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週のはじめに考える 専守防衛を穿つ安保法(2020年9月20日配信『東京新聞』-「社説」)

 安全保障関連法成立から5年。この間、自衛隊は「調査・研究」名目で中東に派遣され、「憲法の趣旨でない」とされた「敵基地攻撃能力の保有」に向けた議論も進みます。安保法は「アリの一穴」をさらに穿(うが)ち、「専守防衛」の防波堤を崩壊させつつあります。
    ◇    ◇
 アリの一穴とは、どんなに堅固に築いた堤も、アリが開けた小さな穴が原因で崩落に至ることがある、ささいなことが大事を引き起こす、という趣旨の格言です。

 日本の政治では、自衛隊の海外派遣に危惧を示す言葉として、しばしば使われてきました。

◆後藤田氏「アリの一穴」

 イラク軍がクウェートに侵攻した1990年の湾岸危機。当時の海部内閣は米国から貢献策を求められ、自民党から自衛隊の中東派遣を求める意見が出ていました。

 これに慎重意見を唱えたのが、中曽根内閣で官房長官を務めた後藤田正晴氏です。中日新聞の愛知県版に掲載された海部俊樹元首相の回想録から引きます。

 <中には「日本はこれまで自衛隊の海外派遣を我慢してきたんだから、千載一遇のチャンスだ」なんていう不穏当な発言もあった。
 タカ派は声が大きいから「派遣論者」が多く見えたが、実際には慎重派もたくさんいた。代表は、元副総理の後藤田正晴さん(2005年死去)だ。私の事務所に何度も足を運び、あのこわもてで「海部君、アリの一穴になるぞ」と言った。

 ひとたび自衛隊を派遣すれば、歯止めがかけられなくなることを格言を使って戒めた。

 私自身、そのときは自衛隊を派遣するつもりはなかった。というのは、国民のアレルギーが根強かったからだ。自衛隊は戦力の不保持を定めた憲法九条に違反している、と主張する野党もあったほど。世論は成熟していなかった>

◆海外派遣の法律次々と

 後藤田氏は中曽根内閣当時も海上自衛隊の掃海艇派遣に反対しました。ひとたび自衛隊を海外に派遣すれば歯止めがかけられなくなる、というのは軍隊の暴走と国家の崩壊を目の当たりにした戦争体験者の信念だったのでしょう。

 海部内閣は停戦発効後ですが、機雷除去のために掃海艇を派遣します。振り返ればこれが「アリの一穴」だったのかもしれません。

 その後、自衛隊の海外活動のための法律が次々と成立します。

 次の宮沢喜一内閣当時の1992年には国連平和維持活動(PKO)協力法、2003年に起きたイラク戦争ではイラクで人道支援や多国籍軍支援を行うイラク復興支援特別措置法、「テロとの戦い」ではインド洋で米軍などへの給油活動をするテロ対策特措法です。

 そして安倍前政権は5年前の15年9月19日、安保法の成立を強行しました。歴代内閣が憲法違反との見解を堅持してきた「集団的自衛権の行使」を、一内閣の判断で容認に転じ、他国同士の戦争への参加を可能にする内容です。

 すでに開いていた小さな穴は相次ぐ自衛隊の海外派遣で大きく広がり、戦後日本が貫いてきた「専守防衛」という防波堤は、決壊するか否かの岐路に立っています。

 振り返れば、安保法以前の安保論議は、歴代内閣が継承した憲法解釈の下で、自衛隊の活動をどう拡大するかが主眼でした。

 しかし、安保法を巡る論議は、憲法解釈そのものを政権の意のままに変える点で、日本の従来の安全保障論議とは全く異なります。安保法の成立強行は、安保論議を根本から変えてしまったのです。

 その影響はすでに出ています。「敵基地攻撃能力の保有」を巡る議論です。きっかけは地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」(地上イージス)配備の撤回です。生じるミサイル防衛の「空白」を敵の発射基地を直接攻撃する能力を持つことで埋めようというもので、安倍前首相は引き際の談話で「ミサイル阻止に関する安保政策の新たな方針」を年内に出すよう求めました。

 敵基地への攻撃について、歴代内閣は「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」と憲法が認める自衛の範囲内とする一方、実際に攻撃できる装備を持つことは「憲法の趣旨ではない」としてきました。

◆敵基地攻撃力の違憲性

 国際情勢の変化に応じた安保政策の見直しは当然ですが、憲法の範囲内というのが大前提です。 

 安保法と同様、憲法解釈変更で敵基地攻撃能力の保有に転じれば戦後日本の専守防衛政策から大きく外れます。憲法解釈を政府が自在に変えて、自衛隊の活動範囲を広げることなど許されません。

 専守防衛は戦争への反省と同時に、国際社会に対して私たち日本国民の誇り高き生き方を示すものです。菅義偉内閣は安倍政治の継承を掲げるとはいえ、悪(あ)しき部分は引き継いではなりません。




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Author:gogotamu2019
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