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ネット中傷被害 迅速な救済と表現の自由両立を(2020年7月22日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 総務省の有識者会議は、インターネット上で誹謗(ひぼう)中傷を受けた被害者を救済する制度改正の中間報告案をまとめた。匿名の投稿者を特定しやすくするために、情報開示対象に電話番号を追加することが柱だ。

 被害者が投稿者を特定して謝罪や損害賠償を求めるには、一般的に2回の訴訟を要する。手続きが複雑で時間も費用もかかり、諦めて泣き寝入りする人も多い。制度改正で訴訟の負担が軽減され、迅速な被害救済につながると期待される。

 一方、ネット上の意見表明に対する過度の規制は、民主主義に欠かせない健全な批判を萎縮させる懸念がある。人権を侵害する投稿は許されないが、憲法で保障された表現の自由は守らなければならない。バランスをどう取るか難しい問題で、徹底的に議論する必要がある。

 ネット上では人の名誉を傷つけたり、プライバシーを侵害したりする匿名の投稿が増え、会員制交流サイト(SNS)を中心に被害が出ている。5月にはSNSで中傷を受けたプロレスラー木村花さんが死去した。対策は急務で、総務省は11月にも最終報告をとりまとめる。

 現行制度は、被害者がSNS事業者などに発信者情報の開示を求めることができると規定。氏名や住所が開示対象だが、SNS事業者にはその情報がないことも多い。被害者は、開示請求や裁判を通じてSNS事業者から得た通信日時などの情報を基に、ネット接続業者(プロバイダー)にも改めて開示請求や裁判をしなければならない。

 ただ、電話番号ならばSNS事業者が保有しているケースも多いとされる。電話番号が分かれば、住所・氏名の開示を求める裁判を省略できる。投稿者を特定する手続きの負担が大幅に軽くなり、悪質な投稿を抑止する効果も見込めよう。

 中間報告案には、情報開示を迅速にする新たな裁判手続き創設の検討も盛り込まれた。被害者の申し立てにより、訴訟なしで裁判所が情報開示の適否を判断する仕組みだ。

 救済まで長くかかる現状を改善する意図は分かる。だが、訴訟より簡単な手続きで情報が開示されれば、投稿者の権利が守られない可能性がある。正当な批判を封じる目的で企業などが制度を悪用する恐れもある。有識者会議でも、有識者の半数が連名で慎重な検討を求める意見書を提出した。総務省は重く受け止めなければならない。

 ネット関連企業でつくる団体も中傷被害対策の窓口を設置した。被害者らの相談に応じ、悪質な投稿はSNS事業者などに削除を依頼するという。官民が連携し、人権侵害は許さない姿勢を前面に打ち出したい。

 与党からは刑事罰強化の声も上がるが、法律で問題の全てを解決することはできない。国はネット利用のリテラシー教育や相談体制の強化といった総合的な対策が肝要だと認識し、腰を据えて取り組むべきだ。



ネット中傷対策(2020年7月22日配信『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆制約と自由 バランスが重要◆

 インターネット上にあふれる匿名の誹謗(ひぼう)中傷を巡り、総務省の有識者会議は発信者を特定しやすくする制度改正の中間報告案をまとめた。被害者が訴訟を起こし、会員制交流サイト(SNS)の事業者などに開示を請求できる発信者情報に電話番号を加えることが大きな柱で、訴訟の負担を軽減し、迅速な被害救済につながるとみられる。

 さらに被害者の申し立てにより、訴訟なしに裁判所が発信者情報を開示するかどうかを判断・決定する「新たな裁判手続き」の創設を検討する。総務省は「できるものから速やかに実施する」として、近く電話番号追加の省令改正を行う。

 有識者会議は今年4月からネット上の中傷対策を議論していたが、5月にテレビ番組出演を巡ってSNS上で中傷にさらされた女子プロレスラーの木村花さんが亡くなり、社会問題化したのを機に検討を加速させた。

 対策は喫緊の課題だ。しかし発信者情報の開示拡大には、ネット上の活発な意見表明を制約する側面がある。憲法で保障された「表現の自由」や「通信の秘密」を守れるか。悪意のある投稿だけでなく、正当な批判までも封じられてしまうような事態は避けなければならない。

 2002年に施行されたプロバイダー責任制限法は、被害者がSNS事業者やプロバイダーと呼ばれる接続業者に発信者情報の開示を求めることができると規定。総務省令で氏名や住所など開示対象となる情報が定められている。

 ただ業者側が任意で開示に応じることは、まずない。このため被害者は通常、SNS事業者に発信者のネット上の住所であるIPアドレスの開示を求め、それを基にプロバイダーに氏名や住所の開示を求める―と2回の訴訟を起こす必要があり、時間も金もかかる。

 電話番号は開示対象を必要最小限にする観点から対象外だったが、SNS事業者から取得できれば、弁護士を通じて携帯電話会社に照会し、本人を特定できるようになり、訴訟は1回で済む。

 有識者会議でも、異論はなかった。しかし訴訟を省く新たな裁判手続きについては「表現の自由の保護レベルを下げることになるのでは」「裁判になってもいいと思う人しかネット上で表現できなくなる」と懸念の声が相次いだ。有識者の半数に当たる6人が連名で慎重な検討を求める意見書を提出した。

 手続きを簡単にし過ぎると、政治家や大企業が批判的な人物を割り出すのに悪用する恐れも大きくなる。ネット上のサービスが急速に拡大する中、被害救済と表現の自由のバランスをいかに取るかが問われている。





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