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なぜ「ペットと暮らせる特養」なのか 動物愛護活動?(2020年8月17日配信『ヨミドクター』)

 これまで、余命3か月で入居した伊藤さん(仮名)と愛犬のチロのエピソードに、 看み取と り犬・文福のエピソード、そして愛猫の祐介君と一緒に入居した後藤さん(仮名)のエピソードと、三つのエピソードを書いてきました。ここまでお読みいただいた方は、私が経営する特別養護老人ホームさくらの里山科で、ご入居者様とペットがどのように暮らしているのか、何となくイメージはつかめたのではないでしょうか。

高齢者のQOL向上へ「あきらめない福祉」

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 これは、しばしば福祉関係者から聞かれることです。それに対して私は、動物愛護活動はしていません。私たちは高齢者のQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を目指しているだけです、と答えています。

 高齢者のQOLの向上を目指してうまれた、うちの法人のスローガンは「あきらめない福祉」です。例えば旅行が大好きなのに、旅行に行くのをあきらめている高齢者はとても多いのです。私たちはそのような方を、介護しながら旅行にお連れします。そのため、うちのホームでは旅行行事がとても多いです(これはコロナ前の話です。現在は旅行行事は中止しています)。お買い物をあきらめていた高齢者のために、週に1回、パン屋さんや食料品店さんに来てもらい、ホーム内売店を開設しています(同じく現在は中止中です)。外出行事でショッピングセンターに行くこともあります。

おいしいもの お酒 毎日のお風呂…

 おいしいものを食べるのをあきらめていた方には、私たちが食事介助しながらおいしいものを召し上がっていただきます。実は、うちのホームの最大の特徴は、ペットと暮らせることではなく、食事の質の高さだと自負しています。伊勢エビやフグ、マツタケなどのぜいたくな食事も出しますし、ラーメンやお好み焼きなどの庶民的な料理も出します。エスニック料理すら出すんですよ。

 少数ですが、毎日、お酒を飲むご入居者様もいます。やはり少数ですが、毎日お風呂に入るご入居者様もいます。もちろんそれぞれ、ドクターの許可があればですが、お酒を飲むことも、お風呂に毎日入ることもあきらめずに済むよう支援しているのです。

 同じように、ペットと暮らすことをあきらめずに済むよう、ペットと一緒に暮らすことの支援をしています。ですから、私たちは動物愛護活動をしているのではないのです。高齢者のQOLを向上させるために、ペットと一緒に暮らせる体制を作っているのです。

ペットなしでも死ぬわけじゃないが… 楽しい暮らしを

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 この話をすると、よく言われるのが、「ペットと暮らせなくても死ぬわけじゃないでしょう。別にペットは必要ないんじゃないですか?」ということです。でも、これまで私が話したことを振り返ってみて下さい。旅行に行けなくても、買い物ができなくても、美味しい物が食べられなくても、お酒が飲めなくても、お風呂に毎日入れなくても、死ぬわけじゃありませんよね。いや、酒がないと死ぬ、という人は多いかもしれませんが(笑)。でも、これらがない生活は大変つまらないものですよね。

 実は、この話は、福祉の考え方の根幹に関わるものなんです。長い間、福祉の目的は最低限の生活を保障するためと考えられていました。憲法25条が定める生存権の保証です。しかし近年、最低限の生活を守るだけでいいのかという疑問が、福祉の世界で生まれました。介護が必要な高齢者であっても、楽しい暮らしを送る権利があるのではないかという疑問です。憲法13条が定める幸福追求権の保障こそが福祉の目的と考える福祉関係者が増えてきたのです。

高齢者福祉の一環としての「伴侶動物福祉活動」

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 私も高齢者や障がい者の幸福追求権を守るために、社会福祉法人を経営しています。

 確かに、ペットと暮らせなくても死ぬわけじゃありません。高齢者の生存権を守るためにはペットは必要ないのです。しかし、ペットと暮らせないと幸福にはなれない、という高齢者はいます。そのような高齢者の幸福追求権を守るためには、ペットが必要なのです。

 このように、高齢者とその愛犬、愛猫、すなわち伴侶動物を合わせて支援する福祉を、私は勝手に伴侶動物福祉と名付けました。さくらの里山科は動物愛護活動ではなく、高齢者福祉の一環として、伴侶動物福祉活動を行っているのです。

 さくらの里山科のペットと一緒に暮らせるユニット(個室10室とリビング、キッチン、トイレ3か所、お風呂で構成される独立した区画。10LDKのマンションのようなもの)に入居される高齢者には、二つのタイプがいます。

 一つは、もちろん、今飼っている愛犬、愛猫と一緒に同伴入居される方です。

 もう一つのタイプは、犬や猫が大好きで、長年飼い続けていたのですが、ご高齢になって飼うのをあきらめた高齢者です。犬や猫が好きな人ほど、高齢になって飼うのをあきらめることが多いのです。自分が倒れて、愛犬や愛猫を不幸な目に遭わせるのを恐れるためです。

 そのような高齢者は、さくらの里山科でもう一度、犬や猫との暮らしを取り戻したいと希望して入居してきます。そこで、そのような方のために、ホームの飼い犬、飼い猫がいるのです。文福はホームの飼い犬の中の一匹です。

犬10匹と猫9匹 ユニットの中で自由に

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 現在(2020年6月25日現在)、うちのホームでは10匹の犬が暮らしており、そのうち3匹が最初からのホームの飼い犬、2匹が飼い主さんが亡くなり、ホームの飼い犬になった犬、5匹がご入居者様の愛犬です。猫は9匹おり、そのうち4匹が最初からのホームの飼い猫、2匹が飼い主さんが亡くなり、ホームの飼い猫になった猫、3匹がご入居者様の愛猫です。

 なお、ユニットの中では、そのような犬猫の区別は全くしていません。ホームの飼い犬であろうと、ご入居者様の愛猫であろうと、ユニットの中で自由に暮らしています。どの犬や猫も、自由に全てのご入居者様のお部屋に出入りしています。ベッドに入ることもあります。全ての犬と猫が、ユニット全体の飼い犬、飼い猫のようになっています。いえ、ユニットのご入居者様と犬、猫が一つの家族になっているのです。

 ホームの飼い犬、飼い猫について、なぜ保護犬・猫を迎えたのですか、ということもよく聞かれる質問です。実は、この質問には答えがないんです。私も職員たちも、ホームの飼い犬・猫を迎えようと考えた時に、福祉施設なら保護犬・猫を迎えるのが当然だろうと自然に考えていました。これまでに保護犬7匹、被災犬1匹、保護猫8匹、被災猫1匹を迎えてきました。動物愛護団体の「ちばわん」さんと相談して、一般の里親が見つかりにくい、高齢の子、病気の子を中心に迎えたので、数年で亡くなってしまう場合が多かったのですが、みんなご入居者様と職員にかわいがられて幸せだったと思っています。

 ちなみに、ご入居者様が愛犬、愛猫と一緒に同伴入居した際に、犬猫にかかる費用は実費のみです。すなわち、餌代、消耗品代、医療費、動物病院送迎代など、愛犬、愛猫に実際にかかる費用のみです。特別な費用は頂いていません。

飼い主が亡くなれば、ホームの飼い犬・飼い猫に

 そして、ご入居者様が先に亡くなってしまった場合は、ご本人様が生前ご希望されていたら、愛犬、愛猫はホームの飼い犬、飼い猫となり、生涯面倒を見ることを約束しています。費用は実費と世話代1か月5000円を、ご家族にお支払いいただきます。

 さて今回は、生存権とか幸福追求権とか、少し硬い話が多かったのですが、実際は私の希望をかなえたいだけなんです。私は年を取って介護されるようになっても、旅行に行きたいです。美味しい物を食べたいです。お酒を飲みたいです。そして、ペットと一緒に暮らしたいです。同じことを願う高齢者は多いはずだと思い、さくらの里山科を作った。ただ、それだけなんです。(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)



若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

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 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里 山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みとり犬いぬ・文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。




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