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児童虐待~連鎖の軛 第2部(2) 生かしきれぬ情報 未然防止へ鍵握る市区町村(2020年9月23日配信『産経新聞』) 

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住民と接する機会が多く、扱う情報も多岐にわたる市区町村が、児童虐待の未然防止の鍵を握る(恵守乾撮影、写真は本文と関係ありません

 西日本にある政令指定都市の区役所。子育て支援の担当課に勤務する伊藤健司さん(43)=仮名=は2年前の7月、児童手当の申請窓口で順番を待つ女性の顔を見てはっとした。「どこかで会ったことがあるはずだが…」

 児童手当の給付業務は担当外だが、気になった伊藤さんは窓口の担当者にこっそり頼み、提出された現況届を確認した。そこに記されていたのは、5年前までケースワーカーとして働いた児童相談所(児相)時代に関わった笠松詩織さん(29)=同=だった。

 笠松さんは妊娠しても一度も病院に通わず、自分だけで自宅分娩(ぶんべん)を繰り返していた。ネグレクト(育児放棄)の傾向もあり、児相は当時いた3人の子供のうち2人を保護。長女と2人暮らしとなり、児相は継続して家庭の様子を見ようとしたが、なかなか連絡が取れず苦労した記憶があった。

 その笠松さんが区役所に来ている。念のため、児相に電話すると、担当者は慌てた様子で「すぐに本人と電話をかわってほしい。1年近く連絡が取れていない」と訴えた。

 その後、笠松さんが約1カ月前、児相も知らないうちに自宅で女児を出産していたことが判明した。暴行などの痕跡はなかったが、子供を隠すような様子からは、十分な育児は期待できない。児相は生後1カ月の女児を保護し、見守りを再開した。

支援拠点整備へ

 家庭状況を把握し、深刻な虐待に至る前にリスクを取り除く。児童虐待対策の中でも未然防止は最重要課題だが、その鍵となるのは児相よりも、日ごろから住民と接する機会が多く、扱う情報も多岐にわたる市区町村だ。

 中でも子育てに関する手当は問題を抱える家庭にとって重要度が高く、たとえ行政との間にわだかまりがあっても、親の方から受給を断ち切る可能性は低い。笠松さんがまさにそのケースで、最悪の事態を防いだ格好となった。

 ただ、児相勤務の経験がある職員が窓口でたまたま知っている母親を見かけ、動いた結果でもある。必要なのは、「偶然」と「個人の資質」に頼らずとも機能する未然防止の仕組みだ。

 その一つの形として、平成28年の児童福祉法改正では、市区町村に「子ども家庭総合支援拠点」を新たに整備することが努力義務として盛り込まれた。

 虐待をめぐっては本来、住民に身近な市区町村が家庭を支援する中で、比較的軽度の事案に対応し、生命の危険もあるような事案には、より専門性の高い児相があたるという形が理想。しかし、市区町村の体制の脆弱(ぜいじゃく)さから児相に業務が集中してしまっているのが現状だ。

 そこで、支援拠点を設置して市区町村の体制を強化した上で、日常的な家庭支援に加え、各家庭の実情を把握することで虐待を未然に防ぐ「予防的アプローチ」を兼ね備えることが想定されている。深刻な事案に対応する児相との役割分担を明確にすることで、児相の負担減も狙う。

 子供の人口に応じ、保育士や社会福祉士の資格を持った専門員を一定数常駐させることが設置条件。厚生労働省は令和4年度までに全約1700市区町村での設置を目標に掲げるが、人材確保も壁になり平成31年4月時点で、283市区町村にとどまっている。

網を広げる工夫

 国の旗振りの下、今後支援拠点は増えていくとみられるが、支援拠点の課題は人材不足だけではない。伊藤さんの上司である長谷良子・子育て支援課長(51)=仮名=は「国から支援拠点の大枠の目的や役割は示されているが、具体的な運用は各自治体に任されている」と指摘する。長谷さんの自治体もこれから支援拠点を設置するが、「国が看板を掲げるだけで満足し、現場が運用方法を誤れば支援拠点も形骸化してしまう」と危機感を示す。

 重要なのは、プライバシー保護などを理由に、各部署で抱え込まれがちな情報を、横断的に集約すること。児童手当や生活保護などの給付状況、保育園や小学校での様子から水道の使用状況まで、市区町村には家庭に関するさまざまな情報がある。それらは、家庭に潜む虐待リスクを見抜くための武器になるが、縦割りの行政組織では、情報を生かすことはできない。

 すでに、長谷さんの自治体では、ひとり親家庭に給付される児童扶養手当の運用の工夫によって、虐待への「網」を張っている。

 手当の更新月の8月、家庭の相談・支援の担当者が連絡が取れない家庭を事前に選別し、給付の窓口担当の職員にリストを渡す。手当の申請や延長は、親が必ず区役所を訪れて書類を提出しなければならず、リストに記載されている親が窓口を訪れれば知らせてもらう。

 職員がリスクを抱える家庭に接触する機会を作る仕組みによって、伊藤さんが笠松さんに気付けたようなケースを漏らさずすくえるようになる。「経験豊富な職員が大勢いれば個人の能力でカバーできるが、市区町村には人材が不足している。現時点では、それを踏まえて仕組みづくりをしなければならない」と長谷さんはいう。

市区町村が虐待の芽を一つでも多く摘み取れれば、児相は他の深刻なケースに集中できる。虐待対応の好循環は幼い命が奪われるという悲劇を根絶させるはずだ。限られた人員の中で未然防止のための目の細かい網を広げる工夫は、好循環を生み出す第一歩になる。



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