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【特養おやつ事故】社会で「良い介護」追求を(2020年8月3日配信『高知新聞』-「社説」)

 高齢者施設での死亡事故はあってはならないが、介護現場の実情を踏まえた「逆転無罪」といえよう。

 長野県安曇野市の特別養護老人ホームで2013年、入所者の80代女性がおやつのドーナツを食べた後に死亡した。配膳した准看護師の女性が窒息死させたとして、業務上過失致死罪に問われた。

 今回、二審の東京高裁は、一審の罰金20万円の有罪判決を取り消して、無罪を言い渡した。

 この裁判に注目が集まったのは、施設側が遺族に賠償金を支払う民事訴訟や示談とは別に、職員個人の刑事責任も問われた点だ。
 争点は、准看護師が「窒息死を予見できた可能性」だった。

 高裁判決は、ドーナツは女性が入所後も食べていた食品で、窒息の危険性の程度は低かったと指摘。事故1週間前に、おやつをゼリー状のものに変えた申し送りは「介護職員間の情報共有であり、日勤の看護業務を続ける中では容易に知り得なかった」と、予見の可能性を否定した。

 「逆転無罪」は、介護現場に広がった不安を拭うものだろう。

 食事や入浴、排せつや運動…。高齢者の介護は、急変を招きかねないリスクと常に隣り合わせにある。

 刑事責任が問われるようになれば、介護現場の「萎縮」を招くのではないか。そうした危惧があって注目され、無罪を求める署名が延べ約73万筆も集まった。

 実際に一審の有罪判決後、固形物のおやつをやめてゼリーのみにしたり、おやつそのものを中止したりする施設が相次いだという。
 「萎縮」してリスクの管理重視を突き詰めれば、転倒するかもしれない運動はせず、食事も固形物はやめ、入浴も最低限になる。お年寄りの「生活の質」は下がるだろう。

 それは、これからの介護が目指すべき方向性と異なる。

 今回のような過失事故が起きる背景には、ぎりぎりの人員で働かざるを得ない、介護現場の慢性的な人手不足という問題がある。

 この事故の際にも、准看護師は1人で多くの入所者を世話していた。おやつを配膳したのは、介護職員をたまたま手伝っただけだった。

 多忙が過ぎれば、不注意やミスも招く。お年寄りをきめ細かく見守れず、防げたはずの事故を防げない状況が生まれかねない。
 人手不足を抜本的に解消できるような、介護現場の待遇改善と制度拡充が急がれる。

 高知県でも、高齢者施設を「ついのすみか」にする人が少なくない。

 施設には、安全性を確保しながら積極的なケアに取り組み、入所者の「生活の質」を上げてほしい。

 本人と家族も、食事や入浴などの介護にリスクが伴うことを理解しておく必要がある。その上で、施設側との意思疎通を密にしたい。

 いずれ誰もがゆく老いの道である。社会全体で「良い介護」とは何かを考え、具体的な改善策を積み重ねていかねばならない。




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