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「10社以上でクビ」発達障害46歳男性の主張~上司から「高卒より使えない」と叱責され続けた(2020年10月16日配信『東洋経済オンライン』)

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最近、またしても雇い止めに遭ったアキオさん。自らの仕事ぶりについて「障害者雇用でしたが、やはり作業が遅いと言われました」と話す(筆者撮影)

 現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。

 今回紹介するのは「『早稲田政経卒「発達障害」26歳男が訴える不条理』を読んで自分とそっくりだと思いました。作業が迅速にこなせずクビを告げられるか自分から辞める事を繰り返しています。」と編集部にメールをくれた、46歳の男性だ。

■「よくそんな暇あるね」と皮肉を言われた

 発達障害のアキオさん(仮名、46歳)は今年6月、働いていた会社を雇い止めにされた。実質的なクビだった。「作業を迅速にこなすことができないんです。気がつくと集中力が途切れて手が止まっていることがあります」。これまで、このようにして辞めさせられた会社は、アルバイトを含めると10社を超える。

 過去に強迫神経症と診断されたこともあり、さまざまな強迫行為を繰り返すことも作業の遅れに拍車をかけた。社内の郵便物を集配する仕事に就いていたときは、回収漏れはないと納得できるまで、空のトレーの前で2分以上確認を続けてしまう。トイレに行ったり、ウェットティッシュで手を拭いたりする回数が多すぎると注意を受けたこともある。実際にティッシュは1日約150枚は使っていたという。

 空気が読めない、明確な指示がないと動けないといった発達障害の特性による“失敗”もあった。仕事が遅れているのに、昼休みにソファーで新聞を読んでいて「よくそんな暇あるね」と皮肉を言われたことや、講演会の準備一式を任されたのに、肝心の講師への案内状を送り忘れたこともある。

 「せっかく大卒を採用したのに高卒より使えない」

 「伝票1枚入力するのに30分もかけないでよ!」

 「今日が初日の新人より(作業が)遅いって、どういうこと?」

「別の仕事を探してくれないかな……」

 いずれも、アキオさんがこれまで上司や同僚から直接言われたり、偶然耳にしてしまったりした言葉だ。アキオさんが持参してくれた履歴書には「一身上の都合により退職」という言葉が並ぶが、実際のきっかけはこうした退職勧奨や陰口、叱責だったという。自分でも仕事が遅いという自覚はあったものの、自己肯定感は奪われる一方だった。

 アキオさんは千葉県出身。学校の成績は「中の上くらい」で、本や新聞を読むことが好きだった。一方で運動は苦手。引っ込み思案で友達は少なく、要領もよくはなかったという。子どもたちが数人の班に分かれて行う家庭科の調理実習では、何をやっていいのかわからず、てきぱきと役割をこなすクラスメートたちの横で、結局キュウリを洗うことしかできなかったことを覚えている。

 関東圏の私立大学を卒業後、最初に勤めた会社は1年もたなかった。短期間に転職を繰り返すアキオさんを心配した両親から「今回は土下座してでも、続けさせてほしいと会社に頼みなさい」と言われたこともある。

 ある会社を辞めたときは、両親に合わせる顔がないと思い、ネットカフェで夜を明かした。ところが、普段無断外泊などしないのでかえって心配をかけてしまった。翌朝、自宅に電話をすると、同じく一睡もしていなかった母親から「帰っておいで」と泣かれたという。

 学校を卒業するまでは大きな問題はなかったのに、社会人になった途端、歯車が狂い始める――。言い知れない不安はアキオさんだけでなく、家族をもさいなんでいた。

■30代になり非正規雇用になることが増えた

 20代半ばで精神科を受診したところ、強迫神経症と診断された。しかし、処方薬の副作用が強く、困った揚げ句別の病院で受診。ところが、そこの医師からは「本当の強迫神経症は、部屋にひきこもって出られなくなってしまうもの。あなたはそこまでではない」という趣旨のことを言われ、診断そのものを否定されてしまったという。当時はまだ医療関係者の間でも「大人の発達障害」への理解は不十分だった。

 30代に入ってからは、転職先の雇用形態は非正規雇用になることが増えた。毎月の手取りは15万円ほど。実家暮らしだからなんとか生活できる賃金水準に落ち込んだ。

 ちょうどこのころ、発達障害のことを取り上げた新聞を読んだ両親から勧められ、再び精神科を受診。その後、数年間にわたっていくつかのクリニックに断続的に通い続けたところ、ある病院でようやく本格的な検査を受け、自閉スペクトラム症(ASD)の診断を得ることができた。

 「それまで、こんなに困っているのにどうしてとずっと悩んできました。(診断により)原因がわかってホッとしました」

 クビと仕事探しを繰り返す生活に疲れはてていたアキオさんは、障害者雇用枠で働くためにできるだけ早く障害者手帳を取得したいと考えていた。本来、手帳の交付には初診日から6カ月以上経過していなければならない。診断を出してくれた医師に相談したところアキオさんの通院歴を基に、可能な範囲で初診日をさかのぼってくれたという。

 早速、ある有名企業に障害者雇用枠で転職。ただ、その後も順調というわけにはいかなかった。実は今年6月に雇い止めにされたのは、この企業のことだ。1年更新の契約社員で勤続7年あまり。アキオさんのキャリアの中では最も長く働いた会社だった。

 アキオさんはここでも作業時間の短縮などについてノルマを課されたが、結局改善ができず、雇い止めを示唆された。これに対し、普段から新聞を読んでいたアキオさんは労働契約法に基づく「無期転換ルール」の知識があったので、ダメもとで会社に無期転換の申し込みをしてみたという。無期転換ルールとは、有期雇用契約を更新して通算5年を超えると、無期契約への転換を求めることができるというものだ。

 結局、抵抗むなしく雇い止めの決定は覆らなかった。しかし、本来無期契約申込権は5年を超えた時点で自動的に発生する権利であり、申し込みを受けた会社側は拒否することはできないとされている。会社がアキオさんをクビにするなら、いったん無期契約社員にしたうえで解雇をするのが、法律の趣旨に沿った対応のはずだ。

■「国民年金」と「厚生年金」の大きな壁

 アキオさんの月収は約15万円と決して高くはなかった。一方で障害者を雇用する企業にはさまざまな助成金制度など直接的なメリットも多い。会社は障害者を使い捨てたと言われても仕方がない。上司たちには後ろめたいことをしているという自覚があったのかもしれない。アキオさんは退職にあたり「一連の経緯を第三者に明かさない」といった旨の守秘義務を盛り込んだ合意書に署名するよう、求められたという。

 アキオさんは現在、失業保険を受けながら仕事を探している。年齢的に就職活動が厳しくなるにつれ、不安になることがあるという。発達障害に関する初診日の時点で加入していたのが国民年金だったことから、障害年金の受給が難しいのではないか、ということだ。

 障害年金は、初診日に加入していた年金が国民年金か厚生年金かで、対象範囲や受給金額に違いがある。障害年金の等級は障害の重さに応じて1―3級まであるが、3級があるのは厚生年金だけ。金額も1級の場合、国民年金は月額約8万1000円なのに対し、厚生年金は加入期間によっても異なるが、月額で15万円を超えることもある。

 アキオさんの場合、診断日は厚生年金だったが、初診日は失業中で国民年金に加入していた。初診日をさかのぼってもらったことが、あだとなったわけだ。障害者手帳と障害年金の等級の判定方法は別だし、手帳がなくても障害年金の申請をすることはできる。ただアキオさんの障害者手帳は3級。年金受給には、国民年金の「障害基礎年金2級」の判定を得る必要があるが、医師からはそれに相当する診断書を書くことは難しいとの説明を受けている。

 「障害者雇用の給料は高くはありません。わずかでも障害年金で補えると、少しは安心できるのですが……。(身体障害などと違って)発達障害の症状は基本的に変わらないと思うんです。初診日に加入していた年金の種類によって、ここまで手厚さに違いがあるのは、納得ができません」

■「せめて同じ場所で息をすることを許してほしい」

 アキオさんにはファミリーレストランで話を聞いた。質問に対する答えはとても的確で流暢だった。一方でアキオさんは注文したドリアにいつまでも手を付けなかった。私が何度「冷める前に食べてください」と勧めても、スプーンを手に取ろうとしないのだ。話すことと、食べることの2つを同時にこなすことが難しい様子だった。

 また、取材後、アキオさんからは「取材時説明内容の補足」と題した長いメールが何通か届いた。上司らの発言のささいなニュアンスの訂正のほか、障害に対する配慮をしてくれたり、飲みに連れて行ってくれたりした上司もいたので、会社のことをあまり悪く書かないでほしいといったことがつづられていた。初診日をさかのぼってくれた医師についても迷惑がかからないよう、書き方に配慮してほしいとリクエストされた。

 そのたびに返事を書かなければならない私にしてみると、効率という点では決してよいとはいえなかった。一方でアキオさんの優しい人柄も伝わった。ただ10社以上も転職せざるをえなかったキャリアを考えると、こうした誠実さは現在の社会や会社が求めるものではないのかもしれないとも思う。

 発達障害の人の生きづらさについて記事を書くと、時々「発達障害の上司や部下を持つほうの身にもなってほしい」といった感想が寄せられることがある。そうした主張を理解できないわけではない。ただ、発達障害の同僚を持つ大変さに共感できたとしても、結局、社会がたどり着く先にあるのは“排除の理論”なのではないか。

 アキオさんは記事を通してこう伝えてほしいという。

 「面倒かもしれませんが、社会に居場所をつくってもらえると助かります。私のことを理解してほしいとは言いません。せめて同じ場所で息をすることを許してほしい」






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