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(論)マイナンバーカードに関する論説(2020年5月30日・6月3・4・6・9・11・12・13・14・22日・7月4・6・8日・8月2・31日・9月2・7日・10月6・28日・11月23日・12月28日・2021年1月21日・3月3・26日)

やる気あるのかマイナ保険証(2021年3月26日配信『日本経済新聞』ー「社説」)

 厚生労働省の行政デジタル化はでたらめの度が過ぎないか。

 マイナンバーカードに健康保険証データを載せ、医療機関での患者の本人確認をデジタル化する取り組みについて田村憲久厚労相が開始を10月に延ばすと表明した。医療データのデジタル化は政権肝煎りの政策である。本気でやる気があるのか、ただしたい。

 同省は今月初めに54の病院・薬局で試行を始め、安倍政権の閣議決定に従って月末に正式運用する段取りだった。だが不具合を理由に、土壇場になって延期した。

 腑(ふ)に落ちないのは、企業の健保組合などが管理する加入者データが不正確だったという釈明だ。しかしカードリーダーそのものが作動しなかった病院があるという。健保組合に責任転嫁するような姿勢は容認しがたい。

 マイナンバー制度を担当する平井卓也デジタル相が「半年の遅れを有効に使うのが重要」などと、記者会見で人ごとのように話したのも理解しがたい。釈明をうのみにするなら担当相は務まるまい。

 新しいシステムの開始時に不具合が起きるのはやむを得ない。田村氏は非を認め、システム全体を早急に総点検すべきである。

 保険証のマイナカード化は本人確認の正確さや迅速さを高め、医療機関や調剤薬局でのなりすましを防ぐ決め手になる。カルテや処方箋、健診結果を本人や医師がデジタルデータとして一覧できるようにする入り口にもなる。

 誤診リスクを最小化するばかりか、大災害時に既往症や常用薬を正しく把握するのに有用だ。私たちはマイナンバーの制度設計時から繰り返し実現を求めてきた。ただし医療データは個人情報のなかでも特に機微に触れる。漏洩を許さぬ堅固なシステムが前提だ。

 保険証カード化は菅義偉首相が官房長官時代に、消極的な厚労省の尻をたたいて着手させた。コロナ接触確認アプリの失態をはじめ行政デジタル化には暗雲が漂ってきた。緩んだタガを、政権を挙げて締め直すときだ。





「安全安心で利便性の高いデジタル…(2021年3月3日配信『新聞』-「越山若水」)

 「安全安心で利便性の高いデジタル社会のパスポート」「最高位の身分証」。マイナンバーカードのことだ。普及促進に向けて、旗振り役のデジタル改革担当相のボルテージは高い

▼というのも、社会のデジタル化推進は菅政権の目玉政策。カードはその社会基盤を担う存在というわけで平井卓也担当相も力が入る。今月下旬からは健康保険証代わりに利用もできる。普及の起爆剤としての期待が集まる

▼厚生労働省は試験運用で課題を見つけ、本格運用に備えるらしい。参加する医療機関には顔認証付きのカード読み取り機が設置され、受け付けは円滑になる。だが利便性を高めるにはカード対応の医療機関の拡充も急務だ

▼肝心の交付枚数。2020年は前年の4倍近くに急伸した。公民館でも対応した福井市も4倍強だったという。これには、1人10万円の特別定額給付金の申請手続き、カードを持つ人に最大5千円分のポイントを還元するマイナポイント事業が貢献した。それでも、直近の普及率では25%台止まり。22年度末までに、ほぼ100%という政府目標は厳しい

▼26年までに運転免許証と一体化を図り、一段と機能性を高めるとか。ただ、多くのカードを持ち歩くことや個人情報の漏えいへの懸念をぬぐえない向きも多いようだ。国にはここは一番、機能充実の意義や安全性について懇切丁寧な説明を願いたい。





マイナカード/制度の理解促し普及進めよ(2021年1月21日配信『福島民友新聞』-「社説」)
 
 マイナンバーカードの利用で、住民票の写しなど各種証明書をコンビニで取得でき、オンラインでの行政手続きが可能になる。自治体側には、事務の効率化やコスト軽減で利点があり、政府は2022年度末までに、ほぼ全ての国民のカード取得を目標に掲げる。

 政府は官民のデジタル化を推進する上で、マイナンバー制度を根幹に位置付けている。新型コロナウイルス対策で、文書などでの行政手続きは見直され、オンラインの活用は進むだろう。制度の意義やカード取得の利点をしっかり説明し、十分に理解や納得してもらい普及を図ることが大事だ。

 昨年のカードの国内交付枚数は1184万枚と、前年の約4倍に増えた。国民に一律10万円を配った特別定額給付金のオンライン申請や、9月に始まった最大5000円分のポイントが還元される「マイナポイント」事業の手続きに必要なため、取得が進んだとみられる。

 県によると、昨年の県内の交付枚数は14万3687枚と、前年の3万6121枚から急増した。それでも累計の交付枚数は今月1日時点で38万9080枚にとどまる。本県の普及率は20.7%で、全国平均も24.2%と低調だ。

 全国で普及が進まない要因に、行政が個人情報を把握する制度自体への不信感や、情報流出への不安が指摘されている。経済対策や災害時の給付金などの支給の迅速化につながるとして、政府は金融機関口座とのひも付け義務化を検討したが、義務化は見送られた。

 3月からは健康保険証として利用でき、運転免許証との一体化も検討されている。政府は情報管理に万全を期し、不安の払拭(ふっしょく)に努めなければならない。

 県内では、富岡町が普及率42.4%と、全国の町村で7番目に高い。東京電力福島第1原発事故により避難する住民の相談会などで申請窓口を設け、カード取得を促してきた。避難先でも住民票などを取得できるため好評だという。

 福島市や会津若松市などは臨時窓口や出張窓口を設け、申請を受け付けている。申請から交付までは約1カ月かかるが、申請が急増した自治体では3カ月を要した例もあるという。国は臨時の窓口を設けたり、専用端末を追加する市町村への財政支援を強化する方針だ。市町村は支援制度を活用し、手続きの迅速化を図ってほしい。

 国は未取得の人に対し、QRコード付きの申請書を順次送付している。スマートフォンでコードを読み取り、顔写真を撮影して申請できる。国は、オンライン申請についても周知を徹底すべきだ。





マイナンバー(2020年12月28日配信『しんぶん赤旗』ー「主張」)

カードの取得を押し付けるな
 菅義偉政権がマイナンバーカードの普及を一気に進めようと躍起になっています。2022年度末までに全国民に持たせることを方針に掲げ、21年3月から健康保険証との一体化を開始します。運転免許証との統合も計画しています。マイナンバーカードの利用を国民生活のさまざまな分野に拡大することには、個人情報の集中や国家による一元管理の危険が指摘されています。国民が望んでいるわけではない全員取得を押し付けるべきではありません。

コロナ禍に乗じて全員に

 マイナンバーは住民登録した全ての人に12桁の個人番号を割り振り、社会保障、税、災害対策の3分野で、個人情報の特定、確認ができるようにする仕組みです。マイナンバーカードの取得は任意です。16年1月の交付開始から5年近くたつのに普及率はようやく23%です。国民が必要性を感じておらず、個人情報漏えいの危惧も強いので普及が進みません。

 菅政権は、コロナ危機のもとで給付金などの行政手続きをすみやかに行うためにデジタル化の必要性が痛感されるようになったと言います。特別定額給付金の支給が混乱した原因は、政府の方針が定まらず決定が遅れた上、給付手続きへの利用を想定していなかったマイナンバー制度を無理やり使わせたことにあります。行き詰まったカード普及をコロナ危機に乗じて一気に進めようとするのは強権的なやり方です。

 菅政権はマイナンバーカードの全国民取得を「デジタル政府・デジタル社会」構築の大前提としています。行政手続き、年金や公金の給付、学校教育での活用、各種免許や国家資格証など生活のあらゆる分野でマイナンバーカードを使ったデジタル化を進めようとしています。「役所に行かずにあらゆる行政手続きができる」と利便性を強調します。

 しかし、デジタル機器を使いこなせない人は行政サービスから取り残される恐れがあります。住民が役所に行くのは事務手続きのためだけではありません。「効率化」を口実に窓口が廃止、縮小されれば相談も難しくなります。

 菅政権が進める行政のデジタル化の結果、所得や資産、医療、教育など膨大なデータが政府に集中し、国家による個人情報の管理が進むことになります。政府は来年1月に召集される通常国会に個人情報保護法改定案を提出する方針です。現行法は民間事業者、行政機関、独立行政法人のそれぞれで別の法律です。3法を統合し、関係機関が個人情報を容易に共有できるようにします。個人情報を分散管理し、なるべく集約できないようにして保護を図ってきた流れを変える危険な動きです。

急ぐ道理も必要もない

 もともとマイナンバー制度は「行政運営の効率化及び行政分野におけるより公正な給付と負担の確保」(マイナンバー法第1条)を目的としています。社会保障の給付と税、保険料の負担を個人ごとにわかるようにし、給付を抑制して国の財政や大企業の負担を減らすことを狙っています。根本的に是非を問い直すべき制度です。

 マイナンバーカードの全国民取得をコロナ危機の中で推進する道理も必要性もありません。政府が今なすべきことは医療と暮らし、営業に対する抜本的な支援です。





マイナンバー カード発行の目詰まり解消を(2020年11月23日配信『読売新聞』-「社説」)

 政府は、社会のデジタル化を政策の柱に位置づけている。マイナンバーカードはその基盤の一つだ。利用したい人に、スムーズに届けられる態勢を整えることが重要である。

 カードの交付率は2割強にとどまる。政府は2022年度末までに、ほぼ全ての国民に行き渡らせることを目標としている。

 1人10万円の特別定額給付金の手続きや、カードを持つ人に最大5000円相当のポイントを還元するマイナポイント事業を通じて、申請数は増加傾向にある。

 政府は今後、オンラインでのカード申請をしやすくするよう、QRコード付きの申請書を全ての未取得者に送付する方針だ。

 一方で、交付の実務を担う自治体の作業が追いついていないことが新たな問題として浮上した。

 申請から受け取りまで通常は約1か月とされるが、3か月以上かかる自治体が出ている。臨時職員の増員や窓口の増設、土日開庁などの措置をとっても、申請の増加に対処しきれていないという。

 混雑回避のため、受け取りを予約制としている自治体も少なくない。この場合、交付通知から1か月も予約が取れない例がある。

 これでは、来年3月のマイナポイント事業の終了に向けた「駆け込み申請」があれば、混乱が拡大するだけだ。交付作業の遅れは、デジタル化全体への不信感を高めることにもなりかねない。

 政府と自治体は連携を強化し、カード発行の目詰まりをなくしていく必要がある。

 政府は交付態勢強化のための補助金を出しているが、財政支援だけでは不十分だ。全国展開するスーパーマーケットや国の出先機関を活用して臨時窓口にするなど、個々の自治体の実情に応じた後押しを強化すべきだろう。

 自治体側も、他部署からの応援で要員を確保している先行事例などを参考に、効果的な人員配置や作業の効率化に努めたい。

 カードの普及は、それ自体が目的ではなく、国民生活の利便性を高める手段である。政府は、そのことを忘れてはならない。

 来年3月からはカードを健康保険証として利用できるようになるという。運転免許証の情報をデジタル化してカードと一体化する計画も進められている。

 国民には、カードを持ち歩くことや悪用への懸念が根強い。機能拡充の意義や安全対策について、政府が丁寧に説明し、国民が自発的に取得したいと思える環境を整えることが本筋である。



マイナンバー大丈夫?(2020年10月28日配信『長崎新聞』-「水や空」)

 ちょっと切ない、かつてのサラリーマン川柳がある。〈マイナンバー下2桁で妻が呼ぶ〉。その呼び名は「ごろう(56)」か「さぶ(32)」か

▲もちろんマイナンバー制度が始まる前の作品で、実際は番号で誰かを呼ぶほど身近ではない。5年前、もうじき届くといわれたマイナンバーの通知カードがなかなか届かず、国民をあきれさせたこともある

▲税や年金にまつわる行政の事務が楽になり、国民もいろいろな手続きに使える-と、触れ込みはいいことずくめだったが、実際は国があたふたして、国民はどこか遠目に見ていた

▲希望者に交付する「個人番号カード」の取得率は、いまだ2割ほどにすぎない。情報漏れの不安があり、やすやすと個人情報の“信用貸し”はしかねる、という向きはどうやら今もって強い

▲一律10万円給付の際、マイナンバーだとすぐに手続きできるとしながら、ずいぶん遅れた。この失態をばねに、ということらしい。菅義偉政権はデジタル化を進め、マイナンバーカードと健康保険証は来年3月から、運転免許証とは早ければ6年後にも一体化するという

▲思えば国は、マイナンバーをいつも「いいことずくめ」とお勧めし、そのたびに空回りしてきた。勇み足で大丈夫?-国民に危なっかしいと思わせる制度は、どうも心もとない。(徹)



現金掛け値なし」から「現金手持ちなし」へ(2020年10月6日配信『新潟日報』-「日報抄」)

「現金掛け値なし」。江戸時代、三井グループの原点である呉服店「越後屋」がこの商法を始めた。買い物の代金は月末や盆暮れの後払いが当然だったころだ。大きな革新だった

▼当時、店側には貸し倒れの心配があり、支払いは金利込みで高くついた。そこで越後屋は店での現金払いを勧めた。金利などの掛け値がないから安売りできる。店は大繁盛した

▼現代は値札が付いてバーゲンは当たり前。でも現金払いの方はどんどん減り、カードやスマホによるキャッシュレス決済が急増している。ネット通販も拡大し、値引きは「ポイント還元」に衣替えだ

▼今、このポイントサービスを官民が競うようにPRしている。総務省が躍起なのは取得率が2割に低迷するマイナンバーカードの普及だ。9月には期限付きで「マイナポイント」が始まった。カード所有者には、買い物などで使えるポイントが最大で5千円分与えられる

▼カードは来春、健康保険証と兼用になる。運転免許証との兼用や、多くの行政手続きでの活用も検討される。自治体サービスでは、祝い金や交通費補助などをポイントで付与することも視野に入れる

▼官民提供の多彩なポイントサービスは便利で、業務効率化も進むだろう。ただ普及促進には個人情報保護の徹底は言うまでもない。デジタル化に置き去りにされ、還元の恩恵を受けられない高齢者らのことも決して忘れてはならない。「現金掛け値なし」から「現金手持ちなし」へ。官も民も乗り越える難題は多い。



マイナポイント 信頼なしに利用進まぬ(2020年9月7日配信『北海道新聞』-「社説」)

 マイナンバーカードの所有者を対象に、買い物などで利用できるポイントを還元する政府の「マイナポイント」事業が始まった。

 元々は東京五輪・パラリンピック後の消費下支え策として延期前に立案された。カードとキャッシュレス決済の普及を含めた「一石三鳥」を狙っている。

 カードの普及率は開始直前で20%程度。ポイントを得るための手続きは煩雑だ。このままでは約2500億円を投じる事業の恩恵が一部の人に偏りかねない。

 カードの普及が進まないのは、政府や自治体の個人情報管理の甘さや監視社会を招きかねないことなど、マイナンバー制度に対する不信感があるためだろう。

 国民の信頼を得る努力を怠ったまま、お得感ばかりを強調したキャンペーンで普及を図ろうというのは、順序が逆ではないか。

 事業では、電子マネーのチャージや、スマートフォンのQRコード決済で買い物をすれば、累計で1人最大5千円分のポイントを得ることができる。

 ただ、スマホなどでマイナンバーカードの暗証番号を入力し、利用する決済サービスを登録する必要がある。お年寄りなどにはハードルが高い仕組みと言えよう。

 新型コロナの影響や申請増で、これからのカード発行には2カ月以上かかる自治体もある。

 6月末に終わったキャッシュレス決済のポイント還元事業でも、消費喚起効果は限定的だった。

 時期や費用対効果の面からも、実施には疑問を禁じ得ない。

 一方、政府はマイナンバー制度を軸とする行政のデジタル化を加速させる方針を示している。

 その一つがマイナンバーと預貯金口座のひも付けの義務化だ。

 10万円の特別定額給付金の支給が遅れたことを理由にしているが、混乱の原因は自治体の準備が不十分だったのに、政府がマイナンバーカードを使った急造のシステムを稼働させたことにある。

 システムや自治体の対応の不備を突いた不正受給も起きた。

 政府に起因する失態を理由に、口座とのひも付けを安易に進めようとするのは問題だ。

 カードの用途を拡大しようとする動きも看過できない。

 政府は運転免許証との一体化を検討し、現在の免許証の廃止も視野に入れている。

 多くの国民の生活に欠かせない免許証を使って、選択の余地なくカードを取得させるようなやり方は言語道断である。



マイナポイント カード普及の施策 懸念拭えない(2020年9月2日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 マイナンバーカード所有者を対象に、買い物などで利用できるポイントを還元する「マイナポイント」事業が始まった。消費税増税対策として6月末まで実施したキャッシュレス決済のポイント還元の後継事業と位置付けられている。

 政府は「マイナンバーカード普及の起爆剤」と期待するが、手続きの煩雑さなどから利用者が限られ、一部の人への「ばらまき」となる懸念が拭えない。マイナンバーカードはかねて個人情報漏えいなどのリスクが指摘され、国民の理解も進んでいない。政府は信頼性や利便性といった課題の解決に取り組むことが先決だ。

 マイナポイント事業は、来年3月までの期限付きで実施される。マイナンバーカード所有者が、電子マネーのチャージ(入金)やスマートフォンのQRコード決済で買い物すれば、累計で1人当たり最大5千円分のポイントを受け取れる。

 利用予約は7月に始まり、予約数が4千万人に達した時点で締め切る方針だが、8月30日時点で予約は約12%にとどまる。周知が行き届いていない側面もあるが、事業の利用にはマイナンバーカードの取得とキャッシュレス決済などが行える環境を整える必要があるため、準備や手続きの煩雑さから二の足を踏む人もいるとみられる。

 中小の小売店などで最大5%が還元されたキャッシュレス決済は、新型コロナウイルスの感染予防策としても注目され、昨年10月から半年間の実施で急速に広がった。ただ、登録店舗側が決済事業者に支払う手数料が引き上げられると、普及にブレーキがかかる可能性もある。キャッシュレス決済が広がらなければ、マイナポイント事業の効果も限定的となろう。

 事業利用の前提となるマイナンバーカードの交付数も、8月30日時点で、約2458万枚、普及率は2割弱と伸び悩んでいる。マイナポイント事業が始まるのを前に、7月ごろから窓口の市区町村に交付申請が増えているというが、国民がカードを取得しようという動機付けはいまだ弱く、今後どの程度申請が進むかは未知数だ。

 新型コロナ対策として政府が実施した国民に一律10万円を配る給付金事業では「迅速な給付が可能」とマイナンバーカードを使ったオンライン申請をPRしたものの、システム不具合が多発し「郵送申請より遅い」と批判された。カードの利便性や信頼性の向上が途上にあることの証左だろう。

 日本の行政のデジタル化は世界に後れを取っており、加速していく必要はあるが、拙速は許されない。来春にはマイナンバーカードが健康保険証として利用可能になる。政府は運転免許証との連携や個人の預貯金口座とのひも付けなど、さらなる利用拡大を模索しているが、慎重な議論が欠かせない。国民の不安を置き去りに、利用を押しつけることがあってはならない。



マイナンバー デジタル化名目の危うさ(2020年8月31日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 マイナンバー(個人番号)制度を軸とする行政のデジタル化を、来年にかけて一気に進める―。政府が具体策の検討を本格化させている。

 関連法の改定法案を来年の通常国会に提出する構えだ。個人情報の一元管理につながりかねない制度が強引に押し広げられないか。厳しく見ていく必要がある。

 見直しの柱の一つは、預貯金口座との連結の義務化だ。一人1口座をマイナンバーとひも付け、緊急の経済対策などに際して給付の迅速化を図るという。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一人10万円の特別定額給付金の支給に手間取ったことが背景にある。マイナンバーカードを使ったオンラインでの申請が事務作業の混乱を招き、受け付けを中止する自治体が相次いだ。

 そもそもの原因は、対象者を限定していた当初の給付方針を政府が一転させ、準備が追いつかないままシステムを稼働させたことにある。機に乗じてカードの普及につなげようとする思惑が絡み、事態をややこしくした。

 口座を把握していれば、迅速な給付を図れるのは確かだ。だからといって、マイナンバーと結びつけるべきなのか。その先に、全ての口座のひも付けを義務化したい意図も見て取れる。

 政府は7月に閣議決定した骨太の方針で行政手続きのデジタル化を打ち出し、1年間を集中改革期間とした。情報技術を活用して効率化や利便性の向上を図ること自体に異議はない。だが、その旗印の下、無理押しが目につく。

 見過ごせないのが、マイナンバーカードのさらなる用途拡大だ。運転免許証と一体化する方向で検討し、現在の免許証の廃止も視野に入れている。医師免許などの国家資格証とも統合する。外国人の在留カードも検討の対象だ。

 制度の導入から4年半を経て、カードの普及率は2割に達していない。広く信頼を得られていない表れだ。免許証などと一体化することで、いや応なく取得させるようなやり方は認められない。

 今や個人の行動はあらゆるところでデータとして捕捉され、集積されている。固有の番号と関連づいたカードの用途が広がるほど、個々のデータが一つに束ね合わされる恐れは増す。

 プライバシーを脅かし、監視社会を招き寄せる危うさをはらむ制度である。根本に目を向け、あらためて制度のあり方を見直すべきだ。個の尊厳を守るための歯止めの議論こそが欠かせない。



[マイナンバー] 信頼なしには広がらぬa(2020年8月2日配信『南日本新聞』-「社説」)

 政府はマイナンバーの活用範囲の拡大に向けた動きを加速させている。現在は社会保障、税、災害対策に限定されている個人番号を預貯金口座と結びつける「ひも付け」の義務化や運転免許証との一体化などを検討している。

 行政事務の効率化を目的として2016年に制度が始まって4年半。カード交付率は今年6月1日時点で16.8%にとどまる。背景には、政府への詳細で広範な個人情報の提供や情報漏えいに対する国民の不安がある。

 活用拡大を目指すなら、徹底した情報管理体制など国民が信頼できる仕組みを構築することが必要である。

 高市早苗総務相は6月、マイナンバーと1人1口座をひも付けるよう義務化することを検討すると表明した。個人口座の事前登録により、災害時などに即時に個人単位で多様な現金給付が可能になるという。

 ひも付け構想が浮上したきっかけは、政府が新型コロナウイルス対策の目玉として打ち出した国民に一律10万円を配る特別定額給付金の申請で、支給が大幅に遅れたことだ。

 総務省がカード所持者にオンライン申請の積極的な利用を呼び掛けたものの、市町村職員が手作業で確認に追われるなど現場は大混乱した。

 そのため、オンライン申請自体を取りやめた自治体も相次いだ。これでは何のためのオンライン化かと、首をかしげざるを得ないありさまである。

 米国では国民への現金給付を決めてから短期間で、社会保障番号と結びつけられた口座に現金が振り込まれた。

 他の主要国でも、個人番号と口座などの個人情報がリンクされ、現金給付などに利用されている国が多い。日本は世界の潮流から大きく取り残されているという指摘もある。

 マイナンバーカードと運転免許証との一体化は、政府の作業部会で菅義偉官房長官が検討を表明した。詳細は今後詰めるが、既存の免許証の将来的な廃止も選択肢に上がっており、そうなれば国民に抵抗感が出そうだ。

 国民の懸念が消えないのは、政府のセキュリティー能力に対する不信が根強いからである。

 18年には日本年金機構から委託を受け、マイナンバー関連情報も扱う東京の会社が、契約に反してデータ入力を中国の業者に再委託していたことが発覚した。海外でも政府機関などからの情報流出は度々発生している。

 政府は口座ひも付けについて、来年の通常国会での関連法案提出を目指すという。しかし、マイナンバーに対する国民の声は賛否さまざまだ。拙速に進めては禍根を残しかねない。

 利便性の向上と個人情報の保護をどう両立させるかとの問題に答えを出すのは難しい。政府は丁寧に議論を重ねるべきである。



マイナポイント 給付金の混乱を繰り返すな(2020年7月8日配信『読売新聞』-「社説」)

 特別定額給付金のオンライン申請で混乱が生じたことの反省を踏まえ、政府は万全の体制を整える必要がある。

 マイナンバーカードを持つ人を対象に、最大5000円分のポイントを還元する政府の「マイナポイント」事業の申し込みが始まった。

 9月から来年3月までの7か月間、登録したクレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済で買い物をすると、25%分が戻ってくる。利用額2万円で5000円分の還元が上限となる。

 消費税率引き上げに伴って導入されたキャッシュレス決済のポイント還元制度が6月に終了した後も、消費下支えを続ける目的がある。コロナ禍を受けた家計支援の側面や、キャッシュレス決済推進の意味も大きいだろう。

 注意すべきは、マイナンバーカード取得がポイント還元の前提条件になっていることだ。カード普及につなげる狙いだが、手続きが複雑化したのは否めない。

 カードの申請から交付までは、通常でも約1か月かかる。申請はパソコンやスマートフォンでもできるが、受け取りは自治体の窓口まで出向かねばならない。

 取得後はパソコンやスマホ、コンビニの端末などでIDを作成し、ポイント受け取りを予約する。この時、カードの暗証番号を入力するよう求められる。利用する決済サービスの選択も必要だ。

 一律10万円の特別定額給付金のオンライン申請では、カードの暗証番号を忘れた人などが自治体の窓口に殺到し、混乱を招いた。

 今回も、問い合わせなどで事業のコールセンターがつながりにくくなる事態が起きている。政府の自治体支援や管理システムのさらなる強化が欠かせない。

 多くの自治体は、パソコンなどを持っていない人や扱いに不慣れな人を支援する窓口を設けている。政府や自治体は事業の仕組みや注意点の周知を徹底し、誰もがスムーズに手続きを進められるようにしてもらいたい。

 2016年に運用が始まったマイナンバー制度でカードの交付枚数は約2200万枚にとどまる。政府はマイナポイント事業で4000万人の利用を想定するが、実際にカード取得者の大幅な増加につながるかどうかは不透明だ。

 マイナンバー制度の浸透が重要なのは確かだが、カード取得者を増やすことが目的化していないか。カードの活用範囲を広げ、利便性の向上を国民に実感してもらうことが本筋である。



ポイント還元 巨額対策の効果見えぬ(2020年7月7日配信『北海道新聞』-「社説」)

 消費税増税に合わせて昨年10月に導入したキャッシュレス決済のポイント還元事業が終了した。

 増税後の景気下支えに加え、中小店支援、キャッシュレスの推進という「三兎(と)」を追うような政策だったが、効果には疑問符が付く。

 増税直後の昨年10~12月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算で前期比7・2%減と、前回増税時に匹敵する落ち込みだった。

 生活必需品を買う決済手段が現金から置き換わったのが中心で、新たな消費を喚起する効果は乏しかったとの見方が強い。

 そのうえコロナ禍で冷え込んだ消費意欲が、還元事業の終了により一段と低下する恐れもある。

 増税幅を上回る高還元率で7753億円の政府予算を投じた政策が、巨額のばらまきに終わったのではないか。政府はその効果やキャッシュレス化の課題を検証し、今後の施策に反映させるべきだ。

 この事業の参加店は道内5万4千店を含む115万店と、対象となりうる中小店の半数を超えた。

 ただ、このうち還元事業を機にキャッシュレス決済を導入した店は3割に満たず、多くは何らかの手段を導入済みだったという。

 昨年の国内決済に占めるキャッシュレス比率は過去最高の26・8%となったが、伸び率は前年並みにとどまった。これではキャッシュレス化を加速する効果も限定的だったと言われても仕方ない。

 政府は2025年に同比率40%の目標を掲げるが、失速する懸念も拭えない。最大のネックは加盟店が決済ごとに支払う手数料だ。

 一般に中小店向けの手数料は購入額の5~7%とされ、1~3%程度の米国などに比べ高い。

 還元事業では国が3・25%以下に抑え、一部を補助したが、それもなくなる。政府は今後も決済事業者に手数料開示を求めて競争を促す考えだが、引き上げの動きが出ている。中小店には死活問題だ。

 今回は参加店が都市部や訪日客が多い地域に集中した上、現金以外の決済に不慣れな高齢者も多く、地域や世代で恩恵に差も出た。

 一方で、現金や店員との接触を減らす決済への新たなニーズがコロナ禍で生まれた。政府は中小店が導入しやすい環境づくりに加え、高齢者らにも寄り添った普及策を急ぐ必要がある。

 9月にはマイナンバーカード保有者を対象にしたキャッシュレス決済のポイント還元が始まる。今回浮かんだ問題点を放置し、効果が怪しい大盤振る舞いを繰り返すことは避けなければならない。



マイナンバーの活用 慎重な議論求めたい(2020年7月5日配信『茨城新聞』-「論説」)

 政府はマイナンバーと預貯金口座のひも付け義務化などの検討を始めた。災害時の迅速な現金給付などが狙いだが、政府が国民の個人情報を把握することには不安が強い。時間をかけて慎重に議論するよう求めたい。

 高市早苗総務相は6月、マイナンバーと1人1口座のひも付けの義務付けを検討すると表明した。個人口座の事前登録により、災害時などに即時に個人単位で多様な現金給付が可能になるという。当初は全口座の義務化を考えていたが、個人資産の監視が強まるなどの懸念に配慮し、見送った。希望者には複数口座の登録を認める方針だ。

 政府はマイナンバーカードと運転免許証の一体化も検討しており、現在は社会保障、税、災害対策の3分野に限定されているマイナンバーの活用拡大にかじを切った形だ。口座のひも付けについては、来年の通常国会への関連法案提出を目指し、具体的な制度設計を進める。

 口座のひも付け構想のきっかけは、新型コロナウイルス対策として一律に10万円を配る「特別定額給付金」のオンライン申請で自治体職員が手作業の確認を強いられるなどして、支給が遅れたことだ。給付率は6月19日現在で60・7%にとどまっている。

 これに対して、米国では経済対策として国民への現金給付を決めてから短期間で、社会保障番号と結び付けられた口座に現金が振り込まれた。他の主要国でも、個人番号と口座などの個人情報がリンクされ、現金給付などに利用されている国が多い。日本は世界の流れから取り残されているという指摘もある。

 政府は現金給付が遅れたことへの反省を踏まえて、預貯金口座のひも付け義務化の方針を打ち出した。その意図は理解できる。すでに証券口座はマイナンバーとの連結が義務付けられており、その延長線上にあると考えれば、問題はないようにも見える。

 しかし、国民の間には、個人資産が監視されるなどとして、懸念する声が相次いでいる。今後、マイナンバーの活用範囲の拡大が進めば詳細な個人情報が政府に把握される可能性がある。個人情報の漏えいや侵害の恐れは否定できない。

 事実、米国では政府機関や信用情報会社などから社会保障番号が流出する事件がしばしば発生し、クレジットカードが勝手に作られるなどの被害が絶えない。マイナンバーとは関係ないが、日本では、2010年に警視庁公安部が収集した日本在住のイスラム教徒に関する情報が流出した例がある。

 マイナンバーの活用拡大を目指すなら、国民の信頼を得るために、徹底した情報管理体制を構築することが欠かせない。

 一方では、サラリーマンに不利となっている課税の不公平を是正するために、マイナンバーと全口座のひも付けをするべきだという主張もある。国民の声はさまざまだ。まず希望者に限って口座のひも付けをするのが現実的ではないだろうか。

 マイナンバー制度は16年に始まったが、利便性が低いために利用が進まず、カードの交付率も今年6月1日時点で16・8%にすぎない。利便性の向上は必要だが、個人情報の保護とどう両立させるかという問題に簡単に結論は出せない。事を急がず、丁寧な議論を重ねる必要がある。



個人情報保護が不可欠だ/マイナンバー活用拡大(2020年7月4日配信『東奥日報』-「時論」)

 政府はマイナンバーと預貯金口座のひも付け義務化などの検討を始めた。災害時の迅速な現金給付などが狙いだが、政府が国民の個人情報を把握することには不安が強い。時間をかけて慎重に議論するよう求めたい。

 高市早苗総務相は6月、マイナンバーと1人1口座のひも付けの義務付けを検討すると表明した。個人口座の事前登録により、災害時などに即時に個人単位で多様な現金給付が可能になるという。当初は全口座の義務化を考えていたが、個人資産の監視が強まるなどの懸念に配慮し、見送った。希望者には複数口座の登録を認める方針だ。

 政府はマイナンバーカードと運転免許証の一体化も検討しており、現在は社会保障、税、災害対策の3分野に限定されているマイナンバーの活用拡大にかじを切った形だ。口座のひも付けについては、来年の通常国会への関連法案提出を目指し、具体的な制度設計を進める。

 口座のひも付け構想のきっかけは、新型コロナウイルス対策として一律に10万円を配る「特別定額給付金」のオンライン申請で自治体職員が手作業の確認を強いられるなどして、支給が遅れたことだ。給付率は6月19日現在で60.7%にとどまっている。

 これに対して、米国では経済対策として国民への現金給付を決めてから短期間で、社会保障番号と結び付けられた口座に現金が振り込まれた。他の主要国でも、個人番号と口座などの個人情報がリンクされ、現金給付などに利用されている国が多い。日本は世界の流れから取り残されているという指摘もある。

 政府は現金給付が遅れたことへの反省を踏まえて、預貯金口座のひも付け義務化の方針を打ち出した。その意図は理解できる。すでに証券口座はマイナンバーとの連結が義務付けられており、その延長線上にあると考えれば、問題はないようにも見える。

 しかし、国民の間には、個人資産が監視されるなどとして警戒感が根強い。専門家から懸念の声が相次ぐ。今後、マイナンバーの活用範囲の拡大が進めば、詳細な個人情報が政府に把握される可能性がある。個人情報の漏えいや侵害の恐れは否定できない。

 事実、米国では政府機関や信用情報会社などから社会保障番号が流出する事件がしばしば発生し、クレジットカードが勝手に作られるなどの被害が絶えない。マイナンバーとは関係ないが、日本では、2010年に警視庁公安部が収集した日本在住のイスラム教徒に関する情報が流出した例がある。マイナンバーの活用拡大を目指すなら、国民の信頼を得るために、徹底した情報管理体制を構築することが欠かせない。

 一方では、サラリーマンに不利となっている課税の不公平を是正するために、マイナンバーと全口座のひも付けをするべきだという主張もある。意見が分かれているのであれば、まず希望者に限って口座のひも付けをするのが現実的ではないだろうか。

 マイナンバー制度は16年に始まったが、利便性が低いために利用が進まず、カードの交付率も今年6月1日時点で16.8%にすぎない。利便性の向上は必要だが、個人情報の保護とどう両立させるかという問題に簡単に結論は出せない。事を急がず、丁寧な議論を重ねる必要がある。



マイナンバー 無理押しさらに重ねるな(2020年6月29日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 制度への根本的な信頼が欠けているのに、あの手この手で用途を広げようとすることにそもそも無理がある。政府が力を入れるマイナンバー(個人番号)カードの普及促進策だ。

 今度は、運転免許証との一体化を検討するという。制度の改善に向けた作業部会の初会合で菅義偉官房長官が表明した。具体化の工程表を年内に策定する方針だ。

 国家資格証や外国人の在留カードとの一体化についても話し合う。学校での健康診断の記録や学習データの管理に活用することも検討課題に挙がっている。

 9月からは、マイナンバーカードの保有者を対象に、買い物などの額に応じてポイントを還元する消費活性化策が始まる。5千円分を上限とするものの、25%という破格の還元率でポイントを付与する。あからさまな誘導策だ。

 ほかにも、来年3月からは健康保険証として利用できるようになる。政府は、国と地方の公務員には半ば強要する形でカードの取得を促してもきた。それでも、4年半近くを経て、普及率は17%ほどにとどまっている。

 運転免許証との一体化で気がかりなのは、既存の免許証を将来的に廃止してマイナンバーカードに切り替える案が出ていることだ。そうなれば、運転免許の保有者はカード取得を拒めなくなる。強引なやり方で普及が図られないよう、作業部会の議論を注意深く見ていかなくてはならない。

 政府が2017年にまとめた利活用の工程表には、さらに多様なカードの使い道が挙がっている。社員証、診察券、図書館の利用券、カジノの入場資格証…。クレジットカードや銀行のキャッシュカードと一体化する案もある。

 マイナンバーは個人情報の一元管理につながる懸念が拭えない制度だ。番号の利用を税と社会保障、災害の3分野に限定して法は成立したが、運用が始まる前から改定され、使途が拡大されてきた。

 情報技術が進み、個人の行動は今やあらゆるところでデータとして収集され、集積されている。番号と関連づいたカードが用途を広げるほど、一つの番号で個人データが結びつけられる恐れは増す。プライバシーが侵され、国家による管理や監視の強化につながる危うさがある。

 政府が利活用を言う一方で、税負担や社会保障給付の公平、公正を図るはずの制度本来の目的はかすんでいる。なぜカードの取得を促すのか。納得がいく説明もなく、無理押しを重ねてはならない。



マイナンバー 不信感の解消が不可欠だ(2020年6月29日配信『新潟日報』-「社説」)

 個人情報が流出する恐れはないのか。国による資産の監視が強まるのではないか。普及を進めるのなら、制度に対する国民の信頼が欠かせない。国には慎重な議論を求めたい。

 政府が、マイナンバーカードと運転免許証の一体化を検討する方針を示した。預貯金口座とマイナンバーのひも付けの義務化についても今後協議する。

 用途の拡大を目指す背景には、交付開始から4年以上経てなおカード取得率が16・8%と低迷している状況がある。

 マイナンバーは、国内に住む全ての人に割り当てた12桁の番号だ。現在は税・社会保障・災害の3分野で活用でき、行政機関が個人情報を管理している。

 行政事務の効率化や税徴収の公平性を図る一方で、国民にはカードの取得を呼び掛けてきた。しかし、カードがあっても日常生活で使う場面は限られ、メリットに乏しい。

 政府は今後、カードとさまざまな資格証との一体化や、カード機能とスマートフォンとの連携、学校での健康診断記録をカードに保存する方法なども検討材料にするという。工程表を年内に策定する方針だ。

 来年3月からカードを健康保険証として使えるようにする準備も進めている。

 多くの個人情報をマイナンバーにつなげ、管理する制度には警戒が必要だ。個人情報の流出リスクが高まる恐れがある。

 マイナンバーの運用を巡っては今年1月、一部の自治体の端末で個人情報を外部に持ち出せる状態になっていたことが、会計検査院の検査で分かった。

 2018年には、日本年金機構から委託を受けてマイナンバー関連情報も扱う東京都内の会社が、契約に反してデータ入力を中国の業者に再委託していたことが判明した。

 国民の不安を置き去りにし、カードの用途拡大ありきで進めることがあってはならない。

 用途拡大の制度設計はこれからだが、課題は多い。

 運転免許証との一体化では、免許証を廃止しカードの取得を半ば強制する仕組みとなれば、国民から反発も出てこよう。

 口座とマイナンバーとのひも付けの検討は、新型コロナウイルス対策での混乱がきっかけだ。1人10万円給付で口座の確認に手間取り、給付が遅れた。

 口座をひも付けておけば、災害が発生した際に素早く給付できるとする。

 一方で、国民には個人財産がガラス張りになることへの懸念が根強い。

 政府は当初、全ての口座のひも付けを検討したものの、見送ったのはこのためだ。1人1口座の検討に転換したとはいえ、懸念は残る。

 1人1口座の登録というが、どうやって実施するのか、応じない人への罰則を設けるのかなどの問題もある。

 用途を拡大する制度づくりには、国民の不安払拭(ふっしょく)が大前提になる。安倍政権にそれができるのか、注意深く議論を見ていく必要がある。



マイナンバー連結(2020年6月22日配信『しんぶん赤旗』ー「主張」)

普及ありきの先走りは危うい

 安倍晋三政権が、マイナンバーと全ての住民の預貯金口座をひもづけするために、1人につき1口座を国に登録することを義務化する方針の検討を開始しました。マイナンバーカードの取得がほとんど進んでいないことが示すように、国民の圧倒的多数はそのような仕組みを必要と感じていません。むしろ政府が個人の情報を掌握・管理することについて、強い不安を抱いています。マイナンバーと個人の金融情報との連結を国民に強いることは、新たな矛盾を引き起こしかねません。

コロナの混乱に便乗し

 マイナンバーと個人の口座を連結することは、高市早苗総務相が9日の記者会見で明らかにしました。高市氏は「全ての国民に、行政からさまざまな給付を受けるために利用する一生ものの口座情報を1口座のみ、マイナンバーを付番して登録していただく制度」にすると述べ、「できれば義務化させていただきたい」と強調しました。詳細な仕組みは今後検討し、来年の通常国会に関連法案を提出するとしています。

 政府が口実に持ち出しているのは、新型コロナウイルス感染拡大対策の一つである「1人10万円給付金」の大幅な支給遅れです。政府は個人の口座が事前にマイナンバーと結びついていれば支給は迅速にできたというのです。あまりに乱暴な議論のすりかえです。

 支給で混乱を拡大した大きな要因の一つは、安倍政権がオンライン申請を宣伝し、全国民の2割弱しか持っていないマイナンバーカードの利用を推奨したためです。その結果、カードを取得したい人、普段使わないカードの暗証番号を忘れた人などが自治体窓口に殺到して「3密」状態になり、自治体職員はその対応に疲弊しました。オンライン申請を途中で取りやめた自治体も少なくありません。マイナンバーを使わない簡素な手法で住民に早く支給できるよう工夫した自治体もあったといいます。いま必要なのは、マイナンバー利用にこだわり、給付の混乱と遅れを招いた失敗を反省し、検証するとともに、マイナンバーに頼らないで国民への給付を早く実施できる仕組みをつくることです。

 マイナンバー制度は2016年に運用が本格化しました。日本国内で住民登録した全員に12桁の番号を割り振り、税や社会保障の分野で個人情報の確認などで利用するという仕組みです。しかし、多くの国民はほとんど使う機会はなく、システムのトラブルも相次ぐなど制度のあり方そのものに対する疑念の声は絶えません。安倍政権は、マイナンバーと口座の連結義務付けを制度創設当初から狙っていましたが、情報管理や所得監視などへの国民の根強い不安からなかなかできなかったものです。コロナのどさくさに紛れ、長年できなかった口座への連結の義務化をやろうというのは大問題です。

拙速なやり方は禍根残す

 安倍政権は、口座とマイナンバーのひもづけは「給付金の支給の迅速化のため」と言いますが、給付がそんなに頻繁に繰り返されるのでしょうか。むしろ登録された口座を通じて、行政が税金や保険料の強制徴収をしやすくなるのではないかと不安が消えません。国民が求めていないマイナンバー制度を無理に推進するのでなく、立ち止まって見直す時です。



マイナンバー 利便性高めて理解深めよ(2020年6月22日配信『産経新聞』-「主張」)

 高市早苗総務相がマイナンバーと個人の預貯金口座のひも付けを義務化する方針を表明した。

 災害時などに個人口座に素早く公的な支援金を振り込めるようにするのが狙いである。

 高市氏は当初、全口座の登録義務化を検討するとしていたが、国による個人資産への監視が強まるとの懸念に配慮し、1人1口座の登録に限定することにした。

 新型コロナウイルス対策で政府が一律10万円を支給する定額給付金では、マイナンバーを利用するオンライン申請で大きな混乱が生じた。マイナンバーと預貯金口座がひも付けされれば、こうした混乱を回避することができる。

 行政サービスの効率化には住民情報のデジタル化が欠かせない。マイナンバーの利用を拡大するためにも口座情報のひも付けは必要だ。そうした国民の理解を得るためにはマイナンバーの利便性を高めることが求められる。

 政府は来年の通常国会に関連法改正案を提出し、数年後の運用開始を目指す。現在のマイナンバーは税と社会保障、災害対応の利用に限定しており、新たに公的な現金給付も対象に加える。

 マイナンバーとひも付けるのは預貯金口座の所在に限り、残高などの内容は把握しない方向だ。ただ、銀行口座を保有していない生活困窮者や子供の取り扱いなどは決まっていない。国民の理解と協力を得るためにも、政府は具体的な制度設計を急ぐ必要がある。

 欧米各国の新型コロナ対策で迅速な現金支給が実現したのは、住民情報と口座情報をひも付けして管理しているからだ。日本も現金給付でマイナンバーを使ったオンライン申請を導入したが、各自治体が振込先を手作業で確認するなどで給付が遅れた経緯がある。

 こうした反省を踏まえ、マイナンバーをデジタル化時代の社会インフラとして活用するためにも、預貯金口座とのひも付けは不可欠だ。すでに証券口座はマイナンバーとの連結が進んでおり、銀行などの金融機関が主導して預金者に協力を求めるべきである。

 将来的には、1口座だけのひも付けでは公正な課税や社会保障給付は期待できない。

 少子高齢化で現役世代の負担が重くなる以上、高齢者を含めて資産状況の適正な把握が問われる。そうした観点でもマイナンバーの活用を真剣に議論すべきだ。



マイナンバー 制度の意義踏まえ利用促進を(2020年6月14日配信『読売新聞』-「社説」)

 マイナンバー制度をうまく使えば、大規模な災害や感染症に見舞われた際、困窮する人を迅速に支援できる。政府は制度の重要性を国民に丁寧に説明し、活用を進めるべきだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一律10万円の現金給付では、制度の問題点が露呈した。

 政府は、マイナンバーカードを利用したオンライン申請を導入したが、各自治体は振込先の口座番号などの確認に追われ、給付の遅れにつながった。あらかじめ、マイナンバーと預貯金口座をひも付けておけば防げた事態だ。

 米国では現金の支給方針の決定から約2週間で社会保障番号と連結した口座に振り込まれた。納税情報に基づき、高所得者への支給を制限することもできる。

 安倍政権は今回の反省を生かし、使い勝手の良い制度に改めていく必要がある。

 高市総務相は、1人あたり一つの口座とマイナンバーをひも付ける方向で法改正を検討する考えを示した。従来の社会保障、税、災害対策に加え、「経済対策の現金給付」をマイナンバーの利用範囲に加えるという。

 2016年に運用が始まったマイナンバー制度は、所得や納税、年金など別々に管理されてきた個人情報を一つの番号で結びつけることで、公正な課税や社会保障給付に役立てる意義がある。

 その趣旨を踏まえれば、全ての口座をマイナンバーとひも付け、資産状況を正確に把握することが筋だろう。脱税や生活保護の不正受給を防ぎ、所得制限付きの迅速な現金給付も可能となる。

 ただ、個人資産を把握されることに対する国民の懸念は根強い。政府が今回、全口座の連結は希望者に限定し、1口座のひも付けを目指す方針としたのは当面の措置としてやむを得まい。

 ひも付けの義務化には反発が予想される。証券口座の開設ではマイナンバーの提出が求められているが、預貯金口座は任意にとどまっている。まずは、国民が自発的に口座をひも付ける仕組みとするのが現実的ではないか。

 個人情報の流出はあってはならない。政府が管理を徹底し、国民の信頼を高めることが大切だ。

 マイナンバーカードの普及は1割台にとどまる。何のために必要なのか、どんな利便性があるのか、浸透していないからだろう。

 行政サービスのデジタル化を進める上でもマイナンバー制度の利用拡大は重要だ。業務の効率化を促す契機としたい。



忍び寄る「束縛」(2020年6月13日配信『琉球新報』-「金口木舌」)

 ドライブスルー方式によるPCR検査、スマホの位置情報を使って隔離対象者が指定場所から離れても居場所の分かるアプリ―。韓国政府の新型コロナウイルス感染症対策が、陽性者の抑え込みにつながったと評価する声を聞く

▼韓国の都市にあるマンションの一室。隔離対象者となった1人暮らしの女性はスマホを片時も手放さない。外出を控え、保存食で空腹を満たす。ニュース番組で見た

▼陽性者の行動追跡は感染を防ぐ手だてになろう。一方、監視されている立場を思うとやりきれない。日本の特定秘密保護法やマイナンバー制度を思い出した

▼新型コロナ対策の一律10万円の現金給付で、政府はマイナンバーを使ったオンライン申請を推奨していた。申し込みが始まると、申請に不可欠な暗証番号が分からないという問い合わせが相次ぎ、郵送を勧める自治体も出ている

▼自民など3党はマイナンバーを活用して現金給付を迅速化するための法案を国会に提出した。高市早苗総務相はマイナンバーと一つの預貯金口座のひも付けを義務化する方針を表明している。国民の金融の監視強化につながらないかとの指摘がある

▼十分な議論もないまま国の権限が強化され、個人の自由が制限されることがあってはならない。それこそコロナ禍に乗じた「ショック・ドクトリン」だ。見えない束縛は危機に紛れて忍び寄る。



マイナンバー連結 一律給付、迅速化優先を(2020年6月12日配信『秋田魁新報』-「社説」)

 マイナンバーと個人の持つ預金口座を連結する「ひも付け」について、高市早苗総務相は1口座に限定して国への登録を義務化する方針を示した。政府は関連法案を来年の通常国会に提出する考えだ。

 背景には、新型コロナウイルス対策として一律10万円を全国民に配る特別定額給付金事業の遅れがある。総務省の最新集計では、全世帯の約3割にしか給付されていない。

 マイナンバーと1口座をひも付けすれば自治体は口座把握の手間が省け、災害時などに現金給付する場合も迅速化できる。将来に備えて義務化が必要というのが政府の考えのようだ。

 マイナンバー制度は運用から4年半近くが経過した。個人番号カードは普及が進まず、交付率も約16%にすぎない。内閣府調査では取得予定なしが半数を超え、その理由として6割近くが「必要性が感じられない」を挙げている。

 理解が進まない現状を見れば、義務化には慎重な検討が必要だろう。性急な議論で強引に実現すれば、制度そのものへの不信感を増幅しかねない。

 制度上のトラブルや安全対策の不備はこれまで、たびたび発生。自治体でつくる管理法人ではシステム障害が続発、マイナンバーを含む個人情報の誤送信や記載ファイルの紛失なども自治体で起きている。

 それだけに国や自治体が取り組むべきなのは、個人情報の安全管理徹底と一層の制度周知だ。それを十分に行わないままでひも付け義務化への理解を得ようとするのは無理がある。迅速な給付のためというが、本当に必要なのかとの疑問も残る。

 一律給付に当たり兵庫県加古川市は、市民への郵送書類に記載した独自の世帯番号でオンライン受け付けを開始。マイナンバー以外でも、手続きを簡素化して支給している。政府はこうした工夫例を収集、マイナンバーに頼らない方法を検討することも視野に入れるべきだ。

 一律給付では、生活困窮者の存在を忘れてはならない。銀行口座や身分証明書がないという人もいる。最も必要な人の手にいつまでたっても届かないのであれば、事業は本来の役割を果たさない。将来に備えてひも付けの義務化を考えるよりも、目の前の生活困窮者対策にもっと力を入れるべきだ。

 義務化に関しては、個人情報を強制的に把握されることに抵抗を覚える人もいるはずだ。必要な人が任意で口座を登録するだけで十分ではないのか。1口座の登録義務化が将来、個人の全口座への拡大と国による監視強化につながるようなことはないのか。そうした疑念も払拭(ふっしょく)できない。

 政府と自治体が今取り組むべきは一律給付の迅速化を図る改善策だ。将来に備えたひも付けの義務化についてはまず、その利点と問題点をじっくり検討することから始めるべきだ。



マイナンバーの利用拡大 監視への不安、拭えない(2020年6月12日配信『中国新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの緊急対策をきっかけに、マイナンバーの利用拡大へ向けた動きがにわかに出ている。

 マイナンバーは住民票がある全ての人に割り当てられた12桁の番号で、行政が識別に使う。2016年に運用が始まった。政府はこのマイナンバーのシステムに、全ての人が一つの預貯金口座の情報をひも付けて登録することを義務化する方針を打ち出した。

 実現すれば、国の給付金などの速やかな支給につながるとしている。だがマイナンバーの取り扱いは、個人情報の流出リスクもあって、プライバシー保護の観点から慎重を期す必要がある。性急に議論を進めてはならない。

 制度見直しのきっかけは、国民への一律10万円の給付を巡り、マイナンバーカードを使った電子申請が混乱したことだ。

 システムに負荷が掛かってトラブルが続出し、途中で電子申請を取りやめる自治体が相次いだ。振込先となる預貯金口座が事前に登録されていなかったため、自治体の職員が手作業で入力したり確認作業に手間がかかったりした。

 入力の誤りも多く、2重給付も発生した。結局、多くの自治体が振り込みまでかなりの時間を要している。給付金を手にした人は今月上旬で、3割ほどにとどまっている。

 自治体の事務業務について、政府の認識が足りなかったと言わざるを得ない。カードの普及に前のめりになったようにも映り、見切り発車だったと言われても仕方あるまい。給付の遅れの責任は重い。

 速やかな支給に向けた制度の改善や法整備は必要だろう。ただ懸念される問題点も多い。

 今回は見送られたものの、政府は全ての預貯金口座へのひも付けの義務化を念頭に検討を進めていた。1口座の登録義務化を先行した形だが、希望者には任意で複数の口座の登録を認めており、全口座を対象にする構えを崩していない。

 国や自治体が資産状況を把握し、本当に生活に困っている人に絞った支援をしたり、税金も公平に徴収できたりする効果を狙っているという。しかし、うのみにはできまい。

 マイナンバー制度は、もともと個人情報を管理しようとする性格が強い。全口座がひも付けされることで、どこまで所得や資産の情報を把握され、どう活用されるのか、不安は大きい。

 1人1口座の登録についても、どうやって義務化するのか道筋が見えない。幼児や生活困窮者の中には、金融機関に口座を持っていない人もいるのではないか。登録したくない人には罰則を設けるのだろうか。

 マイナンバーカードは導入から4年たっても、普及率は16%にとどまる。利便性が乏しく、個人情報保護への不安が根強いためだ。本当に便利で安全だと国民が認識すれば、カードを持つ人は増え、任意でも口座を登録するはずだ。

 来春からは健康保険証としてカードが使えるようになる。ただ、ひも付けされる個人情報が増えれば、流出リスクや監視強化の恐れも増す。

 政府には、国民にどんなメリットや懸念があるのか丁寧な説明が求められる。安易な利用拡大は慎むべきだ。



口座ひも付け なし崩しの拡大を危惧(2020年6月11日配信『京都新聞』-「社説」)

 国民の信頼がないままではマイナンバーの活用も広がるまい。

 高市早苗総務相は、マイナンバーと個人の預貯金口座をひも付けするため、1人につき1口座の登録を義務化する方針を示した。

 災害時などに、公的な給付金を登録された個人口座へ迅速に振り込めるようになると説明している。

 預貯金口座のひも付け案は、新型コロナウイルス対策として全国民に10万円を配る「特別定額給付金」で、振込先の申請、確認作業に手間取り、遅れている支給への不満を背景に急浮上した。

 自民、公明、日本維新の会の3党は、任意で給付用口座を登録する法案を議員立法で提出した。

 政府内でも、個人が持つ全口座のひも付けが検討課題に掲げられた。国民に警戒感のある全口座案は当面見送られたが、1口座からひも付け義務化の突破口を開く狙いが透けてみえる。

 高市氏は、口座をひも付けする関連法改正案を来年の通常国会に提出する方向で、「プッシュ型の給付や行政コストの削減が可能になる」と利点を強調する。

 だが、コロナ禍での生活支援や今後の公的給付を誘い水にし、マイナンバーを使って個人情報にかける網をなし崩しに広げていこうというのは筋違いではないか。

 多くの国民はマイナンバー制度への不安を拭いきれずにいる。開始から約4年半、国が普及に躍起になっているカードの交付率が全国で約16%(5月1日時点)にとどまっているのが証左だろう。

 情報漏えいへの懸念は根深い。今年1月、会計検査院の調査で複数の自治体の端末で個人情報を外部に持ち出せる状態になっている実態が報告され、セキュリティー対策の甘さをあらわにした。

 今回の10万円給付でも、カード所有者のオンライン申請で不具合が続出し、受け付け休止が相次いだ。別の助成金のオンライン申請で個人情報の流出も続いている。

 まして国民にとって所得・資産状況に関わる口座情報は最も取り扱いに注意しなければならない。

 国はマイナンバーをてこに個人の資産状況を把握し、徴税や生活保護の支給判定に使う道を探ってきた。国民の懸念に応えぬまま、公的給付や今秋の買い物ポイント事業などで用途拡大を狙っても、広く受け入れられるだろうか。

 デジタル技術による行政事務の効率化やサービス向上策を明示しつつ、個人情報の流用、漏えいを防ぐ歯止め、監視策によって安心を担保できるかが問われよう。



【マイナンバー】危うい全口座ひも付け(2020年6月9日配信『高知新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの緊急経済対策をきっかけにして、にわかにマイナンバー制度の「拡大」が進められようとしている。

 マイナンバーは、住民票がある全ての人に割り当てられている12桁の番号だ。2016年から運用が始まった。このマイナンバーと個人の預貯金口座番号をひも付けようというのだ。

 きっかけは、全国民に一律10万円を支給する「特別定額給付金」のオンライン申請を巡る混乱だ。

 マイナンバーカードは、ICチップに本人確認できる情報が埋め込まれている。このため、時間がかかる振り込み口座の名義確認などの事務作業を省略でき、迅速な支給ができるという触れ込みだった。

 ところが申請が殺到した結果、システムが負荷に耐えられず遅延。申請者の入力誤りも多く、自治体の事務負担が増えた。高知市など全国の43市区町で、申請受け付けが休止される事態を招いた。

 そこで政府は、個人が任意で振り込み用として口座情報をマイナンバーと一緒に登録できるようにする。今回のような緊急時のほか、福祉・景気対策の給付などでメリットがあるとする。

 自民、公明、日本維新の会の3党による議員立法として、今国会に法案を共同提出する構えだ。

 実現すれば確かに申請手続きのトラブル防止や、支給の迅速化が見込めるかもしれない。

 現在でも本人同意があればマイナンバーと口座のひも付けはできる。ただマイナンバーカード自体、国民の16%にしか普及していない。給付の迅速化を呼び水に、普及を促進させる狙いもあるのだろう。

 問題は政府が「その先」を見据えていることだ。

 マイナンバーと個人の預貯金口座の全てをひも付けすることの義務化である。そうなると国が個人の資産状況を一元的に把握できるのではないか。

 もともとマイナンバー制度には、国による個人情報の管理という側面がある。国民監視につながりかねず個人情報流出の恐れもある。国民が懸念するのは当然だろう。

 自民党は全口座とのひも付けを義務化する法案を、2021年度中に国会提出するよう政府に求めている。

 しかし国民の不信感は根強いままだ。そもそも緊急時の給付などは、一つの口座で事足りるのではないか。全口座とのひも付けが必要な理由を、政府が十分に説明しているとは言いがたい。

 行政事務のデジタル化が避けられないのも確かだろう。だからといってコロナ危機を突破口にするような形で、制度の安易な拡大を進めてはならない。まずは国民にメリットとデメリットを十分に示した上で、慎重に検討する必要がある。

 「利便性」を追求するか。「プライバシー保護」を重視するか。私たち国民も国会審議を注視しながら、冷静に見極めたい。



マイナンバー 活用急ぐより信頼が先(2020年6月6日配信『北海道新聞』-「社説」)

 自民党が国民一人一人に付与されたマイナンバーと、公的給付を受けるための預貯金口座の情報をひも付けして、政府が管理できるようにする法案をまとめた。

 議員立法として今国会への提出を目指すという。

 新型コロナウイルス対策を巡る国民一律10万円給付では、マイナンバーカードを使ったオンライン申請や、振込口座の確認作業が混乱し、給付に遅れが生じている。

 改善策として、公的給付用の「口座名簿」を作ることで、作業の迅速化が図れるとしている。

 コロナ禍の長期化や大規模災害に備え、行政手続きの仕組みなどを見直す必要はあろう。

 看過できないのはこれに合わせ、政府が個々人のすべての口座にマイナンバーの届け出を義務付ける法案を検討し始めたことだ。

 自民党は来年度中に国会提出するよう求めている。

 マイナンバーに対しては、情報漏えいによるプライバシー侵害や政府による資産監視強化などに、不安がなお根強い。

 コロナ禍に乗じた拙速な法制化は危うい。国民の信頼に足る情報保護態勢を整えるのが先だろう。

 自民党の法案はあくまで給付のためのもので、口座登録は本人の同意を前提にした任意だ。

 政府はそこから一足飛びに、ひも付け対象をすべての口座に広げ、義務付けしようとしている。

 公的給付への関心が高まっているのを利用し、資産や所得の把握を進めたい思惑が透ける。

 マイナンバーへの不信感は、個々人の番号と顔写真が記載されたマイナンバーカードの普及率が、導入から4年たった今も20%に満たないことにも表れている。

 今回の給付遅れは、オンライン申請しても内容を1件ずつ手作業で確認する自治体があるなど、システム上の問題も背景にある。

 IT化の推進など、マイナンバー以外に政府が目を向けるべき課題は多い。

 そもそもマイナンバーは、所得を正確に把握し、公正で公平な納税や社会保障給付を実現することを目的に導入されたはずだ。

 医療費負担は増すばかりで、昨年には金融庁が年金とは別に2千万円の老後資金が必要だとする報告書案を出した。

 マイナンバーを使って徴税のための所得把握に力を注ぐ一方、社会保障も情報保護も不十分のままなら国民の理解は得られまい。

 政府・自民党の進め方は明らかに順番が間違っている。



マイナンバー デジタルの遅れ取り戻せ(2020年6月4日配信『山陽新聞』-「社説」)

 コロナ禍は政治や行政の不備を次々とあぶり出している。中でも、マイナンバー制度をはじめとした日本のデジタル行政の遅れは深刻だ。

 国民1人10万円の特別定額給付金の支給が決まってから、マイナンバーカードを巡る混乱が始まった。政府は当初、カードを持っていれば、書類が郵送されるのを待つことなくオンラインで申請できるとPRした。

 8割以上の国民はカードを取得していなかったため、交付申請者が自治体の窓口に殺到した。すでにカードを取得している人も、暗証番号やパスワードを忘れたために再申請しようと詰めかけた。

 アクセスが集中したためにサーバーはダウンした。マイナンバーで申請を受け付けても、給付を受け持つ自治体では、手作業で照合、確認をしているため、余分な手間がかかることになった。岡山、笠岡、福山市など43市区町がオンラインでの申請受け付けをストップさせている。

 カードの普及に弾みをつけようと売り込んだのだろうが、逆にお粗末なシステムが露呈した。総務省も「ここまで多くの方が来るとは想定しなかった」とする。カードを所持していても役に立たなければ普及するはずはない。

 米国では社会保障番号が個人の口座にひも付けられており、面倒な手続きなしに給付金が振り込まれた。ドイツやフランスなどでも同様だったという。日本では、補正予算が成立してから、1カ月以上たってもまだ支給されていない人が多い。あまりに遅い対応が、国民の不満、反発につながっている。

 政府は、新型コロナウイルス対応を巡る現金給付などにも活用できるよう、マイナンバーと個人口座をひも付ける検討を始めた。現在は社会保障と税、災害対策の3分野で限定的に利用されているマイナンバーを、他の用途に活用するには法改正が必要。議員立法で来年の通常国会への提案が模索されている。

 気がかりなのは、すべての口座とマイナンバーのひも付けが議論されていることだ。困窮者に限定支給する場合などに便利だというが、国に資産をすべて把握されることに抵抗感を持つ国民は多い。一つの口座のひも付けに理解を得るのが先だ。制度の恩恵を国民に感じてもらうことから始めるべきだ。

 マイナンバーだけではない。台湾はマスクの購入履歴を健康保険証に記録し、買い占めや転売の防止につなげた。スマートフォンの位置情報などを感染拡大防止に活用しているケースもある。行政が活用するデジタル技術分野では、知らないうちに欧米だけでなくアジアの国々からも大きく遅れていた。

 すべてのデジタルシステムを高齢者にも使いやすいものにし、個人情報が漏れないよう安全対策に万全を期す必要がある。コロナ後に取り組むべき大きな課題である。



マイナンバー 制度のあり方を問い直せ(2020年6月3日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 マイナンバー(個人番号)と預貯金口座の情報をひも付けようという動きがにわかに強まっている。個人情報が政府に一元管理される懸念が拭えない制度である。番号の用途の拡大には慎重な議論が欠かせない。

 政府は2段階で法整備を進める考えを示している。まず、給付金などの振込先として1人に一つの口座をひも付けることが第1段階だ。自民党に議員立法を今国会に提出する動きがある。

 それを踏まえて政府は、全ての預貯金口座について、マイナンバーとのひも付けの義務化を検討するという。来年の通常国会に関連法案の提出を目指す。

 新型コロナウイルス対策の現金給付が遅れたことが背景にある。口座が分かっていれば、迅速な給付につながる。全ての口座がひも付けば、資産状況を把握し、困窮している人に対象を絞った支援が可能になる、というわけだ。

 ただ、その言い分をうのみにできない。手続きの迅速化や利便性を打ち出してみても、監視強化につながる恐れは消えない。

 マイナンバーはもともと、税と社会保障の公平、公正を実現することを理由に導入された。ところが、矢継ぎ早に使途が拡大されてきた経緯がある。

 来春からはマイナンバーカードが健康保険証としても使えるようになる。クレジットカードなどと一体化して利用する案もある。

 利用範囲が広がるほど、さまざまな情報が一つの番号で結びつけられ、監視につながる恐れは膨らむ。個人の生活やプライバシーが丸裸にされかねない。

 個人情報保護委員会が運用に目を光らせることになってはいるものの、実効性が確保されているとは言いがたい。行政は番号に関連づいた情報を本人の同意なく捜査機関に提供できる一方、委員会の権限は捜査機関には及ばない。

 導入から4年を経て、マイナンバーカードの普及率は15%ほどにとどまる。利便性が乏しい以上に、制度が信頼を得ていない表れだろう。強引に普及を図る政府の姿勢も不信を生んできた。

 今回の給付金でも、オンラインでの申請をカードの普及につなげようとした思惑が透ける。しかしかえって混乱を招き、受け付けを取りやめる自治体も相次いだ。その責任を顧みずに、制度の改定を急ぐべきではない。

 何のための個人番号なのか。制度の目的はかすんで見える。出発点に立ち戻り、利用範囲を根本から見直すことが欠かせない。



マイナンバー制度 申請トラブル続発、検証を(2020年6月3日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの緊急経済対策として全国民に10万円を配る「特別定額給付金」の給付開始から1カ月が過ぎたが、この間、マイナンバーカード(個人番号カード)を使ったオンライン申請でトラブルが相次いでいる。

 行政事務のオンライン化は業務効率化に欠かせないが、今回の失態はマイナンバー制度そのものへの国民の不信にもつながっている。まずトラブル続発の要因を検証し、現行システムの改善と信頼回復に努めるべきだ。

 マイナンバーは、番号で国民を識別する制度で導入5年目。社会保障、税金などでの活用を目的としているが、個人情報流出の懸念や取得手続きの煩雑さもあって、カードを取得した人は5月1日現在で16・4%にとどまっている。

 今回のオンライン申請では、マイナンバーカードの暗証番号を忘れるなど再設定手続きを求める住民が熊本市など全国の自治体窓口に殺到。負荷に耐えられずシステムがたびたび遅延した。

 カードは取得時に本人が自治体窓口で4種類の暗証番号を設定する。このうち3種類は同じで構わないが、そもそも銀行カードなどに比べて使用頻度は少ない。控えのメモをなくして自分の暗証番号が分からなくなる人が続出することは予想すべきだった。

 加えて手続き用サイトは、パソコンの場合はカードの読みとり装置が別に必要で、スマートフォンには接続できない機種がある。機材の問題からオンライン申請を断念した人もいた。

 入力画面では、申請者が必要事項を手入力。自治体職員は住民基本台帳との照合や記入ミスの確認に忙殺された。政府は当初「郵送より迅速」と説明していたが、オンライン申請を休止した自治体は6月1日時点で全国の43市区町(県内はゼロ)に上る。

 マイナンバー制度は導入時に政府全体で3千億円近くが投じられた。本年度当初予算でも、マイナンバーカードとキャッシュレス決済促進のための「マイナポイント」事業などに4千億円超の予算が組まれている。

 今回のオンライン申請でのマイナンバーカード利用は、制度普及に力を入れる政府が好機とみて組み入れたようだが、むしろシステムの未熟さを露呈する形になったと言える。

 政府は今回のトラブルなどを受け、預貯金口座の情報とマイナンバーとのひも付けを義務付ける制度改革の検討に入った。緊急時の国民への給付手続きを迅速化するためとしているが、拙速な対応ではないか。

 口座とのひも付け義務化は過去にも浮上したが、資産把握や情報流出への懸念から先送りされていた。ましてや今回のトラブル続発である。マイナンバーカードは来年3月から健康保険証としても使えるようになるが、現状では個人情報のさらなる集積が国民から受け入れられるとは思えない。システムの信頼向上に努めた上で、慎重な論議が必要だろう。



マイナンバーカード なぜ役立たないか猛省を(2020年5月30日配信『毎日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策の国民への一律10万円給付を巡り、マイナンバーカードによるオンライン申請で混乱が生じている。

 給付に支障を来しかねないとして、この方法での受け付けを取りやめる自治体も現れた。システムの信頼に関わる深刻な事態だ。

 マイナンバーは、番号で行政が国民を識別する制度だ。政府は今回、郵送に加え、マイナンバーカードによる申請も採用した。

 ところが、暗証番号を忘れたり、窓口サイトへの入力ミスでロックされたりして、申請者が相談のため役所に殺到するケースが続出した。システムに負荷がかかり、作業が停滞する問題も起きた。そもそも申請にカードのほか、読み取り機材や暗証番号が必要なことを知らない人も多かった。

 窓口サイトでは、二重申請を防止できないという問題点も露呈した。自治体は二重申請や入力ミスの点検、金融機関の口座などを照合する負担に直面している。結局、多くの自治体で、入金までかなりの日数を要しそうだ。

 マイナンバーカードの普及率は15%程度と伸び悩んでいる。トラブルはある程度予想できたが、カード普及の好機とみて見切り発車し、墓穴を掘ったのではないか。

 まずは混乱収拾のため、国が手立てを尽くすのは当然だ。

 政府・与党は今後の同様の給付に備え、法改正も検討している。今回申請されたデータや口座情報については自治体が保存できるようにしたり、窓口サイトの段階で二重申請をはねたりするなどの対策は必要だろう。

 政府にはこれに加え、マイナンバーとすべての口座の「ひも付け」を義務化することで、給付の迅速化を図ろうとする動きがある。だが、資産把握やプライバシー保護との兼ね合いから十分に議論を重ねる必要がある。

 マイナンバーカードがいまだに普及しないのは利便性の低さに加え、個人情報保護への不安が根強いためだ。どさくさまぎれに管理強化を急ぐべきではあるまい。

 来春からカードは健康保険証代わりにもなる。利便性を向上させつつ、個人情報を保護する仕組みの整備にも着実に取り組むべきだ。信用がないまま、国民に利用を押しつけてはならない。

























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