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終戦直後の夏…(2020年9月7日配信『毎日新聞』-「余録」)

 終戦直後の夏。当時のソ連によって抑留され、強制労働に苦しみながらも、画家は絵の具箱を手放さなかった。帰還後に「シベリア・シリーズ」を描いた香月(かづき)泰男だ

▲<生命そのものが危険にさらされている瞬間すら美しいものを発見し、絵になるものを発見せずにはいられなかった>。そんな自分を香月は<絵かき根性のあさましさ>と書き残した。だが、そうであったからこそ逆境でも自分を保っていられたと振り返る

▲戦後75年。香月のことが思い浮かぶのは彼が国家と個人について深く考えていたからかもしれない。ソ連ばかりでなく、日本の戦争指導者への怒りを隠さなかった

▲こんな作品もある。粉雪が舞う中、兵士のデスマスクを紙が覆う。紙には国への忠誠を説く「軍人勅諭(ちょくゆ)」が記されている。国家権力への痛烈な批判である。一方、凍土に葬られた戦友が雪解けで現れたさまを暖かい色で描いた。仲間の鎮魂だった

▲今年の全国戦没者追悼式で安倍晋三首相は昨年の式辞にあった「歴史の教訓を深く胸に刻み」の言葉を使わなかった。そして外交・安全保障で国際貢献を進める「積極的平和主義」を初めて盛り込んだ。その13日後、首相辞任を表明した。国はどこへ向かうのか

▲香月はシベリアの空を見上げた。<この太陽は、月は今しがた(日本の)家族等が仰ぎ眺めたであろう>。戦争は<郷愁との戦い>だった。日本人が香月のような思いをすることが二度とあってはならない。描いた太陽と月は悲しいほど美しい。




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