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特養の死亡無罪 安心と満足につなげたい(2020年7月30日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 施設介護の実態を踏まえ、食べることの意義と介護の役割にまで言及した。全国の現場に萎縮や不安が広がっていただけに、納得のいく司法判断だ。

 安曇野市の特別養護老人ホームで2013年、入居女性がおやつのドーナツを食べた後に死亡した事故の控訴審判決である。

 業務上過失致死罪に問われた准看護師に、東京高裁は、罰金20万円とした一審判決を破棄、逆転無罪を言い渡した。

 施設内の事故に絡み、職員個人に刑事責任を問う異例の裁判だ。女性に提供されるおやつが固形からゼリー状に形態変更されたことを確認しなかったのは過失に当たるかが、主に争われた。

 一審は、形態を誤って提供すると窒息などで死亡する可能性が予測でき、確認が必要とした。

 控訴審は▽ドーナツを入所後も食べていた▽形態変更は事故1週間前に介護職員間で申し送られ、看護業務の中では知り得なかった―とし、女性の死亡を予測できる可能性が低いと判断した。

 ドーナツを食べて窒息する危険性や職員間の情報共有について丁寧に審理した結果といえる。

 注目したいのは「窒息の危険性が否定し切れないからといって、食品の提供が禁じられるものではない」と指摘している点だ。

 おやつや食事は、単なる生命維持にとどまらず、精神的な満足感や安らぎを得るために重要と、提供する意義に踏み込んだ。

 一審判決後、おやつを中止したり固形をゼリー状に変えたりする施設が相次いだ。控訴審判決には、こうした現場の萎縮を取り除こうとする姿勢もうかがえる。

 ただ、施設に家族を預ける側に立てば、食事やおやつの対応は関与する職員全員が知っておくべきだと考えるのが自然だ。食べ物を喉に詰まらせる事故は各地の施設で起きている。

 施設側は、情報共有の仕組みなど事故防止策を確認するとともに、事故のリスクや介護のあり方について日頃から入居者側と話し合う必要もあるだろう。

 控訴審判決を前に、本紙が県内の特養に施設職員が罪に問われたことへの影響を尋ねたアンケートによると、回答した92施設の8割以上が、介護の担い手確保が難しくなるとの懸念を示した。

 介護現場は慢性的な人手不足にあえいでいる。介護職の待遇改善とともに、安心して働ける職場環境の整備は喫緊の課題だ。

 今回の判決を現場の安心と満足につなげるきっかけにしたい。



ドーナツのささやかな喜び(2020年7月30日配信『東京新聞』ー「筆洗」)

 サンマはどうやら今年も不漁らしい。先日、北海道の店頭に並んだ初物は1匹5980円。繰り返す。5980円。うなだれる

▼こんな時代では落語の「目黒のさんま」もぴんとこないか。当時は下魚扱いのサンマをたまたま口にしたお殿様。その味が忘れられず、サンマを所望するも、家臣は殿の身体に障ってはと蒸して脂を落とし、骨を一本一本抜く。サンマの味は台無しである

▼判決次第では高齢者へのおやつは殿様のサンマのように味気ないものばかりになったかもしれぬ。長野県安曇野市の特別養護老人ホームで当時85歳の入所者がドーナツを食べて亡くなり、これを配った准看護師が業務上過失致死罪に問われた裁判である。東京高裁は一審判決を破棄し無罪を言い渡した

▼ドーナツを喉につまらせ亡くなったとされる。その危険が予見できたかが争点になったが、高裁は准看護師の過失を否定した

▼一審の有罪判決に介護の現場は萎縮したそうだ。いろいろなおやつで楽しませたいが、万が一にも…。その心配から喉を通りやすいおやつばかりになれば、今度はお年寄りが寂しかろう

▼逆転無罪に利用者を喜ばせたいという空気が介護現場に戻ってくればありがたい。安全第一は当然のこと。だが、ドーナツのささやかな喜びもまた生活には欠かせない。両立のため、現場の人手不足を急いで解消したい。



「おやつ死」無罪 介護の萎縮は避けねば(2020年7月30日配信『京都新聞』)

 介護現場の不安は、ひとまず取り除かれたのではないか。

 長野県内の特別養護老人ホームで入居中の女性=当時(85)=がおやつのドーナツを食べた後に死亡した事故の控訴審判決である。

 東京高裁は、おやつの形態が固形からゼリー状に変更されていたことを確認せずにドーナツを配膳したとして業務上過失致死罪で罰金刑となった女性准看護師への一審長野地裁松本支部判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。

 施設内での死亡事故で職員個人の刑事責任が問われた異例の裁判だった。故意でない過失で刑事訴追されたことに、介護現場からは懸念の声があがっていた。

 控訴審判決は被告や被害者の状況を詳細に検討し、准看護師が窒息死を予見できた可能性を否定した。介護の実情をふまえた判断だと理解できる。

 高裁は▽准看護師が提供したドーナツは通常の食品で、窒息する危険性は低い▽おやつの形態変更は介護士チーム内での引き継ぎ事項で、准看護師に確認義務はなかった▽准看護師はたまたま配膳を手伝っていた-などと認定した。

 身体機能が低下した高齢者の介護には、思わぬ危険性がつきまとう。今回のケースは、刑事責任まで問わねばならない事案だったのだろうか。

 控訴審で無罪判決は出たが、一審で有罪となったことは各地の介護現場に動揺を与えた。

 おやつを控えたり、正月の餅など行事食の提供をやめたりする動きが広がるなど、リスクを避ける傾向が強まったという。

 准看護師の無罪を求める署名が延べ73万筆も集まったのは、介護関係者の不安の大きさを物語る。

 個別の対応が必要な高齢者の受け入れに消極的になる施設が増える懸念もあった。

 事故の回避を優先するあまり、必要なサービスが後退するなら本末転倒である。介護の取り組みを萎縮させてはなるまい。

 ただ、人が亡くなっているという事実は重い。原因を突き止め、再発防止策を講じるのは施設を預かる側の責任だ。

 一方で、介護現場は慢性的な人手不足に陥っている。従事者の賃金は仕事の重さの割に低く、60歳以上が全体の2割を占めているとの調査結果もある。入所者にどこまで寄り添えているか苦悩の声があるのも現実だ。

 こうした構造を改善し、入所者の安全にしっかりと取り組める環境づくりが欠かせない。



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Author:gogotamu2019
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