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(論)新型出生前診断に関する論説(2020年6月26日・8月20日・9月3日・11月4・24・25日・2021年3月30日・4月2・4・7・9・22日)

出生前診断の新制度 意思決定、慎重に支えよ(2021年4月22日配信『中国新聞』-「社説」)

 妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」について、在り方を検討してきた厚生労働省の専門委員会が先ごろ、報告書案をまとめた。

 医師が妊婦に「検査の情報を積極的に知らせる必要はない」とした旧厚生省専門委の見解を約20年ぶりに改める。正確な情報を提供し、不適切な無認定施設を、妊婦が選ばないようにするのが目的だという。

 国や自治体が検査に関する正確な情報を妊婦に届ける体制を整え、検査を実施する施設の認定審査にも、国が関与する。

 新出生前診断は2013年、「臨床研究」としてスタートした。国はこれまで日本産科婦人科学会(日産婦)など関連学会に指針策定や運用を任せ、腰が引けていた感が否めなかった。

 胎児の異常を調べることは「命の選別」にもつながりかねない。関与するからには、当事者の意思決定を支えなくてはならない。

 日産婦の指針は、妊婦に検査内容について説明し、心理面の支援をする遺伝カウンセリングを必須としている。その指針に基づき、専門医がいてカウンセリング体制が整った大学病院など大規模な施設で実施してきた。原則35歳以上とするなど対象を絞り、調べるのはダウン症の21トリソミーなど3種類の染色体異常に限定している。

 しかし、昨今はこうした指針を無視して参入する美容外科などの無認定の民間クリニックが急増しているという。しかも検査の精度などの実態は不透明だ。インターネット上には疑わしいものも含め、出生前診断に関する情報が飛び交っている。

 十分な説明や支援にたどり着けず、検査を受けるべきかどうかなどに悩み、苦しんでいる妊婦も少なくない。

 現状を踏まえれば、妊婦に知らせないことよりも、正確な情報を提供し、やみくもな拡大に歯止めをかける必要があると国が判断したのだろう。

 国が主導し、カウンセリングなどで妊婦を支える仕組みを目指すのは理解できる。ただ、情報提供や実施施設の認定に国が関わることで、国によって検査が推奨されているのだと受け止められることがあってはならない。慎重な配慮が必要だ。

 日本ダウン症協会も懸念を深めている。情報提供の仕方や内容によって「ダウン症が検査をして産むか産まないか選択する必要がある障害だとの誤った理解を広めかねない」として、丁寧な対応を求めている。そうした懸念を重く受け止め、社会で広く共有する必要がある。

 国は新しい制度の運営委員会をこの夏に発足させる。厚労省のほか日産婦などの関連学会、患者団体などで構成し、実施施設の審査・認証や妊婦たちへの情報発信も担う。十分に議論を尽くしてほしい。

 生殖関連の検査技術は、日進月歩だろう。そうした現実にどう向き合っていくのか。医師の倫理や、医療の在り方も問われていよう。

 本来出生前診断の前提には、健康状態や障害の有無に関係なく、誰もが安心して産み育て、暮らしていける社会環境が欠かせない。

 妊婦たち当事者を支える仕組みをつくることはもちろん、私たち社会の在り方が問われていることを忘れてはならない。



新出生前診断;重い決断に寄り添える仕組みを(2021年4月9日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 おなかにいる赤ちゃんの染色体異常を検査する新出生前診断について、厚生労働省の専門委員会は、国や自治体が妊婦らに検査に関する情報を提供することを容認する報告書案をまとめた。「積極的に知らせる必要はない」とした従来見解を約20年ぶりに改めることになった。

 国が関与し実施施設を認証する制度も創設。正確な情報を提供することによって、十分な体制の整っていない無認定施設で妊婦が検査することを防ぐのが狙いだ。一つの命を産むか産まないかという重い決断にもつながる検査である。妊婦とその家族の意思決定を支え、寄り添える仕組みの構築を求めたい。

 新出生前診断は、妊娠10週以降の早い時期に、妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを調べ、ダウン症などの原因となる3種類の染色体異常を判定する。確定には羊水検査も必要。日本産科婦人科学会が指針をつくり、原則35歳以上とするなど対象者を限り、遺伝カウンセリングを行う病院でのみ実施を認めてきた。2013年の導入以来、8万人以上が検査を受けた。

 しかし近年、出産の高齢化に伴い検査への関心が高まり、学会の指針に従わない無認定の民間クリニックが急拡大した。学会は昨秋、検査を受けた妊婦の半数以上が無認定施設を受診、34歳以下では70%に達したとする調査をまとめた。比較的安価で、性別判定などの検査も受けられることが理由とみられる。

 これらの施設では実施や結果に際し十分な情報提供がなされないケースがあるという。妊婦が混乱したり、説明を受けないまま中絶を決めたりすることはあってはならない。インターネットには真偽不明の情報があふれている。国が主導して正しい情報を知らせ、相談できる環境を整備することは重要だ。

 出生前診断の課題は1990年代の母体血清マーカーにさかのぼる。障害者が否定されるような社会風潮が起こることを懸念し、99年に旧厚生省専門委が「検査を積極的に知らせる必要はない」との見解を示した。今回の転換が、検査を奨励するものと受け取られてはならず、十分な配慮が不可欠だ。日本ダウン症協会は、情報提供の在り方次第で「ダウン症が検査をして産むか産まないか選択する必要がある障害だとの誤った理解を広めかねない」とし、丁寧な対応を求めている。当事者らの声にしっかり耳を傾けたい。

 検査を受けるかどうか、もし異常が見つかった場合どうするか、妊婦や家族は短期間で決めざるを得ず、その苦悩はいかばかりか。現状では多くが中絶を選んでいる。障害のある子どもの子育てを思い描けないのが一因ではないか。もっと暮らしぶりや医療、福祉の支援情報などを提供する必要もあるだろう。

 検査技術の進歩はめざましいが、それを使うのは人である。同時に、障害や病気があっても安心して産み育てられるような社会づくりが欠かせない。





出生前診断 意思決定支える仕組みを(2021年4月7日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 妊娠中に胎児の異常を調べる出生前診断について、厚生労働省は「医師が積極的に知らせる必要はない」とした1999年の見解を約20年ぶりに転換する方針を打ち出した。検査に関する情報を国や自治体が妊婦らに提供する体制を整えるほか、検査実施施設の認証制度を国も関与する形に改める。

 出生前診断には命の選別につながる懸念があることを踏まえ、検査を受けるかどうかなどを判断するには正しい説明や専門的なカウンセリングが欠かせないとの結論に至った。妊婦やその家族の不安にしっかりと寄り添いながら意思決定を支える仕組みを構築してもらいたい。

 現在主流となっている出生前診断は、妊娠10週以降の早い時期に妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを調べ、ダウン症などの原因となる3種類の染色体異常を判定する。一定の頻度で偽陽性や偽陰性が発生するため、確定するには羊水検査が必要となる。

 日本産科婦人科学会が2013年に指針を策定。遺伝カウンセリング体制の整った大学病院などを認定し、原則35歳以上を対象とするなど限定的に実施してきた。

 しかし、出産の高齢化などで検査への関心が高まり、指針に従わずに検査する無認定の民間クリニックが急増。十分な説明や支援を受けられずに妊婦が混乱するといった問題が生じている。

 インターネット上には疑わしいものも含め、出生前診断に関するさまざまな情報があふれている。もはや「知らせない」ことよりも、信頼できる機関が正しい情報を適切に伝えることの方が重要だろう。

 一方で、ダウン症のある人や家族でつくる日本ダウン症協会は「ダウン症が検査をして産むか産まないかを選択する必要のある障害だという、誤った理解を広めかねない」と懸念を示している。検査を推奨するための方針転換ではないことも丁寧に説明するべきだ。

 国は今夏に新制度の運営組織を発足させ、妊婦への情報発信も担わせる。生命倫理や法律、障害者福祉、障害当事者など幅広いメンバーで、適切な情報提供の内容や方法を検討してもらいたい。

 無認定施設の質を高めていくという視点も必要ではないか。全国には3月時点で138の無認定施設があり、認定施設(109)を上回っている。そうした施設を黙認したままでは、適切な相談支援を受けられないケースはなくなるまい。

 認定施設ではこれまで8万人以上が検査を受けたが、陽性が確定した妊婦の多くは人工妊娠中絶を選んだ。産み育てることをためらう理由には、胎児に先天性疾患などが判明した場合に医療や福祉のサポートが得られるかといった不安があるという。

 疾患や障害があっても安心して産み育てる社会であることが、出生前診断の前提となろう。妊婦やその家族だけでなく、社会全体が向き合うべき課題だ。





出生前診断の新制度 自己決定を支える運用に(2021年4月4日配信『毎日新聞』-「社説」)

 妊婦の血液を使って行う胎児の新型出生前診断(NIPT)について、新たな認証制度が導入されることになった。

 これまでとの大きな違いは、国が関与することだ。厚生労働省も参加する運営委員会が新設され、実施施設や検査機関の認証基準の策定と運用に当たる。

 NIPTをめぐっては、2013年に日本産科婦人科学会が指針を作り、認定制度を設けた。しかし、指針を無視して検査を提供する無認定施設が急増した。

 胎児の出生前診断は人工妊娠中絶につながることがあり、社会的・倫理的課題をはらむ。学会の自主規制だけに任せることには限界があり、国が関与する体制ができることは評価したい。

 NIPTは妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを分析し、ダウン症など3種類の染色体異常の有無を推定する検査だ。これだけで正確な判定はできず、確定診断には羊水検査が必要となる。

 運用に当たって重要なのは、カップルの自己決定を支える仕組みをうまく構築することだ。

 まず、正確な情報と適切なカウンセリングが欠かせない。そうしなければ、全員が検査しなくてはならないと思い込んだり、確定診断を経ずに人工妊娠中絶を選んでしまったりする恐れがある。

 検査そのものの説明は当然だが、障害がある子どもとの暮らしについても聞ける工夫をしてほしい。医療や福祉関係の支援体制を知らせることも不可欠だ。

 病気や障害のある人の存在を否定するような優生学的な考えを助長しないよう、細心の注意を払う必要もある。

 厚労省はこれまで出生前診断の情報提供に消極的だったが、今後は運営委がホームページで検査について情報を発信するという。その際にも、国が検査を勧めていると受け取られてはならない。

 生まれる子どもの遺伝情報を事前に調べる技術はNIPTだけではない。胎児の全染色体を対象にした検査や、受精卵の段階で遺伝子を調べる着床前診断なども提供されている。

 今後も生殖関連技術の開発や使用は進むだろう。国は法規制も視野に、包括的なルール作りを検討してほしい。





新出生前診断 当事者を支えられるのか(2021年4月2日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 おなかにいる赤ちゃんの染色体異常を検査する「新出生前診断」について、厚生労働省の専門委員会が報告書案をまとめた。

 国が関与して実施施設を認証する新たな制度を設けるほか、検査に関する情報を国や自治体が妊婦らに提供することを容認するとした。

 妊婦の血液を採取し、そこに含まれる胎児のDNAを調べ、ダウン症などの原因となる異常を出生前に判定する検査である。

 これまでは、日本産科婦人科学会の指針に基づき日本医学会がカウンセリング体制の整った施設を認定し、対象も原則35歳以上とするなど限定的に行ってきた。

 近年、出産の高齢化に伴い検査への関心が高まるなか、無認定で行う民間クリニックが急増。実態は不透明で、結果について十分な説明がなく妊婦が混乱するといった問題が起きていた。

 「命の選別」につながる懸念のある技術であり、野放図な拡大は放置できない。国も関わり、検査に直面した妊婦を支える制度を目指すというのは理解できる。

 一方、新たな制度によって検査が推奨されていると受け取られることがあってはならない。

 胎児の染色体異常を調べる検査には、1990年代から使われた「母体血清マーカー」もある。障害者が否定される社会風潮につながるとの懸念があり、当時の旧厚生省専門委は99年、「検査の情報を積極的に知らせる必要はない」との見解を示している。

 今回の報告書はこの姿勢を約20年ぶりに改めた。ネット上などに曖昧な情報も広がる状況を考えると、知らせないだけでは済まないだろう。行政が正確な情報を出していく必要はある。

 伝え方は慎重に検討しなければならない。専門委では全妊婦に検査を紹介する冊子を配布する方法も提案された。受検への圧力になる可能性があるとして、現時点での採用は見送られた。

 国は新制度の運営組織を夏にも発足させる。実施する施設は増えていく見通しだ。検査を受けるか受けないかを含め、妊婦とその家族の判断を十分に支えていけるかが、大きな課題となる。

 検査を受け胎児に異常が見つかった当事者の判断は、非常に重いものになる。現状は多くの妊婦が中絶を選んでいる。

 厳しい選択を迫る技術が広がる現実とどう向き合っていくか。当事者だけの問題ではない。障害者とともに生きる社会の在り方が問われている。





新出生前診断 国は母体保護法の尊重を(2021年3月30日配信『産経新聞』ー「主張」)

 ダウン症などの染色体異常の有無を胎児の段階で妊婦の血液から調べる「新出生前診断」について、厚生労働省は31日に専門委員会を開き報告書をまとめる。

 専門委員会は、実施施設の認証などに国が関わることでおおむね合意しており、新出生前診断の実施体制に国が関与する方針が示される見通しだ。

 新出生前診断は、「命の選別」に関わる重い倫理的問題をはらんでいる。

 国として新出生前診断に関わるからには、倫理的問題に正面から向き合うことが不可欠である。

 これまでは、日本産科婦人科学会(日産婦)や日本医学会に指針の策定や運用を委ね、国は関与に慎重だった。国が実施体制への関与にかじを切った背景には、無認定施設での新出生前診断が急増、横行している実態がある。

 無認定の拡大は止めなければならないが、国が認定に関与することが「命の選別」の容認、あるいは助長につながることは、絶対にあってはならない。

 現行の母体保護法では、胎児の異常を理由とする中絶は認められていない。

 一方、平成25年に臨床研究として始まった国内の新出生前診断は昨年3月までに約8万7千人が認定施設で受診した。染色体異常が分かった1437例のうち1083例が妊娠を中断。子宮内胎児死亡が245例、妊娠を継続したのは57例と報告されている。

 新出生前診断が「胎児の異常」を理由とする中絶を強く誘導していることは否定できない。

 特定の障害や異常を胎児の段階で調べる出生前診断は、その技術自体が命を選別する意図を持っていると認識すべきである。

 出産の高齢化などで、新出生前診断への関心は高まり、受診希望者は増えるだろう。国は実施体制に関与するとともに、妊婦の適切な意思決定を支援するため情報提供を強化する方針だ。

 国は、母体保護法が胎児の異常を理由とする中絶を認めていないことの意味を、受診希望者だけでなく妊婦やその家族、そして国民に丁寧に説明すべきである。

 新出生前診断に関わることと整合性はつき難いが、尊重すべきは母体保護法である。出生前診断の倫理的問題に向き合うことは、差別や偏見のない社会を築くための大切な一歩となる。





生殖補助医療 子の権利守る議論を急げ(2020年11月25日配信『山陽新聞』-「社説」)

 第三者から卵子や精子の提供を受けた生殖補助医療で生まれた子どもの親子関係を明確化する民法の特例法案が、今国会で成立する見通しとなった。

 女性が自分以外の卵子を使って出産した場合、卵子の提供者でなく出産した女性を母とする。妻が夫の同意を得て、夫以外の精子の提供を受けて妊娠した場合、夫は自分の子であることを否認できない―。こうした内容が法案の柱になっている。

 自民、立憲民主、公明など与野党6党が議員立法で共同提出した。

 現行の民法は生殖補助医療による出産を想定していない。生まれた子どもの法的身分の保障がなく、親子関係の認定を巡って訴訟も起きている。法整備の必要性は約20年前から指摘されており、一歩を踏み出す意義はある。

 ただ、法案は多くの課題を棚上げした。最も問題なのは生まれた子どもが遺伝上の親の情報にアクセスできる「出自を知る権利」が盛り込まれなかったことだろう。

 提供者の情報の管理や開示の在り方については、法案の付則で2年をめどに法的措置を検討するとし、先送りされた。さらに卵子や精子の売買やあっせんに関する規制も同様に今後の検討課題とされた。その2年の間にも生殖補助医療で生まれてくる子どもたちがいる。速やかに議論を始めるべきである。

 国内では、第三者の精子提供による生殖補助医療が1948年から行われ、生まれた子どもは1万人とも1万5千人以上ともいわれる。98年には、提供された卵子を使った出産が国内で行われていたことも明らかになった。

 厚生労働省の専門部会は2003年、一定の条件で第三者による精子や卵子の提供を認め、生まれた子どもが15歳以上になれば提供者の情報を開示請求できる法制度の整備を求める報告書をまとめた。しかし、この時は自民党内に反対意見があり、法制化に至らなかった。

 ルールがないまま実態が先行する形となり、近年は国内での提供者が不足し、不妊に悩む夫婦が海外の精子バンクを利用したり、卵子提供を受けるために渡航したりするケースが増えているという。

 何より重視されるべきは、生まれてくる子どもの権利をどう守るかという視点だろう。海外では、出自を知る権利を認める動きが広がりつつある。日本国内でも生殖補助医療で生まれ、成人した当事者たちが出自を知る権利を求めて声を上げている。

 現状では、提供者の個人情報の管理が徹底されておらず、子どもが開示を求めても拒まれているという。出自をたどれないことでアイデンティティーの喪失に苦しむ人が実際におり、遺伝上の親の病歴を知れないことによる健康上の不利益なども指摘されている。当事者の声を十分に踏まえた議論が求められる。





新出生前診断 国主導で慎重な議論を(2020年11月24日配信『北海道新聞』-「社説」)

 政府は妊婦の血液から胎児の染色体異常を推定する「新出生前診断」の在り方を検討するため、専門委員会を設けて議論を始めた。

 学会が定めた指針に従わずに検査を行う無認定施設の利用が増加し、適切な実施体制の構築が課題になっている。

 日本産科婦人科学会(日産婦)の調査では、新出生前診断を受けた半数以上が無認定施設を受診していた。

 だが、検査結果について十分な情報提供が行われないまま受診者が中絶を決めたケースがあるなど、深刻な実態が指摘されている。

 診断結果は何より胎児の命を左右し、生命倫理にも関わる。

 「産む前の安易な選別につながる」など、優生思想の観点から危惧する声も強い。

 政府は国としての指針策定も見据え、障害者や関係する患者団体など幅広く意見を聴き、慎重に議論を進めてほしい。

 新出生前診断はダウン症など3種類の染色体異常の可能性を調べる。国内では2013年に始まり、日産婦は指針を策定した。

 原則35歳以上など対象者を限定し、遺伝カウンセリングの専門医が常勤する医療機関に限り認定する仕組みである。ただ、学会の指針に強制力はない。

 こうした中で無認定施設では年齢制限を設けず、3種類の染色体異常以外の検査を提供するなど、受診の簡易さが妊婦のニーズに合い、利用が拡大してきた。

 だが異常が疑われても相談を受けられなかったり、確定診断に必要な羊水検査を待てずに人工中絶してしまったりする場合がある。

 説明や相談体制の不備によって的確な情報を得られず、カップルが自己決定してしまう可能性があることを認識したい。

 妊婦が無認定施設に流れる現状を抑えるには、学会の自主規制だけでは限界がある。国がルール作りに積極的に関与すべきだ。

 陽性が確定した場合、妊婦の9割が中絶を選ぶという。命が選別されている懸念は拭えない。

 一方、陽性であっても専門家の助言で心の準備をして出産に臨む人たちもいる。

 まずは医師が事前に遺伝性疾患について正確な情報を提供することが欠かせない。難しい意思決定を支える丁寧なカウンセリングも必要だ。

 専門委は来年2月にも報告書をまとめる方針だ。議論の内容を誰もが検証できるよう、情報公開することが求められる。





新型出生前診断 国は議論で主導的役割を(2020年11月4日配信『毎日新聞』-「社説」)

 妊婦の血液を採取して胎児の染色体の状態を調べる新型出生前診断(NIPT)について、厚生労働省が新たに専門委員会を設置し、議論を始めた。

 NIPTをめぐっては、2013年に日本産科婦人科学会が指針を策定し認定制度を設けた。しかし、指針を無視する無認定施設が急増した。

 関連学会は指針改定による認定施設の拡充を議論してきたが、出生前診断を学会の自主規制だけに任せるのは限界だろう。

 厚労省は国としての指針策定も視野に議論を主導してほしい。

 NIPTは妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを分析し、ダウン症など3種類の染色体異常があるかどうかを推定する検査だ。これだけで正確な判定はできず、確定診断には羊水検査が必要となる。

 学会の認定施設は20年6月現在109施設あるものの、美容クリニックなど無認定施設の検査を利用する人も多い。

 厚労省のワーキンググループが昨年度に実施した調査によると、無認定施設は遺伝カウンセリングを実施していなかったり、不十分だったりするところが多かった。

 結果だけを知らされ、その後の選択に悩む妊婦もいる。確定診断を経ずに人工妊娠中絶を選んでしまう恐れもあるだろう。

 リスクの低い若年の妊婦まで対象にしたり、全染色体を対象とした検査を併せて実施したりしている施設もあった。

 一方、認定施設でも説明や遺伝カウンセリングの質にばらつきがあるという課題が浮かんだ。

 日本産科婦人科学会は昨年6月、指針の実施要件を大幅に緩和する方針を打ち出し、日本人類遺伝学会や小児科学会などから批判された。今年6月、学会指針は再改定され、関連学会の合意も得たが、もっと幅広い声を取り入れるべきだとの指摘もある。

 国の専門委員会は、障害者本人や家族、カウンセラーなどからも意見を聞いて、議論を進めてほしい。診断の精度管理や遺伝カウンセリングの義務付けに加え、障害を持つ子どもの子育てや社会的支援などについて、十分な情報を提供する体制も欠かせない。

 それが本当の意味でのカップルの自己決定を支えるはずだ。





新出生前診断 懸念拭えない無認定施設(2020年9月3日配信『山陽新聞』-「社説」)

 妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」を学会の認定を受けずに実施する施設が増えている。

 認定施設でつくるグループ「NIPTコンソーシアム」の調査では、無認定施設は7月上旬時点で少なくとも全国に135あった。岡山大、広島大病院や四国こどもとおとなの医療センター(善通寺市)など109ある認定施設の数を上回っているという。

 背景には、高齢での出産に不安を抱える妊婦が増えていることがあるとみられる。生まれてくる子どものことを知りたい気持ちは理解できる。

 とはいえ、十分な説明を欠いたまま検査を受けて、結果に困惑した妊婦が学会の認定施設に駆け込むケースが相次いでいるという。不適切な形での中絶につながる懸念も拭えない。

 新出生前診断は妊娠10週以降の早い時期に、妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを調べて、ダウン症などの原因となる3種類の染色体異常をみる検査である。陽性判定の確定には、さらに羊水検査が必要になる。

 日本では2013年に臨床研究として始まり、19年に一般診療に移行した。「安易な命の選別につながる」との指摘もあるため、日本産科婦人科学会(日産婦)は指針で、診断を受けられる女性を基本的に35歳以上に限定し、カウンセリング体制が整った大学病院などの認定施設でのみ認めてきた。

 これに対し、無認定施設は16年ごろから現れ始めた。東京や大阪などの都市部に多く、今回確認された135施設のうち、78施設は診療科が不明で、55施設は内科や形成外科、美容外科など産婦人科以外だった。このため、日産婦の指針で規制するのは難しいのが実情だ。

 カウンセリングが行われないケースが多いとされる上、検査の精度などもよく分かっていない。説明が不十分で妊婦が戸惑うトラブルが問題となっていることは看過できない。国は学会任せにせず、抜本的な対策を検討するべきである。

 認定施設だけでも、これまでに7万人以上が検査を受けている。こうしたニーズの高さを踏まえ、日産婦は6月、要件を緩和し、小規模施設でも検査を実施できるようにする新指針を発表した。実際に運用するかどうかは厚生労働省の最終判断を待つとしているものの、開業医を含めて全国で70カ所ほど認定施設が増える可能性があるとされる。

 厚労省は今秋にも新出生前診断の在り方に関する新たな検討会を設置し議論を進める見通しという。作業を急いでもらいたい。

 議論には、医療者だけでなく、子どもを持とうとする女性や、障害のある子の育児経験がある人、診断を受けて妊娠を継続しなかった人といった当事者の意見を反映させるよう求める声もある。その工夫、努力も必要だ。





着床前診断 検証を慎重に積み重ねて(2020年8月20日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 倫理面で大きな問題をはらみ、有効性も証明されていない。不妊治療の現場で安易に広がらぬよう慎重に進めていくべきだ。

 体外受精した受精卵の着床前診断である。日本産科婦人科学会が、流産予防や出産率向上の効果を検証する臨床研究を、全国78施設の参加で始めた。

 分裂した受精卵の細胞を取り出し、染色体の数の異常を調べる。流産の原因の6〜7割は染色体異常と考えられ、異常のない受精卵を子宮に戻すことで、流産の予防につながるとの期待がある。

 同学会が4施設で約170人に実施した先行研究では、受精卵を移植できた人に限れば出産率が改善した。全体では出産率を上げたり流産率を下げたりする効果は確認できなかったという。

 米国の生殖医学会は「全ての不妊患者に日常診療として提供するには根拠が不十分」との声明を公表している。

 臨床研究では3500例以上のデータ集計を目指している。日本産科婦人科学会は「患者数を増やせば期待する効果が得られるかもしれない」と説明する。

 「期待する効果」を得ることのみが目的の研究であってはならない。症例や分析を公開し、不妊治療として妥当なのか、広い議論につなげていく必要がある。

 着床前診断自体が抱える倫理面の問題も避けて通れない。

 ダウン症などの染色体異常も分かり、男女の産み分けも可能にする技術だ。「命の選別につながる」との懸念が強い。

 受精卵が異常と判定されれば廃棄される可能性が高い。障害がある命は生まない方がいいとの価値観が広がり、障害者差別にもつながりかねない。

 年齢が上がるほど割合が高くなる、正常と異常の細胞が混在する受精卵をどう扱うか。細胞を採取する際に受精卵が傷つくと、妊娠や子どもの成長に悪影響を与えないか。技術の進歩とともに見えてきた課題も多い。

 多額の費用や妊娠に至らなかった場合の精神的なダメージも考えねばならない。こうした問題を患者が十分理解して診断に臨めるようにすることが大切だ。

 着床前診断について、同学会は、重い遺伝性の病気と特定の原因で流産を繰り返す場合に限り認めてきた。今回の臨床研究と併せて、対象となる病気や審査のあり方を見直す議論も進めている。

 出産年齢の上昇とともに望む人は増えよう。だからといって学会内で結論を急いではならない。





出生前診断 「命の選別」に議論尽くせ(2020年6月26日配信『産経新聞』-「主張」)

 ダウン症などの染色体異常の有無を、胎児の段階で妊婦の血液から調べる「新出生前診断」について、日本産科婦人科学会(日産婦)は、小規模な医療機関、診療所でも受診できるよう指針を改定したと発表した。

 実際に運用するかどうかは、厚生労働省の判断を待つとしている。

 日産婦は昨年、実施施設の要件を大幅に緩和する方針を打ち出したが、複数の学会が安易な拡大に反対していた。今回の指針改定では小児科医との連携を強める要件を盛り込むことで、日本小児科学会と日本人類遺伝学会の合意を得たという。

 一方で厚労省は新出生前診断に関する検討会を設置し、議論を始めている。その議論が熟するのを待たずに、日産婦は指針改定を発表した。検討会やそこで期待される幅広い議論を軽んじる姿勢であると言わざるをえない。

 出生前診断は「命の選別」にかかわる重い問題をはらむ。これまでより簡便でリスクが小さい新たな検査技術が登場したことで、倫理的な問題点を積み残したまま急激に普及が進もうとしている。

 国内で新出生前診断は平成25年に臨床研究として始まった。昨年3月までに約7万2500人が認可施設で検査を受けた。このうち染色体異常が分かったのは約1150例で、約900例が妊娠中断(中絶)を選択した。子宮内胎児死亡が約200例、妊娠を継続したのは50例ほどである。

 当事者の決断は尊重すべきであるが、出生前診断が現行の母体保護法では認められていない「胎児の異常を理由とする中絶」を強く誘導していることは、否定できない。特定の障害の有無を胎児の段階で判定する出生前診断は、その技術自体が命を選別する意図を持っている。

 日産婦が実施施設の拡大を目指す背景には、無認可施設の横行がある。もちろん、妊婦への十分な説明、サポートが行われない無認可診断の拡大は止めなければならない。だが、そのために認可施設を増やすことは、なし崩し的に出生前診断と、それに伴う「命の選別」を容認することになる。

 障害のある子を産み、育てることには、さまざまな困難と大きな不安が伴う。その困難や不安を含めて「共に生きる」社会を築くためにも、出生前診断について議論を尽くすことが大事だ。



【新出生前診断】妊婦支える体制づくりを(2020年6月26日配信『高知新聞』-「社説」)

 医療技術の進歩は、生命倫理のさまざまな問題をはらんでいる。

 「新出生前診断」もその一つだろう。妊婦の血液から、おなかにいる赤ちゃんの3種類の染色体異常(ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミー)を調べることができる。

 今のところ、カウンセリング体制などが整った大学病院などの大規模な認定施設でしか行えない。日本産科婦人科学会(日産婦)は実施の指針を改定し、凍結していた認定施設の「拡大」に再び動きだした。

 この検査では、「陽性」の診断が確定した妊婦の約8割が人工妊娠中絶を選んでおり、「命の選別につながりかねない」と指摘されてきた。

 短絡的に「陽性=中絶」が行われないように、認定施設の「拡大」も慎重に検討されなければならない。

 妊婦に十分な情報提供を行い、検査の前後を継続的にサポートするような体制をつくる必要がある。

 何よりも重要なのは、おなかの赤ちゃんに病気や障害があると分かっても、安心して産んで育てられる社会をつくることだ。子どもと家族を支える施策を充実させ、多様な人々が共生する社会を目指したい。

 新出生前診断は2013年に始まった。日産婦の指針に基づき、原則35歳以上の妊婦が検査を受けられる。高齢出産になるほど、胎児の染色体異常のリスクが高まるためだ。

 認定施設は全国で109カ所で、高知県では高知大学医学部付属病院に限られる。高齢出産の増加で検査のニーズは高いが、認定施設は少なく時間もかかっている。

 そこに営利目的で、認定外のクリニックが参入している。ルールを守らず、検査の「陽性」判定を伝えるだけで相談に応じないなど、妊婦が苦しむトラブルが多発している。

 日産婦は事態を打開するため、認定施設の要件緩和に動いたことがある。しかし、日本小児科学会や日本人類遺伝学会が「不十分な体制の下に安易に行われるべきではない」と慎重な対応を求めた。19年6月にいったん「拡大」は凍結された。

 今回、日産婦が妊婦の支援体制を整え、小児科医との連携も強める内容を盛り込んだことで、両学会の合意が得られた。実際に「拡大」するかどうかは、厚生労働省の検討部会の判断を待つとしている。

 この検査で「陽性」となれば、妊婦は命を巡る重い選択に直面する。激しい葛藤に襲われるだろう。

 検査を決める前に、染色体異常で起こる疾患や、それがある子どもの育児について、よく知っておく必要がある。さまざまな条件を十分に考えた上での「産む」「産まない」の決断は尊重されるべきだ。

 新出生前診断の制度には、当事者の意見も反映させたい。この検査の診断を受けて妊娠を継続した人としなかった人、障害のある子どもを育てた人、高齢出産の不安をよく知る人ら幅広いだろう。

 「拡大」を最終判断する厚労省の検討部会は、その意見を取り入れながら議論を尽くさねばならない。









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