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(論)菅首相の所信表明演説に関する論説(020年10月27日)

所信表明演説 実利偏重で針路見えぬ(2020年10月27日配信『北海道新聞』-「社説」)

 菅義偉首相はきのう、就任後初の所信表明演説を行った。

 「国民のために働く内閣」を掲げ、行政の縦割りや既得権益、あしき前例主義を打破して規制改革を進めると改めて強調した。

 具体策として、デジタル庁創設や携帯電話料金値下げなどを列挙したが、これらが首相の目指す社会像である「自助・共助・公助」とどうつながるのか。

 行政改革や規制緩和で経済成長や競争を促しても、そこからこぼれ落ちる人たちへの「公助」は後回しになりかねない。

 新型コロナウイルスが収束しない中、苦しい生活を強いられる人たちを守る安全網が求められる。

 実利優先の細切れの政策を羅列するだけでは、国民全体を見通す大きな構想力を欠いていると言わざるを得ない。

 日本学術会議の会員候補6人の任命拒否問題には触れなかった。

 拒否の理由を明らかにせず、政府と自民党が一方的に会議のあり方を見直す議論を進めるのは論点のすり替えも甚だしい。

 森友学園や加計(かけ)学園、桜を見る会の疑惑も言及はなく、公文書管理の見直しなどに真摯(しんし)に向き合う姿勢はまったく見えない。

 首相は、2050年までに国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにすると宣言した。自民党総裁選や国連総会のビデオ演説で語っておらず、唐突な印象がある。

 問題は達成の道筋だ。再生可能エネルギーの導入加速などは良いとしても、福島第1原発事故を踏まえれば、原子力政策の推進を打ち出すのでは話にならない。

 脱炭素社会の実現と同時に脱原発の具体策を描く必要があろう。

 差し迫った課題であるコロナへの対応では、観光支援事業などの経済対策を並べた。

 医療分野では全国民分のワクチンを来年前半までに確保すると約束したが、安全性が確立された製品のメドは立っていない。

 経済再生は万全の感染拡大防止策と医療態勢の整備が前提であり、不安が拭えない。

 地方振興策も、農産物の輸出増や観光客誘致といった成長分野に偏る。輸出品や観光資源のある地域は限られ、食料自給率を上げる産地形成や観光に頼り過ぎない産業基盤整備が不可欠だ。

 外交では、北方領土問題について「次の世代に先送りせず、終止符を打たねばならない」と述べた。決意だけでなく、四島返還を目指して、どう交渉を進めるのかを語ってもらいたい。



妥協しない政治(2020年10月27日配信『北海道新聞』-「卓上四季」)

「鉄の女」と呼ばれた英国のサッチャー元首相には、「Tina」(ティナ)という二つ名もあったそうだ。「ほかに選択肢はない」という口癖の頭文字を取った。安倍晋三前首相のキャッチフレーズ「この道しかない」の引用元ともされる

▼民営化や規制緩和を進めたサッチャリズムの理想は19世紀のビクトリア朝時代にあった。誰もが努力と創意工夫で富を得ることが可能な社会。自助をモットーとした背景には勤勉と規則を重んじ、中産階級にはい上がった両親の影響もあったようだ(「マーガレット・サッチャー」筑摩書房)

▼「英国病」とやゆされた経済の停滞から脱却した一方で、失業者増大や格差の拡大も招いた。最も好かれ、最も嫌われた首相と呼ばれるゆえんだが、妥協を許さぬ政治姿勢にもその一因があったのだろう

▼「何をするかは自分で決め、人がついてくるよう説得しなさい」。父アルフレッドのいいつけである。合意より論破。意見が対立する閣僚や官僚を排除した結果、政権末期は閣内でも孤立した

▼菅義偉首相がきのう国会で所信表明演説を行った。学術会議の任命拒否問題には触れなかった。「自助」偏重の懸念も拭えない。スピード感を持った政策の実行は歓迎だが、真摯(しんし)な説明も不可欠だ

▼縦割り行政や既得権益の打破と合意形成は矛盾しないだろう。むしろ批判に耳を貸す方が良い方策も浮かぶものである。



痛み伴う課題も説明せよ/菅首相初の所信表明(2020年10月27日配信『東奥日報』-「時論」)

 菅義偉首相は臨時国会で初の所信表明演説を行った。新型コロナウイルス感染拡大という「国難」克服を最優先した姿勢は妥当だが、コロナ後の国の針路は示さなかった。実行する政策を語るのが所信表明だ。しかし、「語らなかったこと」に本質が潜むとも言える。

 首相は1兆6千億円超の経済支援策「Go To キャンペーン」など巨額支出の諸施策をアピールした一方、安倍晋三前首相が1月の施政方針演説でも述べた「2025年度の基礎的財政収支黒字化を目指す」という目標には言及を避けた。約60兆円に上るコロナ対策財源は、全て国債による借金だ。財政規律は棚上げする考えなのかと受け止めざるを得ない。

 未曽有の危機克服のためには一定の借金はやむを得まい。だが付随して行政のデジタル化、オンライン教育拡大、国土強靱(きょうじん)化などさらなる巨額支出が続けば、国の財政は大丈夫かと誰もが心配になる。コロナ後の財政立て直しの見通しと併せ、いずれは増税を含め、国民に痛みを求める可能性など厳しい話も首相は語る責任があるはずだ。

 一定以上所得がある75歳以上の高齢者の医療費窓口負担を22年度までに1割から2割に引き上げる改革も、安倍前政権が施政方針で表明済みだ。しかし首相は今回「これまでの方針に基づいて高齢者医療の見直しを進める」と具体論をぼかすように述べた。

 22年からは団塊世代が75歳以上になり、高齢者にも応能負担を求めなければ社会保障制度の持続可能性は揺らぐ。首相は今後の衆院選をにらみ、有権者が嫌う負担増に煙幕を張ったのか。あるいは改革先送りも念頭にあるとすれば、しわ寄せを受ける将来世代に対し不誠実だ。

 また首相は日本学術会議の会員任命拒否、森友学園問題の公文書改ざんを強制され自殺したとされる元近畿財務局職員の遺族が、改ざん過程の記録提出を要求している問題など自身に都合の悪いことも、野党が追及必至と知りつつ語らなかった。

 首相は「自分でできることは、まず自分でやってみる」と国民に「自己責任」を求めた。ならば、国民が今最も疑念、不信感を抱く問題について、まずは首相としての説明責任を果たすべきだ。それでこそ「国民のために働く内閣」ではないか。

 いったん退陣した安倍前首相の政権復帰後初の所信表明(13年1月)は「大きな政治的挫折を経験した」と「反省」の弁から始まった。菅首相はどうか。訪日外国人客4倍増、ふるさと納税利用5千億円など自身の実績ばかり強調し「反省」とは対極にある演説だった。

 温室効果ガスの排出量を50年までに実質ゼロにするとも宣言し政治決断を演出した。しかし世界に大きく後れを取って批判を浴びた揚げ句、ようやく踏み切ったのが実態。首相は従来の環境行政を猛省することから始めるべきだ。

 外交・安全保障も同様だ。安倍前政権が力を入れたが進展させられなかったロシアとの北方領土返還交渉。「条件を付けず金正恩氏と向き合う」と言いながら進まない北朝鮮の拉致問題。いずれも従来方針の検証、反省抜きで展望は開けない。

 今回語らなかったことを、首相として初めて臨む国会論戦で改めて国民に明らかにすべきだ。



初の所信表明/実利追求 懸案に目そらす(2020年10月27日配信『河北新報』-「社説」)

 淡々と原稿を読み上げ、強調したいところでは言葉に力を込める。

 政権発足時に打ち出した行政の縦割り打破とデジタル化、携帯電話料金の引き下げ、不妊治療の保険適用など、国民生活に身近なテーマを引っくるめた感がある。

 菅義偉首相は初めての所信表明演説を行った。世間で言われているように実務的で、積み上がった課題を片付ける現実主義者のまといをあらためて見せた印象だ。

 外交にも字数を割いたものの、国家観を語るわけではなかった。どんな将来像を持つのか、戦略は見えない。

 自国第一主義の現状に対し、グローバル経済を掲げる日本への期待は大きい。開かれた多国間交流を図る役割の下、各国首脳と渡り合えるか、危うさを覚える。

 日本学術会議の会員任命問題には触れなかった。推薦された6人を外した理由について、菅首相は「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動の観点から判断した」と述べたが、何の説明にもなっていない。

 前政権は森友・加計(かけ)学園問題、「桜を見る会」などの疑惑続きで、その都度、解明を阻む姿勢を取ってきた。

 政策の継承をうたう菅政権も説明責任を果たさないとなれば、国民は不信を強め、民主主義のゆがみは拡大するばかりだ。

 初の論戦となる臨時国会では、6人を排除した経緯について、具体的で納得のいく説明を求めたい。

 最も力を込めたのは、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を2050年にゼロにする「グリーン社会実現」宣言だった。

 「再生可能エネルギーを最大限導入し、安全最優先で原子力政策を進める」として、石炭火力から抜本的に転換すると訴えた。

 政府は削減目標について、30年度に13年度比で26%減に据え置いている。再生エネの割合も、欧州に比べて低い水準にとどまる。ゼロ宣言は高いハードルだ。

 自然エネルギーを増やすには、発電設備の充実や電気自動車の普及など産業構造の見直しを伴う。再稼働を巡り、異論の多い原発の扱いとともに国会論戦の重要なテーマとなろう。

 再生エネをどう根付かせるのか、ゼロ実現までの道筋を明確にしてほしい。

 東日本大震災では、福島県のふたば未来学園中高を訪問して刺激されたエピソードを披露し、「年月を要しても被災者に寄り添う」と誓った。

 来年夏の東京五輪を「コロナウイルスに打ち勝った証し」とするのはいいが、同時に復興五輪であると胸に刻んでもらいたい。
 目の前の実利を急ぎすぎ、丁寧さを欠いて説明不足に陥ってはならない。

 地方からのたたき上げにふさわしく、さまざまな意見を尊ぶ謙虚な姿勢を望みたい。



菅首相所信表明 「自助」優先でいいのか(2020年10月27日配信『秋田魁新報』-「社説」)

 菅義偉首相が就任後初めての所信表明演説を行った。最も注目すべきは、自らが目指す社会像として「『自助・共助・公助』そして『絆』」をはっきりと掲げたことだ。

 自民党総裁選で打ち出した考え方を、改めて「目指す社会像」に位置付けたことになる。「自分でできることはまず、自分でやってみる。そして家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティーネットで守る」というのがその意味だ。

 自助を最初に置き、公助を最後にしたのはなぜか。社会における個人の在り方の基本は「まず自分でやってみる」ことだ―というのが菅首相の描く社会像の核心だからではないのか。

 自助・共助・公助は元々、防災関係者が使っていた用語だ。友人や隣人らによる災害時の共助の重要性とともに、公助充実を訴える意味合いがあった。防災行政で自助と共助は、あくまでも公助の不足部分を補うものというのが基本的な考えだ。

 しかし菅首相は、独自に解釈して「自助」を優先しているようにも見える。懸念されるのは「まず自分で」が強調され、自己責任に重きを置く社会になりはしないかということだ。

 新型コロナウイルスの影響で非正規労働者らの解雇や雇い止めに依然として歯止めがかからない。企業の倒産なども相次ぐ。ひとり親やひきこもりなど、複合的な問題を抱えた生活困難層も増えている。

 そうした状況の中で、自助を呼び掛けるのは適切とは言えないのではないか。社会的に立場の弱い人々が声を上げづらくなることがないよう、しっかりと公助の行き届く仕組みづくりを進めなければならない。

 問題はコロナ時代における社会の在り方の根幹に関わる。菅首相にとって初の本格論戦の場となる臨時国会では、目指す社会像について自らの言葉ではっきりと説明する責任がある。

 所信表明ではデジタル庁の新設や不妊治療への保険適用、携帯電話料金引き下げなども改めて提示。観光や農業改革などによって地方への人の流れを創出して地方の所得を増やし、活性化させるとした。個別の政策を羅列した印象は拭えないものの、確実に実現して国民の期待に応えてもらいたい。

 社会の関心が高い日本学術会議の会員候補任命拒否や組織の在り方については、所信表明で触れなかった。この問題では野党が批判姿勢を強めており、臨時国会の焦点となるのは必至だ。菅首相は指摘を堂々と受け止め、任命拒否や行革対象とする理由について分かりやすく、明確に述べる必要がある。

 総裁選で菅首相は、自助・共助・公助の前提として国民の信頼を挙げていた。自らの政策を推し進めるには信頼を得ることが何よりも大切だとの意思表明だろう。臨時国会では言葉を尽くして語り、国民の一層の信頼を得なければならない。



目新しさが乏しい印象(2020年10月27日配信『秋田魁新報』-「北斗星」)

 菅義偉首相はまだ官房長官だった4月、ビジネス誌上で人生相談の連載を始めた。得意な英語を仕事で生かせず悩む新入社員を皮切りに、さまざまな人の悩みに答えること10回。出身地の湯沢市から上京した頃の自身の苦労話も披露した

▼人々の生活実態や時代の空気も読み取れるのが人生相談のいいところという。連載は首相就任を機に終了。きのうの就任後初の所信表明演説には回答者としての経験が生かされただろうか

▼内閣発足から約40日。デジタル庁新設や不妊治療の保険適用など自民党総裁選で掲げた政策の実行に向け積極的に取り組んできた。「成果を実感いただきたい」と、政策の結果を重視する姿勢は「国民のために働く内閣」らしいとも言える

▼演説内容は全体に目新しさが乏しい印象だった。新型コロナウイルス感染の波が収まらない中、本格的な国会論戦は安倍前政権時代以来4カ月ぶり。コロナ、経済、外交など山積する問題を巡り政府、与野党ともに真摯(しんし)な議論を展開してほしい

▼今国会の焦点とされる日本学術会議会員の任命拒否問題について、菅首相は一言も触れなかった。自ら説明を尽くす姿勢を期待しただけに残念だ。一方、目指す社会像に関して「自助・共助・公助」と改めて表明した

▼コロナ禍では自力ではどうにもならず困っている人も多い。人生相談で「政治家の仕事は、国民の悩みを知り、耳を傾け、解決策を模索することが根本」と語っていたことを忘れないでほしい。



菅首相の所信表明/有言実行で改革の成果示せ(2020年10月27日配信『福島民友新聞』-「社説」)

 臨時国会が召集され、菅義偉首相が就任後初めて所信表明演説を行った。政権発足から1カ月以上が経過し、新首相の基本姿勢、重点政策がようやく国民に示された。

 菅首相は演説で「国民のために働く内閣」として改革断行への強い姿勢を強調した。看板政策のデジタル庁創設、不妊治療への保険適用拡大などの具体例を挙げ「できるものからすぐに着手し、成果を実感いただきたい」と訴えた。

 ただ新型コロナウイルス対策や経済対策、地方創生など政策の大半は7年8カ月に及んだ前政権の政策を踏襲しており、新鮮さに欠けた印象は拭えない。国家観や長期的な政策について言及もなく、目前の課題へ迅速に対応する「実務型」をアピールしたといえる。

 行政の縦割り、既得権益、あしき前例主義を打破し、規制改革を全力で進めるという決意は、多くの国民の共感を得られるところだろう。改革への過程や手法を国民に明らかにしながら、有言実行してもらいたい。

 今回の演説で評価できるのは、地球温暖化対策として、温室効果ガス排出を2050年までに実質ゼロにすると宣言したことだ。次世代型太陽電池などについて、実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進すると公言した。

 政府は脱炭素社会の実現に向け「福島は全国の自治体を先導するモデルになる」としている。県は40年をめどに県内エネルギー需要量に占める再生可能エネルギーの割合を100%にする計画で、浪江町には再生エネを活用する世界最大規模の水素製造拠点がある。

 首相が目標時期を示したことで今後、再生エネの取り組みが進み、本県への注目度も高まるだろう。県内の再生エネ、水素エネの技術開発や普及に一層力を入れたい。

 内閣の基本方針に記述がなかった、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興については「被災者の皆さんの心に寄り添い、一層のスピード感を持って、復興・再生に取り組む」と語った。

 首相は将来的に帰還困難区域の全てで避難指示を解除する決意を示したものの、風評対策、処理水の処分方法、住民帰還の促進など具体的な課題に踏み込むことはなかった。間もなく丸10年の節目を迎える。約束した通りに、被災地の住民が復興を実感できるよう、政策を着実に前進させてほしい。

 来夏の東京五輪・パラリンピックについては「人類がウイルスに打ち勝った証しとして開催する決意」と述べた。そのためには感染拡大を抑え、経済再生に全力を挙げて環境を整えることが急務だ。



【菅政権の経済政策】地方の暮らし最優先に(2020年10月27日配信『福島民報』-「論説」)

 菅義偉首相は26日の所信表明演説で、自ら取り組む経済政策の考え方を明らかにした。観光の推進や農業改革により地方の所得を増やし、消費を活性化すると強調した。新型コロナウイルスの感染拡大により、地方の産業を取り巻く環境は厳しさを増している。新政権の取り組みが県民と県内企業にとって、少しでも将来に展望が持てるものになるよう願う。

 菅首相は前政権の経済政策「アベノミクス」を継承する方針を打ち出している。8年近く続く大胆な金融緩和策は「デフレ脱却や経済再生に道筋を付けた」と経済団体幹部から評価を得ている。ただ、日銀の対応も含め、資金をいかに潤沢に供給していくのかという金融技術論的な側面にばかり注目が集まり、経済国家としての大きな目標や、それに基づく政策論議が欠けたままになっていた印象が否めない。だからこそ、「一億総活躍」「地方創生」といった看板政策が細切れで空疎に映り、いまひとつ成果を実感できない要因になっているのではないか。新たなリーダーは、同じ轍[てつ]を踏んではなるまい。

 地方経済活性化を前面に打ち出し、国民的な関心と議論を喚起して目標の達成を図るべきだ。「地方の所得拡大を目指す」と宣言したからには、まず何よりも地方企業の振興に注力する必要がある。会社の仕事が増えなければ従業員の給与は上がらない。

 県内の中小企業の経営者からは今、「現場で働く人手が欲しい。会社を支える人材も不足している」という切実な訴えが聞かれる。少子高齢化が進む中、地方の課題を地方だけで解決するのは厳しい。所信表明演説で自ら意欲を見せたが、大企業の勤務経験者を地方企業に紹介する取り組みを活発化させてほしい。都会から人が移り住むきっかけにもなる。最初の外遊先として選んだ東南アジアから優秀な若い人材を発掘し、国が中小企業との橋渡しをしてはどうか。彼らが母国への輸出戦略を練り上げるようになれば、国際経済の新たな展望が開けるだろう。

 地方経済再生には、現状の把握が欠かせない。官僚も含め政策立案に携わる人たちが過疎地の工場や農家に一定期間滞在し、住民の要望を聞いて国の事業に反映させるよう提案する。

 額に汗して懸命に働き、家庭を守り、活力が失われつつある地域のために尽くす人の姿を政治は決して忘れてならない。雪深い秋田県の農家に生まれ育った菅首相は、それを誰より理解していると信じたい。(菅野龍太)



菅首相初の所信表明 厳しい話も語るべきだ(2020年10月27日配信『茨城新聞』-「論説」)

 菅義偉首相は臨時国会で初の所信表明演説を行った。新型コロナウイルス感染拡大という「国難」克服を最優先した姿勢は妥当だが、コロナ後の国の針路は示さなかった。実行する政策を語るのが所信表明だ。しかし、「語らなかったこと」に本質が潜むとも言える。

 第一に首相は1兆6千億円超の経済支援策「Go To キャンペーン」など巨額支出の諸施策をアピールした一方、安倍晋三前首相が1月の施政方針演説でも述べた「2025年度の基礎的財政収支黒字化を目指す」の目標に言及を避けた。

 約60兆円に上るコロナ対策財源は、全て将来世代につけを回す国債による借金だ。財政規律は棚上げする考えなのかと受け止めざるを得ない。未曽有の危機克服のためには一定の借金はやむを得まい。だが緊急的な対策に付随して、行政のデジタル化、オンライン教育拡大、国土強靱(きょうじん)化などさらなる巨額支出が続けば、国の財政は大丈夫かと誰もが心配になる。

 コロナ後に直面する財政立て直しの見通しと併せ、いずれは国民に増税を含む痛みを求める可能性など厳しい話も首相は語る責任があるはずだ。

 一定以上所得がある75歳以上の高齢者の医療費窓口負担を22年度までに2割に引き上げる改革は、安倍前政権が決め施政方針で表明済みだ。しかし首相は今回「これまでの方針に基づいて高齢者医療の見直しを進める」とあえて具体論をぼかすように述べた。

 22年からは団塊世代が75歳以上になり、高齢者にも応能負担を求めなければ社会保障制度の持続可能性は揺らぐ。首相は来秋までに実施される衆院選をにらみ、有権者が嫌う負担増に煙幕を張ったのか。あるいは改革先送りも念頭にあるとすれば、しわ寄せを受ける将来世代に対し不誠実だ。

 また首相は日本学術会議の会員任命拒否、森友学園問題の公文書改ざんを強制され自殺したとされる元近畿財務局職員の遺族が改ざん過程の記録提出を要求している問題など自身に都合の悪いことも、野党が追及必至と知りつつ語らなかった。首相は「自分でできることは、まず自分でやってみる」と国民に「自己責任」を求めた。ならば、国民が今最も疑念、不信感を抱く問題について、まずは首相としての説明責任を果たすべきだ。それでこそ「国民のために働く内閣」ではないか。

 いったん退陣した安倍前首相の政権復帰後初の所信表明(13年1月)は「大きな政治的挫折を経験した」と「反省」の弁から始まった。菅首相はどうか。訪日外国人客4倍増、ふるさと納税利用5千億円など自身の実績ばかり強調し「反省」とは対極にある演説だった。

 温室効果ガスの排出量を50年までに実質ゼロにするとも宣言し政治決断を演出した。しかし世界に大きく後れを取って批判を浴びた揚げ句、ようやく踏み切ったのが実態だ。首相は、従来の消極的な環境行政を猛省することから始めるべきだ。外交・安全保障も同様だ。安倍前政権が力を入れたが進展させられなかったロシアとの北方領土返還交渉。「条件を付けず金正恩氏と向き合う」と言いながら進まない北朝鮮の拉致問題。いずれも従来方針の検証、反省抜きで展望は開けない。

今回語らなかったことを、首相として初めて臨む国会論戦で改めて国民に明らかにすべきだ。



菅首相の所信表明演説 大事な説明を欠いている(2020年10月27日配信『毎日新聞』-「社説」)

 臨時国会が召集され、菅義偉首相による初の所信表明演説が行われた。国民から信頼される政府を目指し、「行政の縦割り、既得権益、あしき前例主義」を打破して規制改革を進めると語った。

 所信表明は、首相が内政や外交の基本方針を国会で示すものだ。にもかかわらず、首相は肝心な点を説明しなかった。

 まず日本学術会議が推薦した会員候補6人を任命しなかった問題に触れなかった。「なぜ除外したのか」という核心について、首相は詳しい説明を避けてきた。

 最近の報道各社の世論調査では、首相の説明が不十分だという回答が6、7割に達している。「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を確保する観点から判断した」と紋切り型の答えを繰り返すだけでは、国民の理解は得られない。

 政治が科学を都合良く利用しようとしているというのが問題の本質だ。異論を排除しようという政権の体質も垣間見える。

 学術会議の組織や運営のあり方を持ち出して議論のすり替えを図るのではなく、任命しなかった理由や経緯を説明すべきだ。

 首相は演説に先立ち、「政策の大きな方向性や政権運営の決意を述べたい」と意気込みを語った。

 ところが、演説ではデジタル庁の新設や携帯電話料金の引き下げ、不妊治療への保険適用など個別政策を列挙するにとどまった。温室効果ガスの排出量について新たな削減目標を打ち出したが、全体の政策を貫く基本理念や国造りのビジョンを示さなかった。

 首相は「自助・共助・公助」と「絆」を掲げた。しかし、「そのために規制改革を進める」と言われても、首相が目指す社会像とどう結びつくのか分からない。

 政策を進めていく上では、その目的や決定過程を説明し、国民の理解を得ることが欠かせない。

 安倍前政権は、憲法に基づく野党の臨時国会召集の要求を放置するなど国会軽視が際立っていた。十分な説明を欠いたまま、与党の「数の力」で押し切るような姿勢を引き継いではならない。

 あすから各党代表質問が行われ、来週からは一問一答形式の予算委員会も開かれる。国民の信頼を強調するのであれば、疑問に向き合い、丁寧に答えるべきだ。



所信表明演説 活力回復へ実行力が問われる(2020年10月27日配信『読売新聞』-「社説」)

 具体的な改革を積み重ね、国の活力を取り戻すことが大切だ。内閣の実行力が問われよう。

 菅首相が衆参両院本会議で就任後初めての所信表明演説を行った。新型コロナウイルス対策と経済の両立を掲げ、「国民の命と健康を守り抜き、経済を回復する」と述べた。

 再び感染が広がれば、経済は停滞を余儀なくされる。政府は検査能力を高め、医療が適切に提供される体制を整えねばならない。

 首相は「国民のために働く内閣」であることを強調し、行政の縦割り排除や規制改革を進める考えを示した。明確な目標を示し、目に見える結果を出してほしい。

 重点政策には、行政のデジタル化を挙げた。今後2年半でマイナンバーカードを全国民に普及させるとともに、5年で自治体のシステムを統一する方針を表明した。その司令塔として来年にデジタル庁を設立するという。

 行政手続きの見直しは、経済や社会のデジタル化を促進する効果があろう。一方で、国民生活にどのような恩恵があるのか、想像しにくい人も多いのではないか。

 政府は、費用対効果を含めて、改革の全体像を国民にわかりやすく説明する必要がある。

 首相は、温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする目標を打ち出した。新技術の開発を促し、「経済と環境の好循環」を図るという。欧州連合(EU)と同じ目標を設定し、足並みをそろえる狙いがあるのだろう。

 日本は火力発電への依存が大きく、目標達成は簡単ではない。再生可能エネルギーを拡充し、原子力発電所の再稼働に道筋を付けることが重要である。政府は、具体策を早期に提示すべきだ。

 外交・安全保障分野では、日米同盟を基軸に、「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現を目指し、東南アジア諸国連合(ASEAN)や豪州、インドなどとの協力を強化する戦略をうたった。

 安倍前政権は米国と連携を深める一方、中国との関係改善にも努めた。米中対立が激しさを増す中、国際秩序の維持に向けて、一層の外交努力が不可欠である。

 演説では、最低賃金引き上げや観光促進など首相が関心を持つ施策が並んだが、実現に向けた手順が曖昧なものも少なくない。人口減少対策や社会保障制度改革には踏み込まず、物足りなかった。

 中長期的な課題にも、真正面から取り組むことが首相の責務だ。国会論戦では、より説得力のあるメッセージを発信してほしい。



所信表明演説 国家観示し指導力発揮を(2020年10月27日配信『産経新聞』-「主張」)

 菅義偉首相が就任後初めて国会で演説し、「新型コロナウイルスの感染拡大と戦後最大の経済の落ち込みという国難」の中で国の舵(かじ)取りを担っていく覚悟を表明した。

 2050年までに国内の温室効果ガス排出を全体としてゼロにすると宣言した。行政の縦割りや既得権益を打破し、規制改革を進めることも約束した。

 意欲的に政策を語ったが国家観にかかわる大局的な問題があまり語られなかったのは残念だった。その一つが中国問題である。

 経済・軍事的に台頭した中国とそれに危機感を覚えた米国の対立によって国際情勢は厳しさを増している。このようなとき日本の首相は、外交・安全保障上の針路を正面から語るべきである。

 演説では「中国との安定した関係」が極めて重要だとし、主張すべき点は主張すると語った。

 だが、中国は尖閣諸島(沖縄県)をねらうなど日中関係は正常な状態にはない。自由と民主主義を掲げる台湾と中国の関係も悪化の一途をたどっている。中国共産党政権による香港やウイグルの人々への人権弾圧も深刻だ。

 これらについて、菅首相はどう考えているのか。

 演説で語った日米同盟重視と「自由で開かれたインド太平洋の実現」は、中国の拡張主義を念頭に置いているのだろう。それでも、もっと明確な国際情勢認識と政策を国民と国会議員に説く必要があるのではないか。

 首相が「厳しい安全保障環境の中、国民の命と平和な暮らしを守り抜くことは政府の最も重大な責務だ」と語り、「イージス・アショアの代替策や抑止力の強化」の方策をまとめると表明したのは妥当だ。

 ただ、中国海警局公船が長期にわたり徘徊(はいかい)や領海へ侵入している尖閣問題への言及はなかった。南西方面の島と海と空を守り抜く具体的な決意を聞きたかった。国会で必ず語るべきだ。

 日本学術会議の会員任命問題は取り上げなかったが、従来の形式的な任命から方向転換した理由や、同会議が軍事科学研究を忌避する声明を出して安全保障の充実を妨げてきた問題を改革するのかどうか、今後考えを聞きたい。

 憲法改正をめぐって首相は、国会の憲法審査会での建設的議論を促した。首相自身も改正すべき点を積極的に語ってもらいたい。



首相所信表明 国民の信頼得られるか(2020年10月27日配信『東京新聞』-「社説」)

 菅義偉首相が所信表明演説を行った。内閣発足後40日が過ぎ、遅きに失した感は否めない。国民から信頼される政府を目指すというのなら、国民を代表する国会と誠実に向き合うことが必要だ。

 臨時国会が召集され、9月16日の菅内閣発足後、国会での与野党論戦がようやく始まった。この間、緊急に処理が必要な案件が山積していたわけでもない。速やかに臨時国会を再召集して自らの所信を明らかにし、国民の疑問にも答えるべきだった。国会論戦を避けたと勘繰られては、首相も内心穏やかではあるまい。

 新型コロナウイルスの感染が収まらない中での首相就任だ。演説冒頭で新型コロナ対策に言及し、国民の命と健康を守り抜くとの決意を語ったのは当然だろう。

 続いて、官民のデジタル化推進や不妊治療の保険適用実現などを語った。所信表明は総じて内政重視で、2050年までの温室効果ガス排出量ゼロ以外、これまでに言及したものを束ねた内容だ。

 安倍晋三前首相のような政治スローガンは掲げず、生活密着の案件処理に地道に取り組み、国民に実績を感じてほしいのだろう。

 首相には、こうした案件処理を阻んでいるのが行政の縦割りであり、既得権益やあしき前例主義だと映っているようだ。
 もちろん、国民が不利益をこうむるような省益優先の縦割り行政は当然、打破すべきではある。

 同時に安倍前政権で問題になったのは、誤った政治主導や官邸主導で、公平・公正であるべき行政がゆがめられたことだ。真相究明と原因検証がなければ、政治が国民の信頼を盾に、あしき官僚主義に切り込めないのではないか。

 所信表明では日本学術会議が推薦した会員候補のうち、一部の任命を拒否したことにはまったく触れなかった。これまでの政府の説明は非合理的で、学術会議の在り方検討をいきなり持ち出すのは筋違いも甚だしい。「総合的、俯瞰(ふかん)的観点」と言うだけで説明責任から逃げている限り、国民と信頼の紐帯(ちゅうたい)は結ばれまい。

 目指す社会像については「『自助・共助・公助』そして『絆』」と繰り返した。自助偏重にならないか危惧する。誰も置き去りにしない決意こそ、語るべきだった。

 臨時国会は12月5日までの41日間。28日から各党代表質問、来月2日から予算委員会が始まる。限られた審議時間だが、質疑を通じて菅内閣が本当に国民のために働く内閣か見極めたい。



首相の所信表明 日本の将来が見えない(2020年10月27日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 語るべきことを何も語っていない。

 菅義偉首相がきのう開会した臨時国会で行った所信表明演説だ。政治課題に関する基本姿勢を明らかにする演説である。菅首相が就任後、国会で見解を表明するのは初めてだ。

 それなのに日本学術会議の任命拒否問題や東京電力福島第1原発の処理水への対応など、直面している政治課題に言及しなかった。

 赤字国債の増発などで危機的な状況になっている財政の再建方針は素通りし、社会保障の再構築もひと言触れただけだ。

 新型コロナウイルス対策は、経済再生に重点を置き、拡大防止策は見えにくい。アベノミクスがもたらした格差拡大も触れず都合のよい統計だけを示す。「今後も継承する」と強調しても、国民の不安は解消されない。

 強調したのは、デジタル庁の創設や不妊治療の保険適用実現など、反発が起きにくい政策だ。外交でも安倍晋三首相の路線継承を示しただけだ。懸案に取り組む姿勢がまるで見えない。これでは説明責任を果たしていない。

 野党は28日から始まる代表質問や各委員会の審議で、首相の説明不足を厳しく追及するべきだ。首相ははぐらかすことなく、真摯(しんし)に答弁しなければならない。

 目指す社会像は「自助・共助・公助、そして絆」と述べた。自民党総裁選挙から繰り返しているフレーズだ。自己責任を強調し政府の役割が不明確、と指摘されているのに従来の説明のままだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、既存の政策の限界を浮き彫りにして、東京一極集中や格差拡大の弊害も改めて表面化させた。いま打ち出すべきは、コロナ後に目指す社会の姿である。所信表明演説からは何も見えない。

 将来の方向性では、2050年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする方針を表明した。欧州連合(EU)など多くの国が「50年実質ゼロ」を掲げている。国別で排出量が最も多い中国も「60年実質ゼロ」を発表した。

 これまでの日本の目標は「今世紀後半の早期に実質ゼロを実現できるよう努力」だった。日本の取り組みの遅れに対する国際的な批判に対し、ようやく腰を上げたのが実情である。

 再生可能エネルギーの大幅引き上げや石炭火力廃止などの抜本的な見直しが必要だ。原発の方向性も含め、達成に向けてどのような道筋を描くのか。具体策を今後の国会審議で明らかにせねば、根拠のない空論との批判は免れない。



臨時国会開会 菅政治に目を凝らさねば(2020年10月27日配信『新潟日報』-「社説」)

 政権の国会に対する向き合い方は、国民へのそれと同義と言っていいだろう。

 菅義偉首相や政府が日本学術会議の会員任命拒否問題で説明責任を果たすのかなど、論戦を通し「菅政治」の姿に目を凝らさなければならない。

 菅内閣の発足後、最初の本格論戦の場となる臨時国会が26日に開幕し、首相は就任後初めての所信表明演説を行った。

 新型コロナウイルス対策と経済の両立へ、強い決意を表明。行政の縦割りや既得権益の打破などの意欲を強調した。

 これまで述べてきたことが中心で、表面的な政策の羅列にとどまった印象が強い。任命拒否問題への言及はなかった。

 この問題で菅首相は、6人の会員候補を任命しなかった理由について「総合的、俯瞰(ふかん)的」と曖昧な説明を繰り返す。

 一方で任命拒否問題を学術会議の在り方問題にすり替えてしまうような、政府や自民党の強権的な動きも目立つ。

 説明もなく切り捨てるに等しい人事が通れば、ブラックボックスの中での政権の独善的、恣意(しい)的な振る舞いに歯止めが利かなくなる恐れがある。

 事は学問の自由だけではなく民主主義の根幹に関わる。

 17、18日に共同通信が行った世論調査では、学術会議問題で首相の説明を「不十分」とする回答が7割を超えた。

 政権側がかたくなな態度を崩さない中、国民の疑問に答える論戦を展開できるか。野党の力量が問われよう。

 不都合を素通りするような姿勢は、所信表明演説で掲げた政策を巡っても見えた。

 演説の中で、目新しさを感じさせたのが、温暖化対策を前面に打ち出した「グリーン社会の実現」だ。

 首相は2050年に国内の温室効果ガスの排出を実質ゼロにすると宣言。積極的な温暖化対策が産業構造や経済社会を変革し、成長につながるという発想の転換が必要と述べた。

 時宜にかなう考え方といえるが、気掛かりもある。

 首相は再生可能エネルギーを最大限導入し、安全最優先で原子力政策を進め、安定的な供給を確立するとした。

 東京電力福島第1原発事故は原発への不信と不安を増幅させた。全国で原発が再稼働しつつある中で、本県はじめ立地地域の住民には根強い懸念がある。

 原発の現状や将来像をどう捉えているのか。首相は自らの考えをもっと丁寧に語るべきだ。

 首相は福島第1原発の放射性物質を含む処理水への対応について21日に「できるだけ早く処分方針を決めたい」としていたが、演説では触れなかった。

 政府は処理水の海洋放出決定の方針を固めたと報じられ、風評被害を懸念する漁業関係者らから反対の声が出た。

 聞こえのいい話ばかりを並べ立てるのは、ご都合主義のそしりを免れまい。首相や政府は何を言わないのか。なぜ言わないのか。国会論戦では、そこを注視する必要がある。



菅首相所信表明 現実主義に徹し成果を(2020年10月27日配信『北国新聞』-「社説」)

 菅義偉首相の初の所信表明演説は、現実主義の実務型政権を印象づける内容と言える。理念や国家ビジョンがあまり語られなかったことに物足りなさは残るが、政策課題を具体的に列挙し、スピード感をもって実現する決意を表明した。現実主義が首相の持ち味であれば、まずそれに徹して成果を出すよう求めたい。

 当面の最大の課題は、新型コロナウイルスの感染拡大防止と経済の再興である。菅首相は演説で美しく飾った前置きを省き、すぐに本題に踏み込んだ。経済政策の基本方針として、アベノミクスの継続と改革の推進を強調し、新型コロナ禍の緊急経済対策として持続化給付金や無利子・無担保融資、「Go To キャンペーン」の継続などを挙げた。

 それらは当然として、欧米ではコロナ感染が再拡大し、国内も季節性インフルエンザの流行を含めて予断を許さない状況である。景気の一層の落ち込みに備えて、第3次の補正予算編成が求められよう。菅首相は演説で消費税の在り方に触れなかったが、家計を助け消費を喚起する施策をさらに考える必要があるのではないか。

 国家像や時代・歴史認識について論じることが少ない演説の中で注目されるのは、温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする国家目標を掲げたことである。従来の「50年に80%減」という目標を大幅に改めたのは、脱炭素化は避けがたい潮流であり、温暖化防止策で産業の構造変革と経済成長を図るべきという、これまた現実的な判断からである。

 脱炭素社会の実現には、火力発電の抜本的見直しや再生可能エネルギーの拡大、原発の安全・安定運転、産業・運輸部門の省エネ、電気自動車の普及、次世代型の太陽電池開発など、経済社会を大きく変革するさまざまな取り組みが欠かせない。目標をどう実現するか、その道筋をもっと具体的に示さなければならない。

 立憲民主党党などの野党は、日本学術会議会員の任命問題を追及する方針だが、最大の課題である経済再生策で積極的に提言し、議論を深めるよう望みたい。



菅首相 初の所信表明(2020年10月27日配信『福井新聞』-「論説」)

国民の疑念に答えてこそ

 臨時国会が開幕し冒頭、菅義偉首相が初の所信表明演説を行った。「一億総活躍」「地方創生」「女性活躍社会」など、国民受けするキャッチフレーズをちりばめた安倍晋三前首相の演説とは一転、新型コロナウイルス対策やデジタル化、不妊治療支援など自民党総裁選でも語った実務重視の政策を並べた格好だ。

 新味といえば「2050年までの脱炭素社会の実現」を宣言し政治決断を演出したことだ。ただ、欧州など世界から大きく出遅れ批判を浴びた揚げ句に踏み切ったのが実態だろう。二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電に関し「抜本的に転換する」とうたったものの、経済界との意見調整など前途多難は否めない。

 地方の活性化については農産品の輸出拡大や観光需要の回復、都会から地方への人材流入などを掲げたが、コロナ禍の収束が見えない中では説得力に乏しいといわざるを得ない。安倍政権下で「新たに働く人を400万人増やすことができた」と述べる一方で、コロナ禍で「特に女性の雇用が厳しい状況にさらされている」とした。訪日客4倍増など過去の実績は蒸発したとの認識を持って仕切り直しすべきだろう。

 コロナ対策に費やした額は約60兆円に上り、全て国債という将来世代につけを回す借金だ。100年に一度の国難であり、やむを得ない面もあるが、感染次第でさらに膨れ上がる可能性も否定できない。加えて、首相の演説では行政のデジタル化やオンライン教育の拡大、国土強靱(きょうじん)化など巨額の支出が想起される。「国民のために働く内閣」は結構だが、借金大国をどう健全化に向かわせるのか、方策も示すべきだ。

 是正策の一つが、一定以上の所得のある75歳以上の高齢者の医療費窓口負担を22年度までに1割から2割に引き上げることだ。前政権で表明済みにもかかわらず、首相は「これまでの方針に基づいて高齢者医療の見直しを進める」と不明瞭な言い回しだった。来秋までの総選挙をにらんでのことだろうが、誠実な対応とは言い難い。

 所信表明は当面の政治課題に関する基本姿勢を明らかにする演説であり、自身に都合の悪いことは語られない傾向にある。その最たるものが日本学術会議の会員任命拒否問題だ。森友、加計学園や桜を見る会問題もくすぶっている。

 喫緊の課題としては東京電力福島第1原発で増え続ける放射性物質を含む処理水への対応があるが、「できるだけ早く処分方針を決めたい」としていた首相は演説ではスルーした。「国民のために」というのなら国民が今、最も疑念や不信感を抱く問題に国会論戦で答えてこそではないか。



「スローガン」とは特定の主張を…(2020年10月27日配信『福井新聞』-「越山若水」)

 「スローガン」とは特定の主張を簡潔に表現した標語のこと。もちろん英語だが、語源をたどるとスコットランドの兵士が戦争のときに叫んだゲール語「鬨(とき)の声」に行き着くという

▼つまりラグビーの試合でおなじみ、選手たちが気勢を上げる「ウォークライ」と同じである。チームを鼓舞するため一斉に叫び声を発し、力強いダンスを披露する。世界最強の呼び声が高いニュージーランド・オールブラックスの「ハカダンス」がつとに有名だろう

▼ただしスローガンもウォークライも、何か意味のあることを伝えるのが主要目的ではない。その言葉を使う者をグループの一員として認めるためであり、そうでない者はグループから排除され完全な敵とみなされる。だから言葉は大げさで、一方的になりがちである

▼臨時国会が召集され、菅義偉首相が就任後初の所信表明演説を行った。「2050年に国内の温室効果ガス排出をゼロに」「行政の縦割りや既得権益、あしき前例主義を打破」「『国民のために働く内閣』として新時代をつくる」など華々しいスローガンを披歴した

▼期待が高まる一方、気になることもある。「成果を実感していただく」と結果重視の姿勢を鮮明にしたこと。官僚に向けた首相発言が頭をよぎる。「政府の方針に反対するなら異動してもらう」。異論を排除し説明を軽視する独善は願い下げである。



所信表明演説/目指す社会像が見えない(2020年10月27日配信『神戸新聞』-「社説」)

 臨時国会がきのう召集され、菅義偉首相が就任後初めて、政治課題に対する所信を表明した。

 菅内閣が発足して40日が経過している。安倍前政権に続き、憲法に基づく野党の早期召集要求に応じなかったため、多くの課題が国会で議論しないまま積み残しになっている。

 菅首相は国会軽視の姿勢まで前政権を踏襲してはならない。野党との論戦に真摯(しんし)な態度で臨むべきだ。

 演説では、不妊治療への保険適用や携帯電話料金の引き下げなど自民党総裁選で掲げた「公約」を実行に移し、「成果を実感していただく」と述べた。短期間に、分かりやすい実績を積み上げて「改革」をアピールする姿勢がより鮮明になった。

 これまで腰が重かった温室効果ガス排出削減目標の見直しについても「2050年までにゼロにすることを、ここに宣言する」と積極姿勢に転じた。安倍晋三前首相の路線継承にとどまらない「菅カラー」を印象づける狙いとみられるが、重要なのは実現の工程である。再生可能エネルギーの普及に向けた具体策など将来像を明確に示すべきだ。

 一方で、「学問の自由」への政治介入と批判される日本学術会議の会員候補の任命拒否問題には触れなかった。6人を任命しなかった理由や、過去の政府答弁との矛盾について政府側から十分な説明はない。

 このままでは、前政権に続いて法の解釈を都合よく変えようとする強権的な政治手法への懸念が増すばかりだ。学術会議の改革に論点をすり替える前に、首相自らが説明責任を果たさねばならない。

 森友学園問題では、自殺した近畿財務局職員の元上司が改ざんの経緯を記録したファイルの存在を認める音声データが明らかになった。黙殺するのでなく、再調査に踏み出し、前政権の「負の遺産」を清算する好機ととらえるべきだ。

 政権の最優先課題は新型コロナウイルスの感染対策である。経済との両立を重視する首相は「Go To」事業の推進に熱心だが、制度の恩恵を受ける人が限られ、悪用される問題点も指摘されている。

 目標を先送りした財政健全化や、消費税のあり方にも言及しなかった。「安心の社会保障」を打ち出すならば、財源の裏付けと国民負担の方向性を示すのが筋である。

 異論に耳を傾けず、痛みを伴う政策への言及を避ける姿勢は「国民のために働く内閣」とは程遠い。

 首相が目指す「自助、共助、公助」の社会像の真意は、いまだはっきりしない。自己責任が強調され貧困や格差の拡大を招く恐れはないか。論戦を通じて、国の役割と責任を明確にすることも忘れてはならない。



臨時国会開幕 断片的でなく全体像示せ(2020年10月27日配信『山陽新聞』-「社説」)

 臨時国会が召集された。菅義偉首相は就任後初となる所信表明演説で「国民のために働く内閣」を改めて掲げ、行政のデジタル化や不妊治療の公的医療保険適用、携帯電話料金の引き下げなどの改革姿勢をアピールした。

 演説で並べた改革を通じて、どんな社会を目指すかは見えにくい。首相が強調する「自助、共助、公助、そして絆」は政策遂行の方法論であろう。自助が強調されすぎる心配も拭えない。論戦では断片的でなく、全体像を示してもらいたい。

 所信表明で宣言したのが、地球温暖化対策として2050年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにすることである。これまでの目標は50年に80%削減で、実質ゼロは今世紀後半の早期に実現できるよう努力するとしており、消極さが目立っていた。欧州連合(EU)などにようやく追いつくことになる。

 国民の生活様式を含め、経済社会構造を根本から変えねばならない。二酸化炭素(CO2)排出が多い石炭火力発電所の扱いや再生可能エネルギーの導入拡大など難問が多く、目標達成は極めて遠い。CO2を出さない電気自動車の普及など政策を総動員した早期の対策が欠かせない。

 最大の課題である新型コロナウイルス対策では「爆発的感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜く」と強調した。ウイルスに打ち勝った証しとして来年夏、東京五輪・パラリンピックを開催する決意を示したが、先行きの不透明さは残ったままだ。

 地方の活性化も物足りなさが残った。観光や農業改革によって地方への人の流れをつくり所得を増やすとしたものの、どれだけ実効性があるのか。新味には乏しく、こうした施策に乗れない地方もあろう。効果や影響を十分見極めて進めることが大切だ。

 一方、日本学術会議の会員任命拒否問題には触れなかった。政府は問題発覚直後から「個別の人事にはコメントしない」と、任命しなかった経緯の説明を拒む一方、学術会議の事務局を見直す検討に入っている。予算の無駄削減と業務効率化が理由だが、論点ずらしの印象は免れない。

 共同通信が今月実施した世論調査によると、菅内閣の支持率は前回の9月と比べて5・9ポイント減の60・5%だった。任命拒否問題が影響した可能性があり、国会答弁で国民が納得できる説明を尽くせるかどうかが問われる。

 野党はこの問題を追及する構えだ。首相指名から国会召集までは1カ月以上が過ぎており、政府は論戦を避けているとも批判している。

 立憲民主、国民民主党などが合流した新「立憲民主党」が先月旗揚げした。世論調査を見ると、支持が大きく広がったとは言い難い。

 与野党とも新体制で臨む臨時国会は双方の力量を占う場となる。国民に響く論戦を展開してほしい。



菅首相の所信表明 俯瞰的ビジョン見えぬ(2020年10月27日配信『中国新聞』-「社説」)

 菅義偉首相がきのう、就任後初めての所信表明演説をした。凝った引用もなく、質実志向は伝わった。「共に…しようではありませんか」と繰り返し、与党席の拍手をあおった安倍晋三前首相との違いが際立つ。

 半面、めりはりには欠けた。棒読みのような調子も手伝い、政策や課題の羅列に終始した感が拭えない。数少ないうたい文句が「国民のために働く内閣」。いまさら取り立てて言うことではあるまい。

 出口の見えぬ少子化問題やコロナ禍にどう立ち向かい、ピンチをチャンスに変えるのか。その覚悟と羅針盤を示すことが、一国の針路を預かる首相に求められていたはずである。

 コロナ後の社会に、勇気や希望をもたらす変化を期待する国民には、程遠い内容だったと言わざるを得ない。

 唯一、目指す未来像らしきビジョンがうかがえたのは「グリーン社会の実現」だろう。2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、脱炭素社会の実現を目指す―と菅首相は宣言した。

 ただ、世界の潮流からは大きく後れ、批判を浴びた揚げ句というのが実態である。環境省によれば、国内でも岡山、鳥取など22都道府県を含む164の地方自治体が、すでに同じ目標を表明済みだという。

 遅まきながら、画期をなす可能性はある。高度成長の時代を引きずる産業構造や経済社会の「体質」転換につながることが期待されるからだ。

 先を行く欧州が、コロナ後に移行すべき社会のビジョンに描くのは脱炭素社会だけではない。資源やエネルギーの地域内循環など、環境への配慮と両立させる復興「グリーンリカバリー」を目指している。

 30年後までに必ず達成すると言うなら、どんな段階を踏んでゴールに至るかについての工程表も書き込んだ法案化を急ぐべきだろう。脱原発について、可能な限り依存度を低減させるとしてきた政府の煮え切らぬ姿勢も転換が求められよう。

 菅首相はこの後、日本学術会議の任命拒否問題や森友学園問題での公文書改ざんなど、自身に不都合なことを巡って野党からの追及が必至である。

 学術会議の問題から透けて見えたのは、異論や反論を許さず、納得いく説明もしないといった強権的な姿勢にほかならない。にもかかわらず今回、演説の最後にまたぞろ「自分でできることは、まず自分でやってみる」と持論を持ち出した。

 コロナ禍で寄る辺ない生活困窮者に、どう聞こえるだろう。「自己責任」を強いられると受け取ったのではないか。

 本来、所信表明で首相が指し示すべき自らの時代認識や世界観の言及が乏しかった。

 とりわけ外交・安全保障については、現状をなぞってみせるにとどまった。前政権が力を入れながら進展のなかったロシアとの北方領土返還交渉も、「条件を付けず金正恩(キム・ジョンウン)氏と向き合う」と言いつつ進まぬ北朝鮮の拉致問題も、従来方針の検証抜きに展望は開けまい。

 臨時国会は、あすから代表質問に移る。内政、外交ともに、俯瞰(ふかん)的なビジョンをどう描いているのか。論戦を通じ、菅首相には率直に、もっと語ってもらいたい。



首相の所信表明 強権体質を改め充実した審議を(2020年10月27日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 本当に「国民のために働く内閣」なのか問われる。菅義偉首相の就任後、初の論戦となる第203臨時国会が召集された。菅首相は所信表明演説で「前例主義の打破」を掲げ改革をアピールした一方、強権的とも批判される政治手法を省みる姿勢は見せなかった。

 日本学術会議の会員任命拒否問題などを巡り、政府が説明責任を十分に果たさないことに国民の不信感は高まっている。首相は異論を許さず、説明や議論に背を向ける独善的姿勢を改めるべきだ。民主主義のプロセスを重視しないと国民の支持は得られないと自覚し、国会審議を充実させなければならない。

 首相は学術会議が推薦した会員候補6人の任命を拒否した。拒否の理由について「総合的、俯瞰(ふかん)的」と繰り返すが、具体的には説明していない。学術会議側が「憲法が保障する学問の自由を脅かす」と反発すると、政府は予算の無駄削減といった名目で学術会議の在り方の見直しに着手した。任命拒否問題は脇に置いたままで、論点のすり替えと言わざるを得ない。

 共同通信が今月中旬に実施した世論調査で、任命拒否問題を巡る首相の説明は「不十分だ」との回答が7割超に上った。菅内閣の支持率も前回9月の調査と比べ5・9ポイント減少した。国民は納得しておらず、首相への信頼度が低下したのは明らかだ。首相は国会で詳しく説明することが求められる。

 安倍政権当時からの森友・加計学園問題や桜を見る会の疑惑も、いまだに真相が解明されていない。国会で引き続き調査する必要がある。

 足元の最重要課題は新型コロナウイルス対策だ。感染の収束は見通せず、インフルエンザとの同時流行への警戒も要する。首相は演説で「爆発的感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜く」と強調。リスクの高い高齢者らに徹底した検査を実施し、医療資源を重症者に重点化するとの考えを述べた。

 コロナ禍で悪化した経済の再生も正念場にある。政府は「Go To キャンペーン」を展開するが、人の動きが増えると感染拡大のリスクも高まる。再び経済活動を停滞させず、医療体制にも過度の負担をかけないためには実効性のある感染対策が重要だ。解雇・雇い止めは既に6万人を超えた。今後も増加する恐れがあり、国のきめ細かな支援策が欠かせない。

 ここにきて、首相は2050年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにすると宣言した。実現には再生可能エネルギーの拡大、石炭火力発電廃止など政策の転換が必須だ。先行する各国に追いつくには具体的な道筋を示すことが急務となる。

 野党は早期の国会召集を求めたが、首相指名から所信表明演説まで約40日間も空いた。国会を軽視した政府・与党の責任は重い。出遅れを取り戻し国難を打開するため、与野党は徹底的に議論しなければならない。



頭の良い人の話(2020年10月27日配信『愛媛新聞』-「地軸」)

 頭の良い人は複雑なものを複雑なまま扱うことはしないのだという。ややこしい話でも「こんなに簡単な話だったのか」と得心させてくれる。思想家の内田樹さんは論集「街場の平成論」でつづっている

▲同時にこういう「切れ味のよい仮説」の危うさを指摘する。その仮説ではうまく説明できない事象があっても、頭の良い人は自説を撤回しない。そんな人の頭の良さは「間違いを間違っていなかったかのように取り繕う」ときに際立つのだ

▲頭の良い人の話を聞いているようだった。菅義偉首相の所信表明演説である。分かりにくい話はない。政策を羅列し、「必要な対策を講じていく」「あるべき方策を取りまとめていく」などと言う。「国民のために働く」という決意なのだろうが、具体性に乏しい

▲前政権の成果の強調も目立った。話だけ聞いているとこの国は近年とにかく順調に歩んできたらしい。実際は多くの国民に景気回復の実感は薄く、東京一極集中も是正されていない。何か問題があったはずなのに明確な言及はない

▲内田さんは複雑なものを複雑なまま扱うというのも重要な知性の働きだと説く。そのためにはタフな知力が必要で、良い頭より丈夫な頭が要る

▲首相は複雑なものを単純化することがある。日本学術会議の任命拒否問題では「総合的、俯瞰(ふかん)的」と繰り返すだけで、理由の説明とは言い難い。説明は簡略にせず、愚直に言葉を尽くしてほしい。



【所信表明演説】問われる首相の説明姿勢(2020年10月27日配信『高知新聞』-「社説」)

 臨時国会が召集され、菅義偉首相が就任後初めての所信表明演説を衆院本会議で行った。

 首相就任から約40日。行政の縦割り打破、デジタル化推進などを矢継ぎ早に打ち出してきた菅首相が、ようやく国会論戦に臨む。

 安倍晋三前首相は強弁やはぐらかしを重ね、国会軽視の姿勢が際立った。安倍政権の「継承と前進」を打ち出す菅政権だが、負の側面まで継承していないか。説明責任に対する菅首相の姿勢が試されよう。

 喫緊の論点は新型コロナウイルス対策だ。

 全国的な感染者数の減少は鈍化しており、収束は依然見通せない。秋冬はインフルエンザとの同時流行も懸念されている。

 首相は爆発的感染は絶対防ぐとして経済との両立に言及した。政府自らこれまでの対策を検証しない中、困窮している生活者や事業者、医療機関への支援は的確だろうか。

 政府は本年度の補正予算に新型コロナ対策名目で計11兆5千億円の予備費を積み上げた。当初から「常識外れの額で、支出の裁量を政権に与えるべきではない」との批判がある。使途の妥当性は国会で詳しく説明し、検証されるべきである。

 新型コロナ特措法に関しては、全国知事会などが休業要請の実効性を担保するため、国による補償や罰則規定の法的措置を講じるよう主張している。私権制限を強める内容だけに、慎重かつ早急に議論を始める必要があるのではないか。

 地球温暖化対策では、2050年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにすると宣言した。

 首相が脱炭素社会を実現する具体的な時期を明示するのは初めてになる。「グリーン社会」を「行政のデジタル化」と並ぶ菅カラーの政策にしたい思惑があるという。

 ただ、実現には電源構成などを含むエネルギー基本計画の大幅な見直しが必要になる。石炭火力発電所の扱いや再生可能エネルギーの導入拡大など対処すべき課題は多い。

 掛け声だけに終わらせないためにも、実現に向けたプロセスの明示こそが求められる。

 前政権と同じく「説明を拒む政権」という懸念が膨らむのは、日本学術会議の会員任命拒否問題に触れずじまいだった点だ。

 学問の自由への介入や、異論を許さない政権の体質が疑われる中、首相は会員候補6人の除外理由や誰が外す判断をしたのかについて口をつぐみ続けている。

 一方で政府、自民党は連携して学術会議への国費支出の妥当性や、組織の在り方の見直しに着手した。論点をそらす狙いが透ける。国民の多くが疑問を抱き、関心を持つ問題について、国会審議でも説明を拒むことは許されまい。

 首相は「国民のために働く内閣」をあらためて強調した。あらゆる政策推進や改革には、十分な説明と国民の納得が欠かせないことを肝に銘じてもらいたい。



首相のイメージ(2020年10月27日配信『高知新聞』-「小社会」)

 菅首相が官房長官時代、記者会見で安倍前政権の公文書ずさん管理についてただされた。菅さんは以前、著書で旧民主党政権が東日本大震災への対応で議事録を残していないことを批判している。

 「作成を怠ったことは国民への背信行為」。著書の言葉を引き合いに、記者が「こう書いている政治家がいる。誰だかご存じか」と迫った。テレビのニュース映像で流れた、その際の菅さんの顔が忘れられない。

 ぴくりとも表情を動かさず、冷たい目線で「知りません」。嫌がらせのような記者の聞き方にも問題はあっただろうが、もう少しうまい切り返しはできなかったものか。雪深い秋田の農家出身で人情家。自身が強調するイメージとも違うと、老婆心ながら心配する。

 菅首相がきのう臨んだ初の所信表明演説。安倍前政権と似たり寄ったりの内容が少なくない。「2050年までに温室効果ガスの排出ゼロ」は目を引く菅カラーだが、どうやって? 日本学術会議会員の任命拒否問題には触れずじまい。消化不良の印象が拭えなかった。

 菅首相の著書の改訂版では、公文書の重要性に関する記述が削除されている。かつて述べた正論も都合が悪くなるとあっさり引っ込めるというのなら、政治家の言葉の軽さが際立とう。

 片や「国民のために働く」と繰り返し、片や質問を一言で退け国民への説明責任を果たそうとしない。首相のイメージはやはり一致しない。



菅首相初の所信表明(2020年10月27日配信『佐賀新聞』-「論説」)

厳しい話も語るべきだ

 菅義偉首相は臨時国会で初の所信表明演説を行った。新型コロナウイルス感染拡大という「国難」克服を最優先した姿勢は妥当だが、コロナ後の国の針路は示さなかった。

 実行する政策を語るのが所信表明だ。しかし、「語らなかったこと」に本質が潜むとも言える。

 第一に首相は1兆6千億円超の経済支援策「Go To キャンペーン」など巨額支出の諸施策をアピールした一方、安倍晋三前首相が1月の施政方針演説でも述べた「2025年度の基礎的財政収支黒字化を目指す」の目標に言及を避けた。

 約60兆円に上るコロナ対策財源は、全て将来世代につけを回す国債による借金だ。財政規律は棚上げする考えなのかと受け止めざるを得ない。

 未曽有の危機克服のためには一定の借金はやむを得まい。だが緊急的な対策に付随して、行政のデジタル化、オンライン教育拡大、国土強靱(きょうじん)化などさらなる巨額支出が続けば、国の財政は大丈夫かと誰もが心配になる。

 コロナ後に直面する財政立て直しの見通しと併せ、いずれは国民に増税を含む痛みを求める可能性など厳しい話も首相は語る責任があるはずだ。

 一定以上所得がある75歳以上の高齢者の医療費窓口負担を22年度までに1割から2割に引き上げる改革は、安倍前政権が決め施政方針で表明済みだ。しかし首相は今回「これまでの方針に基づいて高齢者医療の見直しを進める」とあえて具体論をぼかすように述べた。

 22年からは団塊世代が75歳以上になり、高齢者にも応能負担を求めなければ社会保障制度の持続可能性は揺らぐ。首相は来秋までに実施される衆院選をにらみ、有権者が嫌う負担増に煙幕を張ったのか。あるいは改革先送りも念頭にあるとすれば、しわ寄せを受ける将来世代に対し不誠実だ。

 また首相は日本学術会議の会員任命拒否、森友学園問題の公文書改ざんを強制され自殺したとされる元近畿財務局職員の遺族が改ざん過程の記録提出を要求している問題など自身に都合の悪いことも、野党が追及必至と知りつつ語らなかった。

 首相は「自分でできることは、まず自分でやってみる」と国民に「自己責任」を求めた。ならば、国民が今最も疑念、不信感を抱く問題について、まずは首相としての説明責任を果たすべきだ。それでこそ「国民のために働く内閣」ではないか。

 いったん退陣した安倍前首相の政権復帰後初の所信表明(13年1月)は「大きな政治的挫折を経験した」と「反省」の弁から始まった。菅首相はどうか。訪日外国人客4倍増、ふるさと納税利用5千億円など自身の実績ばかり強調し「反省」とは対極にある演説だった。

 温室効果ガスの排出量を50年までに実質ゼロにするとも宣言し政治決断を演出した。しかし世界に大きく後れを取って批判を浴びた揚げ句、ようやく踏み切ったのが実態だ。首相は、従来の消極的な環境行政を猛省することから始めるべきだ。

 外交・安全保障も同様だ。安倍前政権が力を入れたが進展させられなかったロシアとの北方領土返還交渉。「条件を付けず金正恩氏と向き合う」と言いながら進まない北朝鮮の拉致問題。いずれも従来方針の検証、反省抜きで展望は開けない。

 今回語らなかったことを、首相として初めて臨む国会論戦で改めて国民に明らかにすべきだ。(共同通信・古口健二)



菅首相所信表明 負の側面も含めて説明を(2020年10月27日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 菅義偉首相にとって初の論戦の場となる臨時国会が26日、召集された。所信表明演説に臨んだ首相は「国民のために働く内閣」として規制改革を断行する考えを表明。携帯電話料金引き下げなどの具体例を挙げ「成果を実感していただきたい」と国民に約束した。

 残念だったのは、日本学術会議の会員任命拒否問題に関し一切言及しなかったことだ。「国民から信頼される政府」を目指すのであれば、異論に耳を傾けず国民への説明を軽視した安倍晋三前政権の姿勢を引き継ぐべきではない。

 また、演説は個別の政策が中心で、自助・共助・公助と絆を基本とする政権運営が社会をどう変えるのか、どれほどの財源が新たに必要となるかなど、負の側面を含め丁寧に説明したとまでは言い難い。各党の代表質問や予算委員会審議が、国の将来を見据えた活発な論戦となることを期待したい。

 喫緊の課題である新型コロナ対策に関しては「爆発的な感染を絶対に防ぐ」と述べた上で、社会経済活動を再開して経済回復を目指す考えを強調。来年夏に延期された東京五輪・パラリンピックに関しても開催する決意を示した。

 インフルエンザが流行する時期を迎え、急いで取り組むべきなのは国民の不安解消だ。政府が進める「Go To」事業では恩恵を受ける人が限られているほか、制度の問題点も次々と明らかになっている。最善の方策は何なのか、政官や与野党の壁を取り払って知恵を絞るべきだ。

 来年の創設を目指すデジタル庁については、省益を排し民間の力を取り入れると説明。行政への申請で押印を原則廃止するとした。地球温暖化対策では、2050年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする方針を打ち出した。再生可能エネルギーを最大限導入するなどしてエネルギーの安定供給を図るという。ただ、安全最優先で原子力政策を進めるとした点は丁寧に議論する必要があろう。

 外交では、日米同盟を基軸とする考えを改めて表明。だが、北朝鮮の拉致問題やロシアとの北方領土返還交渉に関しては、進展を図れなかった前政権の方針を踏襲するにとどまった。

 新型コロナ禍は社会構造の変革を迫っている。将来の社会保障政策や、財源のための税体系についても、具体的なビジョンを聞きたい。国民に増税などの痛みを求める話も、包み隠さずに説明するのが首相の務めではないか。

 一方、日本学術会議の問題に関して、首相はこの組織に約10億円の国家予算が投じられているとして「国民に理解される存在であるべきだ」と見直しを図る意向を示している。しかし、今問われているのは任命手続きの違法性である。選考に関与したとされる杉田和博官房副長官の国会招致を与党も検討するべきだ。

 野党も次の衆院選に向け、それぞれの構想を示してもらいたい。衆院議員の残り任期は1年を切った。有権者の判断材料となり得る骨太の論戦が求められている。



「自分でできることは自分でやってみる」(2020年10月27日配信『熊本日日新聞』-「新生面」)

 今年、コロナ禍でのイベント自粛は、多くの芸能関係者を直撃した。大名跡の「十三代目市川團十郎白猿」襲名披露公演の延期を余儀なくされた歌舞伎俳優の市川海老蔵さんは、その最たるものだろう

▼披露公演の日程はなお未定のままだが、代わりに海老蔵さんは自らが座長を務める全国巡演を企画。先月、皮切りとなる山鹿市の八千代座で7カ月ぶりの舞台に立ち、「伝統文化を支援していただきますようお願いいたします」と深々と頭を下げ御目見得[おめみえ]口上を述べた

▼飛まつ防止の制限がなければ、すかさず大向こうから「待ってました」の声が掛かるところだが、こちらの御目見得はどうだろう。就任から1カ月、先代から数えれば4カ月ぶりの舞台。「政治空白は許されない」と大見得を切っていたわりには、ずいぶん待たされた昨日の臨時国会召集である

▼実施済みや検討中の政策を羅列した菅義偉首相の所信表明は、手堅さはあっても、あまり熱を感じさせないものだった。「自分でできることは自分でやってみる」と、国民の自助を強調して演説を締めくくるあたり、むしろ冷たい印象が残る

▼海老蔵さんが全国巡演に踏み切ったのには、歌舞伎関係者をコロナ禍の生活苦から守るという強い思いがあった。伝統文化への支援を願う口上は、自身が先頭に立ち、共助の道を切り開くとの決意表明でもあっただろう

▼首相にもその覚悟を見せていただきたい。公助からこぼれ落ちる人がないよう、ぜひ「隅から隅までずずずいーと」の目配りを。



言語化(2020年10月27日配信『長崎新聞』-「水や空」)

 将棋の羽生善治九段は、情報工学の研究者2人との共著「先を読む頭脳」の中で、対局者同士が終局直後に互いの読み筋を披歴し合う「感想戦」について〈言語化して相手に伝え、相手からも受け取るやりとりは、時として1+1=2以上の効果を生むことがある〉と語っている

▲羽生さんの読み筋ほど複雑なことは考えてはいない当方だが、何かのテーマについて、誰かと雑談を続けるうちに、頭の中が整理されていくように感じることはよくある

▲2年ほど前に、学校の先生と交換日記を続けている中学生の話を紹介したことがある。〈楽しい話は楽しさが伝わるように、腹が立った日は怒った理由が分かるように。言葉選びが丁寧になりました〉。これも言語化の効用だろう

▲方法ばかりで「目的」が見えない-と先日小欄に書いた菅義偉首相が昨日、初の所信表明演説に臨んだ。〈ウィズコロナ、ポストコロナの新しい社会〉〈活力ある地方を〉〈自助・共助・公助・そして絆〉

▲目指す社会像は幾らか語られたが、世間の耳目を集める学術会議の任命拒否問題はひと言も説明がなく、「公助」の“出番”がいつも3番目である違和感は今回も消えないまま

▲「言語化」へのさらなる努力が必要に思えてならない。昨日の演説、皆さんはどう聞かれただろう。



菅首相初の所信表明(2020年10月27日配信『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆「語らなかったこと」に本質◆

 菅義偉首相は臨時国会で初の所信表明演説を行った。新型コロナウイルス感染拡大という「国難」克服を最優先した姿勢は妥当だが、コロナ後の国の針路は示さなかった。実行する政策を語るのが所信表明だ。しかし、「語らなかったこと」に本質が潜むとも言える。

 第一に首相は1兆6千億円超の経済支援策「Go To キャンペーン」など巨額支出の諸施策をアピールした一方、安倍晋三前首相が1月の施政方針演説でも述べた「2025年度の基礎的財政収支黒字化を目指す」の目標については言及を避けた。約60兆円に上るコロナ対策財源は、全て将来世代につけを回す国債による借金だ。財政規律は棚上げする考えなのかと受け止めざるを得ない。

 未曽有の危機克服のためには一定の借金はやむを得まい。だが緊急的な対策に付随して行政のデジタル化、オンライン教育拡大、国土強靱(きょうじん)化などさらなる巨額支出が続けば、国の財政は大丈夫かと誰もが心配になる。

 コロナ後に直面する財政立て直しの見通しと併せ、いずれは国民に増税を含む痛みを求める可能性など厳しい話も首相は語る責任があるはずだ。

 一定以上所得がある75歳以上の高齢者の医療費窓口負担を22年度までに1割から2割に引き上げる改革は、安倍前政権が決め施政方針で表明済みだ。しかし首相は今回「これまでの方針に基づいて高齢者医療の見直しを進める」とあえて具体論をぼかすように述べた。

 22年からは団塊世代が75歳以上になり、高齢者にも応能負担を求めなければ社会保障制度の持続可能性は揺らぐ。首相は来秋までに実施される衆院選をにらみ、有権者が嫌う負担増に煙幕を張ったのか。改革先送りも念頭にあるとすれば、将来世代に対して不誠実だ。

 また首相は日本学術会議の会員任命拒否、森友学園問題の公文書改ざんを強制され自殺したとされる元近畿財務局職員の遺族が改ざん過程の記録提出を要求している問題など自身に都合の悪いことも、野党が追及必至と知りつつ語らなかった。国民がいま最も疑念、不信感を抱く問題について、まずは首相としての説明責任を果たすべきだ。

 世界に大きく後れを取って批判を浴びた消極的な環境行政に加え、外交・安全保障も大きな課題として存在する。安倍前政権が進展させられなかったロシアとの北方領土返還交渉、「条件を付けず金正恩氏と向き合う」と言いながら進まない北朝鮮の拉致問題。いずれも従来方針の検証、反省抜きで展望は開けない。今回語らなかったことを、国会論戦で改めて国民に明らかにすべきだ。



菅首相初の所信表明 言行不一致から改めよ(2020年10月27日配信『琉球新報』-「社説」)

 沖縄県民の願いや国民の疑念に応えず美辞麗句を並べるのは不誠実である。

 菅義偉首相は就任後初めて国会で所信を表明した。沖縄に関し「基地負担軽減に取り組む」とし「普天間飛行場の危険性を一日も早く除去するため、辺野古移設の工事を着実に進める」と述べた。その上で「引き続き、沖縄の皆さんの心に寄り添う」と語った。

 沖縄では辺野古埋め立てに投票者の約7割が反対した県民投票や知事選などの主な選挙で辺野古移設に反対する強固な民意が示されてきた。演説は言行不一致が甚だしい。言葉に責任を持つなら発言通り沖縄に寄り添うべきだ。

 辺野古海域では軟弱地盤が見つかり、国試算で9300億円の予算をかけ、12年以上の工期が見込まれる。この事実を軽視し「一日も早く」という言葉は空々しい。現行計画を即刻撤回し、県内移設の条件を付けずに普天間飛行場を早期に返還すべきである。

 菅首相は2016年の北部訓練場北側返還に言及し「本土復帰後最大の返還」と自賛した。しかし返還は、ヘリパッドの移設条件付きで高江集落周辺にオスプレイ仕様のヘリパッド六つを建設することが条件だ。明らかに機能強化である。建設が進む地元の住民は騒音に悩まされている。

 返還部分は米軍が「使用不可能」とした土地だ。にもかかわらず、すぐには返さず1996年の日米による返還合意から20年もの歳月を要した。県内移設条件付きだからだ。普天間飛行場や那覇軍港なども同様で、返還に時間がかかっている。県内移設条件付きの負担軽減は県民の願いとかけ離れている。

 真の負担軽減に誠実に向き合うなら、辺野古の新基地建設を直ちに断念し、県内移設の条件を付けない返還を進めるべきである。所信表明で沖縄県はじめ全国知事会が求めている日米地位協定の改定に触れなかったことも、沖縄に寄り添っていない証拠だ。
 不誠実な姿勢は沖縄の問題に限らない。日本学術会議の会員任命拒否問題も言及しなかった。国民に説明しない態度は、演説で述べた「国民のために働く内閣」と矛盾する。

 菅氏は2050年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする考えを示した。石炭火力を再生エネルギーに変えるだけでなく「安全最優先で」原発政策も進めるという。脱原発こそが国民の安全を確保する最善の道だ。東京電力福島第1原発事故後も原発政策を進めるのは国民の命を軽視していると言わざるを得ない。

 首相初の所信表明はここ30年間で政権交代時を除き、指名直後に実施されてきた。菅氏の表明は指名から40日後の異例の遅さだ。今回の所信表明は国会を軽んじ、国民をなおざりにする姿勢を鮮明にした。説明軽視もその一つだ。安倍政権時代に数々の疑惑を巡り隠し続けた公文書を開示するなど国民の疑念に応えなければ信頼は到底得られない。



[首相所信表明]負担語らず空虚な演説(2020年10月27日配信『沖縄タイムス』-「社説」)

 臨時国会が召集され、菅義偉首相が就任後初の所信表明演説を行った。

 菅内閣の発足から既に40日。所信表明がこれほど遅いのは異例だ。安倍前政権時に通常国会が閉会してから実に4カ月余りが経過している。「国会軽視」の姿勢まで継承したということなのか。審議を避けているとの批判は免れない。

 菅首相は演説で、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設について、危険性除去のため「工事を着実に進める」と強調した。安倍晋三前首相は1月の施政方針演説で辺野古移設に言及しておらず「復活」した格好だ。

 さらに米軍北部訓練場の過半の返還に触れて「本土復帰後最大の返還となった」と成果を誇示した。一方、演説では語られなかったことがある。

 辺野古新基地の予定海域に軟弱地盤が広がり、改良工事によって工費は当初の約2・7倍に膨らむこと、工期が大幅に延び、順調に進んだとしても普天間返還は2030年代半ば以降にずれ込むことへの言及はなかった。

 北部訓練場の過半返還に伴い、集落を取り囲むようにしてヘリパッドが6カ所新設され、騒音被害が増していることにも触れていない。

 「沖縄の皆さんの心に寄り添いながら取り組む」と菅首相は主張した。これまで何度「寄り添う」という言葉が使われただろうか。普天間の一日も早い危険性の除去と言いながら、あと10年以上待てというのか。あまりに不誠実だ。基地負担の実態や解決策を語らなければ、県民に寄り添う姿勢は見えてこない。

■    ■

 演説では、日本学術会議の会員候補への任命拒否問題にも触れなかった。

 推薦された6人を首相がなぜ任命しなかったのか、納得できる説明はいまだにない。「総合的」「俯(ふ)瞰(かん)的」と繰り返されても意味不明だ。

 学術会議に対し約10億円の国の予算が投じられているとして、政府は行政改革の対象として検証すると言い出している。まったく別の問題であり、論点のすり替えである。

 世論調査でも首相の任命拒否の説明は「不十分だ」との回答が72%に達するなど、国民はこの問題に厳しい目を向けている。

 野党は国会で追及の構えを見せている。菅首相は真(しん)摯(し)に向き合い説明責任を果たすべきだ。官房長官時代にモリカケや桜を見る会などの問題に対して示した強権的な対応は改めてもらいたい。

■    ■

 収束が見通せない新型コロナウイルス対策も重要だ。演説では、感染防止と経済再生の両立を図るとし、重症化リスクの高い高齢者らに徹底した検査を行い医療資源を重点化すると明言した。医療現場が混乱しないよう仕組みを早急に整えてほしい。

 菅首相は「『自助・共助・公助』そして『絆』」を掲げるが、公助をどう考え、自助や共助とどう関わりを持つのか。

 コロナによって特に弱い立場にいる人たちが経済的な打撃を受けている。社会保障政策を含めて目指すべき国家像を示すべきだ。



菅首相の所信表明(2020年10月27日配信『しんぶん赤旗』ー「主張」)

国政の重大問題語らぬ無責任

 菅義偉首相の就任後初の所信表明演説を聞きました。政権発足から40日たって、ようやく行われた国会での演説です。首相は温室効果ガスの排出削減での新しい目標やデジタル化推進などを強調する一方、国民の批判が集中している日本学術会議への人事介入には触れませんでした。学問の自由という憲法に関わる国政上の重大問題について一言も説明しないというのは政権を担う資格そのものが問われます。国会論戦で菅政権を徹底的に追及することが重要です。

任命拒否に一言も触れず

 新しく就任した首相が、基本政策を明らかにする所信表明演説が、就任から1カ月以上も行われないのは異例です。

 6月に通常国会を閉じて以降、新型コロナウイルス感染拡大への対応や経済の悪化、安倍晋三政権の退陣と菅政権の発足など、国会で論議すべき課題は山積していたのに、国会をないがしろにし、臨時国会の開催を拒んできた政府・与党の責任は重大です。

 所信表明演説で何より驚いたのは、日本学術会議の会員6人の任命を拒否したことについて一切語らなかったことです。菅首相はこれまで、「総合的・俯瞰(ふかん)的な活動を確保する」ためなどとごまかすだけで、任命拒否の理由を全く説明していません。

 どの世論調査でも、説明責任が不十分だという回答が圧倒的多数なのに、それを無視した首相の演説に国民は到底納得できません。

 首相による任命拒否は、過去の政府の国会答弁を覆し、日本学術会議法に違反するとともに、学問の自由や思想・良心、表現の自由を根本から揺るがす大問題です。こんなことがまかり通れば日本は法治国家ではなくなります。国会で徹底追及し、任命拒否を撤回させることが不可欠です。

 菅氏は「自助・共助・公助」を強調し、「自分でできることは、まず、自分でやってみる」と、国民に自己責任を迫る冷たい姿勢があらわです。コロナ禍で、感染拡大や暮らしへの不安を抱え、必死で頑張っている国民に向かって首相が言うべき言葉ではありません。政治の責任を投げ捨てる態度は改めるべきです。コロナの感染拡大は収束のめどが立っておらず、検査と医療をどう強めるのか、営業と雇用をどう守っていくのか、今後の国会論戦で、具体的対策を菅首相にただす必要があります。

 「森友・加計・桜を見る会」などの疑惑に首相が言及しなかったのも不誠実で、政治への信頼を回復しようという姿勢ではありません。安倍政権の官房長官として一連の国政私物化に深く関わってきた菅首相には真相を語る責任があります。

危険な政治終わらせよう

 首相は2050年までに温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすると表明しましたが、実効性が問われます。原発への依存は許されません。県民の声に逆らう沖縄での米軍新基地の建設推進の姿勢も変えませんでした。安倍前首相が固執した改憲問題では、国会の憲法審査会で各党による「建設的な議論を行い、国民的な議論につなげていくことを期待」と主張しました。国民が望まない改憲を推し進めることはやめるべきです。

 野党と国民のたたかいにより強権的で冷たい菅政権を倒し、政権交代を実現することが急務です。














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