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「黒い雨」控訴/国は援護行政を転換せよ(2020年8月21日配信『神戸新聞』-「社説」)

 広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」を国の援護対象区域外で浴びた原告84人全員に被爆者健康手帳の交付を命じた広島地裁判決を不服として、被告の広島県、広島市、訴訟に参加する国が控訴した。

 同時に、国は援護区域について拡大も視野に入れた検証を進める方針を明らかにした。

 裁判で実質的に問われたのは国の援護行政の在り方である。県や市は被爆者手帳の交付事務を担うため被告の立場に立たされたが、早期救済に向けて控訴しないことを望んでいた。国が区域拡大を検討する姿勢を示したため、苦渋の決断で控訴を受け入れたとみられる。

 高齢化した原告たちに裁判の長期化を強いる国の判断は理不尽と言わざるを得ない。援護区域の検証は専門家らの組織を立ち上げて議論するとしているが、期限もはっきりせず本気度が疑われる。

 これ以上苦難を長引かせてはならない。国は検証と並行して、幅広い救済の枠組みづくりを急ぐべきだ。

 判決は正確な降雨域の明確化は困難とした上で、援護区域より広範囲で降ったと認めた。対象者の認定については原告一人一人の証言とがんなどの疾病を吟味し、個別に検討する必要があると指摘した。

 原爆投下から75年が過ぎ、被ばくと疾病の因果関係を証明するのは困難になっている。一方で多くの専門家が区域外に大勢の被爆者がいるとみている。こうした現実を踏まえ、援護行政から置き去りにされてきた全ての被害者の救済に道を開く司法判断を前向きに受け止めたい。

 加藤勝信厚生労働相は「十分な科学的知見に基づいたとは言えない判決だ」と控訴理由を説明した。だが、そもそも国の線引きが実態を反映していないのではないか。

 援護区域は、終戦直後の地元気象台技師らの調査を根拠として1976年に設定された。県や市は2008年の大規模調査に基づき、区域を5~6倍に広げるよう国に求めてきたが、一切実現していない。

 判決は現行の区域設定について、混乱期の乏しい資料に基づく「概括的な線引きにすぎない」と妥当性を否定した。厳密な線引きに固執した救済の限界を示したと言っていい。

 長崎原爆でも国の指定地域外にいた人たちが被爆者認定を求めて裁判を続けている。これまで2度、最高裁まで争ったが敗訴した。いつまでも苦しみを当事者に負わせ続けるわけにはいかない。

 残された時間は少ない。速やかに幅広く救済することを最優先に考え、国は控訴の取り下げを検討するべきだ。援護行政の転換をためらってはならない。




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