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ゆがめられた憲法 権力の強化、押し戻すには(2020年9月22日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 必ずや私の手で成し遂げたい―。7年8カ月にわたって政権を率いた安倍晋三氏は折あるごとに繰り返してきた。宿願の改憲を、首相である自身が主導するかの強引な姿勢が際立った。

 後任に就いた菅義偉首相は、安倍政権の継承を掲げる。改憲について、安倍氏のような意気込みを示してはいないが、党是としてきた自民党の総裁として挑戦したいと述べている。

 明文の改憲こそ成されなかったものの、安倍政権の下で憲法はその根幹を掘り崩されてきた。平和主義や個の尊厳の足場が揺らいでいる現状に目を凝らし、政権と与党の動きを引き続き注意深く見ていかなくてはならない。

 歴代の政権が違憲としてきた集団的自衛権の行使を容認したことは、憲法9条の平和主義を変質させる、力ずくの「解釈改憲」だった。日本が武力攻撃を受けていない段階で武力の行使を認め、安全保障法制によって自衛隊の任務と活動を大幅に拡大した。

   <自由を圧する立法>

 事実上の空母が配備され、装備の面でも専守防衛からの逸脱はあらわだ。攻撃を受ける前に相手のミサイル発射拠点を破壊する敵基地攻撃能力の保有論が、ここへ来て大きくせり出している。

 自由への圧迫も強まった。特定秘密保護法は、政府が持つ広範な情報を秘匿し、漏えいや取得に重い刑罰を科す。国民の知る権利を妨げ、報道や言論の抑圧に使われかねない危うさは、戦時下の治安法に重なり合う。

 共謀罪法にもその色は濃い。幅広い犯罪について、計画しただけで処罰の対象とし、合意した全員に網をかける。個人の言動が見張られ、思想の取り締まりに結びつく恐れさえある立法だ。政府への批判を封じる武器になり得る。

 安保法制も、秘密法、共謀罪法も、政権与党が異論を押し切り、数を頼んで成立させた。一方で、憲法に基づく野党からの臨時国会召集の要求は、幾度となくたなざらしにされてきた。

 国会議員は全ての国民を代表する。国会の議論を軽んじる政権、与党の姿勢は国民主権を損なう。政府の権限行使に歯止めをかける役割を国会が果たせなければ、権力の肥大化は防げなくなる。

   <揺らぐ「法の支配」>


 個人の尊重を核に据え、人権と自由を守るために権力を法で拘束する―。憲法の基底にある「法の支配」の原理そのものが、縛りを払いのけるような安倍政権の振る舞いによって脅かされてきた。

 首相や閣僚、国会議員は憲法を尊重し、擁護する義務を負う。強い権限を持つ首相の責務はとりわけ重い。しかし、改憲の旗を振り続けた安倍氏に、その責務を顧みる姿勢はうかがえなかった。

 2017年には、自衛隊を明記する改憲案を唐突に示し、「20年を新しい憲法が施行される年にしたい」と期限を区切った。その後、国会には改憲を議論する義務がある、とまで述べている。

 改憲の手続きに関して憲法は、内閣の権限に何も触れていない。国会が発議し、国民の投票で決める。議論を国会に義務づけるような条文もない。

 党総裁の立場はあるにせよ、政府の長である首相が国会に圧力をかけるかの言動は、権限を逸脱する。法の支配に服する為政者の意向によって、憲法の改定が方向づけられてはならない。菅氏はどう認識しているか。厳しい目を向けていく必要がある。

   <個の足場を固める>

 自民党は、自衛隊の明記をはじめ4項目の改憲条文案を18年にまとめたが、国会には提示できていない。改憲ありきで野党を議論に引き込もうとすることにそもそも無理がある。

 自衛隊の明記は、安保法制を改憲によって追認し、さらなる軍備拡張に道を開きかねない。他の項目も、憲法を改める理由は見いだせない。緊急事態条項は、憲法を無効化できる強大な権限を政府に与え、全体主義の台頭を招いたことを歴史が教える。

 下地にあるのは、12年に公表された改憲草案だ。現憲法を全面改定するこの草案に自民党が目指す改憲の方向が見て取れる。

 権利全体に「公益及び公の秩序に反してはならない」と枠をはめた。人権の主体である「個人」は「人」に置き換えられている。個人の人権と自由の前に、国家が大きく立ちはだかる。

 4項目の改憲案は、突破口と見るべきだろう。言論や思想の統制につながりかねない立法が安倍政権下で続いたことと合わせ、国家主義が再び姿を現しつつある状況を見据えなくてはならない。

 権力の強化を図ろうとする動きを押しとどめ、憲法をないがしろにしない政治をどう取り戻していくか。個の尊厳と自由を確保し、民主主義の足場を立て直すために、主権者としてそれぞれが明確な意思を示したい。




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Author:gogotamu2019
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