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介護事故無罪 現場の不安を払拭する判断だ(2020年8月13日配信『読売新聞』-「社説」)

 心身の機能が衰えた高齢者の介護には、事故のリスクがつきまとう。安全を確保しつつ、生活の質をどのように向上させるのか。多くの教訓を残した事件だろう。

 長野県安曇野市の特別養護老人ホームに入所していた85歳の女性が7年前、おやつを食べた後に死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた准看護師に東京高裁が無罪判決を言い渡した。検察は上告を断念し、無罪が確定した。

 准看護師は介護職員に手伝いを頼まれ、女性にドーナツを配った。1審判決は、女性のおやつがゼリーに変更されていたのに、准看護師が確認を怠ったと判断し、罰金20万円の有罪とした。

 これに対し高裁は、変更を記した引き継ぎ書は介護職員間の情報共有が目的で、准看護師が把握するのは困難だったと判断した。ドーナツで窒息する危険性は低かったとも指摘し、刑法上の注意義務に反しないと結論づけた。

 事件後、全国から無罪を求める約70万通の署名が寄せられた。故意ではない介護ミスで、職員個人の刑事責任が問われるようになれば現場の萎い縮しゅくを招きかねない。介護の業務実態に即し、職員の不安を払拭ふっしょくする判決と評価できる。

 検察は、1審で2度も起訴内容を変更している。捜査が不十分で、無理な立証を重ねた面もあるのではないか。起訴に至った経緯を含めて、検証が必要だ。

 高裁判決は、入所者にとって、おやつや食事が「健康や身体活動を維持するだけでなく、精神的な満足感や安らぎを得るために重要だ」とも指摘した。

 事件後、固形物をおやつとして提供するのをやめた施設もある。リスク回避を優先するあまり、入所者の楽しみを奪うことがないように配慮したい。施設と本人や家族が、介護方針をよく話し合っておくことが大切だ。

 無論、事故を防ぐ取り組みは不可欠である。全国の特養と介護老人保健施設で2017年度、転倒や誤嚥ごえんなどの事故で死亡した入所者は1500人を超えている。

 事故の背景には、介護現場での深刻な人手不足がある。人の入れ替わりが激しく、知識や経験の乏しい職員に頼らざるを得ない施設は珍しくない。処遇を改善して人材の確保を進め、技術を高める研修を充実させねばならない。

 高齢者の介護では、小さなミスが重大な結果につながる。食事や投薬時の注意事項を職員間でしっかりと引き継ぐなど、改めて基本動作を徹底してもらいたい。




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Author:gogotamu2019
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