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(論)核禁条約発効へに関する論説(2020年10月26・27・28・29・30・11月24日)

核廃絶決議後退 「橋渡し」は口先だけか(2020年11月24日配信『北海道新聞』-「社説」)

 日本政府の提出した核兵器廃絶決議が今月、国連の委員会で採択された。今回で27年連続である。

 ただ、賛成は昨年より9カ国減って139カ国だ。賛成は年々減り、棄権や反対が増えている。

 決議が、核兵器の保有や使用を全面禁止する核兵器禁止条約に全く触れていないためだ。条約は来年1月の発効が決まったばかりである。条約推進国からは批判や失望の声が上がっている。

 唯一の戦争被爆国である日本は核廃絶を主導する責務がある。それなのに世界から信頼を失ってリーダーシップを発揮できない状況を招きつつある。極めて残念だ。

 広島、長崎の被爆者や「核なき世界」を求める人々と連帯し、禁止条約を批准して核保有国に廃絶を迫っていく。信頼の回復にはそれしかあるまい。

 決議は「核兵器のない世界の達成が国際社会共通の目標」としている。その実現には「さまざまなアプローチが存在することに留意する」などと記すにとどめた。

 表現の後退も目立つ。核兵器の非人道性を巡り、以前は「深い懸念」と記していたが、昨年から「認識する」に弱めた。

 「深い懸念」は核兵器を絶対悪とみなす禁止条約の基本理念である。政府は条約に反対する核保有国に配慮して変えたようだ。

 来年2月に期限が切れる米ロの新戦略兵器削減条約(新START)についても履行促進を求めてきたのに、重要性の指摘にとどめた。トランプ米政権が条件付き延長を主張しているためだろう。

 日本は核保有国と非核国の「橋渡し役」になると掲げてきた。

 しかし非核国側は日本が保有国寄りの姿勢が鮮明だと指摘する。

 保有国側も賛成は米英だけで、フランスは包括的核実験禁止条約への言及が弱いとして他の欧州各国と共に棄権に回った。中国とロシアは反対を続けている。

 各国の溝は深まる一方だ。橋渡しの役割を何ら果たしていない。

 米大統領選で勝利を確実にしたバイデン前副大統領は、オバマ政権の旗印だった「核なき世界」を目指すと表明した。今度こそ米国を核軍縮に取り組ませるのが日本の役割にほかならない。

 広島、長崎の両市長は先週、政府に禁止条約への署名を要請し、難しければまずは発効後に開かれる締約国会議へのオブザーバー参加を求めた。

 現実的な提案である。菅義偉首相は参加に否定的な発言を繰り返すが、検討するべきだ。





核兵器禁止条約発効へ(2020年10月30日配信『福井新聞』-「論説」)

日本政府の関与求めたい

 核兵器の開発から使用まで一切を全面禁止する核兵器禁止条約(核禁条約)の批准数が50カ国・地域に達し、来年1月22日に発効することが決まった。条約前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」とうたわれ、広島、長崎への原爆投下から75年を経て、「非人道性」や「核なき世界」を訴え続けてきた被爆者の願いが条約誕生への原動力となった。

 しかし、この画期的な条約に核保有国と「核の傘」の下にある同盟国は参加していない。残念極まりないのは唯一の被爆国である日本の政府もその中にあることだ。不参加国は、一気に核廃絶に至るのは「非現実的」で段階的に進めてきた従来の取り組みに逆行するとの主張だ。それどころか、核拡散防止条約(NPT)の堅持・強化や核抑止力による安全保障にもそむくものと条約や参加国にも非難の矛先を向けている。

 NPTは核保有を特権的に認められた米中ロ英仏の5カ国に対し、核軍拡競争の早期停止、核軍縮の効果的措置を求めているが、現状は遅々として進んでいない。とりわけ、米ロ中は核兵器の近代化、質的核軍拡に突き進んでいる。米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効するなど核なき世界は遠のくばかりだ。

 ただ、核禁条約が発効すれば核保有は「国際法違反」と称され軍縮圧力となるのは確実だろう。米国が条約を真っ向から否定し、批准取り下げを迫る書簡を参加国に送りつけたのは、反核世論の高まりへの危機感の裏返しでもあろう。

 日本は核大国のロシア、核保有にまい進する中国、核開発を着実に進める北朝鮮と対峙(たいじ)する以上、米国の核の傘に頼らざるを得ない面も否めない。だが、唯一の被爆国として現状を少しでも変えていく努力を怠ってはならない。

 米大統領選でバイデン前副大統領が当選すれば、核の先制不使用を検討したオバマ前大統領と同様の政策を志向するとの指摘がある。菅義偉首相が「2050年までの脱炭素社会の実現」を宣言したのもバイデン政権誕生を視野に入れてのこととされる。ならば、核政策でも日本政府は何らかの積極姿勢を示すべきではないか。

 現時点での条約参加は難しいとの判断だが、第1回締約国会議にオブザーバーとして出席する選択肢はあり、まずそこから一歩を踏み出す手もある。核保有国と非保有国の「橋渡し役」を真剣に果たそうとするなら条約に背を向け続けることはできないはずだ。「前例踏襲の打破」を掲げる菅首相だけに条約関与へかじを切ってもらいたい。被爆者らから「これが唯一の被爆国の首相か」とのそしりを受けないためにも。



抑止力(2020年10月30日配信『愛媛新聞』-「地軸」)

 原爆被害の戦後史を研究する愛媛大講師の八木良広さんは、多くの被爆者と聞き取りなどで関わってきた。ある女性は「体験を語ることはざんげだ」と話していたという。被爆地で助けられなかった人たちが、記憶に焼き付いていた

▲核兵器の開発から使用まで一切を全面禁止する核兵器禁止条約が来年1月、発効することになった。核兵器を「絶対悪」とする国際規範が生まれることは画期的だが、八木さんは、既に故人となった女性がニュースをどう受け止めるか、気にしていた

▲条約には、肝心の米ロを中心とした核保有国や、米国の「核の傘」に頼る日本は参加していない。実効性には懐疑的な見方があり、核廃絶への道のりはなお厳しい

▲核保有国などは「核抑止力」の正当性を主張する。強大な破壊力の核兵器を持つことで、緊張関係を保つという考えだが、これにはつくづく、武力に偏重する国の「弱さ」を感じずにはいられない

▲八木さんは、むしろ被爆者が「抑止力」の役割を果たしてきたと指摘する。被爆者が核兵器の恐ろしさを世界に訴え続けてきたことで、各国の為政者に使用をちゅうちょさせてきた。この叫びのような活動が、条約の理念にも反映されている

▲亡くなった女性の答えを聞くことはできないが、核兵器が使われる危険性がある限り、被爆者の心身が休まることはないだろう。唯一の被爆国・日本はどこを向いているか。改めて問いたい。



先週末、朝のテレビから「長崎の鐘」が流れてきた…(2020年10月30日配信『西日本新聞』-「春秋」)

 先週末、朝のテレビから「長崎の鐘」が流れてきた。古関裕而をモデルにしたNHKの連続ドラマだ。作曲を依頼された主人公は、着想を求めて原爆の傷痕が残る長崎を訪ねる

▼実際の「長崎の鐘」は、被爆者の救護活動を続けた永井隆医師が、やけどに苦しみ死んでいく人々や破壊された街の様子を記録した随筆を基に作られた。ドラマでは、永井がモデルの医師が主人公にこんな言葉を託す

▼「どん底に大地あり」。絶望の底に突き落とされても、大地を踏みしめて立ち上がれば、希望が見えてくる。廃虚の中から掘り起こされた鐘が、再び鳴り響くように-。戦争犠牲者の鎮魂と復興への希望を込めた名曲はこうして生まれた

▼放送の翌々日、朝のテレビから被爆地に希望をもたらす鐘の音のようなニュースが。核兵器の開発、保有、使用を禁じる核兵器禁止条約が来年1月、発効することになった、と。条約に批准した国・地域が発効に必要な50に達したのだ

▼被爆から75年。どん底から立ち上がり、核兵器は「絶対悪」と訴え続けた長崎や広島の被爆者の悲願がようやく実を結んだ。だが、ここが始まりでもある

▼米ロなどの核保有国ばかりでなく、米国の「核の傘」に頼っている日本政府も、核禁条約に背を向ける。「唯一の戦争被爆国の使命は」と問えば、答えは明らか。平和の大地を踏みしめ、次世代の希望となる核なき世界の鐘を鳴らすことだ。





核禁止条約発効へ 被爆国の責務を果たせ(2020年10月29日配信『秋田魁新報』-「社説」)

 核兵器禁止条約の批准国・地域が発効に必要な50に達し、来年1月下旬に発効することになった。これまでも核兵器削減などを目指す条約はあったが、核兵器の開発や実験、製造、保有、使用などを全面的に禁止する条約は初めてだ。画期的な成果として高く評価される。

 日本は唯一の戦争被爆国であるにもかかわらず、政府は米国の「核の傘」に依存していることを理由に一貫して条約に参加しないとしてきた。採択などに努力した広島、長崎の被爆者の願いを無にしてはならない。条約の締約国会議は核廃絶へ向けた世界の動きに影響を与える可能性がある。その議論に積極的に加わることは日本の責務だ。

 50番目の批准国は中米のホンジュラスだった。条約は2017年、122カ国・地域の賛成で国連で採択された。被爆者が世界各地を訪ね、被爆体験を伝えるなどして条約制定に貢献。制定の原動力となった非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」はノーベル平和賞を受賞した。

 前文は被爆者の「受け入れ難い苦しみ」に留意すると明記。核兵器を使用するとの威嚇も禁じることで核抑止力を否定する。核兵器を絶対悪と定める国際規範が核兵器廃絶への一歩前進となることを期待したい。

 一方、米ロ中英仏の五大核保有国や、保有国の核抑止力に頼る同盟国は条約に背を向けたままだ。不参加国には条約の順守義務はない。その中に日本も含まれているのは極めて残念だ。将来の署名・批准も視野に、オブザーバー参加から始めるなど柔軟な姿勢を望む。

 政府が懸念するのは中国と北朝鮮の動向だ。中国は200発超とみられる核弾頭を保有する。迎撃困難な新型ミサイルの開発も進めている。北朝鮮は日本を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有しているとみられる。こうした状況で、同盟国の米国を差し置いて核禁止条約に賛同するわけにはいかないというのが政府の立場だ。

 米国をはじめ核保有国側は核拡散防止条約(NPT)など、現行の枠組みを生かした核兵器の段階的削減を主張する。だが近年の米ロ中は核軍拡の様相を強めている。米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約は失効。包括的核実験禁止条約(CTBT)は米国の反対で発効の見通しが立たないなど核廃絶に向けた進展はなく、後退の恐れもある。核禁止条約が保有国への圧力になることは、むしろ歓迎すべきことと言える。

 日本は核禁止条約に消極的な一方で、自ら核廃絶という目標を掲げ、保有国と非保有国の「橋渡し役」を務めるとしている。米国頼りではない主体的な取り組みを進め、中国、北朝鮮との関係改善に努めるべきだ。国際的な核廃絶の機運の高まりを生かし、非保有国の声を代表して米国などを説得する積極的な姿勢を求めたい。



核兵器禁止条約が発効へ(2020年10月29日配信『南日本新聞』-「社説」)

◆唯一の被爆国として一歩を◆

 核兵器の開発や実験、製造、保有、使用などを禁じた核兵器禁止条約の批准国・地域が50に達し、来年1月に発効することとなった。核弾頭の削減、核実験の禁止、核拡散防止など軍縮条約は複数あるが、核兵器を全面的に非合法化する国際法は人類史上、初めてだ。

 広島と長崎への原爆投下から75年がたった。生身の人間に決して使ってはならない核兵器は、人間道徳と市民の生存権に根本から反する。

 この条約の根底にあるのは、核使用がもたらす残忍極まりない「非人道的な結末」に対する深い懸念であり、核を保有する者に絶対悪の烙印(らくいん)を押す新たな道徳的規範だ。

 条約はまた前文で「核兵器の使用による被害者(ヒバクシャ)ならびに核兵器の実験によって影響を受けた人々に引き起こされる受け入れ難い苦痛と危害」に触れている。これは心身に深い傷を負いながら、核廃絶を長年訴えてきた被爆者に対する尊敬の念の表れだ。

 被爆者と世界の市民が求める核廃絶の方向性を示した条約の発効を歓迎したい。同時に、悲惨極まりない体験を「反原爆」という強靱(きょうじん)な思想に昇華させ、国際世論を先導してきた被爆者らの努力に敬意を表したい。

 しかし、この画期的な条約に核保有国と「核の傘」の下にある同盟国は背を向けたままだ。唯一の被爆国日本の政府もその一角を占める。

 条約反対派は、一足飛びに核廃絶に至るのは「非現実的」で、段階的に核軍縮を進めてきたこれまでの取り組みを逆行させると反論する。また国際的な核秩序の礎石である核拡散防止条約(NPT)の堅持・強化とも相いれず、核抑止力が必要な国家の安全保障を考慮していないと、非難の矛先を核兵器禁止条約とその推進国に向ける。

 だがこの主張に、どこまで正当性があるだろうか。そもそもNPTは核保有が特権的に認められた米ロ中英仏の5カ国に対し、核軍備競争を早期に停止し核軍縮の効果的な措置を取るよう求めている。さらに「全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約」の交渉を行うよう定める。

 にもかかわらず、米ロ中は近年、核兵器の近代化を進め、互いをけん制しながら質的な核軍拡にまい進。日本政府も核抑止論を半ば絶対視し、2016年に「核兵器の役割低減」を目指す当時のオバマ米大統領が核の先制不使用政策を検討した際は、反対すらした。

 思考停止を続ける被爆国の政府に覚醒を促したい。核兵器禁止条約は発効から1年以内に開かれる締約国会議へのオブザーバー参加を認めており、まずそこから一歩を踏み出すべきだ。





ムーミン谷の願い(2020年10月28日配信『北海道新聞』-「卓上四季」)

 原子爆弾が投下された夏、フィンランドの作家トーベ・ヤンソンはちょうど「ムーミン谷の彗星(すいせい)」を執筆していた。自身の戦争体験をモチーフに考えていたが、スイッチ一つで多くの人生が完全に破壊される怖さを物語に取り込んだ。児童書としては異例のことだ(「ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン」河出書房新社)

▼彗星の接近でムーミン谷の平和は一変する。山は揺れ、海は干上がり、大地が裂ける。爆音が響き、燃え上がる世界の様子は、原爆による破壊の脅威の表現にほかならない

▼二度と悲劇を繰り返さない。非人道的兵器の廃絶を目指す核兵器禁止条約の批准国・地域が50に達した。来年1月22日に発効する。容易ではないが、核保有国に軍縮を迫り、使用を困難にする効果はあるだろう

▼注目されるのが、唯一の戦争被爆国日本の対応である。安全保障を米国の「核の傘」に頼ることから、政府は不参加の立場を崩していない。保有国と非保有国の橋渡し役を担うというが、腰は重いようだ

▼日本のテレビアニメ「ムーミン」だが、実は初期の作品は海外での配給を禁じられた。体罰などの描写が「ムーミン谷」の哲学に反したのが理由で、トーベ・ヤンソンが失望したからだ

▼「空、太陽と山が残っている。そして海が」。彗星禍を生き延びたムーミンの言葉だ。かの谷の住人の目に、きょうの世界はどう映っているだろう。

核兵器禁止条約 安全保障の観点が欠けている(2020年10月28日配信『読売新聞』-「社説」)

 核兵器廃絶を目指す精神は尊ぶべきだ。だが、核抑止力が安全保障に果たす役割を無視し、「禁止」を一方的に迫る内容では、実効性に欠けると言わざるを得ない。

 核兵器の開発や保有、使用などを包括的に禁じる核兵器禁止条約が、制定から約3年を経て、発効に必要な50か国・地域の批准を集めた。条約の規定により、90日後の来年1月22日に発効する。

 米英仏中露の核保有国や、日韓など米国の同盟国は参加しておらず、条約には拘束されない。

 批准国は、中南米やアフリカなど核の脅威に直接さらされていない国が多い。核兵器が持つ重みについて、認識を共有するのは困難だ。地雷やクラスター弾の禁止条約と同列には論じられまい。

 条約の前文は、被爆者の苦しみに言及し、惨禍を繰り返さない決意を示している。核兵器の使用が人道上許されないという点には、議論の余地はない。

 一方、安全保障の観点から見れば、核保有国や、米国の「核の傘」を必要としている国の個別の安保環境を考慮していない点で、条約には致命的な欠陥がある。

 米国とロシアは、核戦力の均衡を通じて戦争を防ぐ枠組みを維持してきた。日本は、核保有国の中国、ロシアに近接し、北朝鮮の核の脅威に直面する中で、米国の核抑止力に依存している。ロシアと対峙たいじするドイツも同じ状況だ。

 米国の同盟国にとって、核使用の「威嚇」も禁止する条約の規定は、「核の傘」の信頼性の否定に等しい。日米安保体制や北大西洋条約機構(NATO)の根幹が揺らぐことになる。

 現実の脅威に適切に対処しながら、地道に核軍縮を前進させるというのが、日本の立場だ。禁止条約は受け入れられない。締約国会議のオブザーバー参加も、条約への賛成と受け取られる可能性があり、慎重に対処すべきだろう。

 日本は唯一の被爆国として核保有国と非保有国の対話を仲介し、亀裂を修復する必要がある。

 世界の核兵器の9割を持つ米露が核軍縮を進め、軍拡競争に歯止めをかけることが先決である。来年2月に失効する新戦略兵器削減条約(新START)の延長に向け、歩み寄りの動きが出ているのは多少なりとも明るい兆候だ。

 世界の大半の国が参加する核拡散防止条約(NPT)の役割も、高めねばならない。NPT脱退を宣言して核開発を続ける北朝鮮を非核化させることは、NPT体制の信頼回復への手立てとなる。



核兵器禁止条約 被爆日本の覚悟問われる(2020年10月28日配信『新潟日報』-「社説」)

 核兵器の開発から使用までを全面的に禁じる核兵器禁止条約の批准数が発効に必要な50カ国・地域となった。来年1月22日に国際法として発効する。

 核廃絶を求める国々の決意が結実したものであり、極めて意義深い。

 米国の「核の傘」に依存する日本は条約に背を向け続けてきたが、それでは唯一の被爆国としての責任放棄に等しい。このままでは日本の姿勢に国内外から一層厳しい視線が注がれることになろう。

 条約は「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と前文でうたう。核兵器を非人道的で違法と断じる初めての国際規範となる。

 1970年発効の核拡散防止条約(NPT)では、核保有を米英仏ロ中の5カ国に限定して核軍縮のための誠実な交渉を義務付け、その他の国の核保有を禁じている。

 しかし軍縮は一向に進展せず、非核保有国には核軍縮停滞への危機感、不満が募って核禁止条約につながった。

 条約の国連採択には広島、長崎の被爆者と連携する非政府組織「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が尽力した。

 原爆が投下された広島、長崎では、戦後75年が経過した今でも、病気や健康不安に苦しむ人がいる。

 核のむごさを、痛みや実感とともに世界へ訴えられるのは日本だけのはずだ。

 新潟日報社が加盟する日本世論調査会の6~7月の世論調査で条約に日本も参加するべきだとの回答が7割を超えた。理由について6割は唯一の戦争被爆国だからと答えていた。

 にもかかわらず、加藤勝信官房長官は発効決定を受けた会見で「条約はわが国のアプローチとは異なる。署名しない考え方は変わらない」とした。かたくなな姿勢を崩していない。

 ICANに協力してきたカナダ在住の被爆者サーロー節子さんは「参加していない日本政府に怒りがある。国民が声を上げないことも理解に苦しむ」と語った。この憤りの重みをかみしめたい。

 条約発効は、核軍縮を迫る圧力になることが期待されるが、核廃絶推進の実効性に欠けるとの課題もある。

 批准しない国には法的拘束力がないからだ。米英仏ロ中の五大核保有国や、北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、条約への参加を拒否している。

 日本政府は、「核兵器国と非核兵器国の橋渡し役を担う」と強調してきた。その約束をどう実行に移すかが問われる。

 条約発効後1年以内に第1回締約国会議が開かれる。政府に対し、会議へのオブザーバー参加を検討するよう求める声は与党内からも上がっている。

 まずは、オブザーバー参加を実現してもらいたい。会議の場で条約参加国が日本に何を求めているかにしっかり耳を傾け、条約が発効する新たな段階に対応した被爆国としての役割を、覚悟を持って探るべきだ。



核禁止条約発効へ/日本は参加へ一歩踏み出せ(2020年10月28日配信『神戸新聞』-「社説」)

 ついに核兵器禁止条約が来年1月、発効する。国連での採択から3年余りで、批准数が発効要件を満たす50カ国・地域に達した。

 広島、長崎への原爆投下から75年がたった。被爆地の惨状は目を覆うばかりで、その後の被爆者の苦難は地球上に核兵器があってはならないことを示す。だが、世界には約1万4千発もの核弾頭が現存し、核軍縮は停滞し続けている。

 こうした中、核の保有や開発、使用などを全面的に禁じる国際規範が誕生することは極めて意義深い。

 グテレス国連事務総長は「世界的運動の到達点だ」と述べた。自らの過酷な体験を発信し、核廃絶を訴え続けてきた日本の被爆者が果たした役割も大きい。

 これを機に、全ての国々が手を携え「核なき世界」の実現へ、新たな一歩を踏み出さねばならない。

    ◇

 前文で「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」とうたう条約は、核兵器を非人道的で違法と断じ「絶対悪」として根絶を目指す。威嚇行為も禁止することで核抑止力も否定した。発効後1年以内に開かれる締約国会議などに、非締約国がオブザーバーとして参加できる。

 ただ、参加国以外への法的拘束力はない。米英仏ロ中の五大保有国は「厳しい安全保障環境を無視している」などの理由で条約自体に反対している。イスラエルやインド、パキスタンなど残る保有国も参加せず、日本など米国の「核の傘」に依存する国々も批准に至っていない。

 このため、実効性を疑問視する意見があるのも事実だ。

 しかし、発効すれば核保有は「国際法違反」のそしりを免れず、軍縮の圧力となるのは間違いない。批准国数が拡大すれば、対人地雷禁止条約などのように不参加国にも大きな影響力を持つ可能性がある。米国が複数の批准国に撤回を強く求めるのも、国際的な反核世論の高まりを恐れている証左ではないか。

足踏み続く核軍縮

 もっとも、核軍縮の現状は厳しい。約190カ国が参加する核拡散防止条約(NPT)は、五大国に保有を認める代わりに「核軍縮に向けた誠実な交渉義務」を課している。だが近年は足踏みが続き、不満を募らせた非保有国側が禁止条約の採択に動く要因となった。

 核弾頭の9割を持つ米ロ間では来年2月の期限切れを前にした新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉が予断を許さない。失効すれば、中国を含めた本格的な軍拡競争につながる懸念もある。

 核兵器禁止条約が発効する一方で、世界を取り巻く「核のリスク」は高まっているのが現実だ。核保有国には、まずNPTが定める軍縮交渉の義務を果たすよう求めたい。

 残念なのが、日本政府の姿勢である。北朝鮮と中国の脅威や、米国との同盟関係を重視する立場から、韓国などとともに禁止条約に反対している。被爆者をはじめ国内外に失望が広がるのは当然だろう。

 加藤勝信官房長官は「日本のアプローチとは異なる」と従来の方針を繰り返し、菅義偉首相は所信表明で条約に触れないどころか核廃絶への決意さえ述べなかった。

 核抑止に依存するあまり、思考停止に陥っているように映る。政府が自任する核保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うためには、禁止条約はNPT体制と矛盾せず両立しうるものと認識を改める必要がある。

「橋渡し役」の責務


 唯一の被爆国として取るべき道は禁止条約を拒絶することではない。どうすれば核廃絶のための役割を果たせるかを考えることである。

 旧態依然の思考から抜け出すことが重要だ。すぐに禁止条約の批准は難しくても、締約国会議にオブザーバーとして参加し、保有国も受け入れられる現実的な議論を先導することはできる。その過程で、早期に正式加盟する道を探るべきだ。

 日本世論調査会による全国世論調査では、禁止条約に日本も「参加するべきだ」とした人は72%に上った。うち62%が「日本は唯一の戦争被爆国だから」と答えた。

 世界では核関連産業への資金提供を取りやめる金融機関が増えている。日本でもメガバンクを含む多くの銀行が投資や融資を自制する方針を定めている。核廃絶は国際的な潮流になりつつあると言っていい。

 このまま禁止条約に背を向け続ければ、国際社会の信用失墜につながりかねない。この流れを逃さず、日本は核抑止に頼らない安全保障を探る議論の先頭に立つべきだ。



核兵器禁止条約 被爆国の役割が問われる(2020年10月28日配信『山陽新聞』-「社説」)

 原爆投下から75年、「核なき世界」を願って行動してきた被爆者らのひたむきな努力を国際社会が受け止め、重い扉を押し開けたと言えよう。

 核兵器の保有や使用などを全面禁止する「核兵器禁止条約」の批准国・地域数が発効要件の50を達成。来年1月22日の発効が決まった。「歴史的快挙」と歓迎する声があがる一方、核保有国などの不参加で実効性には疑問もある。多難な船出となりそうだ。

 同条約は2017年に、国連で122カ国・地域の賛成で採択された。背景には核保有大国の間で進まない核軍縮に対する非保有国のいら立ちがあり、今月24日の中米ホンジュラスの批准で発効要件を満たした。

 核兵器を非人道的で違法と断じる初の国際規範は、前文に「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記。その上で核兵器の開発や保有、使用だけでなく、核抑止力を意味する「使用するとの威嚇」、核兵器の移譲など広く禁じている。

 批准国・地域や尽力した人々に敬意を表したい。だが、条約には肝心の核保有国が参加していない。さらに米国の「核の傘」に依存する日本なども加わっておらず、先行きは見通せない。

 1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)では、米英仏ロ中の五大保有国だけに保有を認める代わりに核軍縮の努力を課したが、停滞感が強い。世界の核弾頭数は古い武器の廃棄などによって微減傾向にあるが、推定1万3400発が依然として存在するという。

 その9割方を保有する米ロの間で結ばれていた中距離核戦力(INF)廃棄条約が昨年8月に失効。来年2月に期限が切れる新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉も難航している。

 加えて米中の厳しい対立や、核兵器の近代化競争が進むなど軍拡へ逆行しそうな状況だ。インドやパキスタン、イスラエルといった“事実上の核保有国”もあり、北朝鮮も核開発の野望を隠さない。これ以上の拡散を許すわけにはいくまい。

 核兵器は一つ間違えれば、人類の滅亡につながる。誤作動や人為ミス、テロリストに渡る危うさもつきまとう。歯止めをかけ、廃絶へ向かわなければならない。

 確かに現状では条約の発効が即、問題の解決とはいかない。しかし、「核兵器は絶対悪」という条約の理念が広まれば、核保有国が主張する核抑止論の正当性も揺らぎかねない。米国が批准国に取り下げるよう求めたのは、そうした危惧の表れとも思える。

 唯一の戦争被爆国である日本は対応が問われる。政府は核廃絶を掲げ、保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任する。それならば禁止条約の批准を目指すべきだろう。まずは、オブザーバーとして締約国会議に参加して議論に耳を傾けるよう求めたい。



核兵器禁止条約発効へ 唯一の被爆国として責任果たせ(2020年10月28日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 核兵器の開発から使用まで一切を全面禁止する核兵器禁止条約の批准数が発効に必要な50カ国・地域に達した。来年1月22日に発効する。核兵器を非人道的で違法とする史上初の国際規範となる。核保有国に核軍縮を迫る圧力となることが期待される。

 一方で米英仏ロ中の核保有五大国や、米国の「核の傘」に頼る日本などは参加していない。不参加国には順守義務がなく、核廃絶への道のりは険しい。日本は条約に背を向け続けるのではなく、唯一の戦争被爆国として核廃絶に向け主導的役割を果たさなければならない。

 条約は2017年7月、国連で122カ国・地域の賛成で採択された。「核なき世界」を追求する声が、核兵器を「悪」と明確に規定する条約として結実する。条約は「使用するとの威嚇」も禁じており、核抑止力を否定している。核保有国をはじめ非参加国は、その意味を深く受け止めるべきだ。

 今年発効50年の核拡散防止条約(NPT)は五大国のみに核保有を認める一方で「核軍縮に向けた誠実交渉義務」を課してきたが、核軍縮は進んでいない現実がある。世界の核弾頭数は推定1万3400発。9割を保有する米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約が昨年失効し、来年2月が期限の新戦略兵器削減条約(新START)も米国が中国を引き込もうとしているが中国は反発しており失効する恐れがある。米ロ中の軍拡競争の懸念は高まっており、インドやパキスタン、イスラエルは核を保有し、北朝鮮も核開発を続けている。

 核軍縮を一向に進めない核保有国に対する非保有国の不満は高まっている。一方で米国が核兵器禁止条約批准国に批准撤回を求める書簡を送るなど、複数の核保有国が条約発効を遅らせるため非保有国に強い圧力を加えていたとされる。核保有国と非保有国の分断は根深い。新型コロナウイルスの影響で来年に延期されている5年に1度のNPT再検討会議で、核兵器禁止条約が火種になるのは確実という。

 日本政府は、核保有国抜きでは実効性がある取り組みができないとし、NPTの下での段階的な核軍縮を支持。北朝鮮の核・ミサイル開発など安全保障上の脅威を理由に日米同盟を優先し、条約発効確定後も「有効性に疑問」と署名に応じない姿勢を崩していない。発効から1年以内に最初の締約国会議が開かれ、議論のプロセスが始まる。オブザーバー参加の選択肢があるが、政府は慎重に判断するとし言及を回避している。

 広島と長崎に原爆が投下されて75年。「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と前文でうたう条約の原点には、被爆者の存在がある。政府は、核保有国と非保有国との「橋渡し役」を自任している。その責任を行動で示し、人類の安全保障へ貢献すべきだ。



核禁止条約1月発効 日本は参加へ転換せよ(2020年10月28日配信『琉球新報』-「社説」)

 核兵器を史上初めて全面的に非合法化する核兵器禁止条約が来年1月に発効することが決まった。米国による広島、長崎への原爆投下から75年。核軍縮に向けた大きな一歩となった。

 一方、日本は唯一の被爆国でありながら、安全保障上の脅威への対処を米国の「核の傘」に依存しているため条約参加を拒んでいる。被爆国として矛盾した対応であり被爆者に対する背信行為だ。

 条約採択をけん引し2017年のノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、日本の条約参加こそが核廃絶実現へ大きな影響を与えるとして、言葉だけではなく行動を求めている。日本が核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任するなら、禁止条約参加に方針転換すべきだ。

 最低でも条約発効後の締約国会議にオブザーバー参加して核廃絶を求める各国と議論を深める必要がある。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計によると、今年1月時点の世界の核弾頭数は計1万3400発。米国とロシアの2カ国だけで1万2千発を超え、全体の約9割を占める。

 米国は中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱し、米ロ間に唯一残された新戦略兵器削減条約(新START)は来年2月に期限を迎える。

 現在、米中ロを中心とする「新冷戦」下にあり、中国は中距離核戦力を保有し、トランプ政権は小型核の開発・配備を進めている。北朝鮮の核問題も解決していない。地球最後の日までの残り時間を概念的に示す「終末時計」の最新時刻は、今年1月「100秒」となり1947年の創設以来、過去最短である。

 核禁止条約は、米ロ英仏中5カ国の核保有を認める代わりに核軍縮義務を課した核拡散防止条約(NPT)が成果を上げないため、その対抗としてできた。

 前文で「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記し、核兵器の非人道性を指摘している。核兵器の開発や実験、保有、使用などを禁止。使用の威嚇も禁じることで核抑止力を否定した。

 禁止条約は、批准した国だけが法的に拘束され核兵器保有国や未加盟の国への強制力はない。それでも「核は違法」という国際的認識を浸透させることで核保有国に核の使用を困難にさせる政治的効果が期待できる。

 ところが日本政府は「わが国のアプローチとは異なる。署名しない考えに変わりはない」(加藤勝信官房長官)と背を向ける。菅義偉首相は9月の国連総会一般討論のビデオ演説で、条約に一切触れなかった。

 沖縄県議会を含む全国で4分の1を超える地方議会が条約の署名・批准を求める意見書を採択した。政府は「核なき世界」を求める被爆者と国民の思いに応える責務がある。



感謝状の誓い(2020年10月28日配信『琉球新報』-「金口木舌」)

 今年8月の長崎市平和祈念式典で印象的な場面があった。田上富久市長が平和宣言で、つらい体験を語ってきた被爆者に敬意と感謝を込めて「拍手を送りましょう」と会場の参加者に呼び掛けたのである

▼拍手は約10秒ほど続いた後、田上市長は「この拍手を送るという、わずか10秒ほどの行為によっても平和の輪は広がります」と続けた。感謝の拍手は平和の輪を広げるための行為でもあった

▼拍手が被爆者の苦悩を和らげるものであってほしい。問われるべきは核兵器禁止条約への参加を拒んできた政府である。10秒の拍手に応える術はあるか。来年1月の核兵器禁止条約発効が決まった

▼沖縄戦の語り部118人に県が感謝状を贈った。語り部の活動を通じて「沖縄戦の実相と歴史的教訓を次世代に継承し、恒久平和の構築に尽力した」ことが贈呈の理由である。ここでは感謝状を贈る県や県民の姿勢が問われる

▼体験を語るまでに長い年月を要した語り部がいる。心の痛みに耐えマイクを握る語り部がいる。今なお語れない体験者がいる。それぞれの体験の重さに、私たちは真摯(しんし)に向き合いたい

▼核兵器禁止条約への参加を被爆者が願うように、戦争につながる全てを否定することが沖縄戦体験者の願いである。願いに応えるのが平和行政を担う県、そして県民の役目であろう。感謝状はその誓いでもあると考えたい。





核禁止条約発効と日本 もはや背は向けられない(2020年10月27日配信『毎日新聞』-「社説」)

 核兵器の開発から使用、威嚇まで禁止する核兵器禁止条約が来年1月22日に発効する。批准国・地域数が発効に必要な50に達した。

 人類に甚大な被害を与える大量破壊兵器のうち生物兵器と化学兵器はすでに禁じられている。唯一残されているのが核兵器だ。

 条約は、2017年に国連で122カ国と地域の賛成で採択された。ただ、核兵器を持つ国はいずれも署名しておらず、すぐに核兵器がなくなるわけではない。

 それでも、発効すれば、核兵器自体を違法とする新しい国際規範が生まれる。保有国に核軍縮を迫る圧力になるだろう。

 日本政府は条約の枠組みに参加していない。米国の「核の傘」に依存しており、核保有国が参加しない条約は「現実的、実践的ではない」と主張する。

 しかし、核抑止は万能ではない。核戦争は情勢の誤認や機器の誤作動でも起こり得る。攻撃と反撃が核兵器で繰り返されれば自国だけでなく世界が滅びる。

 核保有国やその同盟国は、核兵器で抑止力を維持した冷戦時代の発想を変える必要がある。

 政府は核拡散防止条約(NPT)体制を強化するのが現実的だともいう。NPTが義務付ける核軍縮交渉を推進する考え方だ。

 米露が核弾頭数を大幅に減らしたのは事実だ。しかし、この3年のうちに中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄し、中国を交えて核兵器の近代化を競っている。

 米国は条約に同調する中小国に圧力をかけてきたという。日本は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任するが、両者の対立を和らげる成果は出せていない。

 政府は核廃絶へのアプローチの違いから核禁条約に背を向けてきた。だが、そのアプローチが行き詰まっているのは明らかだ。

 発効後1年以内に批准国による締約国会議が開かれる。批准していなくても、認められればオブザーバー参加することができる。

 日本が果たすべき役割は、会議に参加し、核廃絶の議論に耳を傾け、実効性ある核軍縮を考え、世界に発信することではないか。

 条約の前文には「ヒバクシャ」の文字が刻まれている。その重みと責任を唯一の戦争被爆国として改めて自覚すべきだ。



ジャマイカやホンジュラスが相次いで核兵器禁止条約を批准し…(2020年10月27日配信『毎日新聞』-「余録」)

 ジャマイカやホンジュラスが相次いで核兵器禁止条約を批准し、来年1月の発効が決まった。両国の共通点はラテンアメリカを対象にした世界初の非核地帯条約、トラテロルコ条約(1968年発効)に加盟していることだ

▲核戦争の瀬戸際といわれたキューバ危機を教訓にメキシコが主導し、域内での核兵器の実験や製造、配備を全面的に禁止した。欧州の植民地やパナマ運河も絡んだ複雑な交渉だったが、米ソなど核保有国を含めた合意にこぎつけた

▲非核地帯条約はその後、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジアへと広がった。核兵器禁止条約の署名国や批准国は非核地帯に集中している。米国は発効回避を狙って各国に圧力をかけたとされるが、積み重ねられてきた結束を崩せなかった

▲条約は非核地帯を地球全体に広げる意味を持つ。合意形成は容易ではないが、非核地帯条約も当初は非現実的といわれた。メキシコの外交官はワシントンに頻繁に出向いて慎重だった米政府を動かしたそうだ

▲実は最初に非核地帯になったのは南極大陸だ。61年発効の南極条約で核爆発の禁止を明記したのだが、この時は日本の貢献も大きかった。反対姿勢を示していた米国を説得する妥協案を示し、合意の道筋をつけた

▲日本は今回、米国への配慮もあってか交渉に参加せず、被爆者や参加各国を失望させた。しかし、座視していては状況は変わるまい。締約国会議へのオブザーバー参加も見送るようでは唯一の被爆国の覚悟が問われる。



核廃絶へオブザーバー参加視野に貢献を(2020年10月27日配信『日本経済新聞』-「社説」)

 核兵器の開発、保有、使用などを全面的に禁止する核兵器禁止条約が2021年1月22日に発効することが決まった。

 米ロ中をはじめとする核保有国は条約に参加しておらず、実効性には乏しい。ただ、核兵器を違法とする国際規範ができることを保有国は軽視すべきでない。双方の溝がこれ以上広がらないよう橋渡しする日本の役割も重要度を増している。

 条約は17年7月に122カ国・地域の賛同を得て採択された。50カ国・地域が批准して90日後に発効する仕組みで、このほどその条件を満たした。

 保有国は「現実にそぐわない」として条約に反対している。米英仏は「北朝鮮は核開発計画という脅威に解決策を示さないばかりか、抑止力を必要とする状況にも対応していない」と指摘している。

 日本は条約参加を見送った。安全保障を米国の核の傘に依存する現下の環境で核抑止力を否定できないとの判断だ。韓国やドイツなども同じ立場だ。

 ただ、唯一の被爆国として、その非人道性を世界に広く知らしめることは日本の責務でもある。

 核に依存する現状を少しでも変えるために、軍縮交渉や非核化地帯の創設などを後押しすることが肝要だ。最終的に核廃絶という目標に近づくために何ができるのか議論を深めねばならない。

 そのひとつが、締約国会議への日本のオブザーバー参加問題だ。同会議は条約の具体的な運用などを協議するもので、発効後、定期的に開催される。すでに公明党が参加すべきだとの要望を政府に提出した。

 安倍晋三前首相は8月に広島での平和記念式典で「立場の異なる国々の橋渡しに努め、核兵器のない世界の実現に向け国際社会の取り組みをリードする」と述べた。

 ことばだけでは被爆者や遺族らの心に届かない。ましてや世界を動かすことはできない。国際社会をリードするために菅政権はオブザーバー参加を視野に政府としての貢献のあり方を示してほしい。

 核保有国も参加した国際枠組みには核拡散防止条約(NPT)がある。その運用状況を確認する再検討会議は来年開催される予定だ。15年は核保有国と非保有国の対立で最終文書で合意できなかった。来年合意できなければNPT体制そのものが形骸化しかねない。危機は迫っている。



核兵器禁止条約 廃絶と安全につながらぬ(2020年10月27日配信『産経新聞』-「主張」)

 核兵器の開発や実験、保有、使用を全面的に禁ずる核兵器禁止条約が来年1月発効する。50の中小の国・地域が批准して発効基準を満たした。

 これが核廃絶の歩みを前進させるとの見方が新聞やテレビニュースなどで広がっている。

 唯一の戦争被爆国として日本が核兵器廃絶を追求するのは当然だ。だが、核廃絶や平和に寄与するという前提で核禁条約を論じたり、日本が加わったりすることはとても危うい。

 核兵器を持つ国はどこも核禁条約に加わっていない。核拡散防止条約(NPT)で核保有を認められた米露中英仏の5カ国やNPT外で核を持つインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮である。これで核を廃絶できるのか。

 そのうえ日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)加盟の非核保有国の全てが核禁条約を結ばなかった。その重みも理解しなくてはならない。核禁条約は締約国と、核保有国を含む非締約国との溝を深め、核軍縮の議論を停滞させる恐れもある。

 日本は中露や北朝鮮の核の脅威に直面している。北朝鮮が声明で「取るに足らない日本列島の4つの島を核爆弾で海中に沈めるべきだ」と脅してきたのはわずか3年前のことだ。

 現在の科学技術の水準を踏まえれば、核攻撃を抑えるには核による反撃力を持つことが欠かせない。核抑止を一方的に解けば放棄しない国の前で丸裸になる。もし全核保有国が放棄しても、ひそかに核武装する国やテロ組織が現れれば万事休す、である。

 自国や同盟国の側に核抑止力がなければ、北朝鮮のような悪意ある国からの核攻撃やその脅し、化学兵器など他の大量破壊兵器による攻撃を防げない。この安全保障上の厳しい現実を肝に銘じたい。日本が非核三原則を採れているのも同盟国米国の「核の傘」(核抑止力)に依存しているからだ。

 加藤勝信官房長官は会見で「わが国のアプローチと異なる」として核禁条約に署名せず、締約国会議へのオブザーバー参加にも慎重姿勢を示した。

 国民の命を守る責務を担う政府として妥当な姿勢である。政府は広島、長崎の悲劇を語り伝え、核禁条約とは別の形で核軍縮外交を着実に進めるとともに、「核の傘」やミサイル防衛の有効性を常に点検しなければならない。



核禁条約発効へ 日本の参加欠かせない(2020年10月27日配信『東京新聞』-「社説」)

 核兵器の保有、使用を全面禁止する「核兵器禁止条約」の来年一月発効が決まった。核保有国は参加していないが、実効性を持たせるために、唯一の戦争被爆国である日本も参加し、協力すべきだ。

 発効が実現したのは、高齢化する被爆者が「最後のチャンス」として核兵器の非人道性を訴え、世界の国々が応えた結果だ。
 被爆者とともに活動してきた国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のフィン事務局長は、「ついに核兵器が禁止された」と歓迎。そして、条約が核兵器削減を迫る圧力になると意義を強調した。

 ただ条約を批准しなければ、法的な順守義務は生じない。核保有国や、核保有国の「核の傘」に依存する日本を含めた国々は批准していない。むしろ「核廃絶には役立たない」として無視したり、冷ややかな反応を見せている。

 核兵器のバランスこそ平和に貢献するとの「核抑止論」もある。しかしこれは、危険な幻想だ。

 核兵器の数は冷戦時からは減少しているものの、米ロを中心に依然として一万発以上存在する。米中の対立が深まり、小型核の実戦配備も進んでいる。

 米国は2017年、北朝鮮への報復として、80発の核兵器の使用を検討したと報道されている。核戦争は、日本にとって決して遠い国の絵空事ではない。

 核軍縮は現在、核拡散防止条約(NPT)が中心となっている。米英仏ロ中の5大国に核保有を認め、この枠内で削減を図るものだが、交渉は停滞している。

 核禁条約を契機に核軍縮を求める声が高まれば、NPT側が反発、対立が深まる危険性もある。

 重要なのが、日本の役割だ。日本は米国の核の傘に入っているものの、日米安保条約には核兵器に関する記述はなく、核禁条約に参加することは不可能ではない。

 日本政府は「わが国のアプローチと異なる。(核禁条約に)署名は行わない」(加藤勝信官房長官)と否定的な姿勢だが、理解し難い。大切なのは、「核兵器のない地球」という共通の目的を実現することだ。

 日本政府は、唯一の戦争被爆国として、核保有国と非核保有国の「橋渡し役」を担うと、再三表明してきた。いまこそ、そのタイミングではないか。

 条約発効後、具体的な運用について協議する締約国会議が開かれる。この会議に、オブザーバー参加することを決断すべきだ。



いかなるときも悪である(2020年10月27日配信『東京新聞』-「筆洗」)

 広島で被爆した歌人山本康夫は、13歳だった息子をなくしている。壊れた家の中で息絶える姿を『皮膚のない裸群』という詩にした。『日本原爆詩集』に収められている。<その夜私の息子は…「お浄土には羊羹(ようかん)があるの? そして/お浄土には戦争はないね……」とつぶやいて/ぴくりと息を引きとった>

▼戦争のない世界を思いながら、その少年が旅立って75年がたつ。こちらに原爆はもうないよ。浄土にそう告げることができなかった75年でもある。ようやく、報告することができたのかもしれない

▼核兵器の保有や使用を禁じる核兵器禁止条約の発効が決まった。必要とされる50カ国・地域の批准は、難しいとも思われていた。が、採択から3年あまりで、50番目となる中米のホンジュラスの批准により来年1月の発効が確定した

▼核兵器は決して「必要悪」ではない、いかなるときも悪である。そんな考え方が、まだ一部ではあるけれど、地上に正式に根を下ろしたということであろう。一歩踏み出したよ、と少年には告げられそうだ

▼核保有国は今も「必要悪」と考えているようで、大量の核兵器をなかなか手放さない。核の傘の下にいる日本も条約に背を向ける

▼「オブザーバー」の資格で条約にかかわる道もあるそうだ。手を合わせながら、踏み出す一歩にわが国も加わるよ、と報告できないものか。



核兵器禁止条約 政府は背を向け続けるな(2020年10月27日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 核なき世界への扉を開く大きな一歩になり得る条約である。原爆の惨禍を経験した日本は、その動きを率先する責務がある。米国の「核の傘」に依存し、条約に背を向け続ける姿勢を政府は改めなくてはならない。

 核兵器禁止条約を批准した国・地域が50に達し、来年1月に発効することになった。開発や保有、使用にとどまらず、核による威嚇を含む一切を禁止する。2017年に国連で採択された。

 広島、長崎への原爆投下から75年。条約の根本理念である核兵器の非人道性を訴えてきた被爆者たちの不断の努力と、国際的な非政府組織(NGO)、非核保有国の協働が生んだ成果である。

 ただ、米国、ロシアをはじめ五大核保有国は条約への参加を拒絶している。イスラエル、北朝鮮など他の保有国も加わっていない。核の傘の下にある日本や北大西洋条約機構(NATO)加盟国も採択に反対した。

 条約の法的な拘束力は未締約国には及ばず、核廃絶に向けた前途はなお険しい。それでも、核兵器を「絶対悪」として禁じる国際法が、保有国に核軍縮を強く迫る圧力になるのは確かだ。

 1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)は五大国に核保有を認める代わりに、核軍縮交渉に誠実に取り組むことを義務づけた。にもかかわらず、一向に核軍縮が進まないことへの国際社会の憤りが禁止条約の背景にある。

 保有国は、禁止条約がNPT体制を損ない、かえって核廃絶を遠ざけると批判する。NPTが定める義務を履行しない自らの責任を顧みる姿勢は見えない。

 それどころか、米国は小型核の増強を図る新たな核戦略を打ち出し、ロシアも対抗して核軍拡が再燃している。中距離核戦力(INF)廃棄条約は失効し、新戦略兵器削減条約(新START)も期限切れが近い。NPTを空洞化させているのは核保有国の側だ。

 日本政府は、唯一の戦争被爆国として核保有国と非保有国の橋渡し役を担うと言いながら、行動は伴っていない。核廃絶を表向き掲げつつ、米国に同調するばかりでは、むしろそれを妨げ、後退させていないか。被爆国としての責務に逆行する政府の姿勢を厳しく問わなければならない。

 禁止条約を、NPTを補完して核廃絶を図るものと捉えることに何も無理はない。発効から1年以内に開く締約国会議に政府はオブザーバーであれ参加し、日本が果たす役割を考え直すべきだ。



板挟み(2020年10月27日配信『新潟日報』-「日報抄」)

 生きていく上で、相反する立場や意見の間で板挟みになることはよくある。上司からも部下からも責められる中間管理職は典型例か。最近は、新型ウイルス対策が求められる一方で、厳し過ぎれば売り上げが減るジレンマに悩む飲食・観光関係者も多いだろう

▼「核なき世界」を巡る議論で、日本はいつも板挟みになってきた。核兵器を保有する近隣国と向き合う中、米国の「核の傘」に守られているという現実がある。その一方で、唯一の戦争被爆国として惨禍を忘れず、核の廃絶を追求すべきという国是がある

▼ただ、今回はさほどジレンマに悩んだ姿はうかがえない。核兵器を「悪」として明確に規定した核兵器禁止条約は、50カ国・地域が批准し来年1月に発効することとなった。しかし日本は安全保障上の理由から参加を見送った

▼官房長官時代の菅義偉首相は、条約について「現実を十分踏まえていない」と繰り返してきた。現内閣の加藤勝信官房長官も「わが国のアプローチとは異なる」とそっけない。核廃絶の実現に向けた動きがなかなか見えないのがもどかしい

▼「背中一面に大やけどを負った父は、はいずり回り苦しみ抜いて亡くなった」。広島で被爆し、本県に移り住んだ女性の言葉である。自身も腹痛や立ちくらみなどの後遺症に苦しんだ

▼条約は、前文で「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」とうたう。今この国に求められるのは、板挟みの状況を何とか乗り越えるためにもがき、あがくことではないか。



「あなたはたしか…」と(2020年10月27日配信『神戸新聞』-「正平調」)

「あなたはたしか…」と、知らない人から声をかけられることが増えたそうだ。原爆投下後の広島である。自らも被爆した作家、原民喜は書いた。「広島では誰かが絶えず、今でも人を捜し出そうとしている」(「廃墟から」)

◆身内はもとより、あの日から消息の知れない知人、隣人の面影を行き交う人に求めたのだろう。同じようにヒロシマ、ナガサキが75年前から今もずっとさがし求めているもの-「核なき世界」がそうに違いない

◆被爆地の運動と人類の良心がようやくにしてたどりついた核廃絶への扉といえる。つくる、持つ、使う、またはそれで脅す。そのすべてを認めないとする核兵器禁止条約が来年1月22日に発効することとなった

◆批准した国や地域が50に達した。条約に反対している米国からは批准を取り下げよとの圧力もあったというが、屈せずに押し通した姿勢には、すなおに敬意を表したい

◆被爆国、日本は真っ先に批准していいはずなのに、そうしない。核廃絶への「世界の橋渡し役」とかっこいいことを言うが、行動が伴わないのなら本気度が疑われよう

◆〈昭和二十年八月五日 広島の小学生太郎の食べた夕飯は何?〉(藤原龍一郎)。核兵器がなくならぬ限り、私たちはいつまでも悲劇の前夜にいる。



あと3、あと1…。この半月ほど…(2020年10月27日配信『山陽新聞』-「滴一滴」)
 あと3、あと1…。この半月ほど、ゴールに向けたカウントダウンの様相を呈していたが、ようやく目指す50の国と地域に達した。核兵器を違法とみなす史上初の核兵器禁止条約である

▼先日、必要な批准数を満たして来年1月の発効が決まった。核兵器の開発・実験、保有や使用を全面的に禁じる条約にはヒバクシャの受け入れ難い苦しみ、という文言も明記された。「歴史的な一歩」と達成感に満ちた声が各地から聞こえる

▼とはいえ、もちろんこれはゴールではなく「核なき世界」への出発点にすぎない。それも多難な船出である。批准国は中南米やアフリカなどの小国が多い。米英仏ロ中といった肝心の核保有大国は拒否し、米国にいたっては、複数の国に批准を取り下げるよう介入していた

▼核による抑止論も語られてきたが、核を持つ大国が近年見せる身勝手な振る舞いを目にするにつけ、危うさを禁じ得ない。核・ミサイル開発に躍起になっている近隣国からも目が離せない

▼日本の立場は分かりづらい。被爆国として核廃絶という大目標を掲げながらも、現実には米国の「核の傘」の下にあるとして条約への不参加を決めている

▼政府は「核廃絶というゴールは共有している」と言う。核兵器保有国と非保有国との橋渡し役を自任する日本がどう行動するのか。世界が注視している。



核禁条約発効へ 「絶対悪」の認識共有せよ(2020年10月27日配信『西日本新聞』-「社説」)

 「核兵器なき世界」を目指す重要な一歩である。この非人道的な兵器の開発から使用、威嚇(いかく)までを違法と定めた核兵器禁止条約が来年1月、発効することになった。核兵器を全面的に認めない条約は史上初めてだ。

 核禁条約は2017年7月に国連で122カ国・地域の賛成で採択され、3年余りで発効に必要な批准数に達した。

 これまで批准した50の国・地域は人口や経済規模の小さな途上国が大半を占める。「核抑止力」に依拠する大国の論理に翻弄(ほんろう)されがちな立場ながら、核廃絶に賛成する国を着実に積み上げ、条約発効に結実させた。

 この事実の重さを、核保有国はもちろん、日本をはじめ条約に参加していない国々は真剣に受け止めなければならない。

 条約発効に導いた国際世論の背景には、核兵器を巡る現状への強い危機感がある。

 世界には現在約1万3400発の核兵器が存在し、削減は停滞したままだ。その9割を保有する米ロは新型核兵器の開発を競い、中国の台頭もあり、新たな軍拡競争が始まっている。

 米ロ間で唯一の核軍縮枠組みとなる新戦略兵器削減条約(新START)は来年2月が失効期限だが、その後は不透明だ。保有国まで参加する核拡散防止条約(NPT)も本来の機能が生かされていると言い難い。核使用の危険性は高まる一方だ。

 こうした流れは変えなければならない。日本は本来その先導役を担うべき国のはずである。しかし、米国の核戦略に組み込まれ、中国や北朝鮮の核の脅威が存在する地域情勢から、政府は一貫して核禁条約の実効性を否定している。

 確かに米国、ロシア、中国など核保有国は参加しておらず、条約に縛られない。それでも、米国は条約参加国に批准取り下げを迫る書簡を送った。発効によって核抑止論の正当性を損なうと危ぶんだのだろう。

 見方を変えれば、条約は「核は絶対悪」という共通認識を世界に広め、核保有国への圧力となり得るとも言える。対人地雷やクラスター爆弾と同様、人道上使えない兵器に「核」を変容させる可能性はあるだろう。

 日本は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を掲げる以上、核廃絶を働き掛けると同時に、発効後の締約国会議にオブザーバーでの参加を検討し、いずれは条約批准を目指すべきだ。

 国連のグテレス事務総長は条約発効を「世界的運動の到達点」と評価した。「人類と核兵器は共存できない」と日本から訴え続けた被爆者の声が条約の原点である。唯一の戦争被爆国として政府も私たちもあらためて条約の意義をかみしめたい。



生ましめんかな(2020年10月27日配信『佐賀新聞』-「有明抄」)

 詩人栗原貞子さんの「生ましめんかな」は、75年前の実話にもとづいている。広島に原爆が投下されて2日後の8月8日夜。被爆した人たちが身を寄せたビルの地下室で、妊婦が産気づいた。「マッチ1本ないくらがりで/どうしたらいいのだろう/人々は自分の痛みを忘れて気づかった」

◆すると、ひとりの助産師が名乗り出た。けがで40度近い高熱にあえいでいた女性だった。へその緒を裁縫ばさみで切り、焼けたトタンをたらいにして産湯につけた。詩はこう続く。「かくてあかつきを待たず産婆は/血まみれのまま死んだ。/生ましめんかな/生ましめんかな/己が命捨つとも」

◆新たな生命のために、被爆し傷ついたわが身を投げ出す。唯一の被爆国にそんな姿を重ね合わせてみる。核兵器禁止条約が来年1月に発効することが決まった。日本政府はしかし、参加する考えはないという。中国や北朝鮮の核の脅威がある以上、米国の「核の抑止力」に頼らざるを得ない、とする考えは根強い

◆もうひとつ栗原さんの代表作「ヒロシマというとき」を思い返す。「〈ヒロシマ〉といえば/〈ああ ヒロシマ〉と/やさしく返ってくるためには/捨てた筈(はず)の武器を ほんとうに/捨てねばならない」

◆加害に手を貸してはならない…詩人の絶唱を理想論と笑ってはいられない時代だというのに。



[禁止条約発効へ] 核廃絶 日本が主導を(2020年10月27日配信『南日本新聞』-「社説」)

 核兵器の開発から使用まで一切を全面禁止する核兵器禁止条約が来年1月に発効する。2017年7月に国連で条約が採択されて以降、批准数が発効に必要な50カ国・地域に達した。

 だが、米ロなど核保有国は条約に背を向け、米国の「核の傘」に頼る日本も参加していない。これでは「核なき世界」実現は遠いと言わざるを得ない。

 日本政府は保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任する。唯一の戦争被爆国の責務として核廃絶を主導すべきである。

 広島と長崎に原爆が投下されて75年。1945年末までに20万人以上が亡くなり、放射線の影響で今も後遺症に苦しむ被爆者は少なくない。

 条約前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意」と明記されている。核廃絶を長年訴えてきた被爆者らの願いが実り、核兵器を非人道的で違法と断じる初の国際規範が生まれることを歓迎したい。

 今後は実効性を高める努力が不可欠だ。条約に反対する核保有国などは、一足飛びに核廃絶に至るのは「非現実的」で、国際的な核秩序の土台である核拡散防止条約(NPT)の堅持・強化と相いれないと主張する。

 NPTは核保有国に対し、核軍備競争を早期に停止し核軍縮の効果的な措置を取るよう求めているものの、米ロ中は近年、核兵器の近代化を進め、軍拡競争を展開している。米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約は失効、米ロの新戦略兵器削減条約(新START)も来年2月に失効期限を迎えるが、前途は見通せないのが実情だ。

 このままでは核廃絶への道筋は描けず展望は開けまい。まず「核兵器は悪」との認識を世界で共有し、“核保有国包囲網”を築いていくことこそ、真の平和につながるに違いない。

 日本政府もNPTなど現行の枠組みを生かした核兵器の段階的削減が現実的だとし、加藤勝信官房長官はきのう、条約不参加の方針を改めて示した。

 中国や北朝鮮は核戦力増強を続ける。両国の動向を懸念する日本政府は日米同盟を安全保障の基軸とする以上、米国を差し置いて賛同するわけにはいかないとの立場だろう。

 現時点で条約参加は難しいとしても、条約発効後1年以内に開かれる締約国会議にオブザーバーとして参加し打開策を探る必要がある。条約発効を機に、核に依存しない安全保障への転換を着実に進めるべきだ。



「母さんたちと一緒にお空に上ってお星さまになりたいね」(2020年10月27日配信『しんぶん赤旗』ー「潮流」)

「今度こそ、母さんを助けるぞ」。そう叫んで目が覚めたときの言いようのない悔しさ。先月91歳で亡くなった岩佐幹三(みきそう)さんは生前、同じ夢をくり返し見たと語っていました

▼16歳だったあの日、広島の爆心地から1・2キロの自宅で被爆。崩れ落ちた家の下敷きになって原爆の業火に生きながら焼かれる母を救えなかった「罪」を生涯背負いました。そして、死者にたいする誓いと決意を胸に核兵器廃絶を命の限り訴えつづけました

▼3年前、国連で核兵器禁止条約が採択されたとき、岩佐さんは喜んでいました。「母や妹をはじめ、原爆で亡くなっていった人の死がむだではなかったということを明らかにしてくれた」。発効が決まったことを知ったら、どんなに…

▼被爆75年、核兵器の全面禁止にむけた歴史的な前進の歩み。歓喜と祝福が相次ぐなか、日本政府への失望や怒りがひろがっています。唯一の戦争被爆国でありながら、いまだ核の傘に頼り禁止条約に背を向ける。被爆者や運動を否定するような姿勢に終始しています

▼菅首相就任後、初の所信表明演説。「国民のために働く内閣として新しい時代をつくる」といいながら、そのための柱も画期をなす施策もない。対峙(たいじ)する市民と野党の共闘の土台となる政策には、新しい日本を切り開く道が鮮やかに

▼そこには核兵器禁止条約を直ちに批准することも。いつか、核なき世界が実現したときのことを岩佐さんはつづっています。「母さんたちと一緒にお空に上ってお星さまになりたいね」





核禁条約発効へ 廃絶へ歴史的な一歩だ(2020年10月26日配信『北海道新聞』-「社説」)

 「核なき世界」の実現に向けた歴史的な一歩だ。

 核兵器の開発から実験、保有、使用まで全面的に禁じる核兵器禁止条約の批准数が、条約発効の要件である50カ国・地域に達した。90日後の来年1月22日に発効する。

 史上初めて核兵器を非人道的で違法とみなす国際条約である。広島、長崎への原爆投下から75年の節目に、あの惨劇を二度と繰り返してはならないという被爆者の訴えが条約として結実した。

 核兵器廃絶を求める強い決意が国際社会の法規範になることは、核使用への歯止めと軍縮の圧力となり、大きな意味がある。

 問題は米ロなどの核兵器保有国や、唯一の戦争被爆国である日本が不参加なことだ。

 これを機に、核保有国は核廃絶に踏み出さなければならない。日本はそれを後押しするために、条約を批准して核廃絶への意思を明確に示す責務がある。

 条約は2017年、国連加盟の3分の2近い122カ国の賛成で採択され、その年のノーベル平和賞は条約を推進した非政府組織(NGO)の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が受賞した。

 発効決定は被爆者を中心とした市民が原動力となり、国際社会を動かした結果と言える。国連のグテレス事務総長は声明で「世界的運動の到達点だ」と評価した。

 だが、核廃絶への道は険しい。

 1970年に核拡散防止条約(NPT)が発効し、核保有国を米ロ英仏中の5カ国に限定した上で核軍縮を義務づけたが、現実はむしろ逆行する動きが目立つ。

 核保有により敵の攻撃を未然に防ぐとする核抑止論が背景にあり、軍拡競争に陥っているためだ。条約は核抑止に頼る安全保障政策の転換を迫っている。

 米国は条約批准国に批准取り下げを求める書簡を送ったとの報道もあるが、事実なら言語道断だ。

 世界にはなお約1万3千発の核兵器がある。9割は米ロが持つが、中距離核戦力(INF)全廃条約は失効し、来年2月が期限の新戦略兵器削減条約(新START)は延長されるか予断を許さない。

 イスラエルやインド、パキスタンは核を持ち、北朝鮮やイランの核開発も懸念される。核の脅威はかつてなく高まっており、国際社会の協調した対応が欠かせない。

 日本は保有国と非保有国の「橋渡し役」になると言い続けているが、一体何をしたというのか。米国の「核の傘」に依存するばかりでは各国の失望を招くだけだ。



核兵器禁止条約発効へ 日本政府は覚醒を(2020年10月26日配信『茨城新聞』-「論説」)

 核兵器の開発や実験、製造、保有、使用などを禁じた核兵器禁止条約の批准国・地域が50に達し、来年1月下旬に発効することとなった。核弾頭を削減したり、核実験を禁止したり、核拡散を防止する軍縮条約は複数あるが、核兵器を全面的に非合法化する国際法は人類史上、初めてだ。

 広島と長崎への原爆投下から75年。1945年末までに20万人以上が尊い命を奪われ、放射線の影響が今なお被爆者の肉体をむしばみ続けている。いまだ差別に苦しむ人も少なくない。

 生身の人間に決して使ってはならない核兵器は、人間道徳と市民の生存権に根本から反する。

 この条約の根底にあるのは、核使用がもたらす残忍極まりない「非人道的な結末」に対する深い懸念であり、核を保有する者に絶対悪の烙印(らくいん)を押す新たな道徳的規範だ。

 条約はまた前文で「核兵器の使用による被害者(ヒバクシャ)ならびに核兵器の実験によって影響を受けた人々に引き起こされる受け入れ難い苦痛と危害」に触れている。これは心身に深い傷を負いながら、核廃絶を長年訴えてきた被爆者に対する尊敬の念の表れだ。

 カナダ在住の被爆者、サーロー節子さんも以前「国際法が被爆者のことを、こうした形で明記するのは初めてだ」と述べ、逝去した大勢の仲間に思いをはせていた。

 被爆者と世界の市民が求める核廃絶の方向性を示した条約の発効を歓迎したい。同時に、悲惨極まりない体験を「反原爆」という強靱(きょうじん)な思想に昇華させ、国際世論を先導してきた被爆者と関係者の献身的な努力に心から感謝と敬意を表したい。

 しかし、この条約に核保有国と「核の傘」の下にある同盟国は背を向けたままだ。そして残念極まりないことに、唯一の被爆国日本の政府もその一角を占める。

 条約反対派は、一足飛びに核廃絶に至るのは「非現実的」で、段階的に核軍縮を進めてきたこれまでの取り組みを逆行させると反論する。また国際的な核秩序の礎石である核拡散防止条約(NPT)の堅持・強化とも相いれず、核抑止力が必要な国家の安全保障を考慮していないと、非難の矛先を核兵器禁止条約とその推進国に向ける。

 だが反対派のこの主張に、どこまで正当性があるだろうか。そもそもNPTは核保有が特権的に認められた米ロ中英仏の5カ国に対し、核軍備競争を早期に停止し核軍縮の効果的な措置を取るよう求めている。さらに「全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約」の交渉を行うよう定めている。

 にもかかわらず、米ロ中は近年、核兵器の近代化を進め、互いをけん制しながら質的な核軍拡にまい進している。しかも米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約は失効、包括的核実験禁止条約(CTBT)も米国などの反対で発効の兆しさえない。

 日本政府も核抑止論を半ば絶対視し、2016年に「核兵器の役割低減」を目指す当時のオバマ米大統領が核の先制不使用政策を検討した際は、反対すらした。

 抑止力は必要だが、核に依存する必要がどこまであるのか。思考停止を続ける被爆国の政府に覚醒を促したい。核兵器禁止条約は発効から1年以内に開かれる締約国会議へのオブザーバー参加を認めており、まずそこから一歩を踏み出すべきだ。



核兵器禁止条約発効へ 被爆地の訴え結実した(2020年10月26日配信『中国新聞』-「社説」)

 人類は核兵器とは共存できない―。そんな被爆地広島・長崎の訴えがようやく重い扉をこじ開けた。核兵器禁止条約の批准数がきのう、50カ国・地域に達し、来年1月22日に発効する。

 開発から使用まで核兵器を全面禁止する初めての国際規範である。保有国の抵抗や、被爆国日本の不参加など、課題は山積みだ。それでも、核兵器の時代に終止符を打つ歴史的な一歩となるのは間違いあるまい。

 発効が決まったのを機に、日本政府は、これまでの後ろ向きな姿勢を転換すべきだ。条約に参加して、米国をはじめ保有国に廃絶への具体的な道筋を示すよう迫らなければならない。

 禁止条約は、被爆地の長年の訴えを形にしたと言えよう。国際司法裁判所(ICJ)が1996年に出した勧告的意見より踏み込んでいる。ICJは核兵器の使用は国際法違反かどうかを審理し、「使用と威嚇は一般的に国際法違反」と判断した。ただ、国家存亡に関わる自衛は「違法か合法か結論を出せない」と曖昧さも残した。

 この点、禁止条約は、国家存亡の機にあっても核兵器の使用は許されない、とした。さらに保有まで禁じたのは、核抑止論の全面否定でもある。

 ICJの審理で、当時の平岡敬広島市長や伊藤一長・長崎市長は、日本政府による「圧力」にも負けず、無差別で残虐な被害をもたらす核兵器は国際法違反だと明言。廃絶を求める国際的なうねりの原動力となった。今回の禁止条約で、被爆地が75年間求めてきた核兵器の非合法化がようやく結実する。

 今後、保有国がどんな言い訳をしようとも、条約発効後に核兵器を持っていれば、国際法違反となる。批准を撤回するよう複数の国に米国が圧力をかけたことが報じられた。発効すれば、廃絶を求める国際的な圧力が一層高まることを警戒したのだろう。追い詰められている焦りもあるのではないか。

 とはいえ、核なき世界までの道は平たんではない。米国やロシア、中国といった保有国が立ちふさがっている。核拡散防止条約(NPT)の第6条に定められた「核軍縮に向けて誠実に交渉する義務」に後ろ向きであるどころか、近年は小型核をはじめ「使える核」の開発に乗り出す国まである。看過できない。

 国防を建前に、軍備増強を図って相手国より優位な立場に立とうとしているだけだろう。核軍拡競争は人類全体を危険にさらすことを、米中ロの指導者は自覚する必要がある。

 被爆国の役割も改めて問われよう。保有国との「橋渡し役」を果たすと言うが、米国に忖度(そんたく)しているとしか見えない。国連総会に毎年出している核兵器廃絶決議案の内容が、トランプ政権発足の2017年から後退していることが、その証拠だ。

 政権与党の公明党が、発効後に開かれる条約締約国会議へのオブザーバー参加の検討を政府に要望した。被爆国の役割を果たすには、禁止条約に真剣に向き合わなければならない。

 条約では、核兵器の使用や実験の被害者への医療・心理、社会的、経済的支援や、核実験などで汚染された地域の環境改善も義務付けている。広島・長崎が蓄積してきた科学的な知見やノウハウを生かせそうだ。何ができるか考えていきたい。



「持ち恥」になる核兵器(2020年10月26日配信『中国新聞』-「天風録」)

 以前〈飛び恥〉という新語を小欄で引用した。かのトゥンベリさんが発信源。「二酸化炭素を多く排出する飛行機は使いません」と公言して広まった。今はコロナのせいで世界の空も、事情が一変してしまったが

▲こちらは、さしずめ〈持ち恥〉だろう。核兵器は持っているだけで恥。保有国の力の源泉である核兵器への評価を失墜させなければいけない―と、カナダ在住の被爆者サーロー節子さんは自伝で述べていた。きのう、その思いをかなえる朗報が届く

▲核兵器禁止条約の来年1月の発効が本決まりになった。保有国はおろか日本も参加してはいないが、批准した50カ国・地域に感謝申し上げる

▲3年前の国連の条約交渉会合。寂しげな折り鶴の写真が残る。初日に演説しただけで欠席した日本の外交官の机にNGOが置いた。「広島選出の岸田文雄さんが外相なのに、どういうこと」と、サーローさんも日本の記者団に問うたのは当然だろう

▲〈飛び恥〉は技術によって、あるいは汚名返上できる。だが国際法違反のそしりを受ける核の〈持ち恥〉に逃げ場はない。サーローさんの自伝の書名は「光に向かって這(は)っていけ」。そして核兵器には永遠の闇を与えよ。



【核禁止条約】日本の役割が問われる(2020年10月26日配信『高知新聞』-「社説」)

 廃絶への道のりは長いとしても、核兵器を非人道的で違法な絶対悪と定める新たな国際規範が生まれる意義は大きい。唯一の戦争被爆国として、日本が果たすべき役割もあらためて問われよう。

 2017年に国連で、核を持たない122カ国・地域の賛成で採択されていた核兵器禁止条約の批准数が50カ国・地域に達した。来年1月に発効する見通しだ。

 条約は、核兵器を非合法化して開発、実験、保有、使用などを全面的に禁止する。使用の威嚇も禁じることで核抑止力を否定している。

 「核なき世界」を求める国際世論を背景に、核軍縮を保有国に迫る強い圧力となることが期待される。

 しかし、当初から実効性は危ぶまれてきた。

 批准国・地域は中南米やアジア、アフリカ、オセアニアの小国が大半。米中ロなど肝心の核保有国が加わらず、米国の「核の傘」に依存する日本など一部の非保有国も参加していないためだ。

 米国務省の当局者や菅義偉政権の閣僚、自民党幹部からは条約発効の確定を受けて「解決策にならない」「現実味が非常に薄い」といった否定的な声が出ている。

 ただ、世界の核廃絶への動きは進むどころか停滞が色濃くなっている。核兵器禁止条約はそもそも保有国の姿勢に業を煮やし、非保有国などが取り組んだものだ。

 ことし発効50年を迎えた核拡散防止条約(NPT)は米英仏ロ中の五大国に限定して核保有を認める一方で、「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を課している。

 ところが、核軍縮は一向に進まない。加えて条約未加盟のインドやパキスタン、イスラエルが核を保有する事態を招き、北朝鮮の核開発も続いている。

 米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約は昨年失効。ロシアの条約違反を理由にトランプ米大統領が破棄方針を伝え、ロシアのプーチン大統領も履行義務を停止したからだ。

 来年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉も、米国は中国も参加する枠組みにしたい考えだが、中国に応じる気配はなく膠着(こうちゃく)状態にある。

 核をもって核を制する発想から抜け出せない保有国主導の核軍縮は、前途多難なのが現実だろう。

 新型コロナウイルス流行の影響で来年に延期されたNPT再検討会議では、禁止条約が推進国と保有国との火種になるのは確実という。

 日本政府は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任している。しかし核の傘を提供する米国に配慮するあまり、役割を果たしてきたとは言い難い。禁止条約への不参加も被爆者らの怒りと失望を招いてきた。

 唯一の戦争被爆国の責任として、核廃絶に向けて禁止条約とどう向き合っていくのか。「橋渡し役」を真剣に担おうとするのであれば、今こそ具体的な戦略を示し、実行していくべきだ。



核兵器禁止条約発効へ 世界の現実を変える力に(2020年10月26日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 核兵器の開発から使用まで一切を禁止する核兵器禁止条約が来年1月に国際法として発効することになった。原爆投下から75年を経て、核廃絶を求める訴えがようやく、核兵器を明確に「悪」と規定する条約として結実した。世界の大国は依然として大量の核兵器を保有し、核軍縮の動きは足踏みしている。条約発効を機に、世界の現実を変える力を広げていかなければならない。

 条約の前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記されている。日本の原爆被爆者や核実験の被害者らを念頭に置いたものだ。全ての核兵器の開発、実験、保有、使用を禁止。使用の威嚇も禁じることで「核抑止力」を否定した。2年に1回の締約国会議や発効5年後の再検討会議に、非締約国がオブザーバーで参加できる規定を設けた。

明確な国際法違反

 条約は2017年、122カ国・地域の賛成で国連採択され、各国の署名・批准手続きを開始。24日のホンジュラスの批准で発効条件の50に達した。署名・批准国には中南米、アフリカ、オセアニアの小国が多い。

 一方、米英仏ロ中の五大保有国は条約への参加を拒否。その他の保有国のイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮も同様だ。米国の「核の傘」に頼る日本も安全保障上の理由から参加していない。不参加国には条約の順守義務がない。

 このため条約は実効性に乏しく、核兵器の廃絶などできないという批判もある。だが、発効すれば核保有は「国際法違反」のそしりを免れなくなり、廃絶への圧力となる。人々の意識を変化させ、世論によって各国政府に働きかけることもやりやすくなるはずだ。

締約国の連携網を

 核兵器が人類に害悪をもたらすのは明らかだ。国際司法裁判所は1996年、核兵器使用が国際人道法に「一般的に反する」という勧告的意見を出した。2009年、当時のオバマ米大統領はプラハ演説で「核兵器なき世界」を目指すと宣言した。

 しかしストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、今年1月時点の世界の核兵器保有数は推定1万3400に上り、その9割を米国とロシアが占める。

 五大保有国は核拡散防止条約(NPT)で核軍縮交渉を義務付けられてきた。にもかかわらず米国とロシアとの間で結ばれていた中距離核戦力(INF)廃棄条約は昨年、失効。中国も含め新型ミサイル開発などが進み、削減どころか軍拡の動きが強まっている。

 米国とロシアの間に唯一残る核軍縮条約である新戦略兵器削減条約(新START)も、来年2月5日までの期限が迫っているが、両国の交渉は難航している。核兵器禁止条約の締約国によって、新START延長とNPTの核軍縮交渉推進を求める連携網が形成されることを期待したい。

 国連事務総長は、禁止条約発効から1年以内に締約国会議を招集する。今後、条約をどう発展させていくかを議論するプロセスが始まる。実際に廃絶を進めるには、廃棄の経費や環境への影響、透明性や安全性も考えなければならない。締約国はさらに批准国を増やす努力をすべきだ。国民レベルでも、条約の理解を広げる活動に取り組みたい。

オブザーバー参加

 日本政府は米国の核の傘に依存する一方で、保有国と非保有国の「橋渡し役」をするとしてきた。そうであれば条約に背を向け続けることはできないはずだ。オブザーバーとして締約国会議に加わることから始めることもできる。今こそ分断された保有国と非保有国をつなぐ時ではないか。唯一の戦争被爆国として、核廃絶への新たな一歩を踏み出してもらいたい。



核禁条約、発効へ(2020年10月26日配信『長崎新聞』-「水や空」)

 かつて「全てなくすには天文学的な費用と時間がかかる」といわれたが、この20年で世界は「なくす」方へと傾いた。地雷を完全に禁止する条約は非政府組織(NGO)が手を取り合ってつくり、結果を出している

▲「全廃」への道は険しいが、地雷の製造、使用は劇的に減ったという。十数年前、条約づくりに動いた日本のNGOスタッフにこう聞いた。「今この時にも誰かが地雷の犠牲になっていて、廃絶は急を要する。だから国際世論が一気に高まったんです」

▲そのスタッフは「核兵器は、地雷とは違うだろう」とも言った。地雷と同じように世論を盛り上げるのはきっと難しい-そういう指摘だった

▲確かに「一気に」ではなかったが「核兵器が人道に反する」という国際世論はじわじわと、着実に広まっている。核兵器禁止条約に同意する国・地域がとうとう50に達した。来年1月のうちに国際的な効力を持つ

▲道を敷いたのは、核の非人道性を身をもって訴えた被爆者にほかならない。長い長い歳月を経て熟した果実は、限りなく重い

▲地雷の禁止条約は、同意する国を増やして効力をより強め、「なくす」流れをつくったという。核兵器禁止条約も、果実をより重くする道を探りたい。前途はなおも険しいが、ため息交じりの道中には、もうしたくない。(徹)



核兵器禁止条約(2020年10月26日配信『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 オバマ前米大統領が現職大統領として初めて広島を訪問したのは、4年前の5月。そこでの17分間にわたる演説は評価される一方で被爆者からは「核廃絶の道筋を示さなかった」など、落胆の声も聞かれた。

 大統領に就任した直後の2009年に、核廃絶を訴えたプラハでの演説で世界を熱狂させ、同年、ノーベル平和賞を受賞したオバマ氏である。その大統領をもってしても「核なき世界」の理念を具現化できなかったことは、核廃絶への道がいかに険しいかを示す。

 核兵器の開発から使用まで一切を全面禁止にする「核兵器禁止条約」。国連で批准が始まったのは、オバマ氏が広島を訪れた翌年の17年7月だ。その批准数が発効に必要な50カ国・地域に達した。来年1月には、核兵器を非人道的で違法と断じる初の国際規範が生まれる。

 50番目の批准国となったのは、中米のホンジュラス。米国など五大保有国をはじめインド、パキスタンといった保有国も参加しておらず、不参加国には条約順守義務もない。実効性の面では弱いが、それでも大きな一歩。3年前の批准開始は「スタートのスタート」。これからが本当のスタートだ。

 言うまでもなく、唯一の被爆国である日本の対応も、これまで以上に注目されることとなろう。同条約の原動力となったのは、核兵器の非人道さを伝え続けた被爆者の方々だ。禁止条文にも「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記されている。



[核禁止条約発効へ]日本こそ批准すべきだ(2020年10月26日配信『沖縄タイムス』-「社説」)

 核兵器の開発、実験、保有、使用を全面禁止し、核で威嚇することも禁じる核兵器禁止条約の批准数が、発効に必要な50カ国・地域に達した。90日後に効力を発する。

 「核なき世界」の実現を求める国際世論が各国の批准を後押しした。

 広島や長崎の被爆者が果たした役割も大きい。

 原爆投下から75年。被爆者は心身に苦しみを抱えながら自らの過酷な体験を伝え、被爆の実相や核兵器の非人道性を訴えて続けてきた。長年にわたる粘り強い努力が条約誕生への原動力となった。

 条約は前文で「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記しており、その思いは国際社会に確実に届いている。発効決定を歓迎すると共に、尽力した被爆者らに敬意を表したい。

 ただ、核廃絶への今後の道のりが極めて険しいのも事実だ。米英仏ロ中の五大保有国は条約への参加を拒否している。インド、パキスタン、北朝鮮なども参加していない。

 唯一の戦争被爆国である日本も、米国の「核の傘」に頼る安全保障上の理由から加わっていない。

 条約不参加の国への法的拘束力はなく、実効性を疑問視する見方は強い。

 確かに事態がすぐに前進するとは考えにくい。だが核兵器を違法と断じる国際規範があれば、核保有国に核軍縮を迫る強い圧力となり得る。

 米国が複数の批准国に撤回を強く要求したのも、その効果を警戒して切り崩しを図ったものとみられる。発効の意義は決して小さくない。

■    ■

 被爆地である広島市や長崎市は、日本政府に条約への参加を求めてきた。しかし日本は核戦力増強を続ける中国や北朝鮮への懸念などから日米同盟を優先し、署名に背を向けたままだ。

 菅義偉首相が9月に行った国連総会一般討論のビデオ演説でも条約に触れることは一切なかった。

 日本は戦争被爆国として核廃絶の目標を掲げ、核兵器保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うと強調してはいるものの、具体的な成果は見えない。

 核兵器は「絶対悪」である。日本が「核の傘」に固執して条約に参加せず、核廃絶への「橋渡し役」を担えると考えるのは矛盾している。被爆者や非保有国の人々の間に失望が広がっている。

 「甚大な被害を受けた日本が参加しないことで、国際的にも日本の信用を落としている」。条約を推進してきたカナダ在住の被爆者サーロー節子さんの言葉を重く受け止めなければならない。

■    ■

 日本世論調査会の全国調査によると、核禁止条約に日本も「参加するべきだ」と答えた人は72%に上った。

 被爆国としての責務を国際社会で果たすため、日本は条約に署名・批准すべきである。核廃絶に向けた議論をリードしてもらいたい。

 条約発効後の締約国会議には、非締約国にもオブザーバー参加が認められるという。議論の場に加わり、条約の実効性を高める方策を一緒に探るべきだ。



禁止条約発効へ(2020年10月26日配信『しんぶん赤旗』-「社説」)

核兵器廃絶の新たなステージ

 核兵器禁止条約が、発効に必要な50カ国・地域の批准を達成しました。90日後に発効することが確定し、史上初めて核兵器を違法化する国際条約が2021年1月に始動します。この歴史的快挙によって核兵器廃絶をめざす取り組みは、新たなステージに入ります。

市民社会が世界動かした

 米ロ英仏中の核保有五大国をはじめ、核兵器に固執する勢力は、禁止条約を敵視し、その署名国と批准国が広がることを妨害してきました。五大国は共同声明を繰り返し発表し、禁止条約は現実的でないなどと非難してきました。他の問題では対立しあうアメリカと中国、ロシアも禁止条約反対という点では足並みをそろえたのです。トランプ米政権は、批准が50カ国に達しようとする直前に、批准国に撤回を求める書簡を送りつけるなど必死で抵抗しました。

 それだけに、禁止条約発効の確定は、日本の被爆者をはじめ「核兵器のない世界」を求める多くの政府と市民社会が、大国の妨害と逆流をのりこえて達成した画期的な成果です。一部の大国が牛耳る世界は過去のものとなりつつあります。圧倒的多数の国と市民社会の共同こそ平和で安全な、よりよい世界を実現する力です。

 禁止条約の発効は、核兵器廃絶へ向けた動きを一層勢いづけるものになります。条約への参加国が増えるたびに核保有国は政治的道義的に包囲され、追い詰められます。禁止条約のもとで開かれる締約国会議は「核軍縮のためのさらなる措置について検討し、および必要な場合には決定を行う」ことも任務としています(第8条)。この会議には条約上、市民社会も招請されます。諸国政府と市民社会が手を取り合い、核兵器廃絶を視野に入れた具体的なプロセスが動きだすことになります。

 21年には、今年の開催が延期された核不拡散条約(NPT)再検討会議が予定されています。核保有国も参加する同会議では、核兵器廃絶への流れを加速させることが強く求められます。

 非核保有国からは、核兵器保有国に対し、NPT第6条が定める「核軍備縮小・撤廃のために誠実に交渉を行う」義務と、核保有国自らも賛成した「核兵器の完全廃絶」の約束(00年NPT再検討会議)の実行を迫る声が上がっています。禁止条約に反対だからと言って、核兵器国に課せられた責任から逃れることはできません。NPT再検討会議に向けて世論を結集することが、重要になっています。

 核の傘に依存する同盟国の態度も厳しく問われます。とりわけ唯一の戦争被爆国でありながら、核兵器禁止条約に背を向け続ける日本政府に対し、国内外から失望と批判の声が相次いでいます。

批准する政権の実現を


 禁止条約への参加を求める意見書を採択した自治体は、500に迫ろうとしています。世論調査では7割の国民が、日本が禁止条約に参加すべきだと答えています。菅義偉政権は、世界と日本の多数の声にこたえて、速やかに条約の署名・批准をすべきです。

 被爆国にふさわしい日本をめざす国民的な運動を広げることが急務です。日本共産党は多くの人たちと固く連帯しながら、市民と野党の共闘を発展させ、核兵器禁止条約に参加する新しい政権をつくるため、全力を尽くします。





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