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ALS嘱託殺人/安易な安楽死論議を危ぶむ(2020年7月30日配信『河北新報』-「社説」)

 全身の筋肉が徐々に衰える難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)を患う京都市に住む女性に頼まれ薬物で殺害したとして、嘱託殺人の疑いで、仙台市泉区と東京の医師2人が京都府警に逮捕された。

 女性は51歳で、会員制交流サイト(SNS)を通じ仙台市の医師と連絡を取り「安楽死させてほしい」という趣旨の依頼をした形跡があった。医師側には女性から現金130万円が振り込まれていた。

 調べによると、医師2人は昨年11月、女性の自宅を訪れた。2人は5~10分で現場を後にし、席を外していたヘルパーが意識不明となった女性を発見した。2人は女性の主治医ではなく、診察や治療をしたこともないとみられる。

 患者を死なせた医師が有罪になった例は過去にもあったが、主治医でもない医師がインターネットを介して依頼を受け、報酬を受け取っていたとされる点で異質だ。ALS患者や家族に与えた衝撃も大きい。容疑が事実なら医師として許される行為ではない。

 事件を「安楽死」を認めるべきかどうかの議論と結び付け、医師に賛同する意見も出ているという。しかし、女性は死期が迫っていたとは言えず、医師は診察さえしていない可能性が高い。終末期医療の問題以前の事案であり、切り離して考えるべきだ。

 主導したとみられる仙台市の医師はネット上で安楽死を肯定する発信をしていた。

 人気漫画『ブラックジャック』のキャラクターで、高額の報酬で安楽死を請け負う医師「ドクター・キリコ」を気取り、「自殺ほう助になるかもしれないが、立件されないだけのムダな知恵はある」などと書き込んでいた。内容から命と真摯(しんし)に向き合う姿勢は感じられない。

 女性は病状が進み、24時間態勢で看護を受けていた。ブログに「こんな姿で生きていたくないよ」と記し、苦悩は他人にはうかがい知れないほど深かったことだろう。

 医療の進歩で難しい病気でも生命を長期間維持できるようになったが、生活の質まで保たれるわけではない。

 オランダやベルギーなどは安楽死を合法化した。スイスのように手続きに沿えば自殺ほう助を容認する国もある。

 日本でも脚本家の橋田寿賀子さんが2016年、月刊誌で「安楽死を認めるべきだ」との文章を発表し、論議を呼んだ。

 回復の見込みがなく死期が近づいている人が、本人の意思に基づいて延命措置を受けずに自然に死を迎える「尊厳死」を求める人たちの活動も広がっている。

 一方で、患者からは自分たちの生きる権利を否定しないでほしいとの声が出ている。

 終末期医療をめぐる問題は冷静に議論を積み重ねて方向性を探らねばならない。その機運に水を差すようであってはならない。



生きる権利 支える社会に/ALS患者嘱託殺人(2020年7月30日配信『東奥日報』-「時論」)

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う京都市の女性に頼まれ、薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人容疑で医師2人が逮捕された。女性は会員制交流サイト(SNS)を通じ、うち1人と知り合って連絡を交わし、指定された口座に報酬とみられる130万円を振り込んだ。昨年11月末の犯行当日、初めて顔を合わせたという。

 過去に医師が末期がんなどの患者に薬物を投与して死亡させ、刑事責任を問われた例はいくつかあるが、いずれも長らく治療に携わり、患者の病状や思いに寄り添った末のことだった。

 京都市の事件は、重い病で激しい苦痛を訴える終末期の患者に薬物を投与して死に導く「安楽死」や、本人の意思で延命措置を受けずに自然に死を迎える「尊厳死」を巡り、これまで積み上げられてきた議論とはどうやっても重なりようがない。全く異質であり、安楽死などの議論と安易に結び付けるべきではないだろう。

 ただ今回、「死ぬ権利」が注目を集めたことにより「生きる権利」が揺らぐことにならないかという懸念が広がっており、気掛かりだ。ALSに限らず、難病や障害のある人たちが当たり前に暮らしていけるよう、生きる権利を支えるために何ができるかを考えたい。

 女性は51歳。以前は東京で建築関係の仕事をし、海外旅行が好きで活発な性格だったという。2011年ごろ、全身の筋肉が徐々に衰えていくALSを発症。1人暮らしで最近はほとんど体を動かせなくなり、ヘルパーによる24時間態勢の介護を受けていた。

 女性のブログには「本人の意識がはっきりしていて意思を明確に示せるなら、安楽死を認めるべきだ」「安楽死が認められれば、救える魂がある」などの書き込みがあった。医師の1人とはSNSを通じ、18年12月に知り合ったとみられる。

 オランダやスイス、ベルギー、米国の一部の州では安楽死が合法化されている。日本では認められていないが、1991年、神奈川県の東海大病院で医師が薬物注射により末期がんの患者を死なせた事件で、95年の横浜地裁判決が、医師による安楽死が許容される要件を示した。耐え難い苦痛▽死期が迫っている▽苦痛緩和の方法を尽くし、他に手段がない▽本人の明確な意思表示-の四つだ。

 これらを満たせば違法性が阻却されるとの判断だが、女性の場合は死期が迫っていたわけではなく、医師らが手を尽くした形跡もない。さらに医師側がビジネスのようなとらえ方をしていたこともうかがえ、とても過去の安楽死事件と同列に論じることはできない。

 医師の1人はツイッターで、安楽死について「いくらなら払う?」と投票を募ったり、人気漫画に登場する、高額の報酬で安楽死を請け負う人物のようになりたいと投稿したりしていた。「安楽死屋さんになろうか」とつぶやいたこともある。

 女性が安楽死を望んだのは紛れもない事実であり、共感する声も一定の広がりを見せている。ただ一方で、難病や重い障害にもかかわらず懸命に生きている人たちがいることを忘れてはならない。社会が不幸と決めつけてしまい、生きづらさが増すようなことだけは何としても避けたい。



ALS嘱託殺人 生きる権利を支えたい(2020年7月30日配信『茨城新聞』-「論説」)

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う京都市の女性に頼まれ、薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人容疑で医師2人が逮捕された。女性は会員制交流サイト(SNS)を通じ、うち1人と連絡を交わし、指定された口座に報酬とみられる130万円を振り込んだ。昨年11月末の犯行当日、初めて顔を合わせたという。

 過去に医師が末期がんなどの患者に薬物を投与して死亡させ、刑事責任を問われた例はいくつかあるが、いずれも長らく治療に携わり、患者の病状や思いに寄り添った末のことだった。しかし逮捕された2人は治療も寄り添いもせずに、死期を早めることを金で請け負ったとみられている。

 重い病で激しい苦痛を訴える終末期の患者に薬物を投与して死に導く「安楽死」や、本人の意思で延命措置を受けずに自然に死を迎える「尊厳死」を巡り、これまで積み上げられてきた議論とは重なりようがない。全く異質の事件であり、安楽死などの議論と安易に結び付けるべきではないだろう。

 ただ今回、「死ぬ権利」が注目を集めたことにより「生きる権利」が揺らぐことにならないかという懸念が広がっており、気掛かりだ。ALSに限らず、難病や障害のある人たちが当たり前に暮らしていけるよう、生きる権利を支えるために何ができるかを考えたい。

 女性は51歳。以前は東京で建築関係の仕事をし、海外旅行が好きで活発な性格だったという。ところが2011年ごろ、全身の筋肉が徐々に衰えていくALSを発症。1人暮らしで最近はほとんど体を動かせなくなり、ヘルパーによる24時間態勢の介護を受けていた。

 女性のブログには「本人の意識がはっきりしていて意思を明確に示せるなら、安楽死を認めるべきだ」「安楽死が認められれば、救える魂がある」などの書き込みがあった。医師の1人とはSNSを通じ、18年12月に知り合ったとみられる。

 オランダやスイス、ベルギー、米国の一部の州では安楽死が合法化されている。日本では認められていないが、神奈川県の東海大病院で1991年に医師が薬物注射で末期がんの患者を死なせた事件で95年の横浜地裁判決が、医師による安楽死が許容される要件を示した。耐え難い苦痛▽死期が迫っている▽苦痛緩和の方法を尽くし、他に手段がない▽本人の明確な意思表示-の四つだ。

 これらを満たせば違法性が阻却されるとの判断だが、女性の場合は死期が迫っていたわけではなく、医師らが手を尽くした形跡もない。医師側がビジネスのようなとらえ方をしていたこともうかがえ、とても過去の安楽死事件と同列に論じることはできない。

 医師の1人はツイッターで、安楽死について「いくらなら払う?」と投票を募ったり、人気漫画に登場する高額の報酬で安楽死を請け負う人物のようになりたいと投稿したりしていた。「安楽死屋さんになろうか」とつぶやいたこともある。

 女性が安楽死を望んだのは紛れもない事実であり、共感する声も一定の広がりを見せている。ただ一方で、難病や重い障害にもかかわらず懸命に生きている人たちがいることを忘れてはならない。社会が不幸と決めつけてしまい、生きづらさが増すようなことだけは何としても避けたい。



最期をどう迎えるか(2020年7月30日配信『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 孔子と弟子の問答が集められている「論語」。孔子はどんな質問にも粘り強く丁寧に答えているが、珍しく「いらっ」とした感情が伝わってくる箇所がある。弟子の季路から「死」について質問されたときだ。

 遠回しに答えるが、しつこいので「まだ生についてもよく知らないのに、なぜ死のことが分かるか」とぴしゃり。死を観念的には語れない。まず目の前の現実を直視せよ、という戒めを込めているのだろう。確かに死の問題はうかつに触れられない深遠さがある。

 だが、超高齢社会が迫り、終末期医療への関心が高まる中「最期をどう迎えるか」は、話題にしたくなくてもだれもが直面する課題だ。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者の依頼を受け安楽死させたとして2人の医師が逮捕された事件は、端的に難題を突きつけてくる。

 無論、容疑者は司法の場で裁きを受けるべきだ。自らの命でも生死を左右できると思うのはおごりだ、とも考える。でもすっきりしない。女性がブログにつづる悲観は切実すぎる。通り一遍の同情や励ましで変わったと断言する自信が持てない。ネットには、安楽死に共感する書き込みも散見する。

 ただ「自己決定」を一般的に認めれば、終末期医療の現場で”決定”を迫る圧力が増すのは明らかだ。そんな社会が優しく人をみとるとは思えない。生きがたさを和らげる社会的な支援や理解を向上する方が理想だ。よく生きるために、先哲に倣って悩みたい。



ALS嘱託殺人 生きる権利の議論が先だ(2020年7月30日配信『西日本新聞』-「社説」)

 医師による安楽死を巡る事件は過去にもあったが、これほど異様なケースは前例がない。

 全身の筋肉が徐々に萎縮する難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う京都市の女性の依頼を受け、薬物を投与して殺害したとして、仙台市と東京都の医師2人が嘱託殺人容疑で京都府警に逮捕された。

 女性は2018年末から会員制交流サイト(SNS)で仙台の医師と交流を始め、「安楽死させてほしい」という趣旨のメッセージを送っていたという。医師2人は昨年11月に女性宅を訪ね、付き添いのヘルパーが席を外した間に薬物を投与したとされる。女性は130万円を医師の口座に振り込んだという。

 さらに、仙台の医師は女性にSNSで「当院にうつりますか? 自然な最期まで導きますが」などと持ち掛けたとされ、ネット上で安楽死を肯定する主張を繰り返していたともいう。

 事実であれば、医療の名に値しない犯罪行為である。警察は医師2人の関係や背景など事件の全容解明を急いでほしい。

 ALSは進行すると寝たきりとなり、会話の能力も奪われ、人工呼吸器がなければ生命維持もできなくなる。有効な治療法のない過酷な病だ。亡くなった京都の女性は「意思を明確に示せるなら、安楽死を認めるべきだ」とネットに書き込んでいたという。

 日本は厳格な条件付きで終末期の延命治療の中止は容認しているが、薬の投与などによる積極的な安楽死は認めていない。こうした現状に対し、事件発覚後ネット上では安楽死を容認すべしとの声が飛び交っている。

 海外には一定の条件下で安楽死を認める国がある。日本の過去の事件でも、医師による安楽死が容認される条件を示した判例がある。とはいえ、安楽死の是非を、拙速な議論に委ねることは絶対に許されまい。

 患者の自己決定権はむろん尊重されるべきだが、そこに安楽死まで含む「死ぬ権利」が含まれるのか。社会の共通認識が醸成されてはいないだろう。

 16年7月に起きた相模原障害者施設殺傷事件で死刑が確定した被告は公判で「意思疎通できない方を安楽死させるべきだ」と主張した。安易に安楽死を容認することは、難病患者や重度身体障害者を排除する優生思想にもつながりかねない。

 一方で、終わりが見えない心身の苦痛を抱えて生きる人々は「自分は家族や社会の負担になっている」と考えてしまい、その追い詰められた気持ちが安楽死に向かう懸念は拭えない。

 まずはこうした人々の「生きる権利」を十分に支える医療・介護の拡充を議論すべきだ。






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