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ALS嘱託殺人に関する論説(2020年7月26日)

ALS嘱託殺人/医の倫理に反する行為だ(2020年7月26日配信『神戸新聞』-「社説」)

京都市に住む筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に依頼され、致死量の薬剤を投与して殺害した嘱託殺人の疑いで、宮城と東京の医師2人が警察に逮捕、送検された。

 日本では積極的に死期を早める「安楽死」は法的に認められていない。医療現場ではこれまでも、回復の見込みのない病気や末期の患者の安楽死を巡り、担当医師が刑事責任を問われるケースが度々起きている。

 だが、今回の事件は特異性が際立つ。2人は主治医ではなく、女性とは事件当日初めて会ったという。会員制交流サイト(SNS)を介して女性の依頼を受け、約130万円を受け取っていたとされる。

 そこには、患者と家族、医師や介護職らを交えて対話を続ける、医療のあるべき姿は見当たらない。過去の事例と同列に論じるべきではない。

 事件は昨年11月下旬に起きた。女性は男2人を自宅に招き入れた後、容体が急変した。防犯カメラの映像などから2容疑者が特定され、わずか5~10分後には部屋を出たとみられる。

 女性はブログに「こんな姿で生きたくない」とつづっていた。一方で前向きな言葉もSNSに投稿し、生と死の間で揺れる心の一端がうかがえる。

 生きるという選択肢は本当になかったのか、捜査当局は女性と容疑者とのやりとりも分析し真相を解明せねばならない。

 容疑者の1人のものとみられるブログやツイッターには、高齢者の医療を社会の無駄とし、安楽死を積極的に肯定するかのような投稿が残されていた。

 患者とともに生きる方法を考え、支えるのが医師の本分である。その努力をせず、患者を死に導いたのであれば、医の倫理に反する非道な行為と言うしかない。

 懸念されるのが、難病患者の死を安易に容認する考え方が広がることだ。ALS患者であるれいわ新選組の舩後(ふなご)靖彦参院議員は「『死ぬ権利』よりも『生きる権利』を守る社会にしていくことが何よりも大切だ」とのコメントを公表した。かみしめるべき言葉である。

 事件の全容解明とともに、難病患者や重度障害者の支援の在り方を見つめ直す必要がある。



「傾聴」(2020年7月26日配信『神戸新聞』-「正平調」)

「傾聴」という言葉がある。耳を傾け、相手の胸の内を理解しようとすることだ。病状の重い患者を前にして、大切なのはその「傾聴」だと、ホスピス医の山崎章郎(ふみお)さんは考えている

◆つらいとき、誰かにそばにいてほしい。聞いてほしい。分かってほしい。誠実に耳を傾ける人は、話し手にとって「真に拠(よ)り所になる他者」である。やがて自分らしく生きていこうと思う。講演録にそうある

◆嘱託殺人の疑いで、京都府警が2人の医師を逮捕した。亡くなったのは難病の女性患者で、会員制交流サイト(SNS)を通じて安楽死を望んでいたという。頼まれた2人が訪れて、何かの薬物を投与したようだ

◆主治医ではない2人が、なぜ依頼に応じたかは調べを待つとして、とても大事なところが気になる。女性の思いに誠実に耳を傾ける姿勢があったのか。生きたいと願う思いを育てようとしたかという点である

◆森鴎外の「高瀬舟」は安楽死を題材にした短編だ。病に伏した弟、葛藤する兄を描いている。読後感はさまざまだろうが、両親を早くに亡くし、貧しくとも支え合って生きる兄弟は、お互いが「拠り所になる他者」だった。その情が物語の底を流れている

◆2人に問う。医師として「拠り所になる他者」になろうとしたか。



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思い描いた最期なのか(2020年7月26日配信『中国新聞』-「天風録」)

 彼女も、1人暮らしの「おひとりさま」だったらしい。命取りとなる薬物の投与を医師に頼み、身まかったとされる京都の女性。だんだんと体の自由が利かなくなる難病ALSの患者だった。主治医でもない2人の医師は、嘱託殺人のかどで捕まっている

▲事件当日、女性の自宅マンションに現れた医師らは人払いをし、部屋を後にする。密室―。女性は24時間、介護ヘルパーの支援を受けており、容体の急変に気付いたのもヘルパーだった

▲自ら下した決断とはいえ臨終の場に家族の姿はなかった。心の平安をもたらす何か、よすがを求めた形跡もうかがえない。本当に、これが彼女の思い描いた最期だったのだろうか

▲在宅ホスピス医の小笠原文雄(ぶんゆう)さんはもう1000人以上、自宅での最期をみとってきた。「おひとりさま」の第一人者で社会学者の上野千鶴子さんとの共著にこうつづる。終末期には、苦痛の緩和はもとより「希望が湧くこころのケア」が肝心だと

▲朗らかに生きてあの世へ旅立ち、見送る人もほほ笑んでいる…。そんな場面を小笠原さんは「なんとめでたいご臨終」と呼ぶ。京都の女性も手にすることはできなかったのか。もどかしさばかりが募る。



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内容(「BOOK」データベースより)
結婚していてもしていなくても、長生きすれば、最後はみんなひとりになる。
日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして長年にわたって活躍し、様々な社会問題へ発言を続ける社会学者であり、自らも「おひとりさま」である上野千鶴子が、数多くのケーススタディをふまえ、ひとりで安心して老い、心おきなく死ぬためのノウハウを、住まいやお金などの現実的な問題から心構えや覚悟にいたるまで考察する。
75万部の大ベストセラーが文庫化。(解説・角田光代)

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
上野/千鶴子
1948年富山県生まれ。東京大学名誉教授。NPO法人WAN理事長。京都大学大学院社会学博士課程修了。95年より東京大学大学院教授を務め2011年退職。長年、日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして活躍、様々な社会問題へ発言を続ける。近年は介護とケアの問題に研究範囲を広げる。『近年家族の成立と終焉』(岩波書店)でサントリー学芸賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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「死にたい」の言葉(2020年7月26日配信『熊本日日新聞』-「新生面」)

 これも高齢社会の現実か。そう感じつつ、医療機関を掛け持ちしている。今のところ自分ではなく、身内の入院や送迎だ。近所のクリニック1軒、病棟を持つ病院2軒…。付け加えれば、猫が通うペットクリニックも

▼病院では署名を求められることが多い。「今すぐどうこうではありませんが」と示された中に、終末期医療に関する書類があった。鎮痛剤を使うか。人工呼吸器は。経管栄養は。胃に管をつなぐ「胃ろう」は

▼「措置前ならいつでも変更できます」と聞いたが、逆にいったん延命措置に入れば、中止は極めて難しい選択だ。本人の意思を最大限尊重するのは当然として、そこに至る説明は尽くされたか。責任は重く、考えるべきことも多い

▼筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者が自らの死を依頼し、応じたとされる2人の医師が嘱託殺人の疑いで逮捕された。1人には現金約130万円が振り込まれていたという。女性はどんな思いで、最期を託したのだろう

▼だが、「死にたい」の言葉をそのまま受け止めたとすれば、随分と底の浅い「医療」もあるものだ。同じALSの舩後靖彦参院議員は、難病患者や重度障害者を取り巻く環境そのものが、「生きたい」と言わせにくくしている可能性を指摘していた

▼わが家で最も病が重いのは体重が激減した老猫だ。毎日自宅で注射を打たれ、おぼつかない足取りで横たわる。生きたいとも死にたいともしゃべらないけれど、年を取り潤みを帯びた瞳に、「長生きしような」と話し掛ける。



[ALS嘱託殺人] 経緯や背景 徹底検証を(2020年7月26日配信『南日本新聞』-「社説」)

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者の依頼を受けて、薬物を投与し殺害したとして、嘱託殺人の疑いで医師2人が逮捕された。

 女性は会員制交流サイト(SNS)を通じて「安楽死させてほしい」との趣旨の依頼をしていたとみられ、医師2人は昨年11月30日、京都市内の女性の自宅マンションで薬物を投与、急性薬物中毒で死亡させた疑いがある。

 警察の調べでは、医師の口座には女性から現金が振り込まれており、金銭目的で請け負った可能性もある。事実とすれば極めて悪質だ。終末期医療の在り方を含め、事件の経緯や背景を徹底的に検証すべきである。

 ALSは全身の筋肉が徐々に萎縮し体が動かせなくなる難病だ。女性は1人暮らしで、胃に栄養をチューブで入れる「胃ろう」を造設、24時間態勢で介護を受けていたという。

 女性はブログで「こんな姿で生きたくないよ」とつづり、生死は自分で決めるとの意思を示していた。たとえ患者の意向をくんだとしても、主治医でもない医師がインターネットを介して依頼を受け、実行するのは論外だ。

 そもそも、薬物投与などで患者を積極的に死に導く安楽死は、日本の法律では認められていない。1991年の「東海大安楽死事件」では医師が患者を死なせて殺人罪で有罪になった。

 横浜地裁の判決は、医師による安楽死が許容される要件として(1)耐え難い肉体的苦痛がある(2)死期が迫っている(3)苦痛緩和の方法を尽くし、他に手段がない(4)本人の意思表示がある-の4項目を示した。

 だが、その後も4項目を満たしたとして公的に安楽死が認められたケースはない。また、人工呼吸器など延命治療を差し控えたり、中止したりする「尊厳死」を巡っても議論は進んでいない。「命の切り捨てにつながる」との懸念が根強いためだ。

 安易な議論は慎むべきだが、先送りしたままでいいのか。高齢化社会の進展や医療の発展に伴い、「本人や家族が納得できる最期を迎えたい」という自己決定権への意識が高まっている。欧米では安楽死を合法化する動きが広まっている。

 厚生労働省は国民の意識の変化を踏まえ、2018年に終末期医療のガイドラインを改定した。「本人の意思に加え、医療・ケアチームとの話し合いが必要」とし患者と家族、医師や介護職らが事前に対話を重ねる「人生会議」の普及を呼び掛けている。

 ALSの当事者で、れいわ新選組の舩後靖彦参院議員の「『死ぬ権利』よりも『生きる権利』を守る社会にしていくことが何よりも大切だ」との言葉は重い。さまざまな選択肢の中で終末期をどう過ごすのか。まずは一人一人が真剣に考えたい。




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