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(論)生殖補助医療に関する論説(2020年11月18・2712月10・12・13・14日)

高齢者医療の負担改革に終止符を打つな(2020年12月14日配信『日本経済新聞』-「社説」)

75歳以上の後期高齢者が医療サービスの対価として払う窓口負担は、原則1割が維持される。菅義偉首相が公明党の山口那津男代表との与党党首会談で決め、自らが議長を務める全世代型社会保障検討会議の最終報告に盛り込んだ。

菅首相は「若い世代の負担上昇を抑えることは待ったなしの課題だ」と述べた(14日、首相官邸)
高齢者医療費の一部に充てている若い世代の健康保険料を過重にしないために、後期高齢者の窓口負担は原則2割にするよう私たちは繰り返し訴えてきた。菅政権はこれで議論に終止符を打つのではなく、2割の対象者を広げる負担改革を続けるべきである。

後期高齢者の窓口負担は現在、現役世代並みの所得があるとみなした人を除いて原則1割。全体の93%を占める1割対象者のどの程度を2割にするかが焦点だった。

首相は単身世帯で年金収入170万円以上の31%を、公明党は240万円以上の13%を唱え、党首会談では間をとって200万円以上の23%で政治決着した。半歩前進と言えなくもないが、後期高齢者の70%は1割負担が続く。

実施時期は国政選挙への悪影響を気にする公明党の意をくみ、2022年秋以降としたが、前倒しすべきである。負担引き上げの必要性に理解を示す高齢有権者は増えつつある。選挙目当ての政策立案は的外れと言わざるを得ない。

高齢世代内の収入・資産格差は概して大きい。年金は少ないが預貯金などが豊かな世帯はある。本来、窓口負担は収入・資産の多寡に応じて決めるのが理にかなう。

収入・資産状況を把握するためのインフラとしてマイナンバーを生かすべきだ。社会保障と税制に関する負担の公正さを高めるためにも、政権はマイナンバー制度の原点に立ち戻ってほしい。

最終報告のもう一つの柱は子育て支援だ。児童手当について政府・与党の調整を受けて、子供1人5千円の特例給付を世帯主の年収が1200万円以上の家庭はなくす方針を明記した。

これによって浮く年370億円の財源を待機児童対策に充てる。「現金給付からサービス給付へ」や応能原則という、あるべき姿を考えれば高所得世帯に我慢してもらうのは致し方ない。

出生数は今後、コロナ禍もあって激減するだろう。父親が育児休業を取りやすくする環境を整えるとともに、保育所や幼稚園だけでなくベビーシッター事業も生かして子育ての負担をやわらげる。対策総動員のときである。





生殖補助医療法の成立 大事な議論が置き去りだ(2020年12月13日配信『毎日新聞』-「社説」)

 第三者から精子や卵子の提供を受け、体外受精などの生殖補助医療で生まれた子について、親子関係を定める法律が成立した。

 誕生直後に親子関係を確定させるものだ。卵子の提供を受けた場合は、出産した女性が母親となる。精子提供に同意した夫は、生まれた子の父親となる。

 しかし、人為的な妊娠をどこまで認めるかには、さまざまな意見がある。国会の審議時間も短く、生殖補助医療のあり方や、どのような法規制をするかなどの大事な議論は先送りされた。

 これまで日本には、生殖補助医療に関する法律がなかった。家族について規定している民法も、こうした出産を想定していない。トラブルが起きて、裁判になるケースもあった。

 精子提供による不妊治療は1948年から行われ、1万人以上が誕生したとされる。現実に医療が進んでいく一方で、対応は学会任せになっていた。

 厚生労働省と法務省の審議会は2003年、法整備の考え方を示したが、実現には至らなかった。

 菅義偉首相が少子化対策として不妊治療への保険適用を打ち出したことに後押しされ、議員提案で立法化された。

 これで精子や卵子の提供が法的に認められた形となった。だが、提供のルールを設けなければ、利益を優先する業者の関与や不透明な取引を招きかねない。

 特に重要なのは、子どもの「出自を知る権利」だ。欧州では人権として認められ、そのための法整備がなされている。日本でも過去に検討されたが、今回は「権利の定義が定まっていない」との理由で盛り込まれなかった。

 当事者からは、「告知が遅れれば、親への不信感や自己喪失感が生じる」との声も上がっている。

 権利を保障するためには、希望する子がアクセスできるように、提供者の情報を管理しておく仕組みが必要になる。親による告知のあり方も検討すべきだ。

 代理出産の扱いも残された問題だ。学会が禁じる半面、海外で契約するカップルも少なくない。

 法律の付則には、2年をめどに課題を検討すると記された。多様な生き方を尊重しつつ、社会全体で議論を深めなければならない。





生殖補助医療法 一歩前進だが課題残る(2020年12月12日配信『中国新聞』-「社説」)

 第三者から卵子や精子の提供を受ける生殖補助医療で生まれた子の親子関係を明確にする民法の特例法が成立した。

 第三者の卵子で出産すれば産んだ女性を母親とし、第三者の精子を利用して妊娠した場合は、治療に同意した夫が父親になると定めた。

 現行の民法は、人工授精や体外受精など第三者が関わる生殖補助医療による出産を想定していない。過去には、提供精子で生まれた子どもの親子関係を争う訴訟も起きた。

 誰に育てる義務があるのかがはっきりしないと、子どもに不利益が生じる恐れがある。生まれた子の法的な立場を安定させるために一定のルールができたことは一歩前進と評価したい。

 ただ人工授精や体外受精で生まれた子どもが遺伝上の親を知る「出自を知る権利」や、生殖補助医療の規制の在り方などについては結論を後回しにした。多くの課題が残されたままだ。

 特例法の付則には、2年をめどに課題を検討し、必要な法的措置を講じると明記された。国会などで幅広い議論を十分に行い、安心して生殖補助医療を利用できる環境整備を急ぐ必要がある。

 国内では1948年から、不妊に悩む夫婦らに匿名を原則とする第三者の精子を用いた治療が行われ、これまでに1万人以上が生まれたとされる。一部の病院では提供された卵子による治療も行われている。

 これまでに法整備の動きがなかったわけではない。旧厚生省の専門部会などで2000年ごろから議論が始まり、一定の条件で精子や卵子の提供を認め、子どもの出自を知る権利を認める報告書も出されていた。

 ただ国会での議論は深まらず、法制化には至らなかった。出自を知る権利を巡り、精子や卵子の提供者情報をどこまで開示するか。開示の方法や時期などについて多くの論点が解決されないまま先送りされてきた。

 一方で、提供された精子で生まれた当事者たちが成長してから事実を知り、精神的に不安定になったと訴え、提供者の情報開示を求めて声を上げている。

 出自を知りたいと願うのは自然なことだ。海外では提供者の情報を記録し、子が望めばアクセスできる制度を設けた国もある。何より生まれてくる子どもの権利を第一に考えなければならない。当事者の声を十分踏まえ、情報開示の在り方について議論を深めるべきだ。

 卵子や精子の売買の問題にどう対応するかも大きな論点になる。提供者の人種や学歴を選べる民間の精子バンクの利用も広がっている。医療技術の進歩に法整備が追いつかないまま既成事実が積み上げられている危うさがある。

 商業的なあっせんなどを認めれば、優生思想につながりかねないとの懸念も強い。一定の規制は必要だろう。

 第三者に産んでもらう「代理出産」をどうするかという課題も積み残された。生みの親と育ての親に、卵子や精子の提供者が加わる場合もある。家族の枠組みを見直す必要も出てくる。慎重な議論が欠かせない。

 一人一人の人権や生き方に加え、倫理や宗教といった価値観の問題にも関わるテーマだ。幅広い専門家が参加する議論の場を設ける必要がある。





生殖補助医療法 重い課題が残っている(2020年12月10日配信『北海道新聞』-「社説」)

 第三者から卵子や精子の提供を受ける生殖補助医療で生まれた子に関し、親子関係を明確にする民法の特例法が成立した。

 卵子提供では出産した女性を母親とし、精子提供では同意した夫を父親とする。法整備が20年来必要と言われた問題に一つのルールができたことは一歩前進だ。

 しかし国会での審議は不十分で、医療技術の規制などに関する結論は後回しにされた。多くの重い課題が残されている。

 国会は、幅広い議論を十分に行い、生殖補助医療の環境整備を急ぎ図らねばならない。

 国内では、1948年から不妊に悩む夫婦に匿名を原則とする提供精子による治療が行われ、これまでに1万人以上が生まれたとされる。卵子提供も行われてきた。

 ただ、これまでの民法は生殖補助医療を想定せず、過去には精子提供で誕生した子の親子関係を争う訴訟も起きた。

 2000年ごろから、旧厚生省の委員会や法務省の部会などで法整備の必要性が指摘されてきた。

 今回与野党の共同提出でできた特例法には、生まれた子の法的立場を安定させる意義はある。

 ただ、生殖補助医療をどこまで認めるかや子の出自を知る権利の扱いは、十分な議論がないまま2年後をめどに検討するとされた。

 これでは懸案を棚上げしたにすぎない。

 先送りされた課題の一つが、夫婦の受精卵を第三者に産んでもらう代理出産の是非だ。

 日本産科婦人科学会は禁じるが、海外での実施例はある。米国では代理母が子の引き渡しを拒否するトラブルが起きている。

 卵子や精子の売買にどう対応するかも論点だ。民間の卵子・精子バンクが増えているが、商業ベースが過ぎれば優生思想につながりかねないとの懸念は強い。

 技術の進歩に法整備が追いつかないまま、既成事実化が進んでいると言える。危うさを感じる。

 どんな技術を、誰に、どういう条件で認めるのか。生命倫理にも関わる根源的な問いに、与野党は臆せず向き合わねばならない。

 倫理や宗教など価値観の問題を含むだけに、議論には幅広い専門家の参加が必要だろう。

 子が出自を知りたいと願うのは自然な感情だ。一方で、将来的な情報開示の可能性を示したとたん、精子提供者が確保しにくくなったケースもある。

 議論を深め、生まれる子の福祉と医療の両立を目指してほしい。





生殖医療法案 積み残しの課題 さらなる議論を(2020年11月27日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 第三者から卵子や精子の提供を受けた生殖補助医療で生まれた子どもの親子関係を明確にする民法の特例法案が参院で可決された。衆院に送付され、今国会で成立する見通しだ。

 生殖補助医療で生まれた子どもは法的な身分の保障がなく、法整備の必要性が長年指摘されてきた。法案はその第一歩ではある。一方、子どもの「出自を知る権利」や、卵子や精子の売買、あっせんの規制など重要な課題が先送りされたのは見過ごせない。子どもの福祉と権利を第一に、積み残された課題の議論を進める必要がある。

 法案は与野党が議員立法で参院に共同提出。女性が自分以外の卵子を使って出産した場合、卵子の提供者ではなく、出産した女性を母とする。妻が夫の同意を得て夫以外の男性から精子の提供を受けて妊娠した場合、夫は自分の子であることを否定できないとした。

 国内では第三者の精子を使った人工授精で1万人以上が生まれたとされる。子の親を決める民法の規定は明治時代の条文を引き継いでおり、第三者が絡む生殖補助医療による出産を想定していない。子どもの法的身分があいまいで、親子関係の認定を巡って裁判になるケースもある。そうした混乱を防ぐためにも、法律で親子関係を明確にすることは意義があろう。

 ただ、法案は多くの重要課題を「2年をめどに法的な措置を検討する」と棚上げした。中でも、子どもが遺伝上の親の情報を得る「出自を知る権利」の規定がないことは、当事者らから批判が強い。成人して事実を知った場合、アイデンティティー喪失などに苦しむことがあるという。遺伝上の親を知りたい気持ちは切実だ。海外では権利を認める動きが広がる。当事者の声も聞き、情報開示の仕組みを議論しなければならない。

 生殖補助医療の適正な実施に向け、卵子や精子の売買、あっせんに関する規制も不可欠だ。卵子提供は国内で実施できる医療機関はほとんどない。精子提供は近年あっせん業者を介して海外に治療を求める人が増加。インターネットを使った個人間での精子提供も目立ち、トラブルが起きている。

 日本産科婦人科学会は、会告で精子の営利目的提供への関与を禁じている。厚生労働省の専門部会は2003年、第三者が介在する生殖補助医療の実施基準を定めた報告書を策定。一定条件を満たせば卵子や精子の提供を容認する一方、営利目的の授受などは罰則を伴う法律で規制すべきだとした。だが、自民党内の反対もあり規制は進まなかった。商業化や技術の進歩に法的ルールが追いついていない状況を放置してはならない。

 日弁連は法案の不十分な点を補うよう求め、生殖医療に関する包括的な法整備の検討を訴えている。当事者や専門家の意見を重く受け止め、衆院では審議を十分に尽くし、課題の解決に取り組むべきだ。





生殖医療法案 課題置き去りにできない(2020年11月18日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 第三者の卵子や精子を使う生殖補助医療で生まれた子どもの親子関係を法にどう位置づけるか。長く据え置かれた問題がようやく動き出した。

 与野党6党が民法の特例法案として参院に提出した。子どもの福祉を重視して議論を尽くし、国民的な合意につなげたい。

 国内では1948年に第三者の精子による人工授精が始まり、1万人以上が生まれたとされる。卵子の提供も2007年から20年9月までに6施設で83件行われたとの報告がある。海外に治療を求める事例も増えている。

 民法はこうした出産を想定していない。厚生労働省や法務省は03年に報告書や中間試案を公表し立法化を目指したが、与党内に慎重論が強く中断。法的な親子関係は曖昧なままになっている。

 法案は、卵子提供では産んだ女性が母、精子提供では夫が父としている。第三者が絡む生殖補助医療を法的に認めることにつながり、不妊に悩む夫婦には選択肢として考える余地が広がる。

 一方で、卵子や精子の売買やあっせんの規制、代理出産の是非といった課題は先送りした。

 無秩序に医療が広がる懸念があり、卵子や精子の提供を巡るトラブルが多発しかねない。

 生まれた子どもが遺伝上の親の情報を得る「出自を知る権利」も明示されていない。

 子どもの権利条約は「子どもはできる限り父母を知る権利を有する」と定める。厚労省は03年の報告書で、15歳以上になった子が希望すれば提供者の情報を開示請求できる法制度の整備を求めた。

 成人して第三者の卵子や精子の提供で生まれた事実を知り、出自がたどれず自己喪失に苦しむ人は少なくない。権利を保障する仕組みを考える必要がある。

 そのためには、提供者の情報の管理や開示が欠かせない。どんな機関がどう管理、運用するか。子どもや親を精神面で支える態勢も含めて、詰める課題は多い。

 近年は、独身女性や性的マイノリティーのカップルが子どもを望み、第三者の協力で出産する動きも広がる。こうした事例を想定した制度設計も要る。

 さまざまな課題について、法案は2年をめどに法的措置を検討すると記すにとどめている。置き去りにならないか心配だ。

 生殖補助医療への国民の理解は深まっているとは言えない。法的に曖昧な子どもがこれ以上放置されないよう、広い議論にしていかねばならない。



[生殖補助医療法案]子の権利 慎重に議論を(2020年11月18日配信『沖縄タイムス』-「社説」)
 
生まれた子どもの権利と福祉を最優先に議論を深めるべきだ。

 第三者が関わる生殖補助医療で生まれた子どもの親子関係を明確にするため、民法の特例法案が参院に提出された。

 法案は、第三者からの卵子提供で子どもが生まれた場合、出産した女性を母とする。妻が夫の同意を得て、夫以外の男性の精子による不妊治療で妊娠した場合、提供者ではなく夫を父とする、というのが柱だ。

 自民や立憲民主、公明など与野党6党が議員立法で提出し今国会での成立を目指す。

 現行の民法は、第三者が関わる生殖補助医療による出産が想定されていない。生まれた子どもの法的身分の保障がなく、親子関係の認定を巡り訴訟に発展した事例もある。

 法が整えば、こうした混乱を避けられる可能性が高い。子どもが欲しいと強く望みながら不妊に悩む夫婦にとっては朗報だろう。

 ただ、法案には幾つも課題がある。最も大きいのは、生まれた子が提供者の情報を得る「出自を知る権利」が認められていないことだ。

 提供者の情報の管理や開示の在り方は、2年をめどに法的措置を検討するとして先送りされた。さらに卵子や精子の売買、あっせんに関する規制、代理出産の是非なども今後の検討課題とした。

 生殖補助医療の事実が先行する中、法整備の必要性は20年来指摘されている。法案提出は「一歩前進」と評価の声があるのも事実だが、社会的な合意形成は十分ではない。

■    ■

 第三者の精子を用いた生殖補助医療は、国内では1948年に始まり、これまでに1万人以上が生まれたという。

 提供された精子で生まれた当事者たちは、成長した後に事実を知り精神的に不安定になったと訴え、遺伝上の父に当たる提供者の情報が明かされないことを問題視している。

 子が遺伝上の親を知りたいと思うのは当然の感情だ。自身のアイデンティティーに関わるだけでなく、不明のままなら遺伝性疾患の危険を知らずにいる恐れがある。「出自を知る権利」の問題を置き去りにしてはならない。

 日弁連も法案について「子どもの人権保障の観点などが欠けている」とする会長声明を出した。出生した子の意見も聴取し、包括的な法整備を検討するよう訴えている。

 もっともな指摘だ。課題を先送りせず国民的な議論につなげてほしい。

■    ■

 厚生労働省の部会が2003年にまとめた報告書は、15歳以上になった子が希望すれば提供者の情報を開示請求できる法制度の整備を求める内容だった。一定条件で卵子・精子提供を容認することも盛り込まれた。

 当時は反対意見があり実を結ばなかったが、子どもの権利の保障は世界的な流れだ。

 菅政権は不妊治療への保険適用拡大を目指しており、生殖補助医療への関心が高まっている。不妊に悩むカップルへの支援は重要だが、生まれた子どもがどう育つかにも留意すべきだ。




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