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「黒い雨判決」控訴 国は救済拡大に力尽くせ(2020年8月16日配信『山陽新聞』-「社説」)

 広島市への原爆投下直後に降った「黒い雨」を国の援護対象区域外で浴びた原告84人(死亡者含む)全員を被爆者と認めた広島地裁判決について、国や広島県、広島市が控訴した。やっと見えた救済の光が再び遠ざかり、原告の落胆や憤りは察して余りある。

 援護区域は国が1976年に指定した。被爆間もない混乱期に気象台の技師ら数人が行った聞き取り調査で「大雨が降った」とされた地域だ。

 地裁判決は調査の限界を指摘。放射性物質を含む黒い雨はより広い範囲に降った可能性があるとし、原告の疾病や証言を個別に検討して全員を被爆者と認め、県と市に被爆者健康手帳の交付を命じた。

 今回の控訴について、国は「十分な科学的知見に基づいた判決とは言えない」「これまでの最高裁判決と異なる」などを理由に挙げた。その一方で、拡大も視野に入れて援護区域の検証を始める方針も示した。

 国から手帳の交付事務を受託した県と市は、裁判では被告の立場に立たされたが、これまで独自の調査で区域拡大を国に求めてきた。今回も控訴を望まない意向だったが、区域拡大の検討を条件に国の求めに応じた。さぞ苦渋の決断だったことだろう。

 被爆者援護で国が重きを置くのが、控訴理由にも挙げられた「科学的根拠」である。

 だが、黒い雨の影響は科学的に解明されていない部分が多い。時の経過とともに、病気との因果関係の証明は一層難しくなる。国が、区域外で黒い雨を浴びたことと健康被害の間に因果関係がないと言うのであれば、その裏付けは国側が示すべきだろう。

 そもそも国が固執してきた援護区域の線引きは、十分な科学的知見に基づいているのか。地裁判決の指摘や、現状の5~6倍は広がるとする県、市の調査結果などを見る限りそうとは思えない。

 援護が税金を原資とする以上、被爆者認定に一定の条件や合理的な根拠が必要なことは分かる。しかし、科学的根拠にこだわる余り、必要な人への救済に漏れが生じるような事態は避けたい。

 区域の検証を巡っては期待感と疑念が交錯する。40年以上を経て初めて拡大へ動けば、原告以外の被害者の救済にも道が開ける。一方で原告側などには控訴への批判を避けるための方便で、時間稼ぎだとの不信感が強い。

 それだけに、国の本気度が問われる。政府は専門家らの組織を立ち上げ、蓄積されたデータを最大限活用し、スピード感を持って検証すると言う。だが、「年度内の取りまとめは困難」との声もある。先行きは不透明だ。

 被爆から75年。亡くなった原告も多い。救済は時間との闘いだ。国は実態が分からない放射線被害に苦しむ人々を救う被爆者援護法の理念に立ち返り、救済の枠組みづくりを進めるよう求めたい。県、市の担う役割も重い。



「黒い雨」訴訟で控訴(2020年8月16日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 高齢化する被害者の思いを踏みにじる行為だ。広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」を巡り、援護対象区域の外にいた原告全員を被爆者と認めた広島地裁判決に対し、被告の国、広島県、広島市が控訴した。

 国は判決が「科学的知見と異なる」と主張。控訴の一方で、対象区域に関して拡大も視野に検証を進めると表明した。県と市は、国からの法定受託事務で被爆者健康手帳の交付審査を担当。援護拡大を国に長年求めており控訴しない意向だったが、検証が幅広い救済につながると期待し、受け入れた。

 ただ、検証結果がいつ出て何が見直されるのかは不明だ。被爆から75年。援護の対象から外されたままの人たちに残された時間は少ない。国は救済を遅らせる控訴を撤回するとともに、援護拡大の枠組み作りに全力を挙げなければならない。

 国は1976年、原爆投下直後の調査で大雨が降ったとされる範囲を「特例区域」に設定。区域内にいた人は無料で健康診断が受けられ、特定の疾病にかかれば被爆者健康手帳を取得できる。一方、原告らのように黒い雨を浴びても、区域を少しでも外れていると援護の対象外となる。県と市は降雨域は特例区域の5~6倍だった可能性があると試算。区域拡大を求めてきたが、国は拒んでいる。

 広島地裁では、特例区域の範囲の妥当性や原告の被ばくの程度が争点となった。判決は、区域外にも黒い雨が降った可能性を指摘。原告の証言の信用性などを個別に検討すべきだとし、84人への手帳交付を命じた。機械的な線引きによらず、一人一人の被害実態に応じて救済を促す妥当な判断で、援護行政のあるべき姿を示したと言える。

 しかし、国は「健康被害が生じる科学的知見は確立していない」とかたくなだ。控訴には、長崎原爆で国の指定する地域外にいた「被爆体験者」らが、被爆者と認定するよう求めた訴訟で、最高裁が原告の訴えを退けたことが背景にある。

 黒い雨の影響などは十分に解明されておらず、年月の経過とともに証明は困難になる。国が向き合うべきなのは、機械的な線引きが分断や苦しみをもたらしている事実ではないか。

 今後の検証も迅速で幅広い救済につながるのか疑念がある。厚生労働省はデータの蓄積があり「人工知能などを活用して分析する」とする。ただ専門家で議論する必要性があり、年度内の結論は困難という。加藤勝信厚労相は「スピード感を持って検証する」との言葉を実行に移さなければならない。

 援護対象から漏れて亡くなった人は多い。今回の訴訟の原告も70~90代と高齢化している。被爆者援護法は、他の戦争被害とは異なる「特殊の被害」を国の責任で救済するのが理念だ。科学的根拠にこだわりすぎるのはそれに反する。長年苦しみ続けた人に寄り添うことこそが政治の役割だと認識すべきだ。



「黒い雨」訴訟控訴 救済を最優先すべきだ(2020年8月16日配信『琉球新報』-「社説」)

 広島市への原爆投下直後に降った放射性物質を含んだ「黒い雨」を巡り、国の援護対象区域外にいた原告84人全員を被爆者と認めた広島地裁判決について、被告の広島県、広島市と国は判決を不服として控訴した。同時に、援護区域の拡大を視野に検証を始める。

 救済を待ちわびる被爆者の思いに応えない判決だ。そもそも国が援護区域を拡大する気なら控訴する必要はない。国は控訴を取り下げた上で被害者救済を最優先し、援護区域の拡大を進めるべきだ。

 広島地裁判決は、複数の調査から国が定めた区域以外にも放射性物質を含んだ「黒い雨」が降った可能性を指摘した。放射性物質を水や食べ物から体内に取り込む内部被爆の影響も考慮して、広く被爆者とした。

 援護区域は被爆直後の限定的な調査で指定され、一度も見直されていない。区域拡大を求めてきた広島県と広島市は被告の立場であるが「原告らは高齢で残された時間は少ない」として控訴しない意向だった。しかし、厚生労働省は区域拡大の検討を条件に県と市を控訴へと説得した。

 背景には長崎原爆で国の指定する地域外にいた「被爆体験者」らが、被爆者と認定するよう国などに求めた訴訟を巡り、最高裁が原告の訴えを認めなかったことがある。

 長崎で被爆者と認められる指定地域は、爆心地から南北約12キロ、東西約7キロで、その外側で半径12キロ圏内にいた場合、年1回の健康診断など限られた支援しかなく、被爆者健康手帳の所持者とは援護内容に差がある。

 国は長崎の判例を引き合いに控訴を決めたとしている。しかし、一審の長崎地裁は、区域にこだわらず推定被ばく線量に基づき一部の原告を被爆者と認めていた。そして長崎市も国に指定地域の拡大を求めている。

 同じ集落に住み、健康被害を受けても国が線引きした援護区域にいたかどうかで被爆者の認定が分かれるのが現在の援護行政だ。被害者の立場に立っていない。

 住民に寄り添うべき広島県や広島市が控訴に踏み切った責任は重大だ。松井一実市長は「誠につらい」と述べたが、被爆地のリーダーとして、放射線被害に苦しむ人々を救うという被爆者援護法の理念を掲げてほしかった。

 加藤勝信厚労相は援護区域の検証に当たりデータの蓄積があるとし「AI(人工知能)などを活用して分析する」と述べたが、具体策は不透明な上に時期も未定だ。高齢の原告にとっては救済の先延ばしでしかない。

 被爆者援護法は「身体に原爆放射能の影響を受ける事情の下にあった者」を被爆者と定義している(第1条)。他の戦争被害とは異なる「特殊の被害」を国の責任で救済する被爆者援護法の理念に立ち返り、被害に苦しむ人々の救済を進めるべきだ。






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