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「黒い雨」訴訟控訴 検証急ぎ線引き見直しを(2020年8月22日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 広島県と広島市、そして国は、国が援護対象としている区域の外で原爆による「黒い雨」を浴びた原告84人全員(死亡者含む)を被爆者と認め被爆者健康手帳の交付を命じた7月29日の広島地裁判決を不服として控訴した。

 国は併せて、援護対象区域の拡大を視野に検証する方針も打ち出した。ただ、幅広い分野の専門家による議論が必要だとして、年度内の結論は困難との見方も早々と示している。被爆から75年。原告らの高齢化は進んでいる。国は検証作業を急ぐべきだ。援護対象区域の線引きを、被害の実態に沿ったものとなるよう見直してもらいたい。

 黒い雨を巡っては、国が1945年の調査に基づき、大雨が降ったと推定される範囲を援護対象となる「特例区域」に定めた。原告らはこの区域外にいたことを理由に被爆者健康手帳の交付申請を却下されており、訴訟では県と市に却下処分の取り消しを求めていた。

 控訴は「累次の最高裁判決とも異なる」(安倍晋三首相)、「科学的知見に基づいたとは言えない判決」(加藤勝信厚生労働相)などとして国が主導した。県と市は国の委託を受けて被爆者健康手帳交付の事務を担うため被告の立場だったが、もともとは援護対象区域の拡大を国に求めていた。

 援護対象区域の検証を条件に、県と市が国の意向に従った形で、松井一実市長は「毒杯を飲むという心境」と語った。県と市の苦渋の決断を国が踏みにじるようなことがあってはならない。県と市も、検証のスピードアップを国に強く求めてもらいたい。

 控訴と援護対象区域の検証を同時に表明したのには、政治的思惑も見え隠れする。

 過去にはハンセン病訴訟など政治判断で救済を図ったケースもあったが、今回は首相官邸サイドと厚労省が早々と「控訴やむなし」の方針を決定した。ただ、世論の批判や支持率低迷が懸念されるため、区域の検証もセットにしたという。これが事実だとすれば、何のための検証なのか。地元が長年望んできた区域拡大は期待薄と言わざるを得ないだろう。

 救済対象の線引きを巡っては、水俣病特別措置法に基づく未認定患者救済でも対象区域の内外で明暗が分かれた。その特措法は不知火海沿岸の住民健康調査を国に課した。調査によって被害の全容が分かれば、線引きの見直しが必要となる可能性もある。だが、国は法施行から10年たっても「調査手法を開発中」と繰り返している。

 援護対象となる特例区域について、広島地裁判決は「混乱期に収集された乏しい資料に基づいた概括的な線引きにすぎない」と指摘した。国はこの指摘を真摯[しんし]に受け止め、一刻も早く線引きの見直しへ動いてもらいたい。

 他の戦争被害とは異なる「特殊の被害」を国の責任で救済する-。被爆者援護法の理念に立ち返れば、検証作業の方向性はおのずと見えてくるはずだ。






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