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児童虐待~連鎖の軛 第2部(3) 子供食堂で見守り 問われる自治体の覚悟(2020年9月24日配信『産経新聞』)  

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兵庫県明石市のこども食堂「レストランつながり」。子供の変化を察知する拠点にもなっている=8月(寺口純平撮影)

 「おいしそう。いただきます」。8月末、兵庫県明石市の魚住市民センターには小学生から中学生の子供約15人と親たちが集まり、夕食のカツカレーを食べたり、折り紙やおしゃべりをしたりして楽しんでいた。子供であれば無料で参加できる子供食堂「レストラン『つながり』」だ。

 2つの小学校区を対象にそれぞれ月1回、地元の民生児童委員の協議会が開催。案内チラシは学校で全ての子供に配っている。

 協議会会長の松原由美子さん(76)は「食堂をきっかけに子供やお母さんと顔の見える間柄になれた。まちで子供に呼びかけられるのはうれしいし、食堂にも来られない心配な子供の情報も集まりやすい。子供を見守っていくのは地域の責任だと思う」と話す。

 悲惨な虐待から子供を守るには、児童相談所や警察が介入する前の未然防止が重要となる。それには日ごろから子供の様子を見守ることが大切だが、明石の子供食堂は子供の変化を察知する「気づきの拠点」となっている。

ぎりぎりの生活

 「家庭の状況がしんどくなっているのかもしれない」。市内の子供食堂から1年前、明石市の児童相談所「明石こどもセンター」に、ある母子家庭についての連絡があった。

 精神疾患のある母親と小学生の直樹くん=仮名=の2人暮らし。市は数年前から、1週間を目安に子供を預かって母親の負担を軽減するショートステイのサービスなどを使って支援し、子供食堂には見守りを依頼していた。

母親には当初からネグレクト(育児放棄)の傾向があった。さらに、子供食堂で直樹くんが毎回のようにおかわりし、ご飯を持ち帰ることにスタッフが違和感を覚えたのだ。

 同センターの職員が家庭訪問すると、母親は「体調が悪化している」と訴えた。これまでは直樹くんと離れることに難色を示していた母親だが、限界に達していた。「無理をしなくていいんだよ。いったん休もうか」。職員の提案に親子は同意。一時保護された直樹くんは、母親の回復を待ち、今も里親のもとで暮らしている。

 当時所長だった明石市の佐野洋子福祉局長は「虐待が起きる家庭はぎりぎりのところで生活している。行政はさまざまな手段で家庭の状況を知ることができるが、それでも変化に気づくのには限界がある。普段の様子を見て、寄り添ってくれる地域の力は本当に大きい」と話す。

少ない公的支出

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 貧困対策や居場所づくりなどを目的に全国に広がる子供食堂。NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の昨年の調査によると、民間団体などが設置する子供食堂は昨年までの1年間で1・6倍に増え、全国約3700カ所に上る。

 明石市でもこの4年間でゼロから44カ所に拡大。全国の自治体で初めて、全小学校区に設置された。ここまでの急速な広がりが可能になったのは、行政の手厚い支援があったから。明石市は立ち上げ資金だけでなく、開催費用として全ての子供食堂に毎回2万円を助成しているのだ。

子供のためにこそ予算は使うべきだ-。同市のまちづくりの根幹にはそんな信念があるが、日本全体をみると、子供にかける予算は多くはない。

 経済協力開発機構(OECD)の2015年のデータでは、出産や育児への給付金といった家族への公的支出にあてる金額は、先進37カ国の平均でGDP(国内総生産)の2%。欧州などでは3・5%前後の国もある中、日本は1・3%にとどまる。

 明石市の泉房穂市長(57)は「子供や家庭に予算を使わないしわ寄せで、虐待や貧困が顕在化してきた。今の時代の子育ては大変。ならば行政は、そこに予算と職員をシフトしていくべきだ。それが政治の役割だ」と訴える。

新たな価値観で

 10年目を迎えた泉市政では、公共工事などを減らしつつ、子供関係の予算を2倍、職員は3倍に拡大。予算は一般会計の2割超を占め、所得制限なしに保育料や子供の医療費を無償化するなど、子育て負担の軽減策を実施する。昨年4月には中核市では3例目となる児童相談所も設置した。

 育児への不安や困窮は虐待につながるリスクとされ、家庭支援の充実は、長期的にみれば最重要の未然防止策となる。一方、福祉に多くの予算を使うことに「ばらまき」との批判もつきまとい、都市基盤整備への支出が抑えられたことなどに対し大きな反発があった。

 しかし、継続すると子育て世帯の流入で人口は増え、国内で少子化が進む中で合計特殊出生率は全国の1・36を大幅に上回る1・70に上昇。税収増などで財政も健全化し、むすびえ理事長で、東京大特任教授の湯浅誠氏は「明石市の事例は、子育てへの財政シフトを徹底すれば虐待予防が期待できるだけでなく、まちづくりにも成功することを実証した」と評価する。

ただ、このような施策が全国に広がるまでのハードルは高いと湯浅氏は考える。「子育ては親の責任という考えは簡単には変わらず、子育て施策は選挙の票にもなりにくい。覚悟を持って取り組む自治体が増え、国が後押しすることで、ようやく新たな価値観は社会に浸透していく」

 虐待の連鎖を断ち切る道は見えている。その道を歩み出すか。選択が突き付けられている。



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