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特養おやつ事故 実態を踏まえた無罪判決(2020年8月16日配信『新潟日報』-「社説」)

 介護現場の実態を踏まえ、当時の状況を丁寧に見極めたといえる。検察側の上告断念は当然だ。無罪判決を、より充実した介護への契機としたい。

 長野県安曇野市の特別養護老人ホームで2013年、入居者の女性がおやつのドーナツを食べた後に死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた准看護師の無罪が確定した。

 7月の東京高裁判決は、准看護師がドーナツを提供したことは刑法上の注意義務に反するとはいえないとして、一審長野地裁松本支部の有罪判決を破棄し逆転無罪とした。

 東京高検は上告期限の今月11日までに上告をしなかった。

 准看護師は、ゼリー状のおやつを提供するとされていた女性にドーナツを配膳し、窒息による低酸素脳症で死亡させたとして、在宅起訴された。

 施設内での介護の過失を巡り、職員個人の刑事責任が問われたのは異例だ。

 一審判決について、介護関係者から「現場が萎縮する」との批判が上がり、無罪を求めて73万筆もの署名が集まった。

 争点となったのは、「窒息死を予見できた可能性」があったのかどうかだった。

 一審は、おやつの形態によっては生命・身体に危険が生じる可能性があり、間違って配膳すれば死亡もあり得ることを十分予見できたと判断した。

 これに対し高裁は、予見可能性は相当低かったと判断し、過失を認めなかった。

 女性は1週間前までドーナツを食べており、窒息の危険性の程度は低かったことや、ゼリーへの変更は介護士チーム内での引き継ぎ事項で、准看護師に確認義務はなかったことなどを理由に挙げた。

 検察と裁判所は逆転無罪という結果の重さを真摯(しんし)に受け止め、そこに至った経緯を徹底検証し、今後の教訓とすべきだ。

 注目したいのは、高裁判決がおやつを含めた食事の意義について「健康や身体活動を維持するためだけではなく、精神的な満足感や安らぎを得るために重要だ」と言及したことだ。

 一審判決は、少しでも事故の危険があると分かっていたなら過失だと受け止められる内容だった。事故を受け、介護施設ではおやつの提供を控えたり、一律にゼリーにしたりするなどの対応が相次いだ。

 高裁判決は、現場に広がっていた不安を解消しようという姿勢がうかがえる。

 一方で、改めて見つめたいのは、高齢者施設では食べ物の誤嚥(ごえん)や移動時の転倒などの事故が起こりやすいことだ。

 多くの職員は、食事や運動などを通してより良い介護ができるよう働いているはずだが、安全面でのリスクがあることに常に留意してもらいたい。

 介護現場は人手不足が深刻だ。今回の事故でも准看護師は一人で多くの入居者の相手をしていたという。

 事故のリスクを下げるためにも、職員の負担を減らすなど労働環境の改善を急ぎたい。



特養事故で無罪 生活の質を高める介護へ(2020年8月16日配信『西日新聞』-「社説」)

 介護現場の実情を踏まえれば納得できる判断だろう。

 長野県安曇野市の特別養護老人ホームで2013年、女性入居者がおやつのドーナツを食べた後に死亡した事故を巡り、業務上過失致死罪に問われた女性准看護師の無罪が確定した。逆転無罪の東京高裁判決に対し、検察が上告を断念した。

 ホームはこの女性のおやつをゼリー状に変更していた。昨年3月の一審判決は、准看護師がその確認を怠り、誤ってドーナツを与え、窒息により死亡させたと判断し、有罪だった。

 先月末の東京高裁判決は(1)ドーナツは女性が入所後も食べていた食品で、窒息の危険性は低かった(2)ゼリー状への変更の引き継ぎは介護職員間の情報共有で、准看護師は容易には知り得なかった-などと判断し、無罪を言い渡していた。

 この裁判が注目を集めたのは舞台が高齢者施設であり、ケアに当たる職員個人の刑事責任が問われたためだ。

 一審判決後、高齢者施設には「介護現場が萎縮する」「介護職のなり手が一段と減る」との不安や懸念が広がった。無罪を求める署名は70万筆を超えた。

 そもそも、施設内の高齢者の見守りやケアはチームで行うことが原則だ。個人の刑事責任を問うには慎重な上にも慎重な検討が欠かせない。全ての捜査機関は今回の無罪確定を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 高裁判決は、食事やおやつの提供は健康や身体活動の維持にとどまらず「精神的な満足感や安らぎを得るために重要」と言及した。「生活の質」の視点に立った意義深い指摘だ。

 食に伴う喜びや楽しみは「心の栄養」である。介護現場では誤嚥(ごえん)を防止しつつ、食感や風味に配慮した「介護食」に工夫を凝らすといった努力が重ねられてきた。一審判決を受け、おやつの提供を中止したり、固形物からゼリーやペーストに切り替えたりする施設が相次いだ。高裁判決は、こうした萎縮にも歯止めをかけるものとなろう。

 高齢者施設での事故を防ぐ不断の努力が求められることは言うまでもないが、身体機能などが低下した高齢者のケアには不測の事態が避けられない面もある。施設側は日頃から入所者や家族と事故のリスクについて話し合っておくことも大切だ。

 事故を減らすにはきめ細かい見守りが有効だが、介護現場は慢性的な人手不足に苦しんでいる。国が定めた人員配置基準の人数が少なく、過重負担を招いているという声もある。

 国は介護人材の確保に注力し「安全な介護」を支える環境整備を急ぐべきだ。それは「生活の質」の向上にもつながる。





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