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ALS嘱託殺人(2020年7月31日配信『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆「生きる権利」支える社会に◆

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う京都市の女性に頼まれ、薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人容疑で医師2人が逮捕された。女性は会員制交流サイト(SNS)を通じ、1人と知り合って連絡を交わし、指定された口座に報酬とみられる130万円を振り込んだ。昨年11月末の犯行当日、初めて顔を合わせたという。

 過去に医師が末期がんなどの患者に薬物を投与して死亡させ、刑事責任を問われた例はいくつかあるが、いずれも長らく治療に携わり、患者の病状や思いに寄り添った末のことだった。しかし逮捕された2人は治療も寄り添いもせずに、金で請け負ったとみられる。

 重い病で苦痛を訴える終末期の患者に薬物を投与して死に導く「安楽死」や、本人の意思で延命措置を受けずに自然に死を迎える「尊厳死」を巡り、これまで積み上げられてきた議論とは、どうやっても重ならない。全く異質の事件であり、安楽死などの議論と安易に結びつけるべきではない。

 ただ今回、「死ぬ権利」が注目を集めたことにより「生きる権利」が揺らぐことにならないかという懸念が広がっており、気掛かりだ。ALSに限らず、難病や障害のある人たちが当たり前に暮らしていけるよう、生きる権利を支えるために何ができるかを考えたい。

 女性は51歳。以前は東京で建築関係の仕事をし、海外旅行が好きで活発だったという。2011年ごろ、ALSを発症し、最近はヘルパーによる24時間態勢の介護を受けていた。女性のブログには「本人の意識がはっきりしていて意思を明確に示せるなら、安楽死を認めるべきだ」などの書き込みがあった。

 オランダやスイス、ベルギー、米国の一部の州では安楽死が合法化されている。日本では認められていないが、神奈川県の東海大病院で1991年に医師が薬物注射で末期がんの患者を死なせた事件で95年の横浜地裁判決が、医師による安楽死が許容される要件を示した。耐え難い苦痛▽死期が迫っている▽苦痛緩和の方法を尽くし、他に手段がない▽本人の明確な意思表示―の四つだ。

 これらを満たせば違法性が阻却されるとの判断だが、女性の場合は死期が迫っていたわけではなく、医師らが手を尽くした形跡もない。

 女性が安楽死を望んだのは紛れもない事実であり、共感する声も一定の広がりを見せている。一方で、難病や重い障害にもかかわらず懸命に生きている人がいることを忘れてはならない。社会が不幸と決めつけ、生きづらさが増すようなことは何としても避けたい。 




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