FC2ブログ

記事一覧

児童虐待~連鎖の軛 第2部(1) 3歳放置死 重なる過去 母も虐待被害、つながり断ち孤立(2020年9月22日配信『産経新聞』)

キャプチャ
梯稀華ちゃんが1人残されていた自宅。部屋の中にはごみが散乱している様子が見え、引き戸のガラスにはひびが入っている=8月、東京都大田区(西山瑞穂撮影)

キャプチャ2

 山々に囲まれるように田畑が広がる宮崎県中部の高岡町。平成18年に宮崎市に編入された人口1万人あまりの小さな集落で約20年前の夕暮れ、5歳ほどの少女が県道脇に1人でたたずんでいた。

20年前の涙

 「何しよっと」。近所の女性の問いかけに、少女は涙ぐみながら「家の玄関のドアが閉まっていて入れないの」と訴えた。見かねた女性が親族宅に連れ帰っておにぎりを与えると、腹をすかせていたのか、少女はうれしそうに頬張った。

 それから20年。大人になった少女は、保護責任者遺棄致死の疑いで警視庁に逮捕された。梯(かけはし)沙希容疑者(25)。今年6月、知人男性に会いに鹿児島へ行くため、東京都大田区の自宅に3歳の長女、稀華(のあ)ちゃんを8日間も放置して死亡させたとされる。

 1LDKの自宅マンションの6畳の部屋で、散乱するごみに囲まれるように亡くなっていた稀華ちゃん。部屋の間仕切りは外側からソファでふさがれ、ベランダの窓は施錠されていた。

 死因は飢餓と脱水。母親に置き去りにされた稀華ちゃんは誰にも助けてもらえず衰弱していったとみられる。なぜ、これほどまでにむごたらしい事件が起きたのか。沙希容疑者の生い立ちをたどると、背景が浮かび上がってくる。

 知人らによると、沙希容疑者は20年ほど前、高岡町の2階建て住宅で、実母と継父、弟と暮らしていた。「色白でかわいらしく、人懐っこい明るい子だった」(近隣住民)という。

だが、母親と一緒にいる姿はほとんど見られなかった。自宅からは「バシン、バシン」という音が漏れ、「痛い」と女の子の泣く声も聞こえた。自宅に入れずにいたのもこの頃だ。

 しばらくして、一家は同県都城市に転居。そこで両親が小学2年生となった沙希容疑者の顔を殴ったり、ビニールテープで縛ったりしていたことが発覚し傷害容疑などで逮捕された。

 虐待事件を機に両親は離婚。沙希容疑者は児童相談所(児相)に保護され、県内の児童養護施設で高校まで過ごした。卒業後に上京して就職し、以前は週に1度会っていた親族とも疎遠になった。親族の男性(76)は「籍まで抜いたようだ。関係を切りたかったんだろう」と振り返る。

 自らつながりを捨てた沙希容疑者。21歳で稀華ちゃんを出産後、交際男性と結婚するが、ほどなく離婚。それでも稀華ちゃんを保育園に入れ、居酒屋で働きながら子育てに励んだ。

 だが、頼る人のいない東京での生活の中で、ネグレクト(育児放棄)の傾向を強めていく。稀華ちゃんに2歳児健診を受けさせず、昨年3月に保育園も退所させた。パチンコ通いが続き、未明に帰宅するようになった末に悲劇は起きた。

行政と接点


 「親子だけの閉じられた世界では、虐待を止めるのは難しい。沙希容疑者も頼れる親族や友人がおらず、追い詰められたのではないか」。関西大の山縣文治教授(子供家庭福祉)はこう推察する。

 異変に気付くチャンスはあった。2歳児健診に続き、法定の3歳児健診も未受診だったため、5月に大田区の担当者が家庭訪問。だが、このときも沙希容疑者が鹿児島に行っており、生活状況は確認できないままになっていた。

 ベランダからでも、室内にごみが散乱するなど劣悪な環境がうかがえる状態だった。にもかかわらず、なぜ継続して様子を見続けなかったのか。大田区は取材に応じておらず、理由は分からない。

 厚生労働省によると、児相への通告件数は年々増加しているが深刻な事態に陥るケースでは児相の関与がないことが多い。平成29年度に心中以外の虐待死が起きた50世帯のうち、児相が事前に関与していたのはわずか16%だった。

 しかし、健診や各種手当の支給などで出産・子育て世帯と関わる市区町村との接点も含めると、割合は一気に増える。同年度は少なくとも58%の家庭に、児相や市区町村などが何らか関与しており、過去10年間でみると、70%を超えた年が5回もあった。つまり、市区町村はそれだけのきっかけがありながら虐待を未然に防ぐことができなかったと言い換えることができる。立ち入り調査や一時保護などの権限を持ち、虐待対応の「最後の砦(とりで)」となる児相が関与する前に、虐待の芽を摘まなければ悲劇は繰り返される。

 ただ、市区町村の職員の数にも限りがある上、行政からの関わりに抵抗感を示す家庭もある。山縣教授は「行政だけの態勢では限界がある」と指摘。「民間が窓口となって行政が緩やかに孤立家庭と関わっていくなど、社会全体で支援できるような仕組みが必要だ」と訴える。

 幼少期の虐待被害を経て孤立を深め、「虐待の連鎖」にからめとられてしまった沙希容疑者。逮捕後、「子育てに疲れ、リラックスしたかった」と供述し、現在は犯行時の精神状態を調べる鑑定留置中だ。

 約20年前、1人でたたずむ沙希容疑者に声をかけた70代女性は後悔している。「あのとき役場の人でも近所の人でも、誰かがあの家の相談に乗っていれば、今回の事件も起きなかったかもしれない。一言声をかけていればよかった」


 
 深刻化する児童虐待の対策などを取りまとめた児童虐待防止法が施行され、11月で20年となる。この間、虐待の通告件数は増え続け、幼い命が犠牲になるケースは後を絶たない。介入に追われる児相が逼迫(ひっぱく)するなか、家庭により近い市区町村による従来型の「支援」にも限界がみえる。解決策はあるのか。現場を追った。



児童虐待~連鎖の軛 第2部(2) 生かしきれぬ情報 未然防止へ鍵握る市区町村➡ここをクリック

児童虐待~連鎖の軛 第2部(3) 子供食堂で見守り 問われる自治体の覚悟➡ここをクリック




スポンサーサイト



プロフィール

gogotamu2019

Author:gogotamu2019
障害福祉・政治・平和問題の最新ニュース・論説紹介

最新記事

カテゴリ