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着床前診断 検証を慎重に積み重ねて(2020年8月20日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 倫理面で大きな問題をはらみ、有効性も証明されていない。不妊治療の現場で安易に広がらぬよう慎重に進めていくべきだ。

 体外受精した受精卵の着床前診断である。日本産科婦人科学会が、流産予防や出産率向上の効果を検証する臨床研究を、全国78施設の参加で始めた。

 分裂した受精卵の細胞を取り出し、染色体の数の異常を調べる。流産の原因の6〜7割は染色体異常と考えられ、異常のない受精卵を子宮に戻すことで、流産の予防につながるとの期待がある。

 同学会が4施設で約170人に実施した先行研究では、受精卵を移植できた人に限れば出産率が改善した。全体では出産率を上げたり流産率を下げたりする効果は確認できなかったという。

 米国の生殖医学会は「全ての不妊患者に日常診療として提供するには根拠が不十分」との声明を公表している。

 臨床研究では3500例以上のデータ集計を目指している。日本産科婦人科学会は「患者数を増やせば期待する効果が得られるかもしれない」と説明する。

 「期待する効果」を得ることのみが目的の研究であってはならない。症例や分析を公開し、不妊治療として妥当なのか、広い議論につなげていく必要がある。

 着床前診断自体が抱える倫理面の問題も避けて通れない。

 ダウン症などの染色体異常も分かり、男女の産み分けも可能にする技術だ。「命の選別につながる」との懸念が強い。

 受精卵が異常と判定されれば廃棄される可能性が高い。障害がある命は生まない方がいいとの価値観が広がり、障害者差別にもつながりかねない。

 年齢が上がるほど割合が高くなる、正常と異常の細胞が混在する受精卵をどう扱うか。細胞を採取する際に受精卵が傷つくと、妊娠や子どもの成長に悪影響を与えないか。技術の進歩とともに見えてきた課題も多い。

 多額の費用や妊娠に至らなかった場合の精神的なダメージも考えねばならない。こうした問題を患者が十分理解して診断に臨めるようにすることが大切だ。

 着床前診断について、同学会は、重い遺伝性の病気と特定の原因で流産を繰り返す場合に限り認めてきた。今回の臨床研究と併せて、対象となる病気や審査のあり方を見直す議論も進めている。

 出産年齢の上昇とともに望む人は増えよう。だからといって学会内で結論を急いではならない。




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Author:gogotamu2019
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