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内閣支持率上昇は「としまえん現象」? 「なくなるとわかると急に惜しくなる」と池上彰が指摘(2020年9月14日配信『AERA.com』)

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池上彰(いけがみ・あきら、右):1950年、長野県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。著書に『伝える力』『なんのために学ぶのか』『コロナウイルスの終息とは、撲滅ではなく共存』など/佐藤優(さとう・まさる):1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。著書に『世界宗教の条件とは何か』『宗教改革者』『ウイルスと内向の時代』『危機の正体』など(撮影/岸本絢)

 史上最長政権の突然の幕引き。急きょ実施されることになった自民党総裁選は、「安倍継承」をうたう菅義偉官房長官が本命となり、9月14日には菅自民党総裁が、そして、16日には「菅首相」が誕生する見込みだ。なぜこの流れが一気に加速したのか、菅氏の首相としての資質はいかばかりか。ジャーナリストの池上彰さんと作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんとがじっくり語り合った、AERA 2020年9月21日号の記事を紹介する。

*  *  *
──安倍首相の辞任発表を受けて内閣支持率が急上昇し、安倍継承をうたう「菅首相」の誕生を歓迎するムードが漂っています。

■急に惜しくなる としまえん現象

池上:安倍首相がやめるとなったとたんに内閣支持率が急上昇したことを私は「としまえん現象」と呼んでいます。それまで誰も見向きもしなかったのに、遊園地がなくなるとなったとたんに、みんなが殺到して最後は大勢の人が列を作るという。日本人というのは、なくなるとわかると急に惜しくなるんです。あるいはこの支持率の上昇は、安倍内閣への餞別だというふうに考えていいんじゃないかなと思っています。

 それに、第1次安倍内閣のときには、安倍さんがおなかが痛くなって辞めたことに無責任だという声が上がりました。実は潰瘍性大腸炎という難病だったことで、「無責任だ」と言うと、病気に苦しむ患者に対する無神経な批判に繋がってしまうから、今回はみんな口をつぐんで「お可哀想」「頑張りましたよね」っていうふうになっているというところがあるんだろうと思うんですよね。

佐藤:安倍内閣の性格をどう見るか。安倍政権の前半と後半で、だいぶ違うんですよね。前半は、日米同盟を基調にした「自由と繁栄の弧」外交に全部還元されていた。それが後半には、習近平を国賓で呼ぼうとしたり、アメリカに対してもイージス・アショアを蹴っ飛ばしたり。前半と後半の安倍外交は同じ尺度では見られない。

 これは私の造語ですが、政権の後半は「首相機関説」で説明できるんです。例えば、安倍さんは対ロ外交においては二島返還+αというように非常に柔軟です。一方、沖縄の辺野古に対しては非常に厳しい。コロナ禍で最初は所得が著しく減少した世帯30万円と言っていたのに、突如全国民に10万円となる。いろんな政策の整合性が取れない。これこそが安倍晋三という人が、小泉純一郎型のカリスマ的支配者ではないことを表しています。

要するに安倍政権はシステムの上に成り立っているのです。だから、政策ごとにブレーン集団が全部違う。安倍さんは気に入った政策は裁可する。気に食わない政策だとプイッと横向いちゃう。これは誰に似てます? 昭和天皇です。

池上:ハハハ。

佐藤:安倍政権のシステムは、いわゆる戦前・戦中の「天皇機関説」と同じです。

 去年の参議院選挙で「争点なき選挙だ」と言われて、公明党の山口那津男代表は「争点はあります、安定か混乱かだ」と発言しました。その後、自民党もメディアもそういう風潮になりました。要するに、システムの維持か解体かという状況になって、システムが維持されればいいという観点なので次の首相は岸田文雄さんでも菅義偉さんでもどっちでもいい。ただ菅さんのほうが、より強くシステムが維持されるという「システムの強度」の話です。「としまえん現象」の一方で、システムの安定を望んでいる国民の集合的無意識を刺激したということもあると思います。

池上:安倍首相が機関として存在しているのを支えて、実はそれを動かしていたのは菅官房長官ではないかっていう意識があるということですよね。安定であれば、菅さんが引き継げばいいということだと思います。

佐藤:そのとおりだと思います。ですから、ポイントになっているのは国体護持です。

■主体は「システム」 方向は曖昧模糊

池上:ただ、安倍首相は、2020年っていう目標まで掲げて憲法改正を言ってきました。その点、菅さんは「憲法改正は期日ありきではない」って言い方をしたでしょう。そこは明らかに違っています。菅さん自身は別に憲法改正に興味関心がないので、これからは言わなくなると思いますね。憲法改正を言わないほうが公明党との関係も維持できるわけです。そうすると、これまで安倍さんを応援していた右寄りの人たちから、菅さんに対する反発というのが出てきたりしますよね。

 安倍さんの場合、靖国神社の参拝をやめたり、中国との関係をよくしたり、あるいは韓国との関係も一時はよくしたりしたことがあったけれど、そのことに対しても、「安倍ちゃんだからしょうがない」って言っていた応援団の人たちがいます。この人たちは、新政権に対しては批判を強めてくる可能性はありますね。

佐藤:僕はね、安倍さん、よく頑張ったと思いますよ。これ皮肉じゃなくて。辞めたいと言っても辞めさせてもらえないような状況が続いていましたから。総理大臣になるのは簡単じゃないけど、辞めるのはもっと簡単じゃないんです。主体はシステムですから。システムが辞めることを簡単に許してくれないんですよね。

 ただそのシステムが、どういう方向へ向かっているのか。もっと端的にいうと戦争に向かっているのか、それとも戦争の阻止に向かっているシステムなのか。格差を拡大している方向に向かっているのか、縮小に向かっているシステムなのか。それが曖昧模糊としていて見えない。だから、安倍政権とは何だったのかと一言でいった場合に、なかなか説明できないんです。

池上:なるほど。国内に関していうと、例えば最初のアベノミクスの三本の矢っていうのがあったでしょう。黒田東彦・日銀総裁に、大量にお札を刷らせて、それによってとにかく金利を下げ、あるいは円安に持っていくという。とりあえず結果は出ましたが、その後の新しい三本の矢についてはみんな覚えてない。さらには女性活用社会をやろうとしましたが、「いやいや女性活用ってまずいよ、活躍にしようよ」っていって女性活躍社会を提言しました。

佐藤:何か撤退を転進と言い換えるみたいな感じですね。

池上:そうですね。そうしたら今度は、「いやいや、高齢者も働かせなきゃいけない」って、一億総活躍社会。「一億火の玉」ってありましたけど、今どき一億かよって。一億火の玉って言っていたころは、日本の人口は1億人いなかったんですが、一億総活躍社会の時の人口は、1億2700万人です。

佐藤:2700万人見捨てるっていうことに取られかねないですよね。

池上:そうそう。安倍政権は、このように次々に新しいスローガンを打ち出すんですよ。それによって前のスローガンがどうなったかっていうことを、いつの間にか忘れてしまう。国民に忘れさせて、常に何か新しいことに挑戦している、やっている感というのを非常にうまく打ち出していました。最初の三本の矢以降のことは全く検証されないまま、今に来ているんです。

■コロナの不安がより安定を求める

──安倍政権の問題点も検証されないまま、安定を望むというだけで継承が重視されていいのでしょうか。

池上:混乱より安定という意味で、国民も今のところ菅さんを歓迎しているようです。これらの現象を見ていると、こういう国民の意識があったからこそ自民党は長期に続いてきたんだなっていうのが見えてきます。こういうことをやってるから、どんどんゆでガエルになって日本はダメになっていく。じゃあその代わりにオルタナティブな選択肢があるのかっていうことになると、選択肢がないから、仕方なしに消極的にこうなる。コロナによって不安になっているときに変えないほうがいいよっていう、そういう意識によって支えられているんだろうなって思うわけですね。

佐藤:ある種の脅迫ですよね、これは。俺たちが辞めてもいいのか。混乱が残るぞ、それでもいいのならと。

池上:菅政権になった時って、巨人ファンに言わせれば「長嶋茂雄がいない長嶋巨人」なんですよ。長嶋茂雄が監督になったとたん、巨人は最下位に落ちるわけですね。私の好きな例で言えば、山本浩二なき広島カープです。山本浩二が監督になっちゃうと、選手に山本浩二がいないものですから、じり貧になっていくという。

 菅さんが官房長官だから、いろんなことが成り立っていたり、スキャンダルを無理やり封じ込めたりということができていた。今度はそれを支える官房長官が誰か。菅さんほどの人間がいないことによって、非常に菅内閣っていうのは不安定になるんじゃないかなと思います。

佐藤:私は菅さんがスキャンダルなどのいろんなものを封じ込めていたっていうのが実像なのかって思っているんですね。その点においては、内閣特別顧問の北村滋氏の存在が大きいと思うんです。でも、その動きが菅さんの陰で見えていなかった。北村さんは次の政権でもたぶん残留すると思うんです。国家安全保障局長だけどインテリジェンスも政権の防衛もやる。菅さんがいなくなったことで、それが見えるようになってくる。そうすると政治家や官僚の嫉妬を買いやすくなる。これが結構大変かもしれないですね。

(構成/編集部・三島恵美子)

※記事の続きは「AERA 2020年9月21日号」




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