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強制不妊訴訟 救済を阻んだ「時間の壁」(2020年7月5日配信『山陽新聞』-「社説」)

 障害などを理由に不妊手術を認めた旧優生保護法下で、説明もなく手術を強制されたとして、東京都の男性(77)が国に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁が請求を棄却する判決を言い渡した。

 同様に手術を受けた男女24人が全国の8地裁で訴訟を起こしている。3日には、視覚障害のある女性も新たに訴えを起こした。今回の判決は2件目で、昨年5月の仙台地裁に続き、またも原告の訴えは届かなかった。長年にわたって苦難を強いられてきた被害者にとって酷な判断と言わざるを得ない。

 男性は、宮城県の児童福祉施設に入所していた14歳のころ手術を受けた。憲法13条が保障する幸福追求権を侵害されたとして、3千万円の損害賠償を求めていた。

 大きな争点となったのは、20年で損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」の規定をどう解釈するかだった。原告は1957年に手術を受けたが、当時の社会状況からみて差別を受ける可能性が高く、手術を受けた事実を公表して賠償を求めるのは困難だった、として除斥の規定を適用しないよう求めた。

 だが、判決は「どんなに遅くとも、96年の法改正時点では、提訴が困難な状況だったとは認められない」として、請求権はなくなっていると判断した。国によって重大な人権侵害を余儀なくされ、その後も社会に差別感情が根強く残る中、声を上げられなかった現実に十分に目を向けた判断とは言い難い。今後の訴訟でも“時間の壁”がハードルとなりそうだ。

 昨年の仙台地裁判決は、請求は棄却しつつも、旧法が「不妊手術を強制し、個人の尊厳を踏みにじった」として、幸福追求権を定めた憲法に違反するとの判断を下していた。一方、今回の判決は「子を持つかどうか決める自由を侵害した」と指摘しつつも、旧法自体の違憲性には触れなかった。原告にとっては肩すかしとも言える内容で、後退した印象は否めない。

 この問題を巡っては、衆参両院の事務局が先月、旧法が立法された経緯や被害状況などの調査に着手した。昨年4月に被害者に一時金320万円を支給することを柱とする救済法が成立し、その中で国が障害者差別を繰り返さないよう、旧法に基づく手術に関して調査することを明記したのに伴うものだ。

 約3年かけて、障害者団体への聞き取りや厚生労働省と自治体にある資料を確認することなどを検討しているという。かつて法律を作った立法府の責任として、真摯(しんし)に検証作業を行ってほしい。

 救済法施行に伴う一時金については、支給額が被害の実態に見合っていないとの批判がある。当事者への周知に課題があり、支給できた人がごく一部にとどまっているという問題もある。被害者に十分に寄り添った施策を講じていく姿勢が求められている。



強制不妊手術 被害者の実情に沿わない判決だ(2020年7月5日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 旧優生保護法下で不妊手術を強制されたとして、東京都の男性が国に3千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は請求を棄却した。

 「不良な子孫の出生防止」を掲げ、知的障害や遺伝性疾患などを理由に不妊手術を認めた国による重大な人権侵害である。昨年5月の仙台地裁判決に続く棄却は、被害の深刻さに向き合っているとは到底言えない。

 判決では「憲法13条で保護された、子を持つかどうか決める自由を侵害した」と指摘する一方、旧法自体の違憲性には言及しなかった。違憲と認めた仙台地裁判決から後退した判断に、強い失望を禁じ得ない。

 請求を認めなかったのは、手術から20年以上が経過しているため、民法の規定に基づき賠償請求権は消滅したという形式的な理由だ。しかし、時間が経過しても国の責任が消えるわけではない。被害者救済の観点からも、賠償請求に期限を設けるのは納得できない。

 旧法の問題点が社会的に理解され「遅くとも1996年の法改正時点で提訴が困難な状況にあったとは認められない」とした点も疑問だ。男性は差別や偏見を恐れ、家族にすら手術を打ち明けられないでいた。事実を公表して賠償を求めるのは極めてハードルが高い。判決はこうした被害者の実情を十分に考慮したとは考えられない。

 被害者救済に向けた立法措置を怠ったとして国会の責任も問われたが「立法による被害回復が必要不可欠で明確だったとは言えない」と結論付けた。優生思想は国が作ったものではないことなどを理由に挙げている。だが、長年にわたり国会が問題を事実上放置していたことが、差別や偏見の根を深くしたのは明らかだろう。

 強制不妊手術を巡っては昨年4月、被害者に一時金320万円を一律給付する救済法が議員立法で成立、施行された。6月末時点で認定されたのは621件で、都道府県などで不妊手術の記録が確認された約3千人に比べると少数にとどまる。

 国がプライバシーの観点などから被害者への個別周知をしておらず、対象であることを知らないまま一時金が行き届いてないケースがあるとみられる。給付額も被害に照らして不十分との批判もあり、救済制度の見直しが急がれる。

 鳥取県では、県で把握した被害の可能性がある人に対し、制度を説明する独自の取り組みを始めている。手続きが困難な人もおり、国は申請を待つのではなく、積極的に連絡をとって給付につなげる仕組みを検討すべきだ。

 国会による立法経緯や被害状況の調査も始まっている。関係者や資料などが限られ、難航も予想されるが、実態をつまびらかにし、差別の根絶に向けた方策を導き出すことが重要だ。二度と同じ過ちを繰り返してほしくないという被害者の思いに応えなければならない。





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