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生活保護費訴訟 実態直視し安全網を機能させよ(2020年7月11日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 2013~15年の生活保護の基準額引き下げは生存権を侵害し違憲だとして、愛知県内の受給者が居住自治体と国に引き下げ処分の取り消しなどを求めた訴訟で、名古屋地裁は請求を棄却した。原告側は控訴した。

 生活保護は憲法が保障する生存権に基づき自立を支援する制度で、最後のセーフティーネット(安全網)と呼ばれる。しかし、引き下げで受給者の生活は困窮の度を増し、健康が脅かされている。判決はこうした厳しい実態を直視しておらず容認できない。司法には制度の趣旨を十分に尊重し、安全網を機能させる姿勢が求められる。

 愛媛を含む29都道府県で約千人が起こした同種訴訟で初の判決だった。国は生活保護基準のうち食費や光熱費に充てる生活費部分を見直し、3年かけて年間約670億円を削減。名古屋地裁では、引き下げの手続きや方法が厚生労働相の裁量権の範囲内かどうかが争われた。

 原告側は、世帯ごとの削減幅は平均6.5%、最大10%に及び、前例のない大幅な引き下げだったと指摘。正当性のない計算方法を用い、専門家の意見も無視したと訴えた。地裁は国の主張に沿った形で、物価下落や低所得者の消費実態を基準額に反映させた厚労相の判断に「過誤や欠落があるとは言えない」として訴えを退けた。

 裁判では、生活保護基準を議論する専門家部会で会長代理を務めた大学教授が「(部会は)財政削減のために利用された」と述べた。政治の恣意(しい)的判断はなかったのか疑問だ。大幅引き下げは、安全網の実効性を損なうと危惧せざるを得ない。

 旧民主党政権時代の12年、芸能人の家族の生活保護受給を巡って批判が起きた。当時野党の自民党が支給水準の10%カットを衆院選公約に明記。政権奪還後に引き下げを実行した経緯がある。今回の裁判では政治的意図の有無も争点となった。判決は、自民党の政策の影響があった可能性は否定できないが、国民感情や国の財政事情を踏まえており違法ではないとした。

 憲法25条は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障している。生活保護はその実現を担う制度であり、国民感情に左右されるべきではない。生活保護基準は、就学援助などさまざまな公的保護に連動する。厳しい財政事情を踏まえても、極めて慎重に判断する必要がある。

 今年4月の生活保護の申請は2万1千件余りで、前年同月に比べ25%増えた。新型コロナウイルスによる雇用情勢の悪化が影響している。今月3日時点でのコロナ関連の解雇や雇い止めは、見込みを含め3万2千人を超えた。コロナの影響は深刻化し、生活保護を必要とする人は増加する可能性が高い。

 コロナ禍では誰もが困窮に陥る恐れがある。自助努力や自己責任で切り捨てるのではなく、社会全体で支えることが不可欠だ。そのためにも安全網の大切さを改めて認識したい。




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Author:gogotamu2019
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