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昔のことわざに「印形は首と釣り替え」というのがある…(2020年9月25日配信『毎日新聞』-「余録」)

 昔のことわざに「印形(いんぎょう)は首と釣り替え」というのがある。はんこを押すのは首と引き換えにするくらいの覚悟が要るという意味である。めったなことで判を押してはいけないと、その重大さを戒めたのだ

▲つまりは、押印をあまりしない庶民にもはんこが行き渡っていたのだ。江戸時代の中ごろには農民らもそれぞれにはんこを持っていたようだ。幕府が作らせた当時の隣保(りんぽ)組織の誓約書である五人組帳の連名連印でそれが分かるという

▲そんな昔からの「はんこ社会」も大きな曲がり角を迎えたようだ。デジタル化や規制改革を掲げる菅(すが)新政権の河野太郎(こうの・たろう)行政改革担当相が「はんこをすぐになくしたい」と言えば、平井卓也(ひらい・たくや)デジタル改革担当相もすぐさま賛意で応じた

▲この間のテレワークでは押印のために出社するムダがやり玉に挙がり、ウィズコロナ社会の脱はんこ化の課題を浮上させた。小欄がそれに触れた5カ月前には政府のIT担当相がはんこ議連の会長だったのを思えば、様変わりである

▲この夏に決まった政府の「骨太の方針」でも「書面・押印・対面」を不要とする目標が掲げられた。ただし、押印に代わるシステムの費用をどれだけの中小企業が負担できるかなど、ビジネスや行政の各場面での課題も少なくはない

▲「首と釣り替え」という重みのある決裁や誓約の「はんこ文化」は、これからもさまざまな儀礼で残せるだろう。コロナ禍から生まれた、企業や行政の効率的で軽快な組織文化の方は今から未来へと伸ばしたい。




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