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周りの大人たちは一体何をしていたのか(2020年7月10日配信『産経新聞』-「産経抄」)

 東京都大田区の1DKのマンションの一室は、出口がソファでふさがれ密室状態だった。3歳の梯稀華(かけはし・のあ)ちゃんは、脱水症状と飢えによって死亡したとみられる。意識が薄れるなかで、脳裏に浮かんだのはどんな光景だったろう。

 ▼警視庁に逮捕された沙希容疑者(24)は幼い娘を放置して、鹿児島県を8日間旅行していた。稀華ちゃんの父親である沙希容疑者の元夫や旅行を共にしていた交際相手の男性を含めて、周りの大人たちは一体何をしていたのか。

 ▼沙希容疑者の言葉を失うようなむごい仕打ちに対して、保護責任者遺棄致死という容疑にも違和感を覚える。ある児童虐待事件の裁判で、裁判員の一人の発言が心に残っている。「銃で撃たれる殺人よりも、被害者の痛みや被告の罪は重いのでは」。

 ▼10年前に大阪市で起きた虐待死事件を思い出す人も少なくないだろう。23歳の母親が3歳の長女と1歳の長男を1カ月も置き去りにして餓死させた。母親はホストクラブの男性宅に外泊していた。育児放棄が殺人罪に問われた点でも注目された。平成25年に有期刑の上限となる懲役30年が確定している。弁護側は保護責任者遺棄致死罪の適用を主張したが、判決は犯行の残酷さを重視した。

 ▼作家の山田詠美さんが昨年刊行した『つみびと』(中央公論新社)は、大阪市の虐待死事件をモチーフにしている。「夢の中で、桃太は、冷たい水を思う存分ごくごくと飲んでいるのでした。そこは飲んでも飲んでも枯れることのない泉で、嬉(うれ)しいことに、時々、真水がジュースやヤクルトに変わることもあるのです」。

 ▼作家の想像力が描く、渇きにさいなまれる幼児の姿である。小説では、力尽きる寸前まで、やさしい母との甘美な思い出に浸っていた。



キャプチャ

内容(「BOOK」データベースより)
灼熱の夏、彼女はなぜ幼な子二人を置き去りにしたのか。フィクションでしか書けない“現実”がある。虐げられる者たちの心理に深く分け入る迫真の長編小説。

著者について
山田詠美

キャプチャ

1959年東京都生まれ。明治大学文学部中退。85年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞、作家デビュー。87年『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』で直木賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、2001年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞を受賞。『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』『4 Unique Girls』ほか著書多数。

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Author:gogotamu2019
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