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「黒い雨」判決/救済拡大への政治判断を(2020年8月7日配信『神戸新聞』-「社説」)

 広島市への原爆投下直後に放射性物質を含む「黒い雨」を浴びながら、国の援護対象から外れた男女84人らによる集団訴訟で、広島地裁は84人全員を被爆者と認める判決を出した。広島県と市には原告が求める被爆者健康手帳の交付を命じた。

 被爆者援護行政の転換を根本から迫る画期的な判断だ。被害を訴える原告は70~90代で、提訴時から10人以上が亡くなっている。

 残された時間は少ない。国は直ちに救済に動かねばならない。

 裁判では、黒い雨のエリアとして援護対象とする「特例区域」の線引きが争点となった。国は爆心地から北西に長さ約19キロ、幅約11キロの楕円(だえん)状の範囲としている。

 区域内にいた人には、がんなどにかかった場合に被爆者手帳が交付される。しかし当時、原告は特例区域外におり、境界線から数十メートル離れた場所にいただけで対象とならず、扱いの違いに疑問の声が起きていた。

 判決は特例区域について、原爆投下直後の混乱期に収集した乏しい資料に基づいており「概括的な線引きにすぎない」と位置付けた。

 さらに正確な降雨域の明確化は難しいとした上で「より広範囲で降った」と認めた。

 黒い雨についての調査の不備と、線引きの不合理さを、司法が指摘したことになる。国は重く受け止めねばならない。

 もう一つの重要な争点が、黒い雨が付着した飲食物を摂取したことによる内部被ばくの可能性である。

 裁判で国や県、市は「黒い雨の健康被害は科学的に立証されていない」と主張したが、判決は内部被ばくも想定できると踏み込んだ。

 2011年の東京電力福島第1原発事故を巡っても、内部被ばくは重要な問題となっている。未解明の部分も多いだけに、放射性物質が人体に及ぼす影響についてさらに究明する必要がある。

 原爆投下から75年が過ぎ、被ばくと疾病の因果関係を証明するのは困難になるばかりだ。判決はその点を踏まえ、厳密な科学的立証よりも原告一人一人の証言とがんなどの発症を重く見た。

 原告側は、県などに控訴を断念するよう求めている。一方、きのう広島の平和記念式典に参列した安倍晋三首相は、「関係省庁、県、市と協議を行っている」と述べるにとどめ、救済基準を定める国の考え方を示さなかった。

 半世紀以上続いた原告の苦しみを直視して、首相は救済拡大に向けた政治判断を下すべきだ。実態が分からない放射線被害に苦しむ人々を救済する被爆者援護法の理念に、立ち返らなければならない。




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