FC2ブログ

記事一覧

相模原事件の現場・津久井やまゆり園の「検証」中止宣言で神奈川県vs県議会「騒動」の顛末(2020年7月1日配信『yahooニュース』)

篠田博之 | 月刊『創』編集長

キャプチャ
凄惨なやまゆり園事件から間もなく4年目を迎える(事件当時、筆者撮影)

突如廃止が決まったやまゆり園「検証委員会」

 相模原事件については、2020年3月、植松聖元被告に死刑判決が出され、既に確定している。ただ、津久井やまゆり園という障害者施設の元職員である植松死刑囚がなぜ障害者を殺傷するという犯行に及ぶに至ったのかという、事件の本質に関わる部分については、ほとんど解明されていない。事件がこのまま風化していくことへの懸念は、障害者の問題に関わってきた人たちの間でいっそう強まっている。

 それを象徴するような騒動が、この間、神奈川県ないし県議会をめぐって起きた。「津久井やまゆり園利用者支援検証委員会」の中間報告についてである。

 この中間報告をめぐっては『創』7月号で座談会を行って議論しており、それはヤフーニュース雑誌で全文公開している。

やまゆり園検証委報告と相模原事件の本質 渡辺一史/西角純志/鈴木靜➡ここをクリック

 検証委員会は、やまゆり園の障害者支援において身体拘束などの虐待にあたる行為がなされていたのではないかという告発が県になされたことを受けて、設置されたものだ。黒岩祐治神奈川県知事自らが主導する形で検証が始められたのだが、かながわ共同会への指定管理見直しといった動きと絡んで県議会で反発がなされるなど、紆余曲折をたどることになった。

 検証委員会は、3人の外部有識者で構成され、2020年1月10日に第1回会合が開かれた。3人とは、委員長の佐藤彰一・國學院大教授(弁護士)に、大塚晃・元上智大総合人間科学部社会福祉学科教授、野澤和弘・元毎日新聞論説委員だ。1月21日の第2回会合後の記者会見で、身体拘束を受けていたとされるケースについて、障害者虐待防止法に触れる可能性が高いことを指摘するなど、やまゆり園と、それを運営するかながわ共同会に対して厳しく検証する姿勢が感じられた。

 委員会は2月19日の第5回まで開かれ、3月にはそれまでの調査をもとに、当事者であるかながわ共同会へのヒアリングが行われる予定だった。ところが、それが新型コロナウイルスの影響で延期された。

キャプチャ2
やまゆり園検証委員会中間報告書(筆者撮影)

 そして突然、5月14日に検証委員会の「中間報告」が県に提出され、同時に検証委員会が事実上廃止されることになった。県側の説明では新たな枠組みへの「改組」とのことだった。

中間報告をめぐる不可思議な動き

 5月18日に開かれた神奈川県議会厚生常任委員会で、検証委員会と中間報告について議論がなされたのだが、中間報告については公表も手控えるといった話に記者クラブが反発。数社の記者が議会終了後、県の事務局へつめかけて説明を迫る一幕もあったという。

 その結果、中間報告が出たことは5月19日にマスコミが一斉に報じるところとなった。「虐待の疑い」といった報告の一部表現が新聞の見出しに使われたこともあって、波紋を投げ、かながわ共同会が反論を含んだコメントを出した。

 私はその新聞報道を受けて、まず中間報告全文を入手しようと5月19日に神奈川県に問い合わせをしたのだが、後に考えると奇妙な対応に遭遇した。入手したいという問い合わせの電話が複数部署をたらいまわしされたのだ。当時、県としてはその報告書をどう扱うか、どの程度公開すべきか困惑していたらしい。18日の県議会で、その報告内容については、なるべく公にしないようにという提案がなされたという経緯があったからだ。

内情を暴いた毎日新聞記事の波紋


 そうした内情を明らかにして波紋を広げたのは、6月18日、毎日新聞がデジタルサイトに掲載した「やまゆり園の虐待調査、コロナに乗じて闇に? 神奈川県の中止宣言に疑問の声」という記事だった。上東麻子記者の署名によるものだった。見出しからして刺激的だが、1カ月前の5月18日の県議会で何が進められていたかを暴いた記事だった。この記事が関係者に衝撃を与えた。

ロナウイルス禍が続く中、障害者施設の虐待調査がうやむやにされようとしてい

 記事の書き出しはこうだ。

《新型コる。4年前に大量殺傷の舞台となり、昨年秋に新たに虐待の疑いが浮上した神奈川県立「津久井やまゆり園」(相模原市)。県が5月18日に突然、虐待に関する検証の中止を表明し、関係者に疑問の声が広がっている。》

 途中、「県『中間報告で終了』理由明かさず」という中見出しが掲げられた箇所にはこう書かれていた。

《ところが5月18日の県議会厚生常任委員会で、県側が「津久井やまゆり園の検証は中間報告をもって終了」「最終報告は作成しない」と説明。検証委員には事前にこの方針は伝えられておらず、佐藤委員長は「新型コロナウイルスの影響で延期になっていた園職員のヒアリングを実施するつもりだったので驚いた。県の意図が分からない」と戸惑いを見せる。

 記者が鳥井健二・利用者支援検証担当課長に「検証中止」の理由を尋ねると、しばらく沈黙した後、「……議会で答弁した以上のことは答えられません。調査は法人に任せている。今後は前向きな議論をしていく」と繰り返すばかり。意思決定のプロセスも「部内で検討した結果」と明言を避けた。検証委員会に依頼しておいて、なぜ途中ではしごを外すのか? 聞けば聞くほど、なぞは深まる。》

 上東さんは、2月に日本障害者協議会のシンポジウムで私もパネリストとしてご一緒した記者だが、これは新聞記事としてはかなり踏み込んだ問題提起型の内容だった。しかも、経緯を書いた後に、障害者団体など関係者のコメントを幾つも紹介し、大きな問題を投げかけるトーンになっていた。一部を引用しよう。

《国内94の障害者団体が加盟するNPO法人DPI日本会議の平野みどり議長は「当事者を置き去りにしたまま、周りが虐待の検証を頓挫させることはあってはならない。検証委員の3人は実績があり信頼できる人たち。虐待は微妙なケースも多いだけに、法人任せではなく外部による徹底的な原因究明と再発防止策は不可欠だ。事件の教訓を生かし、障害者権利条約の批准国として恥ずかしくない福祉を実現させるために、知事はリーダーシップを発揮すべきではないか」と話す。

 知的障害者の親でつくる、全国手をつなぐ育成会の久保厚子会長は「親が望むのは、我が子が安心して暮らせるように差別や虐待がない施設であること」と話す。入所施設の運営にも関わる久保会長は、職場環境が植松聖死刑囚のゆがんだ思想の形成に影響を及ぼしたと感じるという。「検証を途中でやめるのは、臭いものにフタをすること。そこを見直すことなしに意思決定支援には進めないはず。虐待や不適切な支援を正当化していないか、二度と事件を起こさないためにも、県職員、運営法人、障害者に関わるすべての人が考え、改めていかなければならない」と訴える。》

障害者団体などが一斉に反発

 波紋は大きく広がった。DPI(障害者インターナショナル)日本会議、全国手をつなぐ育成会連合会、全国地域生活支援ネットワーク、「ともに生きる社会」を考える神奈川集会・実行委員会の4団体は6月24日、を県知事に提出し、ホームページなどに公開した

「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会の設置についての要望書」➡ここをクリック

 25日には団体が直接、県庁を訪れて要請行動を行った。具体的な要望は2つだった。

《1.検証委員会については「中間報告」で終わりとせず、検討部会と並行して検証委員会を継続開催して「最終報告」を作成し、その最終報告を神奈川県やかながわ共同会がきちんと受け止めるプロセスを確保してください。

2.設置される「検討部会」は公開するとともに、必ず議論の入り口は検証委員会の最終報告(あるいは、少なくとも「中間報告」)としてください。また、構成員に知的障害のある当事者や家族、関係者などを加え、幅広い層の実質的参加を保障してください。》

 毎日新聞の記事をきっかけにこうした動きが広がったのは、相模原事件についての真相解明が裁判で全く不十分なままに終わったことへの危機意識が背景にあった。裁判終了後も検証をしようという神奈川県の動きにわずかな期待があったのに、それも曖昧なまま検証が打ち切られそうだということになって反発が広がったのだった。

 考えてみれば5月18日の県議会でのやりとりが1カ月もたって大きな問題になること自体、不思議なことではあるが、実はその時期、障害者や福祉の問題に関わる人たちの間で、5月18日の県議会の内容が出回り、懸念が広がっていた。そもそも県議会の動画は公開されているので検証は可能なのだが、そこでの内容についての懸念や疑問が時間を経て拡散していったのだった。

「最終報告は考えていない」との議会発言

 ここでその5月18日の議事内容を文字起こししたものの一部を紹介しよう。確かに改めて読むと、なかなかすごい内容なのだ。主に発言しているのは、自民党県議の敷田博昭議員と牧島功議員で、2人が神奈川県の鳥井健二・利用者支援検証担当課長に強く迫っている様子がうかがえる。鳥井課長は、前に引用した毎日新聞の記事にも出てくる県の担当者だ。まず、検証委員会と、それが改組される検討部会の関係について、鳥井課長が説明する発言から紹介しよう。以下は公開されている動画をもとに、発言を整理したものだ。

 動画は下記ホームページで今でも閲覧可能だ。

動画➡ここをクリック


《鳥井課長 検証委員会については「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」に発展的に改組しますので、引き継がれる組織ということになります。これまで中間報告をとりまとめることを答弁させていただきましたし、かながわ共同会のヒアリングにつきましても、新型コロナウイルス感染症拡大防止という観点から実施していませんので、そういった経緯から、中間報告書という名称でまとめさせていただいたところであります。

 津久井やまゆり園の支援の検証につきましては、この中間報告をもって終了となり、検証委員会につきましても、発展的な改組ですので、廃止となります。中間報告の延長線上での最終報告ということは考えておりません。作成はいたしません。

 今後設置する検討部会におきましては、検証内容を踏まえまして、未来志向で、障害者支援における利用者目線の支援のあり方を検討いたしまして、その結果をとりまとめていきたいと考えております。

敷田議員 今、これで最終報告という形での認識ではないと、こういう答弁があったんだけども、我々の立場、理解、とりわけ自民党の立場として申し上げると、この検証委員会のあり方に対して、人選も含めて、公正さに欠ける、そういった議論をさせていただきました。(略)同じ方向を目指した考え方、立場の方3人が、検証委員のメンバーとして議論していた。現地に赴いて、法人の見解・立場、どういう状況で何が行われたか、そういった意見聴取もできないままの中間報告という、こういうある種、言葉が悪いけれども中途半端な状態での報告にならざるをえなかった。

 多様な意見、いろんな受け止め方、角度によって見え方が違うということも当然あり得る。だから、ひとつの問題提起として受け止めて議論を深めていくことを否定するわけではないけれども、この議会で昨年から議論してきた中で、公平性、公正さに欠ける、また対応についても様々な問題があったことを指摘させていただいた。その中で、この中間報告が最終案ではなく、県の立場として決定的なものではないという、そういう趣旨の答弁が委員会としてするところなんで、これが、あまり独り歩きしないような、そういった対応が必要だと思います。そのあたりについて、位置づけと今後の取り扱いについて再度確認させてもらいたいんだけども、もう1回コメントをいただきたい。

鳥井担当課長 お答えします。この中間報告につきましては、基本的に、別途記者発表等する予定はございません。あくまで、今後設置する検討部会の中の、検討のための材料として、しかも、この中間報告の中では、津久井やまゆり園だけの課題ではなくて、障害者支援施設における普遍的な課題と捉えてとりまとめをしていますので、その検討部会の方での今後の、建設的な、未来志向での検討の方に活かしていきたい、その材料になろうかと思っています。

敷田議員 分かりました。取り扱いについては、いろいろ意見があることを否定するわけではないけれども、いろんな混乱と不安を再び生じさせるようなことがないように、対応を慎重に取り扱いしていく必要がある。その点だけ、申し上げておきます。

「7人だと、3人は過半数にならないから」

牧島議員 この中間報告書が独り歩きして、あたかも今までの検証委員会の結果であるような、そんな形で独り歩きすることについては、極めて問題だと思っています。特に身体拘束を行う場合や、長期間にわたって行われていたことが確認されたという、この項目なんだけど、これは現場の事情聴取なり、現場の人たちの意見を聞くことなく書かれているものであると。

 まあ、こうした形で、こうした文言が残ると、あたかもこれが常態化し、真実であるかのような、そんな印象をあたえてしまうんではないかと思うんです。だからこれを削除するとかでなしに、独り歩きしないように。まあ、これ中間報告というより事務的な手続きとみてますから、表に出ることはないでしょうけれど、この辺ちょっと注意をしてほしいなあ。こうした中間報告書が独り歩きすることが一番の問題だと。

 現場の意見を聞くとか、実際に現場に行って見てみるとか、関係者の事情を聞くという基本的な作業が行われてない中での話と。こういうことを考えると、独り歩きするのは問題があると、まあこう思っていますが、重ねて表に出るものではないと、これが中間報告として発表されるものでないと、今そういう答えがありましたけど、そういうことでよろしいですか。もう一度確認したい。

鳥井課長 お答えします。今ご指摘をいただきました通り、かながわ共同会から収集した資料を基に検証委員会で議論を進めていましたので、実際ヒアリングは実施できておりません。中間報告におきましても、各種資料から確認できた課題ということで前段で限定して記載しているという形になります。この検証内容を元に、県の見解を整理して、かながわ共同会に伝えておりまして、かながわ共同会の方で、事実確認とか原因究明ということを、今受け止めて、進めていただいているところです。

 この中間報告の取り扱いについては、ご指摘いただきました通り、取り扱いには注意していきたいと思っております。

牧島議員 ぜひ慎重な取り扱いをよろしくお願いしたいと思います。

 それから、次に新たな検証委員会のあり方についてお聞きしたいと思います。(略)今の検証委員の3人の人は同じ方向を向いた同じステージの仲間たちだから、この3人がこぞって残るようなことは好ましくないんじゃないか、こういう議論をさせていただきました。公正な立場からあらゆる分野の人たち、いろんな考え方のある知見者、体験者等を選抜して、できる限り人数を増やしてほしいと、要望をさせていただいたんですが、やっぱりね、この3人まるごと残すのは、いささか危険だと思うし、みんな同じ方向向いているから。

 だからね、実際7人なのか8人なのか分かりませんけども、そういう中で、この3人がブロックになって、この主張を繰り返されるというのは、新たな検証委員会のあり方として、ふさわしくないんじゃないかと。一回全部フラットにして、いろんな立場の人たち、いろんな知見を持つ人たちが集まるような検証委員会にした方がいいんではないかと思っているんですが、もう一度見解を聞きたいと思います。

鳥井課長 お答えします。今後設置します検討部会につきましては、これまでの検証委員会による検証で得られた知見を活かして、利用者目線の支援など、障害者支援施設における未来志向の支援のあり方を検討する、ということで考えております。検証委員会の3人の方につきましては、引き続き検討部会の委員にも加わっていただきたいと考えているところです。ただ、この3人だけではなくて、検討部会では、多様な意見をいただきたいと考えておりますので、障害当事者、障害者のご家族、福祉事業に精通する者といった、様々な方に委員として参画いただいて、全体としては7~8人での構成を考えております。

牧島議員 ま、7人だとね、3人は過半数にならないから、ギリギリどうなのかなあと。今も言ってるとおり、様々な立場の人たち、知見のある人たちが集まってくれることであって、この3人は様々な知見のある人じゃないから。同じステージの人たちだから。方向もベクトルも一緒だから。この3人が過去の検証委員会のスタッフだからといって、主導権を握る、あるいは会議をリードするようなことになると、また同じようなことになるからね。これだけは、重ねて申し入れをしておきたいと思います。》

やまゆり園の支援内容に踏み込むこと自体がタブーに

 かなり露骨で、それゆえわかりやすい内容だ。これまでの3人の検証委員は、自分たちと相いれない方向なので、次の検討部会ではメンバーを7~8人にして3人が過半数をとれないようにしよう、と。つまりそれまで検証委員会が模索してきた方向はなしにして、新たな部会を立ちあげてほしいと、県の担当課長に強く迫っているわけだ。

 県が実際に問い合わせに対して答えている内容は、検証委員会を改組して検証を続けるというものだが、この議会でのやりとりは、検証委員会の方向から舵を切って、違った議論にしようということだ。検証委員会は、やまゆり園で虐待の疑いのあることが行われていたのではないかという指摘を受けて発足したもので、施設の運営にメスを入れるという方向に進んでいるので、それを軌道修正しようという力が、自民党の一部県議を中心に働いたということだ。

 彼らには、追及の矛先がかながわ共同会に向けられていくのをどうにかして修正したいという姿勢がうかがえる。ただ、その姿勢が、相模原事件の真相解明に対するブレーキという見方もできるがゆえに、多くの障害者団体が危機感を抱いて反対した、というのがこの間の動きだ。

 実は、相模原事件の本質、あるいはかなり大きな問題は、施設の支援のあり方なのではないか、という指摘は以前からなされてきた。その一例は、『創』1月号に掲載した元入所者家族たちの声だ。特に平野泰史さんは、大規模施設の内情を告発し、相模原事件の本質は施設の闇の部分にあるのに、マスコミは表層しかなでていない、と以前から主張してきた。

 平野さんたちはいろいろな集会でもそういう主張を展開してきたのに、その発言内容を掲載したのは、『創』以外ほとんどなかった。やまゆり園はこの事件の被害者であるから、そこでの支援のあり方に踏み込むということ自体、マスコミはタブー視してきたのだった。

 もちろん『創』も平野さんたちの告発を前提なしに肯定して伝えているのではなく、それと対立する立場の、例えばやまゆり園家族会前会長の尾野剛志さんの主張も何度も取り上げている。そういう支援のあり方をめぐる様々な意見をもとに、オープンな議論がなされることを歓迎したいというのが本誌のスタンスだ。もちろん、やまゆり園やかながわ共同会にも以前からインタビューを申し込んでいるが、いまだに実現していない(今回の騒動で当面発言はしにくくなった可能性もあるが)。

 相模原事件は、これまであまり触れられなかった、障害者差別の問題や、施設の支援のあり方など、多くの問題を浮き彫りにした。それらは時として、難しい問題に踏み込むことにもなるのだが、まず議論することが大切だというのが『創』の考え方だ。

 ただこの議論が複雑なのは、やまゆり園の支援のあり方を検証すること自体が、かながわ共同会への指定管理をどうするのかという現実的問題と連動しており、利害関係がからんでしまうことだ。

 前述した毎日新聞の記事で、「きょうされん」の藤井克徳専務理事(日本障害者協議会代表)は、「入所者が蚊帳の外に置かれたまま、検証が政争の具になっているのではないか」とコメントしているが、まさにその通りだ。

6月26日の常任員会で軌道修正

 さて、毎日新聞の報道を契機に様々な反発に見舞われた神奈川県と県議会だが、6月26日の厚生常任委員会で再びこの問題が議論され、検証を終了させることなく継続していくといった方向性が示された。同時に今後の検討部会においては、行政が、事務局としてもっと主導的に関わっていくことも確認された。多くの障害者団体の声を受けて、当局が軌道修正を図った形だ。

 毎日新聞は下記のようなフォロー記事を配信した。

毎日新聞記事➡ここをクリック

やまゆり園の虐待検証 神奈川県が一転して継続 6施設に対象拡大

 中間報告で「虐待の疑い」が指摘された支援のあり方を今後、どう検証していくかは、今後の検討部会に引き継がれたわけだ。

 ちなみにDPI日本会議などの団体は、6月30日にも神奈川県庁を訪れ、黒岩知事と面会し、改めて相模原事件の検証を続けることを要請、知事も検証の継続を約束したという。

 NHKニュースで報道された内容が、下記で公開されている。

NHKニュース➡ここをクリック

相模原 障害者施設19人殺害事件 障害者団体など県に検証を要望

やまゆり園の支援実態と相模原事件の関係

 中間報告でどんな指摘がなされているかや、かながわ共同会がどんな反論をしているかは、『創』8月号に掲載したが、長くなるのでここでは割愛しよう。

 相模原事件の裁判が、本質に迫ることなく幕を閉じてしまったことは前述したが、ただ審理の過程で、やまゆり園の支援のあり方に触れる機会はいろいろあった。その中で事件当時、入所者の部屋で施錠が行われていた事実に触れた箇所を紹介しておく。施錠は身体拘束のひとつとして原則禁止されているのだが、やまゆり園の場合、日常的に行われていたことがうかがえる。中間報告も、身体拘束のひとつとしてやまゆり園での施錠について言及していた。

 そして皮肉なことに、施錠が行われていた部屋は、植松死刑囚の侵入を免れたという現実もあった。

 例えば1月10日の第2回公判において事件当夜、やまゆり園に勤務していて被害にあった職員たちの調書が朗読されたのだが、施錠についての言及はこうである。

●「いぶきホーム」で勤務していた職員

《いぶきホームには合計20名の利用者がいました。そのうち、709号室の利用者については、自閉症の傾向が強く、部屋から外に出て物を壊したり、落ち着かなくなったりするので、私が部屋の施錠をしておきました。また、704号室、707号室、710号室については、通常利用者が部屋の中から鍵をかけていましたので、今回の事件の時も鍵をかけていたと思います。それ以外の部屋については、施錠されていなかったと思います。》

《いぶきホームでは、今回の事件で704、707、709、710号室については、私もしくは利用者が施錠していましたが、その他の部屋は施錠していなかったところ、施錠していない部屋はすべて植松に刃物で切られたり、刺されたりして、殺されたり、ケガを負わされたりしました。》

 裁判は終わってしまったが、植松死刑囚が関わっていた支援がどういうものだったのか、その現実が彼の障害者観形成にどういう影響を及ぼしたのか、詳細に検証が行われるべきだと思う。

 ここで紹介した、元入所者家族の座談会や尾野剛志さんの息子の取り組み、検証委員会中間報告についての座談会など、これまで『創』に掲載してきた記事は、全て6月下旬に刊行された最新刊の書籍『パンドラの箱は閉じられたのか 相模原障害者殺傷事件は終わっていない』(創出版)に収録されている。

 この本の編集過程で、1~3月の裁判記録などを改めて整理したのだが、相模原事件の裁判については、新聞・テレビもかなりの報道量ではあったものの、それらの報道は断片的で、事件の本質や論点を把握するには不十分だ。ぜひ今回出された単行本を多くの人が読んで、改めて相模原事件とは何であり、今、何を解明することが必要なのか考えてほしいと思う。

 詳しい内容は下記を参照いただきたい。

詳細は➡ここをクリック

 間もなく再び2016年に事件の起きた7月がめぐってくる。今年は裁判が行われたこともあって、新聞・テレビは7月下旬に相模原事件について報道を行うはずだ。集会もいろいろなものが予定されている。私が関わっているだけでも以下のようなものがある。ぜひ一緒に議論してほしい。

●7月18日(土) 相模原事件・寝屋川事件から 頻発する上訴取下げを考える(フォーラム90主催)オンラインとリアル集会の同時開催

http://www.forum90.net/event/archives/date/2020/07

●7月24日(金)夜 ロフトプラスワン オンライントークイベント(『創』プレゼンツ)

https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/149059

●7月26日(日) 事件当日にも事件現場の地元近くで集会が開催される(詳細未定)

篠田博之
月刊『創』編集長
月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。





スポンサーサイト



プロフィール

gogotamu2019

Author:gogotamu2019
障害福祉・政治・平和問題の最新ニュース・論説紹介

最新記事

カテゴリ