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憲法と安全保障 平和主義を力で揺るがす(2020年8月31日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 憲法改正を悲願とする安倍晋三首相は、9条に自衛隊を明記する「加憲案」など具体的な改憲案を提起した。だが、7年8カ月に及んだ長期政権下でも改憲を実現することはできなかった。首相自身が辞意表明の記者会見で認めたように、改憲を求める国民世論が乏しかったためだ。

 しかし一方で、長期政権は数の力をよりどころにして安全保障政策の根幹を変えた。その最たるものが、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認し、安全保障関連法を制定したことだ。「積極的平和主義」の名の下、武器輸出禁止政策を転換し、自衛隊と米軍の運用一体化も進めた。憲法は条文こそ変わらなかったが、基本理念の一つである平和主義は大きく揺らいだ。

 これまでの改憲論議と転換された安保政策をしっかりと総括する必要がある。そして次の首相には、国が目指すべき平和主義の在り方について、国民と対話を重ねてもらいたい。

 2016年7月の参院選後、衆参両院では総議員の3分の2以上の議席を改憲勢力が占め、安倍政権下での改憲が現実味を帯びた。17年5月には首相自身が、戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条の1項と2項を残したまま「自衛隊」を明記する加憲案を提起。首相は「20年中の改正憲法の施行を目指す」と時期にも踏み込んだ。意を酌んだ自民党は18年3月、4項目の改憲条文案をまとめた。

 だが皮肉なことに、この独自案が改憲論議にブレーキをかけた。衆院の憲法審査会は、首相が加憲案を提起する直前までテーマを絞って議論を進めていたが、自民党内にも示されていなかった独自案の浮上に野党が反発し、袋小路に陥った。

 一方で政権は、13年末に初めて策定した国家安全保障戦略で積極的平和主義という新概念を明示。14年4月には武器禁輸政策を見直し、「防衛装備移転三原則」を策定した。歴代政権が堅持してきた集団的自衛権行使に関する憲法解釈も、国会での議論を経ることなく14年7月の閣議で変更。15年9月に安保関連法を制定した。

 悲願達成のためなら国の基本理念を力で揺るがすことも辞さない。そうした首相の前のめりな姿勢が、改憲に対する国民の忌避感を徐々に増幅させたとみることもできそうだ。

 日米同盟はトランプ大統領との親密な関係もあって深まったが、その分、巨額の米国製防衛装備品の購入も強いられた。トランプ氏も大統領選での苦戦が伝えられており、日米同盟と地域の緊張緩和を今後どう両立させるのかは見通せない状況だ。

 安倍政権が転換させた安保政策は、今後の日本の針路にも重大な影響を及ぼすだろう。「ポスト安倍」候補は、それぞれが抱く平和主義のビジョンを明らかにした上で、従来の路線の何を引き継ぎ、何を見直すのか説明するべきだ。




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Author:gogotamu2019
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