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週のはじめに考える 勝てばいいのか(2020年10月25日配信『東京新聞』-「社説」)

 一般に、何かの勝負をする時、勝ちたいと思うのは当然。でも、勝つことより、どう勝つかが問題だ、と考える人もいます。

 例えば、ムハンマド・ラシュワンさん。ご記憶の方も多いでしょう。1984年のロス五輪、柔道の無差別級決勝で、日本オリンピック委員会の現会長、山下泰裕さんと対戦したエジプト人です。

◆スポーツでも、選挙でも

 もう十何年も前、カイロでお会いした時、本人から聞いた話ですが、お国の柔道連盟の幹部は決勝の控室で、ラシュワンさんに、こう指示したそうです。「右足を狙え」。勝てばいい、ならそうしたでしょう。山下さんは右足を負傷していました。だが、彼は首を横に振ります。幹部は「金と銀は全く違う。おまえ自身のキャリアなんだぞ」と怒り、部屋を出ていったといいます。結果は銀。実際、彼は試合で右足を執拗(しつよう)に狙うようなことはしませんでした。

 わが国技にも、勝つという結果だけでなく、勝ち方を問題にする美風はあるように思います。

 実は本稿の主見出しは、今は亡き先輩記者のコラムから拝借したもの。コラムは当時の横綱朝青龍をたしなめる内容で、勝負あった後に危険な駄目押しを繰り返す、土俵上でガッツポーズするといった振る舞いを<勝ちさえすればいい、勝てば文句はないだろうと言わんばかり>だと嘆いています。

 選挙という勝負だって同じことでしょう。いや、況(いわ)んや、人々の代表を選ぶ選挙をや、です。

 でも、自公政権を見れば「勝ちさえすれば」の空気がありありです。確かに、選挙には勝った。しかし、国政を担う政権とは、野党に投票した人々も含めて、すべての国民のための政権であるはずです。勝ちさえすれば、野党を軽んじていい、異論に耳を貸さなくていいことにはなりません。

 米ドラマ『ハウス・オブ・カード』の主人公は政治権力のためなら何でもする悪魔的人物ですが、彼でさえ、確か、極め付きの汚い手で大統領選に勝った後のスピーチで言っていました。「私は、私に投票しなかった人も含めて、すべてのアメリカ人の大統領です」

◆分断と憎悪の再選戦略

 ここで、来月3日に迫った現実の米大統領選に話を移します。

 もはや現職トランプ氏に品格を求める気はありませんが、さすがに、この大統領選の結果は「連邦最高裁で決着すると思う」と述べたのには驚愕(きょうがく)しました。もし負けなら、開票結果を受け入れず、郵便投票の不正を言い立てて裁判に持ち込む−。そう宣言したわけです。強引に保守派の最高裁新判事の任用を進め、リベラル派に対する保守派の数的優位を盤石にしようとしたのも、その備えです。

 米紙の記事が「アメリカの民主主義は、恐ろしく危険な状態にある」と強い表現で警鐘を鳴らしたのもむべなるかな。どんな手段でも勝てばいい、いや、負けても勝つ、というのでは、民主主義も何もあったものではありません。

 さらに、怖気(おぞけ)を震うのは、トランプ氏が、米国社会の「融和」ではなく「分断」を再選戦略にしている節があることです。

 全米で黒人差別などに抗議するブラック・ライブズ・マター(BLM)運動が広がっていますが、初回の候補者討論会では、白人至上主義者を非難するか、との問いに明言を避け、極右団体プラウド・ボーイズの名が挙がると、こう言ったのです。「プラウド・ボーイズ、下がって待機せよ。だが、言っておこう。誰かが左派をどうにかしなければならない」。“いざ”という時に備えて待機を命じた、と受け取られてもしかたがないでしょう。

 先日も、厳しいコロナ対策をとるミシガン州知事(民主党)の拉致を計画したとして、司法当局が武装集団メンバー13人を逮捕した直後だというのに選挙集会で、その知事を「収監せよ」というような発言を。やはり過激な勢力を煽(あお)っているとしか思えません。

 そうした態度から推測されるのは、米国民全体に支持を求めるのではなく、黒人・リベラル層との対立感情をかき立てることで白人・保守層を固め、いわば51%を取りにいく戦略。憎悪の摩擦熱を勝利のエネルギーに利用するたくらみと言ってもいい。自己の勝利のために米国社会を犠牲(いけにえ)に捧(ささ)げるつもりなのでしょうか。

◆懸念される「選挙の後」

 おかげで、選挙後には、かつてないほど分断された米国が残されることになります。現職勝利なら致命傷でしょうが、バイデン氏勝利でも小差で決着が裁判沙汰になるようなら、米国の民主主義には相当な深手です。「待機」の過激勢力がどう動くかを含め、治安上の混乱も懸念されます。

 決戦は来週の火曜日。米国民が賢明な判断をしてくれるよう願うばかりです。



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