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【維新解剖(中)】コロナ誤算「どぶ板」制約…「ふわっとした民意」つかめず(2020年11月4日配信『産経新聞』)

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 「大体分かってくれた? 聞きたいことがあれば質問してください」。大阪維新の会代表(大阪市長)の松井一郎は住民投票の告示後、街頭説明会では毎回、聴衆に大阪都構想に関する質問を求めた。「特別区間で格差ができるのか」という素朴な疑問もあったが、大半は「市営住宅がなくなると聞いた」「障害者年金は打ち切られるのか」といったデマの確認だった。

 「機は熟した」と2度目の住民投票に踏み切った松井だったが、新型コロナウイルス禍は、維新の選挙強さの源泉である「どぶ板」活動を著しく制限した。「都構想の『と』の字を出しただけで市民の怒りを買う」(維新市議)と、どの党よりもハレーションを警戒し、9月まで目立った街頭活動は自粛せざるを得なかった。

 コロナ対応への評価で急上昇した維新代表代行(大阪府知事)の吉村洋文の人気がプラスに働くと期待されたが、吉村は松井とともにコロナ対応を優先。告示までは徹底して党幹部としての露出を控えた。「密」を避けるため、街頭説明会の事前告知を解禁したのは最終週。だが、市民の間にはすでに、反対派が流布する真偽不明の情報や不安が蔓延(まんえん)していた。

「ふわっとした民意」

 もう一つの「誤算」は、公明党との共闘だ。5年前は維新以外の全政党と対決したが、今回は政治闘争の末、公明が推進派に転向。維新は支持母体の創価学会の組織票を期待した。大阪市の有権者約220万人のうち、約17万票とみられている。前回は約1万票という僅差での否決だ。「公明さんが賛成を決めたから、大きく変わる」。維新議員の間では当初、こうした期待が膨らんだ。

 だが、維新が都構想を掲げた10年前から、公明はずっと反対の立場だった。特に、前回住民投票では反対派の急先鋒(きゅうせんぽう)として、熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げた。

 急な方針転換に支持者はついていけず、創価学会員の一部には「衆院選の議席を守るための方針転換。党利党略だ」と反発する声も広がった。昨春の知事・市長のダブル選で死闘を繰り広げた政敵である維新に対する嫌悪感も強かった。

 「3カ月あれば支持者に方針転換について丁寧に説明し、浸透できる」。公明府本部関係者はこうみていたが、コロナの影響で、説明会が始められたのは実質、9月から。時間不足に加え「維新に対する感情のもつれをときほぐす」(府本部幹部)ことも難航した。産経新聞が9月上旬に行った合同情勢調査では、公明支持層で都構想に賛成と答えたのはわずか26%で、反対は57・4%に上った。

 危機感を募らせた公明は、党代表の山口那津男に来阪を要請。10月18日、山口は国政野党の幹部でもある松井一郎や吉村洋文とともに並び立つという異例の対応をとった。

 「今日が転換点になる」。公明幹部には安堵(あんど)感さえ広がったが、予測は外れた。反対多数で否決となった1日、産経新聞などが実施した出口調査で、公明支持層で賛成したのは48・4%にとどまった。

 だが、維新にとって最大の誤算は、数々の選挙で維新の味方となってきた、創設者の橋下徹がいう、無党派層からなる「ふわっとした民意」をつかめなかったことだ。

 当初から「勝敗のカギを握るのはサイレントマジョリティー(物言わぬ多数派)だ」(維新府議)とみていた維新。SNSを駆使したオンライン説明会や、吉村が出演するイベントなども積極的に開いた。ただ、こうした空中戦が響いているかどうかは「全く感触がつかめなかった」(維新市議)。

 関係者によると、吉村は終盤、松井と自分の2人が「優勢エリア」に入る方が良いとの考えだった。しかし、過去に都心部で無党派層を取り込んできた「成功体験」などが影響したのか、迷いながらも「反対」が多い市南部に集中的に入る戦略を選んだ。

 だが、高齢化率が高く「大阪市へのノスタルジー(郷愁)が強い」(維新市議)地域では、強固な反対層を賛成に転じさせることは容易ではなかった。吉村は1日の記者会見で、険しい表情でこう振り返った。

 「僕らの熱量より、大阪市を残したい市民の思いの方が強かったのだろう」
(敬称略)



【維新解剖(上)】「コスト報道」が潮目 “中之島一家”の影(2020年11月3日配信『産経新聞』)

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所在地にちなみ「中之島一家」と呼ばれる強固な体制が存在した大阪市役所(本社ヘリから)

 「大阪維新の会の先頭で旗を振ってきたが、2度目の負け。政治家として、けじめはつけなければならない」

 大阪都構想の住民投票が僅差で否決された1日夜、大阪市内のホテルで記者会見に臨んだ維新代表の松井一郎(56)は吹っ切れたように言葉を継いだ。つき物が落ちたような表情が看板政策を懸けた一大決戦の重圧を物語っていた。

 会見後、松井と維新代表代行の吉村洋文(45)は隣接する控室に向かった。松井は維新関係者らを前に、こうあいさつした。

 「次は吉村世代。年寄りは去っていくが、吉村は残らんと、責任を取ることにならない」

 リラックスした口ぶりの松井から、事実上の“後継指名”を受けた吉村は苦笑するしかなかった。否決にうなだれる若手議員を松井は「落ち込む必要はない。頑張ってや」と鼓舞した。

 全政党と対決した平成27年5月の住民投票と異なり、今回は公明党を味方につけた。大阪市内で約17万票といわれる支持母体の創価学会の組織票もついてくる、との目算が維新にはあった。告示前には推進派優位とみられたが、10月下旬の報道各社の情勢調査では賛否が拮抗(きっこう)した。

 潮目が変わったのは、投票まで1週間を切った10月26日。「大阪市を4市に分割した場合、行政サービスにかかるコストが約218億円増加する」。市財政局が一部報道機関の求めに応じて出した試算が複数のメディアで報じられると、SNSを中心に一気に拡散。反対派も「大阪市廃止に伴うコスト増」のアピールに利用した。

 「市役所を死に物狂いで残そうとする市役所職員が最後にクーデターを起こした」

 維新前代表の橋下徹は、一連の騒動をツイッターで激烈に批判した。「大阪市」という権力組織をめぐる権謀術数がうごめいていた。

既得権「中之島一家」の存在

 大阪市役所本庁舎が建つ所在地にちなみ、市役所内には「中之島一家」と呼ばれる強固な体制が存在した。行政当局と市議会の与党会派、職員労働組合の三者が一体となって市長を担ぎ、市政をコントロールする構図が長年続いてきた。

 こうした体制を問題視し、行政改革を断行したのが平成23年に市長に就いた橋下徹だ。市職員による労働組合を「既得権」とみなし、庁舎内から組合の事務所を追い出して、職員の服務規律も徹底した。

橋下は、今回の大阪市財政局による試算から、市廃止に反対する中之島一家の影を感じ取った。ツイッターでは「こういう市役所が大阪をボロボロにしてきた」と続けざまに糾弾。試算が一部メディアで報じられる前、「共産党議員がTV討論会で示唆していた」とも指摘した。

 実際、大阪市を4政令市に分割するとコストが約218億円増える-との試算は、4特別区に再編する大阪都構想とは全くの別物だ。市長(維新代表)の松井一郎に対し、財政局は一部報道機関に試算内容を提供する前に報告すらしていなかった。

 関係者によると、報道で試算を知った松井は激怒。だが、担当部局による記者会見までは指示しなかった。「明らかにミスリードになる」と懸念を強め、市の見解を発信すべきと提案したのは、大阪府知事(維新代表代行)の吉村洋文だったという。

 財政局は記者会見で「ルールにないものを算定した。捏造(ねつぞう)といわれても仕方ない」と陳謝し、試算を撤回。維新も党を挙げて火消しに奔走したが「反対派が勢いづき、市民は不安と混乱に陥った」(維新幹部)。

 真偽不明の情報が飛び交う中、維新は大阪府知事と市長のポストを担ってきた23年以降の実績を説明することに腐心した。だが皮肉にも、府市一体の「バーチャル都構想」による二重行政の解消が、都構想最大の目的を達成し、有権者に「このままで良い」という“現状維持志向”を抱かせたことは否めない。

 住民投票から一夜明けた2日、吉村は府幹部を集めた会議でこう訓示した。

 「府市がバラバラになることを市民が求めているわけではない。府市一体の成長戦略を強化することが重要だ」   (敬称略)
                   ◇
 2度目の住民投票敗北により、都構想という看板政策を失った維新。最終決戦を検証し、今後の展望を探る。




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