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(論)不妊治療支援に関する論説(2020年10月13・14・22・30・11月1・15・16・2021年1月12日・4月5日)

不妊治療の実態 費用だけの問題ではない(2021年4月5日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 政府が来年4月からの公的保険適用拡大を目指す不妊治療を巡って、さまざまな課題が改めて浮き彫りになった。厚生労働省が医療機関や当事者を対象に行った実態調査を公表した。

 高額な費用に加え、心理的負担の大きさや、支援の不十分さがうかがえる内容だ。適用範囲の議論とともに、利用しやすい環境づくりを進める必要がある。

 不妊治療は費用が自己負担となる自由診療にもかかわらず、結婚年齢の高齢化を背景に一般化してきた。今では夫婦の5・5組に1組が治療を受け、16人に1人が体外受精で生まれている。

 保険適用までの間として助成制度が拡充されているが、経済的な負担は依然として重い。

 調査結果では、卵子を取り出して受精させる体外受精の費用は平均1回50万円で100万円近い事例もある。受ける回数は平均3・7回で10回以上の人もいる。負担にばらつきがあるのが実情だ。

 保険が適用されれば、自己負担は3割で済む。治療方法も平準化され、同じ医療行為なら費用も同じ。経済力が乏しい若い世代でも利用しやすくなるだろう。

 ただ現実には治療方法が多岐にわたり、使う薬剤も国内未承認が多い。保険適用の治療だけでは望む治療が受けられない可能性がある。自由診療と混合した場合にどう扱うかの議論が必要だ。

 心理的な負担も見過ごせない。調査では、治療が妊娠に結び付いていない男女の各2割、妊娠したが出産に至らなかった女性の4割が重度の負担を抱えていた。他人の妊娠を喜べないといった感情を持つ人も多い。

 一方で、都道府県などが設置する専門相談センターの利用は1割弱だ。当事者の心に目配りし、ケアにつなげる仕組みが要る。

 不妊治療に入ると通院を繰り返すことが多い。医療機関が少ない地域では遠距離通院を余儀なくされる。検査や薬剤の投与で体調を崩すこともある。働いている場合は、職場の支援が欠かせない。

 調査によると、治療に使える休暇制度など勤務先の支援策について、男性の6割、女性の7割が「ない」と回答している。

 これでは当事者が声を上げづらくなり、不妊治療への理解も広がらない。職場での講習や周知の機会を設けて、仕事と両立できる支援態勢を整えたい。

 同時に、保険適用が出産を求める圧力につながってはならない。あくまで子どもを望む人のためと心得ておきたい。





がんの不妊対策 治療後も見据え長期的支援を(2021年2月1日配信『読売新聞』-「社説」)

 高額な費用負担が壁となっていただけに、若いがん患者には朗報だ。がん治療医と不妊治療医が連携し、息の長い支援を行う体制を整えたい。

 政府は来年度から、がん治療に伴って生じる不妊に備え患者の卵子や精子を凍結保存する費用を助成するという。菅内閣が掲げる不妊対策の一つだ。年間7000人の活用を見込み、来年度予算案に11億円を計上した。

 抗がん剤や放射線の治療を受けると、不妊になる場合がある。治療前に卵子や精子を採取し、既婚なら受精卵として、未婚ならそのまま凍結する。小児がんでは卵巣などの保存も行われている。

 助成額は、費用の半分から3分の2程度とされる。若い世代は所得が低く、がんの治療費もかさむため、これまで凍結保存を諦める患者が多かった。今回の措置は、治療に臨む患者の心理的な負担を和らげることにもつながろう。

 がん患者の不妊対策は、日本癌がん治療学会が2017年、がんの種類や進行度別に対応指針を定めてからがん治療医にも浸透してきたが、十分とは言えない状況だ。

 凍結保存の選択肢を事前に知らされず、機会を逸した患者もいるという。がん治療医は、対象となる患者に必ず不妊治療の情報を提供するようにしてほしい。

 その際には配慮が要る。凍結保存の決断は、がんの診断から治療開始までの短い間に迫られ、告知後の不安の中、患者や家族の心は揺れ動くからだ。医師には丁寧な説明を心がけてもらいたい。

 患者の相談にのる専門の心理士や看護師らを養成する動きもある。人材の育成が急がれる。

 政府や都道府県は、治療の質を確保するため、卵子や精子の採取を行う医療機関を認定する方針だ。長期間、安全に凍結保存ができる施設の整備が必要だ。

 患者が不妊治療を続けられなくなった時点で保存した卵子や精子を廃棄することや、未成年の場合は成人後に再度、保存を続けるかどうかの意思確認を行うことなどルールの徹底が求められよう。

 助成を受けた患者を登録し、がん治療への影響や妊娠率を追跡調査するという。歴史の浅いがん患者の不妊治療について、長期的なデータを蓄積し、安全性や有効性の知見を高めねばならない。

 凍結保存はゴールではない。がん治療後に不妊治療が始まる。仕事や結婚生活に関わる問題もある。政府は、治療だけでなく、がん患者が抱える生活上の困難にも目配りすることが大切だ。





不妊治療 保険適用の制度設計を丁寧に(2021年1月12日配信『読売新聞』-「社説」

 不妊治療に望みをかける夫婦にとって、経済的な負担の軽減は朗報となろう。公的医療保険の適用に向け、政府は入念に準備してほしい。

 政府が不妊治療の支援に関する工程表を決めた。従来の助成制度を拡充した上で、2022年4月の保険適用を目指すという。

 晩婚化に伴い、不妊に悩む夫婦は増えている。菅首相が少子化対策の一環として、積極的な支援を打ち出したことは評価できる。

 助成は、代表的な治療法である体外受精や顕微授精を対象とし、これまで初回30万円、2回目以降は15万円を補助していた。今月から一律30万円に引き上げ、夫婦の合計所得が730万円未満という条件も撤廃した。

 厚生労働省によると、体外受精などには37万~58万円かかるが、1回では妊娠に至らず、何度も治療を重ねるケースが多い。実態に即した適切な見直しだろう。

 所得制限のために助成を受けられず、貯金を取り崩して治療費を捻出する人も少なくなかった。共働き世帯が増える中、対象者の拡大は前進と言える。

 政府は、22年からの保険適用に向け、年内に制度を設計する予定だ。関連学会が夏に定める診療指針を踏まえ、標準的な治療法や診療報酬を決めるという。

 保険適用が実現すれば、患者の金銭的な負担は軽くなる。また、診療指針が示されることで、有効性や安全性が確立した治療法が普及することが期待されている。

 現状では、医療機関によって治療法や使用する薬剤にばらつきが生じていた。治療実績が透明化され、患者が医療機関を選びやすくなる効果もあるのではないか。

 医療保険制度では、保険外診療を同時に行う混合診療は原則として禁止されている。だが、政府は、長く保険外だった不妊治療については併用を認める考えだ。

 保険の対象範囲をどこまで認めるかが焦点となる。適用される治療法が限られていれば、患者の選択肢は狭まりかねない。一方、対象を広くすれば、保険財政の支出が膨らむ懸念がある。

 政府は、当事者や専門家などの意見を丁寧に聞き、適切な仕組みを構築しなければならない。

 治療を受ける人への支援で重要なのは、金銭面だけでなく、仕事と両立できる環境づくりだ。通院が頻繁なため、治療を経験した女性の23%が離職したという。

 時差出勤や半日単位の有給休暇などの制度を広げ、利用しやすい機運を醸成することが大切だ。





不妊治療に保険 選択の幅広げる一助に(2020年11月16日配信『東京新聞』-「社説」)

 菅義偉首相の看板政策である不妊治療への公的医療保険の適用拡大について、厚生労働省内で具体化論議が始まった。出産の障害が減れば、夫婦の生き方の選択肢も広がる。支援の充実が望ましい。

 厚労省社会保障審議会医療保険部会などの議論では、保険適用する治療法の範囲をはじめ、その治療法の診療報酬(公定価格)、保険適用の治療法と適用外の治療法を併用する場合の対応−などが論点となる見込みだ。

 不妊治療は現在、卵管癒着や精管閉塞(へいそく)などの治療を除いて保険が適用されず、1回数十万円かかる体外受精や顕微授精に適用を望む声は多い。ただ治療法は日々進歩し、数ある技術や薬剤使用のどこまでを対象とするかの線引きは難しい。

 保険財政上、どんな高額の治療でも保険対象とするのは無理があり、範囲を絞れば個々の患者に適した治療が進まなくなる懸念も生じる。まずは厚労省が治療現場の実態を詳しく調査し、効果的な治療を提示することが肝要だ。

 保険診療と自由診療を組み合わせて同時に受ける「混合診療」は今は、原則全治療が保険外として扱われる。不妊治療を例外と認めるか否かの検討も必要だろう。

 医師への診療報酬は抑制すると治療の質の低下を招きかねず、適正な水準を探らねばならない。

 これらの議論を経て、不妊治療への保険適用が拡大されるのは2022年度の見込みだ。国は先行して体外受精などに1回15万〜30万円を支給する公的助成について、金額の引き上げや夫婦の所得制限緩和を図る方針。与党側も額の大幅増などを提言しており、政府と連携して進めてほしい。

 日本産科婦人科学会によると18年の体外受精、顕微授精の実施は約45万5000件。全出生数の6%余に当たる約5万7000人が生まれた。誕生数は増加傾向だ。半面、支援団体の調べでは治療費が200万円を超える例も目立ち、約半数が経済的理由で治療を諦めたり延期したりしている。

 年間出生数が90万人を切り、コロナ禍で妊娠をためらう空気も生まれる中、子どもがほしい夫婦の希望にはでき得る限り、公助で応えたい。

 ただ、不妊治療の拡充を少子化対策として位置付けることには、慎重でありたい。少子化は、結婚や子育てがしやすい環境を整えたり、事実婚など多様な男女の在り方を認めたりすることで打開すべきであり、女性に出産を強いる風潮を生んではならない。





不妊治療 負担減と質担保の両立を(2020年11月15日配信『産経新聞』-「主張」)

 菅義偉首相の看板政策である不妊治療の保険適用の実現に向けて、政府・与党の検討作業が本格化している。

 子供がほしいのに、費用が高くて不妊治療を諦める。そんな現状は早急に改善すべきである。

 首相は年末に保険適用に向けた工程表を策定する考えだ。適用が実現するまでの間は、現行の助成制度を大幅に拡充して対応する。

 いずれにおいても、大切なのはいかに患者に寄り添えるかだ。その点を銘記し、治療を受けやすい制度を確立してほしい。

 不妊治療は現在、一部に保険が適用されているが、体外受精や人工授精などには適用されず、自費で治療しなくてはならない。

 平成30年に体外受精で生まれた子供は約5万7千人である。16人に1人が体外受精で生まれている状況を踏まえれば、保険適用で治療を支える意義は大きい。

 そのためには、さまざまな観点からの検討が必要である。

 一般的に治療や薬に保険を適用する際には、効果と副作用に基づいて、治療法、処方内容、対象患者が決まっている。それが質を担保することになるからだ。

 不妊治療では、医療機関により治療法や薬の種類・量が異なることも多く、保険適用で一定の標準化を図ることは欠かせない。治療の分かりやすさにもつながる。

 標準から外れる一部の先進的な医療や試験的な治療は、いわゆる「混合診療」にあたる保険外併用療養を認め、保険適用と適用外の治療を併用してはどうか。患者にとって真に有益で、質の高い仕組みを考えるべきである。

 安心して不妊治療を受けるには柔軟に仕事を休めるよう職場環境も整えなくてはならない。自民党の議員連盟は12日、若い世代のがん患者について、抗がん剤治療などで不妊リスクが生じる可能性を踏まえて精子や卵子を凍結保存することを支援するよう首相に要望した。こうした点もきめ細かく検討する必要があろう。

 もちろん、保険適用までの措置となる現行制度の拡充にも万全を期したい。今は体外受精などの初回治療に30万円、その後は15万円などの助成があり、助成額の引き上げや所得制限撤廃などが政府・与党で検討されている。患者の期待に応えるためにも、編成中の令和2年度第3次補正予算で具体化を図ることが重要である。





不妊治療支援/少子化対策の戦略も示せ(2020年11月2日配信『神戸新聞』-「社説」)

 菅義偉首相が少子化対策の目玉として掲げた不妊治療への保険適用拡大が実現に向けて動きだした。2022年までの実施を目指し、厚生労働省が治療にかかる費用などの実態調査に着手した。

 晩婚化などを背景に不妊に悩む夫婦は多く、不妊治療は身近な選択肢の一つになっている。体外受精の件数は年々増え、18年には45万件を超えた。誕生した子どもは過去最多の約5万7千人に達し、16人に1人が体外受精で生まれた計算となる。

 しかし、公的医療保険の適用は不妊の原因検査など一部に限られ、全額自己負担の自由診療で1回数十万円かかる治療もある。繰り返すうちに出費が数百万円に膨らみ、負担の重さに耐えかねて治療の継続を諦める人も少なくない。

 保険適用による負担軽減は当事者にとって待ちかねた朗報と言える。不妊治療への社会の理解を広める契機にもなるだろう。

 政府は、それまでは既存の助成制度の拡充で対応する方針だ。高度治療に当たる体外受精と顕微授精への助成額や対象回数の引き上げ、所得制限の緩和などを検討している。

 保険が適用されれば、税金や保険料が財源となる。有効性の高い標準的治療が同一料金で提供されるなどの利点が見込まれる半面、対象となる治療法や年齢・回数制限など適用範囲の明確な線引きも求められる。当事者のニーズと科学的知見を踏まえた丁寧な議論が必要だ。

 もっとも、不妊治療の支援だけで出生数が大幅に増えるわけではない。働く女性が増える中、治療と仕事の両立は切実な課題である。治療していることを職場で打ち明けられず、心も体も疲弊するケースは珍しくない。柔軟に利用できる休暇制度などの仕組みづくりが欠かせない。

 19年生まれの赤ちゃんは初めて90万人を割った。コロナ禍の影響が出る来年は70万人台に落ち込むとの厳しい予想もある。

 政府の対策が決め手を欠く中、就職氷河期世代を中心に未婚化が進んだことも少子化加速の要因とされる。経済的不安から結婚や妊娠に踏み出せずにいる若い世代への支援は急務と言える。

 その点、菅首相が力を入れる男性の育児休業取得促進、待機児童解消は主に正社員や夫婦向けとなっている。非正規労働者の待遇改善や長時間労働の是正など雇用と働き方の抜本的な改革に踏み込んで、少子化対策の総合戦略を示すべきだ。

 子どもをもうけるかどうかは個人の生き方の問題でもある。不妊治療の標準化が、出産を望まない人への圧力とならないような配慮も忘れてはならない。





不妊治療への支援 産みやすい社会の構築を(2020年10月30日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 新政権が、不妊治療への保険適用拡大や助成金制度の拡充に乗り出した。

 不妊治療における公的医療保険の適用対象は、現状では一部の初期治療に限られている。体外受精や顕微授精などの高度医療は適用外で多額の費用がかかるため、経済的な理由から治療を諦めるケースも多い。菅義偉首相は男性の不妊も支援の対象とする考えで、切実に子どもを望むカップルにとっては心強い後押しとなりそうだ。

 ただ、旗振り役の不明確な発言で、現場には誤解や混乱も生じている。菅首相は26日の所信表明演説で、「所得制限を撤廃し、不妊治療への保険適用を早急に実現する」と表明。だが、28日の衆院本会議の代表質問では、既存の治療費助成制度の所得制限を撤廃するとの趣旨ではなく、あくまで保険適用の拡大を表明しただけと説明した。政権の改革イメージを高めるために、具体策を詰めないまま目玉施策としている印象がぬぐえない。

 また、不妊治療は不定期に頻繁に通院する必要があり、離職や治療断念を余儀なくされる人も少なくない。身体的、精神的な負担も大きく、経済的支援に加え、治療中でも安心して働き続けられる環境整備が欠かせない。スピード感も大事だが、最適な治療を受けられる制度になるよう、当事者の声も採り入れた制度設計としたい。

 日本の少子化は、「国難」と表現されるほど待ったなしの状況にある。初婚同士の夫婦から生まれた子どもの数は2015年に1・94人まで減り、19年の出生数は統計開始以来最少の86万5千人に落ち込んだ。さらに今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響も加わり、84万人台となる見通しだ。

 そこで、菅首相が着目したのが不妊治療への支援拡大だ。しかし、少子化対策の抜本的解決につながるかは疑問も残る。

 不妊治療のニーズが高まった背景には晩婚化と晩産化がある。18年の平均初婚年齢は夫31・1歳、妻29・4歳で、1985年に比べてそれぞれ2・9歳、3・9歳上昇。第1子出生時の母親の平均年齢も75年に25・7歳だったのが、2018年には30・7歳まで高齢化している。若い世代が仕事と結婚の両立の難しさや経済的不安定さに悩み、結婚や出産をためらう傾向が依然続いている。

 その一方で、不妊治療は高齢ほど治療成績は下がり、流産率が上がる。生殖適齢期を大きく過ぎての治療継続には危険も伴う。若いうちに安心して出産や子育てができる環境を整えることこそ少子化問題解決の近道であることを忘れてはなるまい。

 共働き世帯が増える中、多くのカップルが非正規雇用や低賃金、長時間労働など余裕のない労働環境に置かれている。仕事の経験を積み上げる時期と重なり、結婚や出産を後回しにせざるを得ない人も少なくない。不妊治療の支援拡大と並行して、子育て世代の雇用や賃金の底上げ、キャリア形成支援なども急ぐべきだ。






[不妊治療] 負担軽減へ論議加速を(2020年10月22日配信『南日本新聞』-「社説」)

 菅政権が目玉施策に掲げる「不妊治療の保険適用拡大」が実現に向けて動きだした。

 晩婚化などを背景に不妊に悩む夫婦は多い。だが治療の多くは公的保険の対象外で、高額の治療費が重くのしかかり断念するケースもある。

 これまでも費用負担軽減を求める声は上がっていたが、議論は進んでいないのが実情だ。政府は取り組みを加速し、「子どもを授かりたい」という願いがかなうよう後押ししてほしい。

 政府が5月末に策定した第4次少子化社会対策大綱は、若い世代が希望通りの数の子どもを持てる「希望出生率1.8」を目指すとした。2019年の合計特殊出生率が1.36だったことを踏まえれば、ハードルは高い。

 目標のクリアへ菅義偉首相が打ち上げたのが不妊治療対策である。

 現在の不妊治療は初期治療の一部は保険が適用されるが、高度な体外受精や顕微授精は適用外である。一般的には1回数十万円で、妊娠までに総額数百万円かかる例も珍しくない。

 高度な治療への助成制度はあるものの、対象は夫婦の所得合計が730万円未満、治療開始時に妻が43歳未満(新型コロナウイルス感染拡大を受けた特例で現在は44歳未満)に限られている。助成回数にも制限がある。

 そこで厚生労働省は、まず来年4月から所得制限の撤廃など助成制度を拡充する方針だ。助成額や回数制限の緩和などが検討されるが、より幅広く恩恵を受けられるのが望ましい。

 保険適用の拡大は診療報酬改定に合わせて22年4月の実施を目指すが、課題は多岐にわたる。

 治療内容などの適用範囲をどこで線引きするのか、事実婚も対象に含めるのかといった課題がある。医師からは保険適用の内容次第では柔軟な治療ができなくなり、医療の質低下も招きかねないとの声も上がる。

 日本産科婦人科学会によると、18年の体外受精件数は45万件を超え、約5万7000人の子どもが生まれた。ただ、体外受精以外にも不妊治療を受けている人は多く全体像は不明という。

 厚労省は治療費などの実態を調査し来年3月までに結果をまとめる。公的医療保険の財源は主に国民の保険料や税で賄われる。全体像をしっかり把握した上で安定的な財源確保策を示し、国民の合意を得るのが不可欠だ。

 さらに、治療と仕事の両立も図っていかなければ少子化対策としては不十分だろう。支援制度のある企業は限られ、「職場で治療していることを話しづらい」という実態がある。

 経済的負担だけでなく、こうした精神的負担の軽減策も必要だ。職場での理解を広げるためにも、社会全体でサポートできる環境づくりを進めていかなければならない。





【不妊治療支援】当事者の思いに応えたい(2020年10月14日配信『高知新聞』-「社説」)

 不妊治療の保険適用が拡大される方向だ。広く行われている体外受精をはじめ、適用外の治療が多く、経済的負担の重さが指摘されてきた。

 菅義偉首相の目玉施策であり、まずは来年4月から既存の助成制度を拡充して負担軽減を図っていく。

 今や夫婦の5・5組に1組が不妊の検査や治療を受けている。悩んでいるカップルは多く、社会全体で共有すべき課題だろう。
 仕事との両立に困る場合も多い。職場で不妊治療への理解を深め、子どもを希望する人が取り組みやすい環境づくりを進める必要がある。

 体外受精で生まれた子どもは2018年、過去最多の5万6979人に上った。およそ16人に1人がこの治療で生まれた計算になる。

 2018年は体外受精の治療件数も45万件を超えて過去最多だった。晩婚化が進み、子どもを希望する年齢が高くなったことが要因の一つとされている。

 治療を始めると、女性は服薬や注射が頻繁で、体外受精は採卵を伴うなど、心身に重い負担がかかる。

 その上、保険が適用されるのは初期の検査や治療に限られる。体外受精などの高度な治療は自己負担で、一般的に1回数十万円かかる。妊娠までに総額数百万円を費やす例も珍しくない。

 金銭的な問題から治療をあきらめる人もおり、今回の保険適用拡大への動きは歓迎されるだろう。

 範囲の検討に一定の時間がかかるため、まず来年度から助成拡充が実施される。所得制限の撤廃や、初回30万円の助成額の10万円超の引き上げなどが検討されている。

 合わせて政府は、不妊治療の質の向上にも努めるべきだ。医療機関によって技術の格差が大きいと指摘されてきた。ガイドラインの作成などで是正を図らねばならない。

 仕事と両立できる環境づくりも急がれる。厚生労働省の調査によれば、不妊治療をしている女性で仕事を辞めた人は23%に上る。通院の回数が多く、数年にわたる場合も少なくないことなどが背景にある。

 治療に取り組むには職場の理解が欠かせない。企業の中には、専用の休暇制度や年次有給休暇の時間単位での取得を認めている例もある。政府は、そうした支援を企業などに促してほしい。

 加えて、里親制度や特別養子縁組の普及も進めたい。治療がうまくいかない場合、養子を迎えて育てる。欧米では一般的な選択肢だが、日本ではさまざまな面でハードルが高い。政府は現行制度を点検し、普及に本腰を入れるべきだ。

 子どもを産む産まないは個人の選択である。自然妊娠を優先して不妊治療を受けない人もいる。どの場合も自由な選択が尊重されるべきだ。

 治療を受けて子どもを授かりたい。その思いを持つ人には、前向きに治療に取り組めるような社会の支援で応えたい。
 多くの人が悩む不妊への理解を深めることが第一歩だろう。





不妊治療 幅広い理解得る努力を(2020年10月13日配信『中国新聞』-「社説」)

 政府が不妊治療への公的医療保険の適用拡大の検討に乗り出した。菅義偉首相は少子化対策の柱として、政権の重要政策の一つと位置付け、2022年度の実現を目指している。

 子どもを望む夫婦にとって、治療に伴う経済的な負担が軽減されれば、心強い後押しとなろう。当事者の声を聞き、丁寧に制度設計を進めてほしい。

 晩婚化などを背景に不妊に悩む夫婦は多い。治療件数は年々増えており、18年は45万を超えた。体外受精で生まれた子どもも約5万7千人に上り、過去最多を更新した。

 もはや不妊治療は選択肢の一つとなり、今後も増えるのは間違いない。しかし公的保険が使えるケースは少ない。不妊の原因検査や排卵誘発剤を使う方法など一部に限られる。

 効果がなければ、体外受精や、顕微鏡をのぞきながら精子を卵子に注入する顕微授精といった高度な治療に進む。ただし保険が適用されない自由診療で全額が自己負担となる。

 費用は医療機関によってばらつきがあり、体外受精は1回当たり30万円以上とされる。何回も繰り返すうちに総額で500万円を超えたケースもある。高額な治療費が生活に重くのしかかり、治療の継続を断念する夫婦も少なくない。

 保険の適用対象になれば、治療に対する経済的な制約や負担が軽減されるのは間違いない。子どもが欲しくても授からなかった「患者」により広く救済の手を差し伸べる意義はある。

 政府はまず、体外受精や顕微授精を対象にした現行の助成制度の見直しを進める。

 夫婦合わせて年730万円の所得制限を撤廃するほか、最大6回までの回数制限の緩和や助成額の引き上げも検討している。使い勝手などを検証し、支援の拡充を急ぐべきだ。

 最終的に目指す保険適用は、厚労相の諮問機関で議論していくが、実現には課題も多い。

 公的医療保険を適用するには「治療と疾病の関係が明らか」で、「治療の有効性、安全性が確立している」ことが大前提となる。治療の質を一定に担保するとともに、費用の透明性も高まるメリットがある。

 一方、医療現場からは治療が画一化され、一人一人の患者の状態に合わせた治療を継続できなくなるのではないか、と危惧する声も漏れる。

 保険を適用する範囲の線引きには、専門的な見地から慎重な議論が求められる。さらに保険適用の拡大は、不妊治療を受けない人の保険料や税金にも関わる問題だ。国民の幅広い理解を得る努力も欠かせない。

 子どもをもうけるかどうかは、個人の価値観の問題である。家族の形も多様化している。保険が使えるようになることが、出産を望まない人への圧力とならないよう注意したい。

 働く女性が増える中で、不妊治療には仕事との両立という課題も立ちはだかる。治療中と明かせず、心身ともに疲弊するケースも珍しくない。不妊に対する正しい認識を定着させ、治療を受けやすくする休暇制度の導入なども必要だ。

 少子化対策をうたうなら、安心して子どもをもうけ、育てることのできる社会をどう実現するのか、首相は国民に語るべきだ。




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