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週のはじめに考える まちの図書館が消える(2020年11月22日配信『東京新聞』-「社説」)

 久しぶりに顔を出そうとしたバーや居酒屋が閉店していた。あのマスターやおかみはどうしているのだろう。こんなことならもっと早く足を運べばよかった−。新型コロナウイルスがまん延する今年、こんな経験をした人も多いのでは。風景や建物、人も同じでしょう。失って初めて、そこにあることの大切さに気づく。人生においてしばしば経験することです。

◆全国屈指の貸出数に

 中部国際空港が立地する愛知県常滑市から図書館がなくなろうとしています。日本図書館協会によると、全国には3300強の公共図書館がありますが、図書館法の定める図書館がない市区は8市のみ。公共図書館が消滅した例は財政破綻した北海道夕張市ぐらいと言います。

 伊勢湾に臨む人口5万人の市に図書館ができたのは1970年のことです。市が主に主催する競艇場からの収入を見込み、近隣市町に先駆けました。館長が主導し、貸出数は右肩上がりに増えました。79年には33万冊余に達し並み居る大都市をしのいで全国四位を記録します。視察が相次ぐ大成功した図書館だったのです。

 貸出数は2011年に40万冊強でピークに達して以降、ここ数年は減少傾向ですが、なお30万冊近くに上ります。ただ建物の老朽化は避けられず、21年9月に閉館して解体、蔵書の一部は分館に収め、残りは処分することになりました。地震が来たら耐えられないというのです。市は市庁舎の移転に合わせ、図書館や文化会館、公民館を一体化させた複合施設を建設する計画でした。しかし一部の反対や財源不足で、庁舎だけ先行して完成させると言います。

 伊藤辰矢市長は「図書館はほしいが、ない袖は振れぬ」と説明します。市庁舎に続き、給食センターや小中学校の建て替えや大規模改修を優先するといい、新図書館建設のめどは立っていません。 

◆時代と共に役割変化

 日本図書館協会は1979年にこう宣言しています。「すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することに責任を負う機関」こそ図書館だと。阪田蓉子副理事長は教育を受ける権利や学問の自由、生存権、表現の自由と知る権利などを保障する機関だと補足します。

 図書館を取り巻く状況は変化しています。2003年に指定管理者制度が導入され、佐賀県武雄市などで民間が運営する図書館が話題となりました。昨年には首長部局が図書館を所管できるようになり、サービスや利便性が重視され、生涯教育や地方活性化の拠点としても期待されています。

 三連休を前に常滑市立図書館を訪ねました。一階に子ども向け、2階に大人向けの本と「谷川文庫」がありました。詩人・谷川俊太郎さんの父としても知られる市出身の哲学者、谷川徹三さんを記念した文庫です。生前、本人から寄贈された1万冊強の蔵書が哲学から芸術、文学など幅広く並びます。何冊かを手に取り、鉛筆の跡を見つけました。本人によるものでしょう、所々にまっすぐな線が丁寧に引かれていました。時の流れを超えて偉大な先人を身近に感じられたひとときでした。この文庫も倉庫に眠り、市民が気軽には手に取れなくなります。

 「公共図書館が消滅する日」と題する1冊を5月に出版した金城学院大の薬師院はるみ教授(図書館情報学)は、「その日」が早くも現実に訪れたことに驚いています。図書館は法的に設置が義務づけられているわけではありません。薬師院教授は、法整備を進めなかった経緯や、図書館に経済効率の考えなどを持ち込むことを批判し、今後、図書館の消滅が続出する可能性を指摘しています。

 常滑市は、かつては潤沢だった競艇収入に頼って次々と造ったハコモノが改修期を迎え、空港開港に向けて道路や土地区画整理に大金を投じたつけもあり、財政が逼迫(ひっぱく)しています。それは、コロナ収束も見通せず、人口減時代に厳しい財政運営が待ち受ける地方自治体の「あしたの姿」なのです。 

◆そこにあるべき存在


 常滑市立図書館の開館10年を記念した冊子に、小学六年の女児が「たのしい市立図書館」と題して寄稿しています。抜粋します。
 「私は物語の本を読むのが好きです。1階は切り絵などがはってあります。2階は中学生や高校生の人たちが勉強をしています。調べることがあると2階で調べます。いろいろためになる本がたくさんありました。もっと図書館の本を利用して、わからないことを一つでもへらそうと思います」

 時代が変わっても、ふと「知」に触れようと思い立った時、すぐ足を運べる。そんな存在を消えるままにしていいとは思いません。




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