持って名乗り出てほしい」と呼び掛けた。実名を明かして臨んだ覚悟にどう応えるか。人々の想像力が試されている。



差別恐れる被害者と乖離/強制不妊訴訟判決(2020年7月2日配信『東奥日報』-「時論」)

 旧優生保護法により不妊手術を強制されたとして、77歳男性が国に3千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は手術について「憲法で保護された、子を持つかどうか決める自由を侵害した」としながらも請求を退けた。

 最大の争点となったのは、不法行為から20年経過すると賠償請求権が消滅する「除斥期間」の適否だった。

 手術は1957年、14歳ごろに施された。訴訟を提起したのは2018年。男性側は「差別を受ける可能性が高く、手術を受けた事実を公表して賠償を求めるのは困難だった」と特殊事情を訴えたが、地裁判決は損害が手術時に発生したととらえ、除斥期間が適用されると判断した。

 しかし96年まで、ほぼ半世紀にわたり存続した旧法が社会に残した爪痕は深い。支援団体などは、周囲の差別や偏見を恐れ、いまだに声を上げられない被害者が多数いるとみている。被害者に一時金320万円を支給する救済法が昨年4月に議員立法で成立、施行されたが、申請と支給が遅々として進まないのもそのためという見方が強い。

 判決はそのような実態と乖離(かいり)していないか。被害者に寄り添う姿勢に欠けると言わざるを得ない。衆参両院の事務局は6月に旧法の立法経緯や被害状況の調査を始めたが、国と国会は速やかに結果をまとめ、救済拡大に取り組む必要がある。

 強制不妊手術を巡っては、男女24人が国を相手取り全国8地裁に訴訟を起こした。今回は2件目の判決。昨年5月の仙台地裁判決は旧法を違憲と断じたが、国の賠償責任は認めず、請求を棄却した。東京地裁判決は旧法自体の違憲性には言及していない。ただ除斥期間の適用について詳細に検討しており、他の訴訟に与える影響は大きい。

 判決などによると、男性は問題行動を理由に入所させられていた教護院から何の説明もないまま病院に連れて行かれ、手術を受けさせられた。後に不妊手術と知らされたが、誰にも言えず、20代後半で結婚。妻に不妊手術のことを打ち明けたのは7年前。妻が亡くなる直前だった。

 旧法は「不良な子孫の出生防止」を掲げ、知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に手術を認めた。判決は「旧法が定める疾患などに該当しないのに、誤った審査で手術を受けた」と指摘。国に賠償責任が生じたとした。だが、ここで除斥期間が立ちはだかる。

 期間を形式的に進行させるのは酷との男性側の主張に、判決は時代を追って社会情勢を検討。70年代初めについて「意に反し優生手術がされたと認識しても、国に訴訟を提起することには、極めて強い心理的抵抗を感じたであろうことは十分推認される」と述べた。その後は旧法改正議論や社会的理解が進んだとし「どんなに遅くとも、96年時点で提訴が困難だったとは認められない」と結論付けた。

 つまり仮に除斥期間の起算点を遅らせる余地があるとしても96年までで、期間経過に変わりはないということだ。男性を取り巻く状況には触れておらず、説得力に乏しい。

 さらに付言で、疾病や障害による差別のない社会の実現に言及しているが、そのためには国と国会、そして司法が、被害者らが置かれている厳しい実態と真摯(しんし)に向き合うことが求められる。



強制不妊手術で判決 被害者の実情見ていない(2020年7月2日配信『毎日新聞』-「社説」)

 旧優生保護法に基づいて不妊手術を強制された男性が国に賠償を求めた裁判で、東京地裁は請求を棄却する判決を言い渡した。

 判決は、男性が法律の対象にはならないのに、違法に手術を受けさせられ、憲法13条で保護された「子を持つかどうかを決める自由」を侵害されたと認定した。

 一方で手術があったのは60年以上前であり、不法行為から20年で賠償請求権が消滅する除斥期間を適用して訴えを退けた。1996年には、法改正で強制不妊手術の規定が削除され、提訴が可能な状況になったと指摘した。

 しかし、不妊手術の強制は、国策による人権侵害だ。時間が経過しても国の責任は消えず、賠償請求に期限を設けるのは、被害救済の観点から問題が大きい。

 除斥期間を適用するとしても、被害者の実情を反映した判断とはいえない。

 不妊手術が行われた事情を理解していなかった人は多く、手術されたことすら知らなかった例もある。偏見を恐れ、被害を訴えなかった人も少なくない。

 国が過ちを認めて、謝罪したのは、ようやく昨年になってのことである。

 今回の判決は優生保護法そのものの違憲性には言及しなかった。憲法違反と明言した昨年の仙台地裁判決より、後退している。

 国は長らく、不妊手術は適法に行われたとの姿勢を崩さず、被害の実態調査や補償をしてこなかった。国連機関の勧告にも、耳を貸さなかった。

 にもかかわらず、法改正後に政府や国会が被害者の救済措置を取らなかったことは違法でないと、今回判断された。障害者差別につながる優生思想自体は、国がつくり出したものではないことなどを理由に挙げた。

 だが、優生保護法が障害者への偏見を助長したのは間違いない。差別は今も根深く残っている。

 2018年以降、各地で裁判が起こされ、昨年、救済法が施行された。とはいえ、一時金の支給は進まず、一律320万円では不十分との批判が強い。

 国会は優生保護法の立法経緯や被害状況の調査を始めた。国も司法も被害者に向き合わなければ、真の救済は実現しない。



強制不妊判決 血の通った救済を急げ(2020年7月2日配信『東京新聞』-「社説」)

 旧優生保護法下での非人道的な強制不妊手術。東京地裁はこれを違憲としつつ、手術を受けた男性への賠償を認めなかった。提訴が遅すぎたというが、形式的すぎる。血の通った救済が必要だ。

 優生思想に立つと、この世には不良な者とそうでない者が存在する。不良な者は子どもを持つべきではない−。1948年に施行された旧優生保護法は、そう言っているに等しい。だから、遺伝性疾患や精神障害などの人に本人の同意がなくても不妊手術ができた。旧厚生省は当時、公益目的があり「憲法の精神に背くものではない」と通知していたほどだ。

 非科学的・非人道的であり、明らかな差別である。人権上の問題が指摘されながらも、やっと母体保護法へ改正されたのは九六年のことだ。不妊手術の規定も削除された。長く問題を放置してきたのは国家の罪と呼ぶべきである。

 東京地裁は原告の不妊手術について「憲法で保障された自由を侵害する」と述べた。昨年5月の仙台地裁は「個人の尊厳を踏みにじった」とし、旧法自体を違憲としていた。こんな判断が続きながら、77歳になる男性の訴えが届かなかったのはなぜか。

 児童福祉施設に入所していた14歳のころ、男性は手術を受けた。東京地裁は損害賠償を請求できるのは手術日から20年間という考え方に立ちつつ、「遅くとも旧法が改正された96年には提訴できた」という。つまり男性が提訴した2018年は既に請求権が消滅したとの論法だ。

 これはおかしい。男性は事情を知らず手術を受けたのであり、当時は未成年である。かつ現在もその被害は継続している。そう考えるべきである。差別的な国策は長く継続されていたではないか。

 旧法による最後の手術は20年以上前の九六年であり、判決の論法ならば賠償を受けられる人は存在しなくなる。社会の偏見や差別が解消されたわけでもない。被害者に一時金を支給する救済法ができ、政府の「おわび」が発表されたのは昨年4月のことなのだ。

 手術を受けた約2万5000人のうち、約1万6500人は本人同意がなかった。だが、一時金が認められたのは、これまでわずか約620人。高齢の被害者には残された時間も限られる。人権に配慮しつつ、実態調査を進め、本格的な救済を急ぐべきである。「不良」の烙印(らくいん)を押した国こそ、もっと重い責任を負うべきなのだ。



強制不妊判決/法の正義にもとらないか(2020年7月2日配信『神戸新聞』-「社説」)

 裁判所は、国の非人道的な政策がもたらした被害の深刻さをどこまで理解したのか。「法の正義」をまっとうする役割にもとらないか。

 旧優生保護法下で不妊手術を強制された70代の男性が国に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は訴えを退ける判決を言い渡した。国による違法行為は認めたが、賠償の請求権が消滅する20年の「除斥期間」を過ぎているという理由だ。

 この問題では、24人が全国8地裁で賠償訴訟を起こし、兵庫県内でも5人が神戸地裁に提訴している。今回は昨年5月の仙台地裁に続く2例目の判決で、またも除斥期間が壁となり請求が棄却された。

 個々の実情を考慮せず法を適用した「冷たい判決」というしかない。他の裁判所は流れに乗らず、被害者の訴えによく耳を傾けてほしい。

 旧法は知的障害や精神疾患、遺伝性疾患を理由とする不妊手術を認めていた。1996年の法改正で廃止されるまで、約50年にわたり約2万5千人に行われた。うち約1万6500人が強制だったとみられる。

 当時は「公益上必要」と認められれば、親などの同意や医師の判断に基づき手術ができた。遺伝性ではない障害にも実施されたとされる。

 旧厚生省が「麻酔薬や欺罔(ぎもう)」を用いた手術を認めるなど、人権を無視した施策が全国で展開された。原告男性は対象の疾患ではないのに説明もなく手術をされた。極めて悪質な被害の実例といえる。

 東京地裁判決も「正当化の余地のない違法行為」と断じ、国の賠償責任が生じたと認めた。子を持つかどうかの意思決定ができなくなり、憲法13条で保護される私生活上の自由を侵害されたとも指摘した。

 ただ、提訴は2018年だが、判決はその60年以上前の手術にさかのぼり「除斥期間」を過ぎたと判断した。差別が根強い状況などを加味しても「遅くとも法改正時の96年には提訴が困難でなかった」とした。

 2年早く提訴していれば救えたとも解釈できる理屈である。ならば男性が長年妻にも打ち明けられずに苦しんだ経緯を考慮し、柔軟に時間の幅を広げるべきではなかったか。

 昨年、議員立法で被害者に一時金を支給する救済法が制定された。だが記録が残っていない人の認定はまだ500人余にとどまる。

 そうした中、手術をした側の医学系学会団体が「深い反省と心からのおわび」を盛り込んだ報告書を公表した。国会も問題の経緯や被害の実情などの調査を始めた。

 こうした反省と謝罪を実のあるものとするためにも、司法は幅広く被害を認定し、一人一人の尊厳の回復に力を尽くしてもらいたい。






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